珍しいことは続くものだ。
この前数ヶ月ぶりに人間に遭ったと思ったら、今度は3日ほどの間でまた人間と遭遇した。
瓦礫となった家は健在していた頃ならば豪邸と言えただろう。
元豪邸の広い庭の真中に、ぽつんと、丸テーブルが置かれていた。
テーブルを挟むように小さな椅子も二つ置かれていた。
テーブル、椅子の装飾は色褪せてはいるがこの灰色の世界では輝いてみえた。
赤色の空が段々と濃くなってくる。
瓦礫の山から老人が現れて、ふらふらとテーブルに向かって歩いていった。
お世辞にも健康そうだとは言えない。
率直に言うと今にも寿命が尽きそうな老人。
しかしその表情は全てを受け入れるかのような柔らかで、爽やかで、やさしいものだった。
老人は片方の椅子に座ると、僕に気付く様子もなくその表情をさらに色々変えた。
「ああ、桜の花が綺麗だよ、今度一緒に見に行こう」
「そうだな、孫に会いたいな。大きくなったろうに」
当然、もう片方の椅子には誰も座っていないのだが、あたかも誰かと会話をしているかのように、ひとりごと。
僕は見つからないように老人の後ろに近付くと、食物と水を少し置いてその場を立ち去った。
「おばあさん、今日も空は青く晴れ渡っているよ。綺麗だねえ」
そう言って空を仰ぐ老人の眼には、確かに青い空が映っていた。
この前数ヶ月ぶりに人間に遭ったと思ったら、今度は3日ほどの間でまた人間と遭遇した。
瓦礫となった家は健在していた頃ならば豪邸と言えただろう。
元豪邸の広い庭の真中に、ぽつんと、丸テーブルが置かれていた。
テーブルを挟むように小さな椅子も二つ置かれていた。
テーブル、椅子の装飾は色褪せてはいるがこの灰色の世界では輝いてみえた。
赤色の空が段々と濃くなってくる。
瓦礫の山から老人が現れて、ふらふらとテーブルに向かって歩いていった。
お世辞にも健康そうだとは言えない。
率直に言うと今にも寿命が尽きそうな老人。
しかしその表情は全てを受け入れるかのような柔らかで、爽やかで、やさしいものだった。
老人は片方の椅子に座ると、僕に気付く様子もなくその表情をさらに色々変えた。
「ああ、桜の花が綺麗だよ、今度一緒に見に行こう」
「そうだな、孫に会いたいな。大きくなったろうに」
当然、もう片方の椅子には誰も座っていないのだが、あたかも誰かと会話をしているかのように、ひとりごと。
僕は見つからないように老人の後ろに近付くと、食物と水を少し置いてその場を立ち去った。
「おばあさん、今日も空は青く晴れ渡っているよ。綺麗だねえ」
そう言って空を仰ぐ老人の眼には、確かに青い空が映っていた。
1、暁 【あかつき】
2006年4月4日 100題世界が滅びかけて2ヶ月ほど。
僕が死にかけて数日ほど。
白と黒と灰色の、色褪せた世界は相変わらず。
赤色の空だけが鮮明な、
血と瓦礫の世界を僕は行く。
本当によく助かったものだ。
まだ滅びる前の世界の医療技術が残っていたとは。
左腕は肩の筋肉の動きを感知して動く旧式の義手
喉は半分潰されている
全身に生傷は絶えず
しかし右腕だけは絶対無傷。
ポチは村に置いてきた。
古藤さんは少し迷いながらも、ポチを預かってくれた。
本当にいいの? と聞かれたが、
本当にいいんです と答えた。
ポチの足音と息遣いがすぐ後ろで聞こえたような気がした。
けど僕は村の方を振り返らぬよう、東の空を見つめていた。
すこしずつ赤が濃くなる暁の空を見つめていた。
僕が死にかけて数日ほど。
白と黒と灰色の、色褪せた世界は相変わらず。
赤色の空だけが鮮明な、
血と瓦礫の世界を僕は行く。
本当によく助かったものだ。
まだ滅びる前の世界の医療技術が残っていたとは。
左腕は肩の筋肉の動きを感知して動く旧式の義手
喉は半分潰されている
全身に生傷は絶えず
しかし右腕だけは絶対無傷。
ポチは村に置いてきた。
古藤さんは少し迷いながらも、ポチを預かってくれた。
本当にいいの? と聞かれたが、
本当にいいんです と答えた。
ポチの足音と息遣いがすぐ後ろで聞こえたような気がした。
けど僕は村の方を振り返らぬよう、東の空を見つめていた。
すこしずつ赤が濃くなる暁の空を見つめていた。