81、足下 【あしもと】
2006年6月24日 100題・古藤枝理
遠い空には暗雲が立ち込めていた。
村の皆の顔も、曇っている。
「エリ、家に入りなさい」
村長が私を呼んだ。
でも私は、暗雲から眼を逸らすことができない。
――少し前に、
白い閃光を見た気がした。
村を助けるために影と闘い、左腕を失くした少年。
まだあどけなさを残していた、少年。
一瞬、脳裏を、過ぎた。
「……気のせいよね」
視線を落とし、足元にいたポチを撫でる。
……ポチはシラセが村を出てから、少し大きくなっていた。
「家に入るわよ、ポチ」
原始的な、木で出来た家。それでも人は、家があると安心できる。
「……どうしたの?」
ポチは暗雲の方向を見つめ、地面に座ったまま微動だにしない。
私は傍にしゃがみ、ポチの瞳を覗く。
真っ黒な瞳には、朝焼けの赤い空と、生きているように動く不吉な暗雲が映っていた。
遠い空には暗雲が立ち込めていた。
村の皆の顔も、曇っている。
「エリ、家に入りなさい」
村長が私を呼んだ。
でも私は、暗雲から眼を逸らすことができない。
――少し前に、
白い閃光を見た気がした。
村を助けるために影と闘い、左腕を失くした少年。
まだあどけなさを残していた、少年。
一瞬、脳裏を、過ぎた。
「……気のせいよね」
視線を落とし、足元にいたポチを撫でる。
……ポチはシラセが村を出てから、少し大きくなっていた。
「家に入るわよ、ポチ」
原始的な、木で出来た家。それでも人は、家があると安心できる。
「……どうしたの?」
ポチは暗雲の方向を見つめ、地面に座ったまま微動だにしない。
私は傍にしゃがみ、ポチの瞳を覗く。
真っ黒な瞳には、朝焼けの赤い空と、生きているように動く不吉な暗雲が映っていた。
80、雑草 【ざっそう】
2006年6月23日 100題 ・山川海
明るくなってきた空。
少しずつ闇は晴れていく。
ヒビ割れたアスファルトの道路。
その隙間からは雑草が顔を出していた。
――まだ、この世界にはイノチがあるよ。
そんな小さな声が、聞こえた気がした。
大きなクレーターの傍に倒れているキバ兄さんを発見した。
すぐに駆け寄って様子を見る。気絶しているだけのようだ。
クレーターの中心には――何もなかった。
明るくなってきた空。
少しずつ闇は晴れていく。
ヒビ割れたアスファルトの道路。
その隙間からは雑草が顔を出していた。
――まだ、この世界にはイノチがあるよ。
そんな小さな声が、聞こえた気がした。
大きなクレーターの傍に倒れているキバ兄さんを発見した。
すぐに駆け寄って様子を見る。気絶しているだけのようだ。
クレーターの中心には――何もなかった。
79、反旗を翻す 【はんきをひるがえす】
2006年6月22日 100題 終わりの音を、奏でよう。
・レクイエムだ!
ヨウが両手を掲げた。
同時に暁の空を黒い影が蔽った。
何千、何万、何十万。
世界中の影、呪い、悪、憎しみ、悲しみ、叫びが集まる。
本来理性を持たない影達の上に、君臨する『黒の王』。
――クロベヨウは良家の生まれだった。
欲しいと思ったものはすぐに手に入れることができた。
両親は優しかった。苦労と達成をバランスよく体験した。
なにも不自由はなかった。これ以上ない、幸福。
それを実感できていた。
自分の有り余った幸福は他人に分けるべきだと思ったころもあった。
しかし、ヨウはその後長い間(いつからだったかは忘れた)、暗く狭く黒い部屋に閉じ込められることになる。
誰も気付いてくれない。自分が誰なのか分からない。世界が何なのか分からない。
「死」と同じようなことを味わうことになった。
その暗い部屋に、カーテンの隙間から射すような光が床と壁に白い線を作った。
それが、シラセだ。
その隙間を、全開にしてくれたのは……
カミギコウキさんだった。
――解き放たれた僕が見た世界。
ああ、なんて素晴らしい、この世界よ。
だからこそ、壊し甲斐があるというもの。
空を埋め尽くす黒い影。
薄赤い空は完全に消えた。
夜が地球の上を移動していた。
今、ヨウは世界に反旗を翻した。
・レクイエムだ!
