この物語はフィクションです
2005年9月7日 時事ニュース「突然だけど、貴方には半分ミノタウロスの血が流れているの」
「そうなのか」
暑苦しい真夏の真昼に、風鈴の音を聞きながら、そうめんを食べていた俺に、母は何の脈絡もなく告げた。
『突然だけど、貴方には半分ミノタウロスの血が流れているの』
やはり暑いときはそうめんだ。のどを通るごとに冷ややかな……
……ちょっとまて。
「ちょっとまてぇえ!」
そうめんのつゆをテーブルに置いて勢いよく立ち上がる。
椅子が派手な音を立てて倒れたが、テーブルを挟んで俺の前に座っている母は平然としている。
「待て、って……何をよ」
俺は母の表情を崩したところを生まれてこの方見たことが無い。
そんな母だからとんでもない事を何事もないように告げる。
本当に、本当に、困る。
「色々だよ、色々! ちょっと待とうよ! え、なんて言ったの!?」
「貴方には半分ミノタウロスの血が流れているの」
「聞かなきゃ良かった!」
テーブルに拳を叩きつけ、うなだれる。
終わりだ……。
この母は、冗談や嘘というものを知らない。
真実、事実を無慈悲に叩きつけてくるのだ。
「ってなんなんだよソレ!?」
頭を抱えて悶える。
世界が回っているような気がする。
「ミノタウロス。ギリシャ神話に出てくる怪物。牛頭人身」
平然と答える母。
「へぇー、そうなんだー……って違う!」
微妙に噛み合わない会話に腹を立てる。
落ち着け、落ち着け、俺。
そうだ、いくらなんでも今回の事はおかしい。嘘だよ。ブラフだよ。
だって、なんで真夏の真昼にそうめん食ってる時にそんな本当だったらとんでもねぇ事を告げるんだよこの母は!!
「嘘だろう!」
嘘といってくれ。
「本当よ」
ガシャーン。
希望の砕け散る音を聞いた気がした。
「100%中100%本当よ」
もはや何も聞こえない。
ミノタウロスの血? 馬鹿な。
そんなのあり得ないに決まってる。
「未乃太(みのた)。世の中にあり得ないなんてあり得ないのよ」
「どっかで聞いたような台詞をいってるんじゃねーよ!
というか俺ってミノタって名前なんですか!?」
「そうよ」
ぐはーーーーーーーーーーー! ずどっと重いのがキました。
顎にパンチを貰った後に、ボディブローを叩き込まれた気分です。
ははは、世の中狂ってる。
「自分の名前を忘れるなんて駄目よ。
貴方の名前は私とお父さんの二人で、即座に決めたのよ」
「悩めよ少しは! あああああ!」
目が霞む。泣いているのか、俺は。
「ミノタ……血の涙は死ぬほど悲しい時に流しなさい」
「今だよ! まさに今だよ! ちっくしょう! 俺の名前をカタカナで呼ぶな!」
俺の血にミノタウロスの血が混ざってる?
嘘だ、嘘に決まってる。
そうだ、嘘じゃないなら夢だ。覚めやがれ! いちはやく覚めやがれ!
