「サティン!」
その声に、体をビクンと震わせ反応した【無神】は、止まった。
――止まった。
その行動に希望を見出したアレックス。
「サティン!」
もう一度呼んでみた。
――が、それを邪魔するかのように、風切音。共にアレックスが居た場所に砲弾が直撃した。
「!」
やはりそれに過剰な反応を示す【無神】。これでアレックスの抱いた確信は確定した。
――サティンはまだ、 い る 。
実は【危険察知】により砲撃を回避して、砂煙を切り裂いて、【神速】でサティンの目の前に迫ったアレックス。ここでもし、何か言えたのなら、もしかしたら何か変われたかもしれなかったのに。
二百を超える前衛部隊が背後に迫っていたことを知らなかったアレックス。今知ったアレックスは、二百を超える攻撃の嵐を背後から受け、未だフリーズしている【サティン】を抱えて逃げ出そうとした。
完全に包囲されていたとしても、今は逃げなければならないのだ。彼女と話をするためには。
その声に、体をビクンと震わせ反応した【無神】は、止まった。
――止まった。
その行動に希望を見出したアレックス。
「サティン!」
もう一度呼んでみた。
――が、それを邪魔するかのように、風切音。共にアレックスが居た場所に砲弾が直撃した。
「!」
やはりそれに過剰な反応を示す【無神】。これでアレックスの抱いた確信は確定した。
――サティンはまだ、 い る 。
実は【危険察知】により砲撃を回避して、砂煙を切り裂いて、【神速】でサティンの目の前に迫ったアレックス。ここでもし、何か言えたのなら、もしかしたら何か変われたかもしれなかったのに。
二百を超える前衛部隊が背後に迫っていたことを知らなかったアレックス。今知ったアレックスは、二百を超える攻撃の嵐を背後から受け、未だフリーズしている【サティン】を抱えて逃げ出そうとした。
完全に包囲されていたとしても、今は逃げなければならないのだ。彼女と話をするためには。
「なーんでじゃ……?」
森で起こった大きな爆発(クサモチの魔法)によってわずかに怯んだアイゼンの黒剣を紙一重で避け、アトラは木の幹に垂直に靴の裏で張り付いていた。重力を無視していた。だがアトラは構わず話を続ける。
「んな犯行の動機とか、そういうものには興味はないんじゃが。じゃが……うーん、何でじゃ? 何故世界を壊す? アイゼンよ」
「それは犯行の動機に興味があるということではないのかね」
「……それもそうじゃな」
両手をズボンのポケットにしまい、エメラルド色のツインテールを揺らしながらゆらりと地面に着地したアトラは、黒いスニーカーのつま先で地面に方円を描き始めた。それは傍から見るとまるで暇つぶしの落書きである。
「儂は【運】が結構好きでな。確実とか定番とかそういう言葉は嫌いじゃな」
「やはり我のバリアを破ったのも何かの【運】か」
「そこまで言うとらんのに見破るとはのー……。まあ、そうじゃな。あの時は運がよかった。パル○ンテで敵が全滅したみたいな感じでお主の魔法バリアが全滅した、みたいな? ざまあみろじゃよ」
次に方円内に複雑な文字記号をやはりつま先だけで器用に描くアトラ。それを邪魔しようともせず見守るアイゼン。
「ま、今回の魔法《これ》も【運】が相当絡んでくるシロモノじゃな。止めるなら今のうちじゃぞ? はて、お主はもう少し合理的なはずじゃったがのう? 今の隙を見逃すこともないくらいに」
「【運】などありえない。全ての現象には全て理由がある。運は自ら認識できないその理由と代えられた言葉だ」
「……ふーん、よくわからんことを言いおって。別にお主の意見なぞ聞いとらんわい。さて、久しぶりの対面か? 大きく育ったぞ。
――“出でよシロトラ”」
完成した魔方陣の中心を、アトラは軽く踏んだ。同時、青白い光が一瞬魔方陣から大量に溢れ出し、さらに空中に大きな白い光球を発生させた。
その白い光玉からは、鋭い爪と白い毛を擁した巨大な虎の腕が突き破るようにして出てきた。
「さて今回は、どちらかが消えるまでやるとしようか」
「無論だ」
二人の間に、もう言葉はいらなくなった。
森で起こった大きな爆発(クサモチの魔法)によってわずかに怯んだアイゼンの黒剣を紙一重で避け、アトラは木の幹に垂直に靴の裏で張り付いていた。重力を無視していた。だがアトラは構わず話を続ける。
「んな犯行の動機とか、そういうものには興味はないんじゃが。じゃが……うーん、何でじゃ? 何故世界を壊す? アイゼンよ」
「それは犯行の動機に興味があるということではないのかね」
「……それもそうじゃな」
両手をズボンのポケットにしまい、エメラルド色のツインテールを揺らしながらゆらりと地面に着地したアトラは、黒いスニーカーのつま先で地面に方円を描き始めた。それは傍から見るとまるで暇つぶしの落書きである。
「儂は【運】が結構好きでな。確実とか定番とかそういう言葉は嫌いじゃな」
「やはり我のバリアを破ったのも何かの【運】か」
「そこまで言うとらんのに見破るとはのー……。まあ、そうじゃな。あの時は運がよかった。パル○ンテで敵が全滅したみたいな感じでお主の魔法バリアが全滅した、みたいな? ざまあみろじゃよ」
次に方円内に複雑な文字記号をやはりつま先だけで器用に描くアトラ。それを邪魔しようともせず見守るアイゼン。
「ま、今回の魔法《これ》も【運】が相当絡んでくるシロモノじゃな。止めるなら今のうちじゃぞ? はて、お主はもう少し合理的なはずじゃったがのう? 今の隙を見逃すこともないくらいに」
「【運】などありえない。全ての現象には全て理由がある。運は自ら認識できないその理由と代えられた言葉だ」
「……ふーん、よくわからんことを言いおって。別にお主の意見なぞ聞いとらんわい。さて、久しぶりの対面か? 大きく育ったぞ。
――“出でよシロトラ”」
完成した魔方陣の中心を、アトラは軽く踏んだ。同時、青白い光が一瞬魔方陣から大量に溢れ出し、さらに空中に大きな白い光球を発生させた。
その白い光玉からは、鋭い爪と白い毛を擁した巨大な虎の腕が突き破るようにして出てきた。
「さて今回は、どちらかが消えるまでやるとしようか」
「無論だ」
二人の間に、もう言葉はいらなくなった。
「ぐおおおおおおおお!」
大量の雷に体を貫かれ、ボロボロになった黒いローブ。だがその中にオルゾフの姿はなかった。
「……また逃げる……か、このGOKI野郎が」
ボソボソと何事かを呟くクサモチ。それは通常の三倍の詠唱である。
「“ウインドカッター三六〇°”」
詠唱終了。クサモチの体を中心にして、円形の衝撃波が一部焼かれた森に放たれた。それは一瞬にして広がり、鋭い音を残してやはり一瞬で消えた。
数秒経った後に、クサモチを中心とした半径五百メートル以内に立っていた木々が、一斉に倒れた。だが、オルゾフの昇天の光が立ち昇ることはなかった。
------------------------
「あいつ! なんで無事なんだ!?」
本当にGOKIのように、地面を這って物凄い速さで逃げる黒い物体が呟いた。鋭利な刃物で切られ倒れた木々の間を、縫うようにして必死に逃げるオルゾフだった。
「あんな威力の魔法を、ノーリスクで放つなんて不可能なはずだ! くそっ! くそっ! どうなってやがるんだああ!」
語気は強いが、決して大声は出さない。見つかったら一巻の終わりである。
そしてオルゾフは、気付かなかった。ようやくたどり着いた切り倒されてない木々の中に身を隠そうとしたとき、その木々の合間に蜘蛛の網のようなものが張り巡らされていたことを。
「かかった!」
明らかに初心者風な男が、それを見て喜んだことを。
網に見事に引っかかったオルゾフは、前に進まない体に疑問を覚え、周りをよく観察し、やっとその事実に気付く。
「な、なんだこりゃあ!」
「答えよう! そのアイテムの名は“網”」
「まんまじゃねーか! 誰だてめえ!」
「答えよう! わが名は“NET”!」
一本の木がグラリと揺れて、大きな物体が木の葉とともに飛び降りてきたのをオルゾフは確かに見た。その物体が着地時に盛大にずっこけたのも確認した。
「ぐぐぐ……! やはり身体能力は下がっている……! どういう経緯でお前に渡ったのかは知らないが、返してもらうぞ、そのアイテム!」
明らかに初心者風の珍妙な男の乱入に、オルゾフは一旦思考を停止するしかなかった。
大量の雷に体を貫かれ、ボロボロになった黒いローブ。だがその中にオルゾフの姿はなかった。
「……また逃げる……か、このGOKI野郎が」
ボソボソと何事かを呟くクサモチ。それは通常の三倍の詠唱である。
「“ウインドカッター三六〇°”」
詠唱終了。クサモチの体を中心にして、円形の衝撃波が一部焼かれた森に放たれた。それは一瞬にして広がり、鋭い音を残してやはり一瞬で消えた。
