13.国

2006年12月21日 LIVE
 移動は東へ徒歩と乗物酔い、テレポートの繰り返しだった。
 なんでもテレポートを長距離、連続で使用するのはかなり疲れるそうだ。
 草原と森、荒地、川原、砂地などを越える。モンスターが出た場合はテレポートですぐ逃げた。
 アメツキさんによるとここは『名前のない中立国』というらしい。大抵の初心者が立ち寄るビギナの街と、様々なプロフェッショナルが集まる『プロ』という都市があり、『live』の舞台になるほぼ牛(意味はわからなかった)型の『ライブ大陸』、そのほぼ西側に位置する国、ということ。初心者が最初に降り立つ草原があるので、常に新しい人材、プレイヤーを求める国、支配者が挙って草原を支配しようと争い、結局は中立国で落ち着いた、とのこと。
 多彩な地形と、初心者に優しいダンジョン、モンスター。さらにそれぞれの分野のプロが集まる都市がある、重要な国で、支配者は現在おらず、それぞれの国のスカウトが相当数入り込んでいる状態。そのスカウトがPK討伐も担当してなんとか治安は保たれている。
「初心者が強者に殺されたら、俺達は初心者をスカウトできないからな。一応PKする不届きモノがいたら国から仲間呼んで討伐するようにしている。初心者を助けたりすれば、お前みたいな掘り出し物も中にはいるってわけだな」
 と、アメツキさんは馬車の中で言った。
「ま、あんな黒ドラゴン操る狂ったプレイヤーキラーは、俺では倒すのは無理なんだがな。俺も『ネコ』の危険察知がなかったら多分あの酒場で死んでたわ」
 と、アメツキさんは笑っていた。

 国は現在、主に大きい国が三つ、にらみ合い状態なのだという。

 まず、東南の経済大国『シムシ』。広い平原と豊富な鉄資源が特徴の国で、商いが比較的自由。治安も良いらしい。機械の力が大きく、技術力や資産がモノを言うらしい。
 支配者は首相、『アイゼン』。別名鋼の市長。
 既に市ではなく国レベルの支配者なのだが、何故か親しみを込めてそう呼ばれているらしい。
 アメツキさん曰く、
「まじ鉄壁。魔法や超能力や機械の力でバリアーを何百と張っているらしいぜ。普通の攻撃は全く通じねえ。ちなみに『live』初期から今現在まで生きているプレイヤーは『元老』と呼ばれている。市長もそのうちの一人なんだぜ」
 なのだそうだ。つまりは廃人ということか(失礼)。

 他の大国は北にある自然と魔法の国、『カイド王国』と、南にある屈強なプレイヤーの集団、『衆』らしい。

「明らかに規模とか人口じゃシムシが一番なんだが、カイド王国は強力なモンスターを従えたり、あり得ない魔法を使ったりしてくるからな。雷とか落とすのは常識で考えたらまじで反則だぜ? 衆はプレイヤー同士の結びつきが強くて、戦闘スキルに特化しているからな。中々倒せねえ。呪いとか暗殺とかも得意だし」
 このゲームでもやはり、戦争はあるようだ。ギルドvsギルドのようなものだろう。
「そうだな。一回死んだら終わりだから皆必死さが違うぜ。本当の戦争だ。今のところ大三国それぞれがにらみ合ってて動けない状態だが、ま、張り詰めた糸みたいなもんで少しの衝撃で切れちまうと俺は思う」
 そんな話をだらだらとしていたら、道に巨大な看板が立っていた。
「あそこから、シムシだ。俺の所属国。基本色は青。あ、ちなみにカイドは緑で衆は赤な。三国志みてえだろ?」
 北に緑、カイド王国。東に青、シムシ国。南に赤、衆。そして西に名前のない中立国。
 なるほど、世界の形がぼんやりだが見えてきた。馬車は国境を越えて、経済大国シムシに入った。