「嘘じゃないわ。夢じゃないわ」
「息子の希望を的確に打ち砕くなよ!」
相変わらず無表情で俺の様子を見ている母。
しかもいつのまにか醤油せんべえを取り出している。
そして俺に言った。
「お茶」
……あまりのふてぶてしさに、熱が急速に冷めていくのを感じた。
今なら冷静に完全犯罪を成し遂げる事ができそうだ。
「緑茶ね」
錯乱気味の息子にお茶を頼み、さらに種類を絞り込むその行為。
これが本当に母親のすることなのだろうか。
ふぅ、まあいい。今、俺はやっと冷静さを取り戻したのだ。
冷蔵庫を開け、緑茶のペットボトルを取り出す。
コップに注ぎ、母の前に置く。
そして……聞く。
「俺にはミノタウロスの血が流れている?」
「そうよ」
……! 耐えた。
俺はこの個性的な母の所為で、中々頑丈なハートを待っている。
このくらい、どうってことはあるが、耐えられないことはない。
「すると俺の血は半分、牛だということか?」
「いいえ。ミノタウロスはミノタウロスよ。牛じゃないわ」
なるほどな……。
俺は微笑を漏らす余裕さえ出てきた。
「どうして俺にそんな血が?」
「さあ? 知らない」
殺意が湧いた。
「そうなのか」
暑苦しい真夏の真昼に、風鈴の音を聞きながら、そうめんを食べていた俺に、母は何の脈絡もなく告げた。
『突然だけど、貴方には半分ミノタウロスの血が流れているの』
やはり暑いときはそうめんだ。のどを通るごとに冷ややかな……
……ちょっとまて。
「ちょっとまてぇえ!」
そうめんのつゆをテーブルに置いて勢いよく立ち上がる。
椅子が派手な音を立てて倒れたが、テーブルを挟んで俺の前に座っている母は平然としている。
「待て、って……何をよ」
俺は母の表情を崩したところを生まれてこの方見たことが無い。
そんな母だからとんでもない事を何事もないように告げる。
本当に、本当に、困る。
「色々だよ、色々! ちょっと待とうよ! え、なんて言ったの!?」
「貴方には半分ミノタウロスの血が流れているの」
「聞かなきゃ良かった!」
テーブルに拳を叩きつけ、うなだれる。
終わりだ……。
この母は、冗談や嘘というものを知らない。
真実、事実を無慈悲に叩きつけてくるのだ。
「ってなんなんだよソレ!?」
頭を抱えて悶える。
世界が回っているような気がする。
「ミノタウロス。ギリシャ神話に出てくる怪物。牛頭人身」
平然と答える母。
「へぇー、そうなんだー……って違う!」
微妙に噛み合わない会話に腹を立てる。
落ち着け、落ち着け、俺。
そうだ、いくらなんでも今回の事はおかしい。嘘だよ。ブラフだよ。
だって、なんで真夏の真昼にそうめん食ってる時にそんな本当だったらとんでもねぇ事を告げるんだよこの母は!!
「嘘だろう!」
嘘といってくれ。
「本当よ」
ガシャーン。
希望の砕け散る音を聞いた気がした。
「100%中100%本当よ」
もはや何も聞こえない。
ミノタウロスの血? 馬鹿な。
そんなのあり得ないに決まってる。
「未乃太(みのた)。世の中にあり得ないなんてあり得ないのよ」
「どっかで聞いたような台詞をいってるんじゃねーよ!
というか俺ってミノタって名前なんですか!?」
「そうよ」
ぐはーーーーーーーーーーー! ずどっと重いのがキました。
顎にパンチを貰った後に、ボディブローを叩き込まれた気分です。
ははは、世の中狂ってる。
「自分の名前を忘れるなんて駄目よ。
貴方の名前は私とお父さんの二人で、即座に決めたのよ」
「悩めよ少しは! あああああ!」
目が霞む。泣いているのか、俺は。
「ミノタ……血の涙は死ぬほど悲しい時に流しなさい」
「今だよ! まさに今だよ! ちっくしょう! 俺の名前をカタカナで呼ぶな!」
俺の血にミノタウロスの血が混ざってる?
嘘だ、嘘に決まってる。
そうだ、嘘じゃないなら夢だ。覚めやがれ! いちはやく覚めやがれ!
「嘘じゃないわ。夢じゃないわ」
「息子の希望を的確に打ち砕くなよ!」
相変わらず無表情で俺の様子を見ている母。
しかもいつのまにか醤油せんべえを取り出している。
そして俺に言った。
「お茶」
……あまりのふてぶてしさに、熱が急速に冷めていくのを感じた。
今なら冷静に完全犯罪を成し遂げる事ができそうだ。
「緑茶ね」
錯乱気味の息子にお茶を頼み、さらに種類を絞り込むその行為。
これが本当に母親のすることなのだろうか。
ふぅ、まあいい。今、俺はやっと冷静さを取り戻したのだ。
冷蔵庫を開け、緑茶のペットボトルを取り出す。
コップに注ぎ、母の前に置く。
そして……聞く。
「俺にはミノタウロスの血が流れている?」
「そうよ」
……! 耐えた。
俺はこの個性的な母の所為で、中々頑丈なハートを待っている。
このくらい、どうってことはあるが、耐えられないことはない。
「すると俺の血は半分、牛だということか?」
「いいえ。ミノタウロスはミノタウロスよ。牛じゃないわ」
なるほどな……。
俺は微笑を漏らす余裕さえ出てきた。
「どうして俺にそんな血が?」
「さあ? 知らない」
殺意が湧いた。