数秒経った後に、クサモチを中心とした半径五百メートル以内に立っていた木々が、一斉に倒れた。だが、オルゾフの昇天の光が立ち昇ることはなかった。
------------------------
「あいつ! なんで無事なんだ!?」
本当にGOKIのように、地面を這って物凄い速さで逃げる黒い物体が呟いた。鋭利な刃物で切られ倒れた木々の間を、縫うようにして必死に逃げるオルゾフだった。
「あんな威力の魔法を、ノーリスクで放つなんて不可能なはずだ! くそっ! くそっ! どうなってやがるんだああ!」
語気は強いが、決して大声は出さない。見つかったら一巻の終わりである。
そしてオルゾフは、気付かなかった。ようやくたどり着いた切り倒されてない木々の中に身を隠そうとしたとき、その木々の合間に蜘蛛の網のようなものが張り巡らされていたことを。
「かかった!」
明らかに初心者風な男が、それを見て喜んだことを。
網に見事に引っかかったオルゾフは、前に進まない体に疑問を覚え、周りをよく観察し、やっとその事実に気付く。
「な、なんだこりゃあ!」
「答えよう! そのアイテムの名は“網”」
「まんまじゃねーか! 誰だてめえ!」
「答えよう! わが名は“NET”!」
一本の木がグラリと揺れて、大きな物体が木の葉とともに飛び降りてきたのをオルゾフは確かに見た。その物体が着地時に盛大にずっこけたのも確認した。
「ぐぐぐ……! やはり身体能力は下がっている……! どういう経緯でお前に渡ったのかは知らないが、返してもらうぞ、そのアイテム!」
明らかに初心者風の珍妙な男の乱入に、オルゾフは一旦思考を停止するしかなかった。
プレイヤー三名の昇天を背に、【無神】はデュマの町へと向かっていた。
「不味い」
【無神】は不機嫌そうに呟いた。
(魔力・体力・スキル共に規定値には達していない。安全圏ではない。約五百。この敵の数は流石に危険か? ――否)
一瞬の思考。結論。
(喰えば魔力・体力・スキル共に上昇する。問題はないか)
第二波である砲撃を掻い潜り、【無神】は一気に加速、
しようとした。
目の前に立ちはだかる影。
それを、『懐かしい』と思った自分に、
自分で戸惑った【無神】が、
確かに そこに いた。
「不味い」
【無神】は不機嫌そうに呟いた。
(魔力・体力・スキル共に規定値には達していない。安全圏ではない。約五百。この敵の数は流石に危険か? ――否)
一瞬の思考。結論。
(喰えば魔力・体力・スキル共に上昇する。問題はないか)
第二波である砲撃を掻い潜り、【無神】は一気に加速、
しようとした。
目の前に立ちはだかる影。
それを、『懐かしい』と思った自分に、
自分で戸惑った【無神】が、
確かに そこに いた。
「……E-7地区にて戦闘報告!」
「遂に現れた……か」
二人のシルエットを中心に、巨大なテントで様々な情報が飛び交っていた。
「……【無神】。ゴッドレスの、生み出したモノ……。ゴッドレス……」
「……面倒だなぁ……」
だがその二人には元気がない。その司令テントの誰よりも元気がない指揮官二人組みだった。
「ああ、あたしのアイゼン様を奪ったのはゴッドレスだっていうのは本当よね? むしろ本当だろうが」
「……おちつけ7−3。……いつからアイゼン様はお前のモノになったんだ。……そして不明瞭なことを無理やり事実にするな」
全身に機械装置を取り付けた少女と、死んだ魚のような眼をしている魔法使い。7−3と7−4が、そこにいた。
「……【無神】だろうが【ゴッドレス】だろうが、生まれたことを後悔させた後に生と死の境に追い込みアイゼン様の居場所を吐かせてやる」
「……おちつけ7−3。……そこはまず最初にアイゼン様の居場所を聞くべきだろう、誤って昇天させる前に。……それにもしかしたら彼らは知らないかも……」
「それでもなおボコる」
「……はぁー……やれやれ」
「遂に現れた……か」
二人のシルエットを中心に、巨大なテントで様々な情報が飛び交っていた。
「……【無神】。ゴッドレスの、生み出したモノ……。ゴッドレス……」
「……面倒だなぁ……」
だがその二人には元気がない。その司令テントの誰よりも元気がない指揮官二人組みだった。
「ああ、あたしのアイゼン様を奪ったのはゴッドレスだっていうのは本当よね? むしろ本当だろうが」
「……おちつけ7−3。……いつからアイゼン様はお前のモノになったんだ。……そして不明瞭なことを無理やり事実にするな」
全身に機械装置を取り付けた少女と、死んだ魚のような眼をしている魔法使い。7−3と7−4が、そこにいた。
「……【無神】だろうが【ゴッドレス】だろうが、生まれたことを後悔させた後に生と死の境に追い込みアイゼン様の居場所を吐かせてやる」
「……おちつけ7−3。……そこはまず最初にアイゼン様の居場所を聞くべきだろう、誤って昇天させる前に。……それにもしかしたら彼らは知らないかも……」
「それでもなおボコる」
「……はぁー……やれやれ」
「雷と炎と水を混ぜやがった! 狂ってやがる!」
表現しがたいカオスな色と、人間では可聴できない音が、その辺り一帯を包み込み
「馬鹿が! 自滅したか! ぐへへ!」
実は物凄くレアな黒のローブをボロボロにしながら
「自分の力を過信しやがって!」
防御系自動発動アイテムを全て使い切りながら
「ぐへへへへへ!」
それでもオルゾフは地面を転がり、生きていた。
「チッ! 砂煙で何も見えねえ! 野郎、無茶苦茶しやがって!」
実は結構分の悪かった戦いが、予想外に早く終わった安心からか、自然とオルゾフの悪態をつく声は大きくなっていた。
「そこか」
その三文字は、オルゾフの耳にそれはそれは不気味に響いたらしい。
---------------------
アイゼンはツーハンデッドソードを両手で強く握り、その刀身に黒いオーラを纏わせた。
(うーん、実は未だによくわからないんじゃよなぁ……。あやつの【絶対領域】……。反射系かと思えば、触れただけでダメージもあるようじゃし……攻撃系バリアと呼ぶべきか……)
「んなモン反則じゃろうが!」
アトラの叫びも全く聞かず、アイゼンはさらにツーハンデッドソードに黒いオーラを纏わせる。元々大きなソードが、さらに巨大な黒いオーラ剣へと変わっていく。
「……我の魔法系バリアを貴様は一度全て破壊したことがある」
「そういえばそうじゃったかな?」
「……危険だ」
「……ほう、ならどうする?」
時が止まる。振り上げられたアイゼンの黒剣。次の一コマ、クサモチの起こした巨大な爆発と、その剣をアイゼンがアトラに振り下ろしたタイミングが重なった。
表現しがたいカオスな色と、人間では可聴できない音が、その辺り一帯を包み込み
「馬鹿が! 自滅したか! ぐへへ!」
実は物凄くレアな黒のローブをボロボロにしながら
「自分の力を過信しやがって!」
防御系自動発動アイテムを全て使い切りながら
「ぐへへへへへ!」
それでもオルゾフは地面を転がり、生きていた。
「チッ! 砂煙で何も見えねえ! 野郎、無茶苦茶しやがって!」
実は結構分の悪かった戦いが、予想外に早く終わった安心からか、自然とオルゾフの悪態をつく声は大きくなっていた。
「そこか」
その三文字は、オルゾフの耳にそれはそれは不気味に響いたらしい。
---------------------
アイゼンはツーハンデッドソードを両手で強く握り、その刀身に黒いオーラを纏わせた。
(うーん、実は未だによくわからないんじゃよなぁ……。あやつの【絶対領域】……。反射系かと思えば、触れただけでダメージもあるようじゃし……攻撃系バリアと呼ぶべきか……)
「んなモン反則じゃろうが!」
アトラの叫びも全く聞かず、アイゼンはさらにツーハンデッドソードに黒いオーラを纏わせる。元々大きなソードが、さらに巨大な黒いオーラ剣へと変わっていく。
「……我の魔法系バリアを貴様は一度全て破壊したことがある」
「そういえばそうじゃったかな?」
「……危険だ」
「……ほう、ならどうする?」
時が止まる。振り上げられたアイゼンの黒剣。次の一コマ、クサモチの起こした巨大な爆発と、その剣をアイゼンがアトラに振り下ろしたタイミングが重なった。
草原の町、デュマより少し離れた地点。
「なんだ、あの女? おかしな格好をしているぞ」
「だが見たこともない程、綺麗な顔、プロポーションだ。もといグラフィックだ。少し感動するほど……」
「おいおい、お前、ナンパでもする気か? 所詮バーチャルだぞ」
「やめとけって、あの女、なんか俺達のこと見てないし」
三人組の戦士パーティが、遠く離れたところで黙々と歩く女性を見つけたのは、既に終わりが始まっていたときだった。