12.スキル

2006年12月21日 LIVE
 やっと落ち着いてきた。アメツキさんを観察してみた。顔立ちは整っていたが、髪は無造作ヘアー(寝癖ともいう)だったのでやはり、何か、やる気がないようにみえる。装備は軽鎧と小さなナイフのみのようだった。軽鎧は青が基調とされていて、高価そうに見えた。
「死んだらあの光の柱に包まれて現実に戻される。俺達は昇天と呼んでいる……って聞いてるのか?」
「え? あ、はい、聞いています」
 嫌な予感は薄れていった。酒場の方向で巨大な影が北の方向へ飛び去ったのが見えた気がした。
「帰ったな。あいつ、なんで中立国なんかに……」
 アメツキさんは腕を組んでブツブツと何か呟いている。私はその間に聞くことを考えようとしたが、アメツキさんの背中から飛び出したものがいきなり私の視界を塞いだ。
「あ、こら、ネコ」
 アメツキさんにネコと呼ばれたソレは、どうやら本当にネコのようだった。毛の感触でくしゃみが出そうになった。
「いや、悪い悪い。こいつはミックスブラッドキャットの『ネコ』。危険察知スキルBを持ってるから使えるぜ」
 アメツキさんに首根っこを掴まれて引き離されたソイツは、白と黒と茶がちょうど三分の一ずつ混ざったようなネコだった。普通に可愛かった。と、それより……。
「あの、スキルって?」
「あ? ああ、そのまんまだよ。技術、能力、もしくは『経験で覚えた物事』ってところかね。先天的な能力もあるけど。
 スキル:確認:スキル名でランクも確認できる。C(
良) B(優秀) A(マスター)って感じかな。大体だけど。
 それで、君が持っているのが『危険察知』だと思うわけなんだ、俺は。どう?」
 スキル:確認:『危険察知』
 頭の中で浮かべてみた。

 危険察知:A

「……A、らしいですね」
「マジで? MJD!?
 いやいや、すっごい珍しいんだぜ! 危険察知のスキル自体が珍しいのに、それがモンスターじゃなくてプレイヤーが持ってるなんてさらに珍しい! しかもレベルA!? よし、決まりだ」
 一気に畳み掛けられた。どうなる私。
「お前、この世界一の大国。シムシ国に来ないか?」
 今度は、一度見た場所に出た。
 『ビギナ』と書かれている看板。町の入り口だ。
 しばらく放心して思ったのは……。

「何処がビギナの街なんでしょうか……」
「はは、あんなひどいプレイヤーキラーがこんな所にいるなんてな」

 あの光景を見た後で、笑える……。

「所詮、ゲームさ。あいつらはもう二度とこのゲームにログインできないだけで、死んだわけじゃない。気にすることはない」
「わかっていますよ」

 街の入り口から酒場の方向を見ると、やはり無数の光の柱が青い空を貫いていた。天使の斉唱のような効果音も聞こえる。

10.業火

2006年12月17日 LIVE
 巨大な爬虫類に翼が生えていた。黒い鱗は鎧のよう。赤い眼は人を魅了する宝石のよう。鋭い牙は火炎で隠れそうになってい……

 た

 ‐あ‐

 黒いドラゴンの口から吐き出された大量の火炎は、酒場とその隣にあった民家を全て飲み込んだ。街路を縫うようにして広がっていく火炎。逃げ惑うプレイヤー達を襲い、一瞬で焼き尽くした。
 500メートルは離れていたこの民家の周りの街路も大量の火炎の洪水が襲った。炎なのに、水。おかしな表現だが私にはボキャブラリィーがないので許せ。それはどうでもいい。
 ほんの少しの暑さを感じたが、実際こんな出来事があったらその程度ではすまないだろう。現実と虚実が入り乱れる。迫真の映像に私は本当の『暑さ』、『熱』を感じた気がした。肺への圧迫感、肌が溶けていくような感覚。
「しっかりして。あてられないように」
 横でアメツキ青年が私を心配していた。寒気は最早全身を支配し、一刻も早くこの場を立ち去りたくなった。
「潮時だな……、逃げるか」
 アメツキ青年は呟くと、私の肩に手を置いた。

 また私を襲う浮遊感。その刹那、酒場、民家、街路、炎で包まれた全ての場所から、空まで伸びる無数の光の柱が見えた気がした。
 それはまるで、死者の魂が天まで登っていく為の道のようだった。

9.ドラゴン

2006年12月15日 LIVE
 浮遊感が消えると、突然足場が現れた。自分では驚いて倒れると思ったが、ゲーム内補正されてるようで何事もなかった。本当に不思議な感覚だ。
 周りを見渡す。すると自分が随分高い位置にいることが分かった。知らない人の家の屋根の上にテレポートしたようだ。

 ドン、という重量感のある音。その方向を見ると、酒場の屋根が吹き飛んでいた。そう、先ほどまで目の前にあった酒場は、今はもう五百メートル程離れていた。しかも私は知らない人の家の屋根にまで上っていた。いや、それはどうでもよくて。
 黒い影が酒場の屋根だったところから飛び出してきた。巨大だった。