「【無神】なんてわけのわからないモン相手にしてるよりは楽しいだろうよ」
「なんだよ、世界が滅びるかもしれねーってのに」
「ハッ、どうだか。そんな本当かどうかわからんことより、俺は目の前にあるものを信じるね」
「そうかい、好きにしろ」
一人は軽口を叩きながら、その女性に近付いていった。
三十秒後には自分が昇天してしまうということを知らずに。
------------------------
パート:クサモチとオルゾフ
「ぐへへ、お前の噂はよく聞いていたよ、【雷撃の魔道士】」
「……」
「魔道士っちゃあ、俺……オラ様としては天敵に近かったんだが」
「……」
「カイド王国では綺麗に騙されてくれて、助かったよ」
「……す」
「……ぐへへ、んー?」
「……あらゆる手段をもってお前を消す……」
「できるかなぁ?」
「悪逆なる……」
『殲滅』
--------------------
パート:アトラとアイゼン
「……神とは何か」
「……お主から、『神』なんぞという単語が出るとはのぅ」
「神とは、力だ」
「力?」
「どんなことでも可能にする力。自らの意志のままに世界を破壊し、創造する力をもつ者。それも確かなる存在」
「……というかお主、本当にアイゼンか?」
「……つまりは絶対」
「聞けい」
「我は、成し遂げなければならぬのだ」
ツーハンデッドソードを地面に突き立て、アイゼンはアトラを睨んだ。
「……ふん」
アトラは軽く拳を握り、浅く構えた。
「このっ馬鹿モンがッ!」
「なんだ、あの女? おかしな格好をしているぞ」
「だが見たこともない程、綺麗な顔、プロポーションだ。もといグラフィックだ。少し感動するほど……」
「おいおい、お前、ナンパでもする気か? 所詮バーチャルだぞ」
「やめとけって、あの女、なんか俺達のこと見てないし」
三人組の戦士パーティが、遠く離れたところで黙々と歩く女性を見つけたのは、既に終わりが始まっていたときだった。
「【無神】なんてわけのわからないモン相手にしてるよりは楽しいだろうよ」
「なんだよ、世界が滅びるかもしれねーってのに」
「ハッ、どうだか。そんな本当かどうかわからんことより、俺は目の前にあるものを信じるね」
「そうかい、好きにしろ」
一人は軽口を叩きながら、その女性に近付いていった。
三十秒後には自分が昇天してしまうということを知らずに。
------------------------
パート:クサモチとオルゾフ
「ぐへへ、お前の噂はよく聞いていたよ、【雷撃の魔道士】」
「……」
「魔道士っちゃあ、俺……オラ様としては天敵に近かったんだが」
「……」
「カイド王国では綺麗に騙されてくれて、助かったよ」
「……す」
「……ぐへへ、んー?」
「……あらゆる手段をもってお前を消す……」
「できるかなぁ?」
「悪逆なる……」
『殲滅』
--------------------
パート:アトラとアイゼン
「……神とは何か」
「……お主から、『神』なんぞという単語が出るとはのぅ」
「神とは、力だ」
「力?」
「どんなことでも可能にする力。自らの意志のままに世界を破壊し、創造する力をもつ者。それも確かなる存在」
「……というかお主、本当にアイゼンか?」
「……つまりは絶対」
「聞けい」
「我は、成し遂げなければならぬのだ」
ツーハンデッドソードを地面に突き立て、アイゼンはアトラを睨んだ。
「……ふん」
アトラは軽く拳を握り、浅く構えた。
「このっ馬鹿モンがッ!」
「遠隔透視者達から連絡入りました」
「【無神】位置特定か、うん。第一波用意OK?」
「OKです」
「距離、風位、照準は?」
町の外に配置されていた大砲が、一斉に同じ方向を向いた。
「OKですよ」
「よしなら発射。【無神】にシムシの科学力を見せつけてやれ。他の国の奴らにもな」
「アイサー」
“発射”
号令と共に、数十門ある大砲が一斉に火を噴いた。
-----------------------------
【無神】
とは。
それら数十の大砲弾を全て空中で受け止める。パワー。
コンマ秒後にはそれら一つ一つの軌道を計算。発射位置を逆算。
さらに遠隔透視で補正。全弾命中確立99.7%。この間は最早間ではない。
「いきなり大砲を撃つなんて、失礼な人達」
ある程度方向性の定まった声と、性格。設定は普通の女性(少し気が強い)。一番多くデータが集まったのと、プレイヤー達の多くが油断する性格だと判断したからだ。性格は【無神】には特に必要のないものだったが、吸収という自身の特性上、できてしまうのは仕方がなかった。
とにかくシムシの科学力の結晶は、【無神】によって全て発射源へと戻された。その大砲の威力はその大砲の全壊によって証明されることとなる。
「【無神】位置特定か、うん。第一波用意OK?」
「OKです」
「距離、風位、照準は?」
町の外に配置されていた大砲が、一斉に同じ方向を向いた。
「OKですよ」
「よしなら発射。【無神】にシムシの科学力を見せつけてやれ。他の国の奴らにもな」
「アイサー」
“発射”
号令と共に、数十門ある大砲が一斉に火を噴いた。
-----------------------------
【無神】
とは。
それら数十の大砲弾を全て空中で受け止める。パワー。
コンマ秒後にはそれら一つ一つの軌道を計算。発射位置を逆算。
さらに遠隔透視で補正。全弾命中確立99.7%。この間は最早間ではない。
「いきなり大砲を撃つなんて、失礼な人達」
ある程度方向性の定まった声と、性格。設定は普通の女性(少し気が強い)。一番多くデータが集まったのと、プレイヤー達の多くが油断する性格だと判断したからだ。性格は【無神】には特に必要のないものだったが、吸収という自身の特性上、できてしまうのは仕方がなかった。
とにかくシムシの科学力の結晶は、【無神】によって全て発射源へと戻された。その大砲の威力はその大砲の全壊によって証明されることとなる。
「アトラさん、と……えー……」
「……おい……焼くよ……」
「冗談ですよ、クサモチさん」
「……」
「なんじゃ、しばらく見ないうちに逞しくなりおったな、アレックス」
エメラルドグリーンの瞳とツインテール。魔法王国カイドを束ねる、正真正銘の王、アトラさん。緑のローブ、表情の見えない不気味な魔道士、クサモチさん。
カイド王国の筆頭プレイヤーが二人、ここに揃っていた。
「ここは儂らに任せてゆけ。【無神】はもう町のほうへ行ってしまったようじゃぞ」
「はい、行かせてもらいます」
「なんじゃい、えらいあっさりしとるのう。儂らを心配してくれんのか? 少し寂しいのう?」
アトラさんはにやにやと笑いながら、私を横目で見た。
「信用しているんですよ」
「そうか、ならばその信用に応えるとしよう」
突然別の高エネルギーによって弾き飛ばされた砂煙。中から現れたのは、黒いオーラを纏うアイゼンと、黒いローブを纏うオルゾフ。
「退けアトラ。障害はすべて排除する」
「ならば儂も排除してみよ、大馬鹿者よ」
対峙するアトラさんとアイゼン。
「ぐへへ、名乗りの途中に攻撃するなんてなァ……? おめぇ……卑怯だろ?」
「……コロス」
挑発するオルゾフと、三文字に全てを込めたクサモチさん。
その戦いの行方を見届けることはできなかった。私はすぐさま神速で【無神】を追ったから。
「……おい……焼くよ……」
「冗談ですよ、クサモチさん」
「……」
「なんじゃ、しばらく見ないうちに逞しくなりおったな、アレックス」
エメラルドグリーンの瞳とツインテール。魔法王国カイドを束ねる、正真正銘の王、アトラさん。緑のローブ、表情の見えない不気味な魔道士、クサモチさん。
カイド王国の筆頭プレイヤーが二人、ここに揃っていた。
「ここは儂らに任せてゆけ。【無神】はもう町のほうへ行ってしまったようじゃぞ」
「はい、行かせてもらいます」
「なんじゃい、えらいあっさりしとるのう。儂らを心配してくれんのか? 少し寂しいのう?」
アトラさんはにやにやと笑いながら、私を横目で見た。
「信用しているんですよ」
「そうか、ならばその信用に応えるとしよう」
突然別の高エネルギーによって弾き飛ばされた砂煙。中から現れたのは、黒いオーラを纏うアイゼンと、黒いローブを纏うオルゾフ。
「退けアトラ。障害はすべて排除する」
「ならば儂も排除してみよ、大馬鹿者よ」
対峙するアトラさんとアイゼン。
「ぐへへ、名乗りの途中に攻撃するなんてなァ……? おめぇ……卑怯だろ?」
「……コロス」
挑発するオルゾフと、三文字に全てを込めたクサモチさん。
その戦いの行方を見届けることはできなかった。私はすぐさま神速で【無神】を追ったから。
……ん?
「違うっ! サティンが私を呼ぶときは、『イレブン』と呼ぶのだっ! たどたどしい感じで、『イレブン』と呼ぶのだっ! 違うっ! 違う過ぎるわァアアアアアアア!」
腹に穴が空いていることも忘れて、私は思いっきり叫んだ。
景色に白い亀裂がいくつも走り、それは一瞬にして拡大。次に豪風と共に同じ草原の景色が戻ってきたが、そこには血に塗れたサティンの姿はなかった。もちろん私の腹には穴など空いていない。
代わりに、視界には黒装束の小さな男と黒いオーラを纏った男。名前は見えない。
「な、なんだァ、こいつ……。オラの【幻惑】を自力で解いただァ?」
その顔に、雰囲気に、見覚えがあった。その横に立つ人物にも。
「それでこそ、我らの最後の障害に相応しいか……」
【無常】、アイゼン!
「ぐへへ、流石はフルファイアを退けただけはある、のかなァ? 俺はァ、オルゾ……」
途中、私は久しぶりに寒気を感じて、その場に伏せた。横薙ぎの雷が私の頭上を物凄い勢いで通り過ぎ、二人に直撃した。砂煙と焼けた草達が空に舞う。
「……みー……つけた」
私の後ろから現れたのは、雷を両手に発生させているクサモチさんと、
「お主……相変わらず無茶苦茶を……アレックスが死んだらどうする」
王と大きく書かれたTシャツを着た、アトラさんだった。
「違うっ! サティンが私を呼ぶときは、『イレブン』と呼ぶのだっ! たどたどしい感じで、『イレブン』と呼ぶのだっ! 違うっ! 違う過ぎるわァアアアアアアア!」
腹に穴が空いていることも忘れて、私は思いっきり叫んだ。
景色に白い亀裂がいくつも走り、それは一瞬にして拡大。次に豪風と共に同じ草原の景色が戻ってきたが、そこには血に塗れたサティンの姿はなかった。もちろん私の腹には穴など空いていない。
代わりに、視界には黒装束の小さな男と黒いオーラを纏った男。名前は見えない。
「な、なんだァ、こいつ……。オラの【幻惑】を自力で解いただァ?」
その顔に、雰囲気に、見覚えがあった。その横に立つ人物にも。
「それでこそ、我らの最後の障害に相応しいか……」
【無常】、アイゼン!
「ぐへへ、流石はフルファイアを退けただけはある、のかなァ? 俺はァ、オルゾ……」
途中、私は久しぶりに寒気を感じて、その場に伏せた。横薙ぎの雷が私の頭上を物凄い勢いで通り過ぎ、二人に直撃した。砂煙と焼けた草達が空に舞う。
「……みー……つけた」
私の後ろから現れたのは、雷を両手に発生させているクサモチさんと、
「お主……相変わらず無茶苦茶を……アレックスが死んだらどうする」
王と大きく書かれたTシャツを着た、アトラさんだった。
一瞬視界が、赤に染まった。
「……あ……」
大きな、大きなものを、失くした。
私の腹には、大きな穴が空いていた。
中身は全て吹き飛んでいた。
サティンの姿は、すぐ近くにあった。
その手は、私の血で、真っ赤に染まっていた。
サティンは、笑った。
「ひゃ、ひゃははははははははは!」
覚悟していたとはいえ、これはきつい。
体中から力が抜けていく。
天使の歌声がすぐ近くで聞こえる。
口から吐いた血が、私の手が、足が、ドット状に分解されて、サティンに吸収されていく。
……なら、あの石も、吸収されるのか。
だが、私が死んでは意味がない。意味がないのだ……。
ちくしょう、覚悟、していたの……に……。
……。
「さようなら、アレックス」
誰でもあって、誰でもない声だった。
「……あ……」
大きな、大きなものを、失くした。
私の腹には、大きな穴が空いていた。
中身は全て吹き飛んでいた。
サティンの姿は、すぐ近くにあった。
その手は、私の血で、真っ赤に染まっていた。
サティンは、笑った。
「ひゃ、ひゃははははははははは!」
覚悟していたとはいえ、これはきつい。
体中から力が抜けていく。
天使の歌声がすぐ近くで聞こえる。
口から吐いた血が、私の手が、足が、ドット状に分解されて、サティンに吸収されていく。
……なら、あの石も、吸収されるのか。
だが、私が死んでは意味がない。意味がないのだ……。
ちくしょう、覚悟、していたの……に……。
……。
「さようなら、アレックス」
誰でもあって、誰でもない声だった。
私はその時、どうすべきか、なんてわからなかった。ただ、もう一度会って話がしたかっただけだった。それがたとえ、サティンを苦しめるだけの結果に終わるとしても。
(これは、私のエゴだな)
殺されることは当然、憎まれることも、覚悟していた。世界の終わる要因となってしまうことも、全て、覚悟していた。私は私のエゴを、貫く。
「サティン!」
私はこの言葉で、どれだけサティンを傷つけるのだろう。あるいはサティンの心は全く揺るがないのかもしれない。それはそれで、いい。
サティンと初めて出会って、今まで、そんなに長い時間は経っていない。サティンが一体どんなモノなのか、私は全くわかっていないのだから、何も予測は立てられない。
……けど、今、【無神】であるサティンと対峙して、私が肉片と化してないのは、それなりのイレギュラーではないのだろうか? 私はそれなりに、不測の事態を引き起こしてるのではないのだろうか。
さあ、言おう。言葉にしないと駄目だ。あるいはもう読み取られているのかもしれない。サティンの表情は怯えた子供のようで、血と泥に塗れた服は『もういやだ』と言っている。絶対だ。私は信じる。
「……帰ろう」
広い草原を、暖かい風が吹き抜けて、トゥエルのタテガミが輝き、同じ背の高さの草達が仲良くさわさわと音を立てた。太陽を薄い雲が隠して心地よい光量になった草原に、二人きりで立つ私とサティン。
――Live世界はこんなにも優しく、私達を包み込んでくれるよ。
(これは、私のエゴだな)
殺されることは当然、憎まれることも、覚悟していた。世界の終わる要因となってしまうことも、全て、覚悟していた。私は私のエゴを、貫く。
「サティン!」
私はこの言葉で、どれだけサティンを傷つけるのだろう。あるいはサティンの心は全く揺るがないのかもしれない。それはそれで、いい。
サティンと初めて出会って、今まで、そんなに長い時間は経っていない。サティンが一体どんなモノなのか、私は全くわかっていないのだから、何も予測は立てられない。
……けど、今、【無神】であるサティンと対峙して、私が肉片と化してないのは、それなりのイレギュラーではないのだろうか? 私はそれなりに、不測の事態を引き起こしてるのではないのだろうか。
さあ、言おう。言葉にしないと駄目だ。あるいはもう読み取られているのかもしれない。サティンの表情は怯えた子供のようで、血と泥に塗れた服は『もういやだ』と言っている。絶対だ。私は信じる。
「……帰ろう」
広い草原を、暖かい風が吹き抜けて、トゥエルのタテガミが輝き、同じ背の高さの草達が仲良くさわさわと音を立てた。太陽を薄い雲が隠して心地よい光量になった草原に、二人きりで立つ私とサティン。
――Live世界はこんなにも優しく、私達を包み込んでくれるよ。
第五章 無神編
「……」
それは、アレックスだけにわかった。
「……サティン」
やっと全回復したトゥエルに乗り、アレックスは確かに感じた【危険】の方へと向かった。
*
「計画も最終段階か。フルファイアはどうした?」
「燃え尽きた、って感じですぜ。ぐへへへ」
「そうか。どちらにせよ、アイテムは二つしかない。我らだけで最後の仕上げだ」
「ぐへへ、本当に、最後の、ね、ぐへへ」
闇に潜むオルゾフと【無常】だった。
*
「ブラッド、ローラン」
「うわああああ! 青先輩が俺達の名前を呼んだぁああ!」
「青さんが漢字以外の言葉を発するなんて! 総員退避! 槍が降りかねないぞ!」
「……黙、行」