「あらあら、酒場の中で召喚しちゃったのかな。しかも最終系だ」

 アメツキという青年が横でやる気なさそうにその光景を見物していた。

「ここでもちょっとやばい、かなぁ……」

 しかしアメツキ青年にやばいという雰囲気は全くない。酒場の上で、巨大な影が翼のようなものを広げて、その全貌を露にしたとき、私は一瞬これは夢かと思った。バーチャルだから、似たようなものなのだが。

 酒場の上空で滞空している黒い影。それは巨大なドラゴンだった。

8.瞬間移動

2006年12月13日 LIVE
 私は回れ右をした。すたすた。

「ま、待って! 不審人物じゃないから!」

 明らかに不審人物です。すたすた。

「待って! 待って! 寂しいから!」

 知りません。すたすた。

 その時、ポチさんがゲームに来た時と似た効果音が鳴ったと思ったら、目の前に先ほどまで酒場と家の間に挟まっていた不審な背の高い青年が立っていた。

「……え?」
「待ってくださいよー」

 ……。

「やだなー、バグじゃないですよ。ただのテレポートAですよ」

 ……テレポートA?

「まだ来たばっかりでしたか? ですよね。じゃあ、スキルのことも知らないんですよね、すいません」

 疑問はあったが、先ほどの酒場からの威圧、というか、気持ち悪さ、が上がって、比例して私の寒気も……。
 ――気持ち悪い。

「ああ、逃げないと」

 青年の手が私の肩に触れた。ヒュ、と空気を切り裂く効果音と浮遊感。
 私は咄嗟に、青年のネーム:確認をした。

 ネーム:アメツキ

7.酒場

2006年12月11日 LIVE
 ポチさんとはそこで別れた。

(この世界では何をするのも自由です。やりたいこと、目標を探してください。僕はとりあえずある職業を目指そうと思ってるんですよ。内緒ですけどね。また会いましょう)

 ということだった。
 この広い(と思われる)世界で、また、会うことができるのだろうか。きっと、できるだろう。私は何故か確信していた。

 噴水広場の東側に伸びる道に、酒場があった。私は当面の目標を「やりたいこと」探しに決めて、情報収集のために酒場に入ることにした。
 したが、入ることはできなかった。何故か私はスライム戦と同じような寒気を、酒場に入ろうというときに感じて、その直感に従ったからである。
 入り口で立ち尽くしていると、酒場と横の一軒家(?)の間の細い路地(というより間)から、誰か人の声が聞こえた気がした。
 その酒場と一軒家の間を覗いてみると、

「えーと、アレックスさん? 貴方、いいスキルもってますね」

 背の高い青年がちょうどよく挟まっていた。

6.ビギナの街

2006年12月10日 LIVE
「つ、着いた……」

 体が鉛のように重い。バーチャルなので『疲れる』という概念はないのが救いだ。三十分以上走り続け、辿りついたのは『ビギナ』という街だった。

「明らかに最初の街だな……」
「プロっていう街もあるんでしょうか……」

 キャラが疲れている所為か、発言には三点リーダがついている。動きも鈍く、息は切れ切れ。が、もちろん私本体は疲れていない。不思議な感覚だった。
 街の入り口はわからない。塀も何もない街だったので、私とポチさんは『ビギナ』と書かれている看板が街の入り口を表していると判断した。
 街の広さは大体直径五キロメートルに収まる程度だろう。小さくもないし、大きくもない。建築物は全て木でできていたが、白を基調としたさっぱりとした街並みで、流石、『ビギナ』だと思った。(どうしてだ)
 私とポチさんは石畳の道を歩いて、街の中心部に向かった。

「うわぁ、人が一杯ですね」
「そうだな、流石、街だ」

 思いっきり田舎者風に周りを見渡す私。布の上に商品を広げただけの路上商店、変な生き物と一緒に歩いている人、『武器』『防具』、『宿』や『道具』と書かれた看板のぶら下がっている家。すれ違うプレイヤー達は、初心者が多いのか、皆私とポチさんと同じような格好をしていた。
 大きな噴水がある広場に着くと、沢山のプレイヤーがそれぞれ話をしたり、アイテムを交換したり、パーティを組んだりしているようだった。そんな街の当たり前の雑踏、騒がしい様子も、全てバーチャルとなれば新鮮だった。