しっかり拳骨を食らった二人を引きずり、歴戦の勘に従って青はある方向へと向かった。
*
「急げクサモチ! ヤミハル達に感付かれるぞ!」
「……めんどい」
「お主ィィ! また国を抜け出したのがバレたら儂どうなるかわかるじゃろう!?」
「……しらん」
「〜〜!」
【無神】を目指すアトラとクサモチだった。
*
「ヤツは何処かな」
大きな荷物袋を持っている初心者風の男も、忘れてはいけない。
*
【無神】が殺したプレイヤー数:678
残:322
「……」
それは、アレックスだけにわかった。
「……サティン」
やっと全回復したトゥエルに乗り、アレックスは確かに感じた【危険】の方へと向かった。
*
「計画も最終段階か。フルファイアはどうした?」
「燃え尽きた、って感じですぜ。ぐへへへ」
「そうか。どちらにせよ、アイテムは二つしかない。我らだけで最後の仕上げだ」
「ぐへへ、本当に、最後の、ね、ぐへへ」
闇に潜むオルゾフと【無常】だった。
*
「ブラッド、ローラン」
「うわああああ! 青先輩が俺達の名前を呼んだぁああ!」
「青さんが漢字以外の言葉を発するなんて! 総員退避! 槍が降りかねないぞ!」
「……黙、行」
しっかり拳骨を食らった二人を引きずり、歴戦の勘に従って青はある方向へと向かった。
*
「急げクサモチ! ヤミハル達に感付かれるぞ!」
「……めんどい」
「お主ィィ! また国を抜け出したのがバレたら儂どうなるかわかるじゃろう!?」
「……しらん」
「〜〜!」
【無神】を目指すアトラとクサモチだった。
*
「ヤツは何処かな」
大きな荷物袋を持っている初心者風の男も、忘れてはいけない。
*
【無神】が殺したプレイヤー数:678
残:322
シムシ:4
衆:2
カイド:1
今まで消滅した町の数。
“【無神】討伐隊、各責任者は本部まで!”
「大砲の手入れはちゃんとしておけよ!」
『第四、七、十五部隊、東門集合! 今すぐだ! 急げ!』
怒号、大声、テレパシー。
ここはシムシの中央草原、さらにその中央に位置する町、『デュマ』。草原の町、デュマだ。グラズノより少し南にあるらしい。
“予想時刻まであと一時間”
『第十五部隊、遅い! 急げ!』
「おい、整備は!?」
「誰か炎系の魔法使える奴いないか!」
【無神】は人を『喰らう』ことで無限に成長する。その恐ろしさを知っていた元老、アトラ、周、両名は過酷な国内情勢の中、それぞれ【無神】討伐隊を組織。シムシも7《セブン》達の決定により国軍を【無神】討伐に投入。
「カイド兵や衆の奴らと一緒に戦うのかよ……」
「ぼやくな、今は協力するしかないだろう……」
だが、通り過ぎてゆく兵士達の言葉どおりに、各国の連携は思うようには行かなかった。元々友好的とは言えなかった三国。シムシと衆、衆とカイドはゴッドレスの策略の効果もあり、先ほどまではまさしく【戦争】をしていた状態だった。
当初、支配者達の命令も聞かず、プレイヤー達は各個で【無神】に対抗しようとした。結果、逆にプレイヤー達は各個撃破、返り討ちに遭い、その戦力を大幅に低下させてしまうことになる。
流石に危機感を抱いたプレイヤー達(本当にごく一部だが)は、次に襲われると思われる町、この『デュマ』に集まった。滅ぼされた町の位置、順番には単純な法則性があるからだ。本当に単純な法則性、消えた町から一番近い町が消える。
約五百名。今、ここに【無神】と戦うためにいるプレイヤーの数だ。この数は、戦争に参加したプレイヤー数に比べると、圧倒的に少ない。今現在国家間の戦争に参加しているプレイヤー数にも負けるほどの数。
“予想時刻まであと三十分”
だが、二度目はない
危機感のある元老達はそのことを知っていた。もしもこれ以上【無神】に敗北すれば、もう【無神】は誰の手にも届かない点に到達するだろう。だが、危機感のないプレイヤーも、いるのだ。しかもたくさん。
私は急遽作られた塀にもたれて座っていた。地平線が見えるほど広い草原のさらに先、サティンがいるであろう方向を見つめていた。
*
第四章(最終章を第四章に変更してみました)
世界編
完
血の涙を流したサティンは、確かに言った。
「……イ……ブン……けて……」
*
約一名。今、ここにサティンを助けるためにいる、プレイヤーの数だった。
衆:2
カイド:1
今まで消滅した町の数。
“【無神】討伐隊、各責任者は本部まで!”
「大砲の手入れはちゃんとしておけよ!」
『第四、七、十五部隊、東門集合! 今すぐだ! 急げ!』
怒号、大声、テレパシー。
ここはシムシの中央草原、さらにその中央に位置する町、『デュマ』。草原の町、デュマだ。グラズノより少し南にあるらしい。
“予想時刻まであと一時間”
『第十五部隊、遅い! 急げ!』
「おい、整備は!?」
「誰か炎系の魔法使える奴いないか!」
【無神】は人を『喰らう』ことで無限に成長する。その恐ろしさを知っていた元老、アトラ、周、両名は過酷な国内情勢の中、それぞれ【無神】討伐隊を組織。シムシも7《セブン》達の決定により国軍を【無神】討伐に投入。
「カイド兵や衆の奴らと一緒に戦うのかよ……」
「ぼやくな、今は協力するしかないだろう……」
だが、通り過ぎてゆく兵士達の言葉どおりに、各国の連携は思うようには行かなかった。元々友好的とは言えなかった三国。シムシと衆、衆とカイドはゴッドレスの策略の効果もあり、先ほどまではまさしく【戦争】をしていた状態だった。
当初、支配者達の命令も聞かず、プレイヤー達は各個で【無神】に対抗しようとした。結果、逆にプレイヤー達は各個撃破、返り討ちに遭い、その戦力を大幅に低下させてしまうことになる。
流石に危機感を抱いたプレイヤー達(本当にごく一部だが)は、次に襲われると思われる町、この『デュマ』に集まった。滅ぼされた町の位置、順番には単純な法則性があるからだ。本当に単純な法則性、消えた町から一番近い町が消える。
約五百名。今、ここに【無神】と戦うためにいるプレイヤーの数だ。この数は、戦争に参加したプレイヤー数に比べると、圧倒的に少ない。今現在国家間の戦争に参加しているプレイヤー数にも負けるほどの数。
“予想時刻まであと三十分”
だが、二度目はない
危機感のある元老達はそのことを知っていた。もしもこれ以上【無神】に敗北すれば、もう【無神】は誰の手にも届かない点に到達するだろう。だが、危機感のないプレイヤーも、いるのだ。しかもたくさん。
私は急遽作られた塀にもたれて座っていた。地平線が見えるほど広い草原のさらに先、サティンがいるであろう方向を見つめていた。
*
第四章(最終章を第四章に変更してみました)
世界編
完
血の涙を流したサティンは、確かに言った。
「……イ……ブン……けて……」
*
約一名。今、ここにサティンを助けるためにいる、プレイヤーの数だった。
所詮は、ゲームだ。
今の世界は、そんな言葉を納得させるものだった。
おそらくLive史上初の、世界クラスボスモンスターイベント。最強最悪といわれた【無神】に、あるものは恐怖し、あるものは奮起し、あるものは挑戦した。その表情、行動の中には、不安というよりも、喜び。そう、確かに巨大な敵に言い知れぬ心の高揚を皆、感じ、喜んでいたのだ。
『巨大な敵』。倒すべき敵が遂に現れた。
だが、私だけは、違った。
あれは、【無神】は、私にとって、『敵』ではなかったのだ。
今、皆、誰もが、英雄になろうとしている。『巨大な敵』を討ち、皆から敬われる英雄になろうとしている。だが私は、その英雄達に逆らい、『巨大な敵』を助けようと思っている。
あの時、あの場所で、
サティンは……
確かに泣いていたから……。
*
サティンであったモノは……十六人殺した。
プレイヤーの肉片は、細かい四角、というかドット状に変化させて、サティンであったモノの小さな口に吸い込まれていった。おそらく死体をデータに変化して自分の中に取り込んだのだろう。その間もサティンであったモノの表情は全く変わらなかった。
サティンであったモノはその最中、食事中に私を見た。その赤眼と視線が合うと、私は何の感情も抱かなかったのに、体は視界が揺れるほど震えだしてしまった。【危険察知】さえ、何の働きも見せない。リヴァイアサン戦で一瞬味わった感覚。度を越えた危険。振り切れた針だ。
十六人を喰らい尽くしたサティンであったモノ。
血がその手から滴り落ちて……、地面に小さな水溜りを作っていた。食べ終わり、自分の新たな力を確かめるように地面を殴ると、
轟音、同時に地面に巨大なクレーターができた。
魔人、悪魔、怪物。
誰が、コレに、勝てるのだろうか。
「あははははははははははははは!」
老若男女の声が混ざった誰のものでもあり、誰のものでもない声。そんな声で、サティンであったモノは笑った。
――勝てない。
サティンであったモノは、ゆっくりと私に近付いてきた。その行為は、私に恐怖をじっくりと味あわせる為のモノにしか思えなかった。一言も喋らず段々近付いてくる、ソレは、コワくて、コワくて、私には、どうしようもなくて……
「こ、来ないでくれ……」
私はいつのまにかトゥエルを庇うようにして、そんな言葉を、紡いでいた。
サティンであったモノは、私のその言葉でその場にぴたりと止まり……
止まり……
何時間もそうしていた感覚が私を襲い、
「……サティ……ン?」
さらに私のその声を聞いて、サティンは、
……血の涙を。
今の世界は、そんな言葉を納得させるものだった。
おそらくLive史上初の、世界クラスボスモンスターイベント。最強最悪といわれた【無神】に、あるものは恐怖し、あるものは奮起し、あるものは挑戦した。その表情、行動の中には、不安というよりも、喜び。そう、確かに巨大な敵に言い知れぬ心の高揚を皆、感じ、喜んでいたのだ。
『巨大な敵』。倒すべき敵が遂に現れた。
だが、私だけは、違った。
あれは、【無神】は、私にとって、『敵』ではなかったのだ。
今、皆、誰もが、英雄になろうとしている。『巨大な敵』を討ち、皆から敬われる英雄になろうとしている。だが私は、その英雄達に逆らい、『巨大な敵』を助けようと思っている。
あの時、あの場所で、
サティンは……
確かに泣いていたから……。
*
サティンであったモノは……十六人殺した。
プレイヤーの肉片は、細かい四角、というかドット状に変化させて、サティンであったモノの小さな口に吸い込まれていった。おそらく死体をデータに変化して自分の中に取り込んだのだろう。その間もサティンであったモノの表情は全く変わらなかった。
サティンであったモノはその最中、食事中に私を見た。その赤眼と視線が合うと、私は何の感情も抱かなかったのに、体は視界が揺れるほど震えだしてしまった。【危険察知】さえ、何の働きも見せない。リヴァイアサン戦で一瞬味わった感覚。度を越えた危険。振り切れた針だ。
十六人を喰らい尽くしたサティンであったモノ。
血がその手から滴り落ちて……、地面に小さな水溜りを作っていた。食べ終わり、自分の新たな力を確かめるように地面を殴ると、
轟音、同時に地面に巨大なクレーターができた。
魔人、悪魔、怪物。
誰が、コレに、勝てるのだろうか。
「あははははははははははははは!」
老若男女の声が混ざった誰のものでもあり、誰のものでもない声。そんな声で、サティンであったモノは笑った。
――勝てない。
サティンであったモノは、ゆっくりと私に近付いてきた。その行為は、私に恐怖をじっくりと味あわせる為のモノにしか思えなかった。一言も喋らず段々近付いてくる、ソレは、コワくて、コワくて、私には、どうしようもなくて……
「こ、来ないでくれ……」
私はいつのまにかトゥエルを庇うようにして、そんな言葉を、紡いでいた。
サティンであったモノは、私のその言葉でその場にぴたりと止まり……
止まり……
何時間もそうしていた感覚が私を襲い、
「……サティ……ン?」
さらに私のその声を聞いて、サティンは、
……血の涙を。
それは一瞬だった。
気づいたら、巨大な炎と雷がサティンだったモノを襲っていたのだ。サティンだったモノも炎と雷を、今気づいた、という風に見た。
見ただけだった。
大爆発。直撃だった。
砂煙は生き物のように動きながら巨大に膨れ上がり、しばらくして風に流され空気に溶けていった。いつのまにかサティンの四方を、四人パーティが囲んでいた。それぞれの格好はバラバラで、統一性は全くない。だが、個々からある種のオーラのようなものを感じ取ることができ、そのレベルは相当なものだと予想できた。
「大丈夫ですか?」
私達の一番近くにいたパーティが、私に駆け寄ってきていた。白魔法のようなもので私の疲れを癒そうとしてくれているようだが、生命力そのものが削れているのであまり効果はなかった。いつのまにかフルファイアの姿は消えていて、ここに残ったのは静かに眠るトゥエルと、私だけだった。
“アルファ、【無神】、ロスト”
テレパシーが脳に響いた。
「おい、マクス! アイラが【無神】を見失ったみたいだ!」
戦士のような男が叫ぶ。
「マジかよ! 一体どうやって避けたんだよ、あれを!」
今度は普通の魔法使いらしき男性があわてて辺りを見渡していた。砂煙はすっかり晴れたが、そこには大きなクレーターが残されていただけだった。何かがそこで死んだ跡は何もない。
「いや、明らかに直撃だった。どこかで固有系を盗ったのかもしれない。くそ、バリアとかで防いだのならまだ救えるんだがな」
戦士は忌々しそうに呟いた。その眼は鋭いまま辺りを見渡していて、一箇所に留まらない。必死でサティンを探しているのだろう。
「えーと、アレックスさん? 今、危機的状況だっていうのはわかりますね? わかってください。ルースさん!」
白魔法使いに呼ばれたのは、赤銅色の肌をした衆人らしきプレイヤーだった。
「……いや、どうやらそいつを逃がしてる暇はないようだぞ」
そう言ったルースと呼ばれたプレイヤーは、ちょうど正面に位置する別のパーティを見ていた。そのパーティも、遠目から見てわかるほど慌てていた。先ほどと同じ炎と雷撃が、どこからか正面のパーティの周りに発生していた。
そのパーティは当然、大爆発に巻き込まれた。
「――な!? マクス! アルザ! 頼む!」
白魔法使い、魔法使いの男が戦士らしき男に無数の補助魔法をかけはじめた。高速詠唱、重ねがけである。
「くそ、今の攻撃も盗られたのか!」
“アルファ、アイラの班がやられた! 【無神】の捕捉がぁ――”
聞こえたテレパシーも、不自然なところで途切れた。同時に爆発。今度は私達から見て左側。近い。正面で起こった砂煙はまだ晴れていなかった。これでパーティは半分、十六人から八人に。
「くそっ! アルファとガンマがやられたか! 移動系所持確定だ! ベータと合流するぞ! 急げ!」
戦士が七色に光る剣を鞘から抜いた。衆人、白魔法使い、魔法使いがその戦士に続いてもうひとつのパーティに合流しようと走り出した。もはや私のことに構っていられなくなったよう
残った右側のパーティも、大爆発
だ……。
わずか数十秒の出来事だった。後にGMだったと知る、十六人のプレイヤーが一瞬で全滅したのは。
三箇所で起こった爆発を、呆然と見ていた四人のパーティに、私は何の感想も抱けなかった。そう、その四人と同じ、私もその光景を信じられなかった。
その光景を受け入れ、次の行動を起こすためのクールタイム。このパーティは鍛えられているに違いない。すぐに時間は動き出そうとした。だが、それすらも凌駕する、完全完璧。