「凄い、凄いなあ」

 私はそんな当たり前の感想しか言えなかった。
 森に入って初めに出会ったのは、透明の液状生物だった。

「スライムだ」
「スライムだ」

 ポチさんと口を揃える。
 RPGの基本中の基本。おそらく最弱であるモンスター。

「倒しますか?」

 とりあえず、私よりゲームに詳しそうなポチさんに聞く。

「うーん、街を見つけるまでは、戦闘を回避した方がいいと思うんだけどなぁ」

 森に入って十分ほど。ポチさんの口調は段々砕けてきた。

「でも、弱そうですよ、こいつ」

 足元でうにょうにょしているどろどろした物体。結構可愛いかもしれない。ペットシステムは実装されているのか。

「……とりあえず、ショートソードで切ってみましょうか」

 ポチさんはそう言うと、ショートソードを鞘から抜いた。同時にどうしようもない悪寒が私を襲った。声を失うほどの悪寒。

 ……ヤバい。

 液状生物の前で剣を構え、振りかぶっていたポチさんを、私は体当たりで吹っ飛ばした。
 瞬間、液状生物から拳大のどろどろボールが発射された。私とポチさんの頭上を掠めたボールは、後ろの木にぶつかり、そのまま弾けた。
 までは良かったが、さらに液で濡れた部分からシュウウという音ともに煙が立ち昇り、とうとう立派な木を倒してしまった時、それが強力な溶解液だということを理解し、私とポチさんは逃げ出していた。まっしぐらで。

4.パーティ

2006年12月8日 LIVE
「ポチ、さん?」

「はい。ポチです。他のプレイヤーの名前は覚えておいた方がいいですよ。覚えている限り、色々使えますので。テレパシーとか、テレポートとか」

「へぇ……詳しいですね」

「ええ、説明書を見てきたので。……もしかして、見てきていないのですか?」

「見てません」

「……結構、向こう見ずですね」

「すいません」

「いえ、それもゲームの楽しみ方の一つでしょう。少しだけ、最も大事なことだけ、教えましょうか?」

「お願いします」

「このゲームは、とことん現実(リアル)を追及したゲームです。一度死ぬと、二度とログインできません」

「そんな」

「はい、結構シビアなゲームなんです。慎重に行動した方がいいですよ。と、いうことで」

 ポチさんは右手を差し出した。モーションはスムーズで、手も一見本物のグラフィック。これがバーチャルだとはとても信じられない。

「途中まで、一緒に行動しませんか。つまり、パーティです」
 現れたのは、私と同じ格好をした男性だった。
 やはり私と同じ装備なので、初心者だと一目で分かる。男性は私に気付くと、

「……あ、あなたも初心者ですか? アレックスさん」

 と言って近付いてきた。私は少し不審を覚え、後ろに下がる。

「? 何故私のネームが?」
「ああ、メニューからも見れますけど、『ネーム:確認』と思い浮かべるだけでも、他のプレイヤーのネームは分かりますよ」

 『ネーム:確認』と頭の中に思い浮かべてみる。ピッと短い電子音が鳴った後、男性の上に青いウィンドウが表示された。

 ウィンドウには『ポチ』と書かれていた。

2.魔方陣

2006年12月6日 LIVE
 遠くにぼんやりと、森らしきものが見える。方角は全く分からない。

「とりあえず、街を探したほうがいいかな」

 周りをぐるっと見渡してみる。森が途切れたら、地平線ばかりになり、また森に戻った。

「……地平線という選択肢はない、な」

 そのとき、風を切るような音ともに、直径一メートル程の魔方陣が私の足元に現れた。
 すぐに飛びのき、様子を見る。魔方陣の外円から光があふれ出し、二メートルほどの高さまで立ち昇った。
 光がさらに強くなり、魔方陣の中は見えなくなった。
 何も出来ないまま魔方陣を眺めていると、段々光は弱まってきた。

 中には、人影が見えた。

1.ログイン

2006年12月5日 LIVE
 目を開けると、広大な草原が広がっていた。

「凄い……土の感触もあるし……風も吹いてる……」

 格好は皮の上着に皮のパンツ、木の盾とショートソード、といったところか。

「武器はナイフじゃないだけマシかな……」

 とにかく、突っ立っているだけでは何も始まらない。歩き出そうとすると、天から声が聞こえた。

『オンラインゲーム、ライブへようこそ』

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