やがて、私は戦士の後ろに不気味な影が立っていることに気付くのだ。赤く染まった手足や顔や髪が、まさしく悪魔を連想させるその存在に気付くのだ。
私は今ならいえる、思える、最強最悪。生まれてはいけなかったもの。【無神】。サティンじゃない。人じゃない。――モンスターじゃない。もっと、どうしようもないものだ、アレは。
四人パーティを一瞬で細切れにした【無神】は、その肉片が昇天の光に包まれようとする前に、
喰った。
後に知ることになる。
その場を奇跡的に生きる私は、後に知ることになってしまう。
消費された魔力、体力を回復させるため、そして、そのプレイヤーが持つ全てのスキル。パッシブスキルさえもその身に宿すために、この【無神】、第三形態、『魔』は、人を喰らうのだと。
気づいたら、巨大な炎と雷がサティンだったモノを襲っていたのだ。サティンだったモノも炎と雷を、今気づいた、という風に見た。
見ただけだった。
大爆発。直撃だった。
砂煙は生き物のように動きながら巨大に膨れ上がり、しばらくして風に流され空気に溶けていった。いつのまにかサティンの四方を、四人パーティが囲んでいた。それぞれの格好はバラバラで、統一性は全くない。だが、個々からある種のオーラのようなものを感じ取ることができ、そのレベルは相当なものだと予想できた。
「大丈夫ですか?」
私達の一番近くにいたパーティが、私に駆け寄ってきていた。白魔法のようなもので私の疲れを癒そうとしてくれているようだが、生命力そのものが削れているのであまり効果はなかった。いつのまにかフルファイアの姿は消えていて、ここに残ったのは静かに眠るトゥエルと、私だけだった。
“アルファ、【無神】、ロスト”
テレパシーが脳に響いた。
「おい、マクス! アイラが【無神】を見失ったみたいだ!」
戦士のような男が叫ぶ。
「マジかよ! 一体どうやって避けたんだよ、あれを!」
今度は普通の魔法使いらしき男性があわてて辺りを見渡していた。砂煙はすっかり晴れたが、そこには大きなクレーターが残されていただけだった。何かがそこで死んだ跡は何もない。
「いや、明らかに直撃だった。どこかで固有系を盗ったのかもしれない。くそ、バリアとかで防いだのならまだ救えるんだがな」
戦士は忌々しそうに呟いた。その眼は鋭いまま辺りを見渡していて、一箇所に留まらない。必死でサティンを探しているのだろう。
「えーと、アレックスさん? 今、危機的状況だっていうのはわかりますね? わかってください。ルースさん!」
白魔法使いに呼ばれたのは、赤銅色の肌をした衆人らしきプレイヤーだった。
「……いや、どうやらそいつを逃がしてる暇はないようだぞ」
そう言ったルースと呼ばれたプレイヤーは、ちょうど正面に位置する別のパーティを見ていた。そのパーティも、遠目から見てわかるほど慌てていた。先ほどと同じ炎と雷撃が、どこからか正面のパーティの周りに発生していた。
そのパーティは当然、大爆発に巻き込まれた。
「――な!? マクス! アルザ! 頼む!」
白魔法使い、魔法使いの男が戦士らしき男に無数の補助魔法をかけはじめた。高速詠唱、重ねがけである。
「くそ、今の攻撃も盗られたのか!」
“アルファ、アイラの班がやられた! 【無神】の捕捉がぁ――”
聞こえたテレパシーも、不自然なところで途切れた。同時に爆発。今度は私達から見て左側。近い。正面で起こった砂煙はまだ晴れていなかった。これでパーティは半分、十六人から八人に。
「くそっ! アルファとガンマがやられたか! 移動系所持確定だ! ベータと合流するぞ! 急げ!」
戦士が七色に光る剣を鞘から抜いた。衆人、白魔法使い、魔法使いがその戦士に続いてもうひとつのパーティに合流しようと走り出した。もはや私のことに構っていられなくなったよう
残った右側のパーティも、大爆発
だ……。
わずか数十秒の出来事だった。後にGMだったと知る、十六人のプレイヤーが一瞬で全滅したのは。
三箇所で起こった爆発を、呆然と見ていた四人のパーティに、私は何の感想も抱けなかった。そう、その四人と同じ、私もその光景を信じられなかった。
その光景を受け入れ、次の行動を起こすためのクールタイム。このパーティは鍛えられているに違いない。すぐに時間は動き出そうとした。だが、それすらも凌駕する、完全完璧。
やがて、私は戦士の後ろに不気味な影が立っていることに気付くのだ。赤く染まった手足や顔や髪が、まさしく悪魔を連想させるその存在に気付くのだ。
私は今ならいえる、思える、最強最悪。生まれてはいけなかったもの。【無神】。サティンじゃない。人じゃない。――モンスターじゃない。もっと、どうしようもないものだ、アレは。
四人パーティを一瞬で細切れにした【無神】は、その肉片が昇天の光に包まれようとする前に、
喰った。
後に知ることになる。
その場を奇跡的に生きる私は、後に知ることになってしまう。
消費された魔力、体力を回復させるため、そして、そのプレイヤーが持つ全てのスキル。パッシブスキルさえもその身に宿すために、この【無神】、第三形態、『魔』は、人を喰らうのだと。
生命力をトゥエルに分け与えたことにより、また私の意識は遠のこうとしていた。
(これだけ何回も、生命力削るとなあ……)
不本意ながら、慣れてしまいそうだった。
そんな私の意識をばっちり覚醒させるほどの閃光がルツェンを飲み込んだのは、その時だった。私はあまりの眩しさに目を光から背け、トゥエルの体の影に顔を隠した。目に焼きついた白は中々離れなかった。異様に甲高いチャージ音のようなものが聞こえてきた。その音はどんどん高音に、つまりは高まっていき、逆に光はその量を少なくしていった。
(生まれる!?)
何が!? 考えたと同時、爆発音が全てを吹き飛ばしていた。
*
草木が一本も生えていない荒野に、私はいた。かつてルツェンと呼ばれていた町、今はもう、消えていた。その町であった場所の中心であった場所に、(私はしばらく思考して)サティンであったモノが立っているのを見て、すぐ理解した。
次の段階だ。
いきなりポンと、そんな単語が浮かんだ。寒気。次の段階? 自分でも一体なぜそんなことを考えたのかわからなかった。寒気。だが、その言葉は心の奥底から湧き上がってきたので、否定する気になれなかった。
荒野に立ち、空を見上げている、サティン。
まだ不完全だった体は、完全な成体になっていた。一般的に人間としては最も力が漲る二十代の体に、あの時と変わらない長い黒髪、そして純粋な赤眼、ぴったりのサイズになった赤い布の服。顔つきもそのまま成人となり、男か女かもわからないままで、美しいままだった。ただ、あの頃、見えていた不完全、不安定は完全に消えうせて、
サティンは完璧になっていた。
人としての容姿としては、私には欠点を見つけることが不可能な姿になっていた。五百メートル以上離れた地点にいる、ちっぽけな点のように見えるサティンの姿から、眼を離せない。眼をずらせない。
サティンが両手を空に掲げた。両拳を握って、大きく伸びをして、まるで世界に生まれたことを、喜んでいるかのように、笑った。私とサティンの距離は相当離れていたが、サティンはその時、確かに笑っていた。見えたというより感じた。
そしてサティンは、確かにこっちを見たのだった。
(これだけ何回も、生命力削るとなあ……)
不本意ながら、慣れてしまいそうだった。
そんな私の意識をばっちり覚醒させるほどの閃光がルツェンを飲み込んだのは、その時だった。私はあまりの眩しさに目を光から背け、トゥエルの体の影に顔を隠した。目に焼きついた白は中々離れなかった。異様に甲高いチャージ音のようなものが聞こえてきた。その音はどんどん高音に、つまりは高まっていき、逆に光はその量を少なくしていった。
(生まれる!?)
何が!? 考えたと同時、爆発音が全てを吹き飛ばしていた。
*
草木が一本も生えていない荒野に、私はいた。かつてルツェンと呼ばれていた町、今はもう、消えていた。その町であった場所の中心であった場所に、(私はしばらく思考して)サティンであったモノが立っているのを見て、すぐ理解した。
次の段階だ。
いきなりポンと、そんな単語が浮かんだ。寒気。次の段階? 自分でも一体なぜそんなことを考えたのかわからなかった。寒気。だが、その言葉は心の奥底から湧き上がってきたので、否定する気になれなかった。
荒野に立ち、空を見上げている、サティン。
まだ不完全だった体は、完全な成体になっていた。一般的に人間としては最も力が漲る二十代の体に、あの時と変わらない長い黒髪、そして純粋な赤眼、ぴったりのサイズになった赤い布の服。顔つきもそのまま成人となり、男か女かもわからないままで、美しいままだった。ただ、あの頃、見えていた不完全、不安定は完全に消えうせて、
サティンは完璧になっていた。
人としての容姿としては、私には欠点を見つけることが不可能な姿になっていた。五百メートル以上離れた地点にいる、ちっぽけな点のように見えるサティンの姿から、眼を離せない。眼をずらせない。
サティンが両手を空に掲げた。両拳を握って、大きく伸びをして、まるで世界に生まれたことを、喜んでいるかのように、笑った。私とサティンの距離は相当離れていたが、サティンはその時、確かに笑っていた。見えたというより感じた。
そしてサティンは、確かにこっちを見たのだった。
「……は! ……やられた……な」
地面に大の字に倒れたフルファイアは悔しそうに言った。最早動くこともできなくなったようだ。
【搾取のナイフ】は本当の賭けだった。自身の生命力の上限を超えて相手の生命力を搾取することはできないし、射程も普通のナイフと一緒でかなり短い。もし仮に、神速で射程内に近付けたとしても、神速後のクールタイムに攻撃を喰らう、もしくは戦闘に関して全くの素人である私のナイフの刺撃を敵に避けられればそこで終わりだ。だから私は、一旦自ら囮になりトゥエルにフルファイアの注意を逸らしてもらうしかなかった。生命力【C】ならば、なんとか即昇天は防げ、自身の生命力値の調節もできるのではないか、という予測で。
「……リバース」
バシンと音を立てて、【搾取のナイフ】は【癒しのナイフ】へと戻った。這って黒焦げになったトゥエルに近寄る。生命力をフルファイアから貰ったとはいえ、体力はすぐには回復しなかった。
「……ごめん」
私が本当の囮にしたのは、トゥエル、君……だ。
癒しのナイフをトゥエルに突き刺す。頼む。生きてくれ。死なないでくれ。
地面に大の字に倒れたフルファイアは悔しそうに言った。最早動くこともできなくなったようだ。
【搾取のナイフ】は本当の賭けだった。自身の生命力の上限を超えて相手の生命力を搾取することはできないし、射程も普通のナイフと一緒でかなり短い。もし仮に、神速で射程内に近付けたとしても、神速後のクールタイムに攻撃を喰らう、もしくは戦闘に関して全くの素人である私のナイフの刺撃を敵に避けられればそこで終わりだ。だから私は、一旦自ら囮になりトゥエルにフルファイアの注意を逸らしてもらうしかなかった。生命力【C】ならば、なんとか即昇天は防げ、自身の生命力値の調節もできるのではないか、という予測で。
「……リバース」
バシンと音を立てて、【搾取のナイフ】は【癒しのナイフ】へと戻った。這って黒焦げになったトゥエルに近寄る。生命力をフルファイアから貰ったとはいえ、体力はすぐには回復しなかった。
「……ごめん」
私が本当の囮にしたのは、トゥエル、君……だ。
癒しのナイフをトゥエルに突き刺す。頼む。生きてくれ。死なないでくれ。
――肺に残っていた空気は全てその一言に使った。
「……リバース」
握っていた癒しのナイフがバシン、と音を立てて変化した。黒い刀身、禍々しい装飾。癒しのナイフとは正反対のビジュアル。シンカさんに貰ったメモに書かれていた、癒しのナイフのもう一つの形態。
【搾取のナイフ】……!
トゥエルに注意していたフルファイアのふとももに、そのナイフを突き刺した。フルファイアは驚く。その痛みのなさに。そう、これは体力を奪うナイフじゃない。
「き、キサマァアアアアアアアアアアアアアアア!」
フルファイアが叫んだ。そして搾取のナイフはフルファイアの【生命力】を搾取し始める。体力、魔力、その前にある、プレイヤーの【命】自体を削り始める。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
フルファイアはすぐさまふとももからナイフを抜こうとした。だが、ナイフからは黒い電撃のようなものがでてきて、触れられない。それはもちろん私も攻撃しているのだが、このナイフの柄だけは絶対に離すことはできない。
「離せええええ! 離せええええええええええええ!」
フルファイアの指先が炎に変わった。何をしようとしているのかわからないが、無駄。
【生命力】とは人を作る源だ。体力、精神力、魔力。生命力が削られれば、それら全てが削られてしまう。
「くそ! 魔力と精神力が足りない! やめろキサマアアアアアアア!」
残った体力と魔力。全てを注ぎ込んでフルファイアは私を攻撃した。流石に痛い。だが、絶対に。
離さないぞ。
10さん、真っ赤な夕焼け。10さん、笑う横顔。10さん、焦げたけれどなんとかまだある再会のスカーフ。10さん、焼けた服の間から、名前隠し君が落ちて転がった。
フルファイアが、膝をついた。
「……リバース」
握っていた癒しのナイフがバシン、と音を立てて変化した。黒い刀身、禍々しい装飾。癒しのナイフとは正反対のビジュアル。シンカさんに貰ったメモに書かれていた、癒しのナイフのもう一つの形態。
【搾取のナイフ】……!
トゥエルに注意していたフルファイアのふとももに、そのナイフを突き刺した。フルファイアは驚く。その痛みのなさに。そう、これは体力を奪うナイフじゃない。
「き、キサマァアアアアアアアアアアアアアアア!」
フルファイアが叫んだ。そして搾取のナイフはフルファイアの【生命力】を搾取し始める。体力、魔力、その前にある、プレイヤーの【命】自体を削り始める。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
フルファイアはすぐさまふとももからナイフを抜こうとした。だが、ナイフからは黒い電撃のようなものがでてきて、触れられない。それはもちろん私も攻撃しているのだが、このナイフの柄だけは絶対に離すことはできない。
「離せええええ! 離せええええええええええええ!」
フルファイアの指先が炎に変わった。何をしようとしているのかわからないが、無駄。
【生命力】とは人を作る源だ。体力、精神力、魔力。生命力が削られれば、それら全てが削られてしまう。
「くそ! 魔力と精神力が足りない! やめろキサマアアアアアアア!」
残った体力と魔力。全てを注ぎ込んでフルファイアは私を攻撃した。流石に痛い。だが、絶対に。
離さないぞ。
10さん、真っ赤な夕焼け。10さん、笑う横顔。10さん、焦げたけれどなんとかまだある再会のスカーフ。10さん、焼けた服の間から、名前隠し君が落ちて転がった。
フルファイアが、膝をついた。
片手ずつの炎なら、真正面からでも防げる、あるいは避けることができるはずだ!
「簡易挟み撃ちというわけか」
それでもフルファイアは冷静だった。その表情は間近で見たからわかった。私は【神速】を使っていた。トゥエルより数秒早く、フルファイアの元にたどり着いていたのだ。0秒で近付いたはずなのに、フルファイアは満面の笑みで私に『両手』を向けていた。【神速】の速さを予想された。だがギャンブルに違いないここで、迷いなく片方に賭けるこの男、フルファイア。寒気もない。神速後のクールタイム。うごけ
ドン。一瞬で私の視界は炎だけに。致死量の炎を浴びた。熱いを通り越して何も感じなかった。
炎を風でこじ開けてフルファイアに迫ったのはトゥエル。突き出した角はフルファイアの顔に届こうとしたところで止まった。
まるでその一瞬の生死を楽しんだかのように笑ったフルファイア。拮抗する炎と風。だが、私を気にする必要がなくなったフルファイアは、全力で炎をトゥエルにぶつけた。
「ヒ……」
トゥエルの鳴き声は途中で途切れた。黒焦げになったトゥエルが視界の端に映った。だが私も燃やされたのだ。為すすべもなくフルファイアに倒れこむことしかできない。
生命力が、0へと近付く。
「簡易挟み撃ちというわけか」
それでもフルファイアは冷静だった。その表情は間近で見たからわかった。私は【神速】を使っていた。トゥエルより数秒早く、フルファイアの元にたどり着いていたのだ。0秒で近付いたはずなのに、フルファイアは満面の笑みで私に『両手』を向けていた。【神速】の速さを予想された。だがギャンブルに違いないここで、迷いなく片方に賭けるこの男、フルファイア。寒気もない。神速後のクールタイム。うごけ
ドン。一瞬で私の視界は炎だけに。致死量の炎を浴びた。熱いを通り越して何も感じなかった。
炎を風でこじ開けてフルファイアに迫ったのはトゥエル。突き出した角はフルファイアの顔に届こうとしたところで止まった。
まるでその一瞬の生死を楽しんだかのように笑ったフルファイア。拮抗する炎と風。だが、私を気にする必要がなくなったフルファイアは、全力で炎をトゥエルにぶつけた。
「ヒ……」
トゥエルの鳴き声は途中で途切れた。黒焦げになったトゥエルが視界の端に映った。だが私も燃やされたのだ。為すすべもなくフルファイアに倒れこむことしかできない。
生命力が、0へと近付く。