ヨウが両手を掲げた。
同時に暁の空を黒い影が蔽った。
何千、何万、何十万。
世界中の影、呪い、悪、憎しみ、悲しみ、叫びが集まる。
本来理性を持たない影達の上に、君臨する『黒の王』。
――クロベヨウは良家の生まれだった。
欲しいと思ったものはすぐに手に入れることができた。
両親は優しかった。苦労と達成をバランスよく体験した。
なにも不自由はなかった。これ以上ない、幸福。
それを実感できていた。
自分の有り余った幸福は他人に分けるべきだと思ったころもあった。
しかし、ヨウはその後長い間(いつからだったかは忘れた)、暗く狭く黒い部屋に閉じ込められることになる。
誰も気付いてくれない。自分が誰なのか分からない。世界が何なのか分からない。
「死」と同じようなことを味わうことになった。
その暗い部屋に、カーテンの隙間から射すような光が床と壁に白い線を作った。
それが、シラセだ。
その隙間を、全開にしてくれたのは……
カミギコウキさんだった。
――解き放たれた僕が見た世界。
ああ、なんて素晴らしい、この世界よ。
だからこそ、壊し甲斐があるというもの。
空を埋め尽くす黒い影。
薄赤い空は完全に消えた。
夜が地球の上を移動していた。
今、ヨウは世界に反旗を翻した。
78、イメージダウン 【いめーじだうん】
2006年6月21日 100題・黒部洋
イメージダウンはない。
それが世界の色なのだから。
真っ白なんて、この世界とは不釣合いすぎたのだから。
――でも、少し残念ではある。
シラセだけは、世界がどれだけ変わろうとも、変わらない。
そんな、子供がテレビの中のヒーローに抱くような幻想を、オレはシラセに抱いていた。
――何故なんだろう。
イメージダウンはない。
それが世界の色なのだから。
真っ白なんて、この世界とは不釣合いすぎたのだから。
――でも、少し残念ではある。
シラセだけは、世界がどれだけ変わろうとも、変わらない。
そんな、子供がテレビの中のヒーローに抱くような幻想を、オレはシラセに抱いていた。
――何故なんだろう。
77、ストレス 【すとれす】
2006年6月20日 100題 コメント (2)・シラセエイスケ
ソウは黒い霧になって消えた。
本人にも正体の解らないストレスは解消された。
思考がクリアになり、自分の行動や感情に今更ながら驚くのはシラセである。
――あからさまな憎しみの感情。
それは無理もなかった。
世界は今や黒い影が満ちている。
世界の色は「黒」なのである。
その世界の力を、大量に自分を通して使えば、世界の色に染まってしまうのは道理。
世界の意志に、個人の意志が敵うはずがないのだ。
世界の色に、個人の色は塗りつぶされるのみなのだ。
様々な場所で起こった人間、動物、植物、全ての物体の悲劇と死。
――それは放つ。「黒」を。
憎しみの色で満ちている世界。
死、抑圧、絶望、罪悪、負け、恐怖。
黒い影にハラワタをとられ、ゆっくり死んでいく人間の絶望。
子供を目の前で殺された母親の悲しみ。
子供を殺した人間を殺す母親の憎しみ。
繰り返される破壊と抑圧。罪と罰。
不実の罪で死ぬ青年。
助けた少年に殺される老人。
一歩動けば死ぬ恐怖。生きたまま焼かれるモノたち。
苦痛と悲痛。呪いの言葉は尽きることがなく、喉が潰れても眼は訴える。眼が潰れても、訴える。死んだとしても、訴える。
――憎い。
暗闇に血走った瞳が浮かび上がる。
何故、自分だけ。
何故、お前だけ。
憎しみと嫉妬、戦争と平和。生きるための本能と理性。
弱肉強食、因果応報、自業自得。
全ては絡み合うが、今のこの世界では、やがて一つに集約される。
――憎い。
暗闇の中に、乾いた血のような色で浮かび上がる。
――憎い。
それはこの世全ての悪と憎しみと呪い。
言葉ではない、魂に直接届くもの。
暗闇に浮かび上がった顔。
――憎い。
顔、顔、顔、顔。
シラセは頭を抱えてその場に座り込む。
暗闇にずらりとならんだ顔が絶叫をあげると同時に
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
ソウは黒い霧になって消えた。
本人にも正体の解らないストレスは解消された。
思考がクリアになり、自分の行動や感情に今更ながら驚くのはシラセである。
――あからさまな憎しみの感情。
それは無理もなかった。
世界は今や黒い影が満ちている。
世界の色は「黒」なのである。
その世界の力を、大量に自分を通して使えば、世界の色に染まってしまうのは道理。
世界の意志に、個人の意志が敵うはずがないのだ。
世界の色に、個人の色は塗りつぶされるのみなのだ。
様々な場所で起こった人間、動物、植物、全ての物体の悲劇と死。
――それは放つ。「黒」を。
憎しみの色で満ちている世界。
死、抑圧、絶望、罪悪、負け、恐怖。
黒い影にハラワタをとられ、ゆっくり死んでいく人間の絶望。
子供を目の前で殺された母親の悲しみ。
子供を殺した人間を殺す母親の憎しみ。
繰り返される破壊と抑圧。罪と罰。
不実の罪で死ぬ青年。
助けた少年に殺される老人。
一歩動けば死ぬ恐怖。生きたまま焼かれるモノたち。
苦痛と悲痛。呪いの言葉は尽きることがなく、喉が潰れても眼は訴える。眼が潰れても、訴える。死んだとしても、訴える。
――憎い。
暗闇に血走った瞳が浮かび上がる。
何故、自分だけ。
何故、お前だけ。
憎しみと嫉妬、戦争と平和。生きるための本能と理性。
弱肉強食、因果応報、自業自得。
全ては絡み合うが、今のこの世界では、やがて一つに集約される。
――憎い。
暗闇の中に、乾いた血のような色で浮かび上がる。
――憎い。
それはこの世全ての悪と憎しみと呪い。
言葉ではない、魂に直接届くもの。
暗闇に浮かび上がった顔。
――憎い。
顔、顔、顔、顔。
シラセは頭を抱えてその場に座り込む。
暗闇にずらりとならんだ顔が絶叫をあげると同時に
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
76、再生 【さいせい】
2006年6月19日 100題 ――終わりと始まりは同じである。
ソウはその時代には珍しい農家で生まれた。
その時代では逆に珍しいほど貧しかった。
両親は幼い頃に死んだ。
兄弟が沢山居たので、ソウはよく働いた。
ある冬に兄弟の一人が病気になった。
ソウは急いで医者に助けを求めた。
兄弟は重い病気だった。
兄弟を助けるのには大量の代償――お金が必要となった。
人はそんな貧しく不幸で健気な少年に同情を与えた。
募金。ボランティア。資産家からの寄付。
どういう形であれ、それは貧しい少年が一生かかっても得られない程の大量の代償に変わり、兄弟の一人の命を助けた。
不特定多数、多くの顔もわからない人々に、兄弟の一人が救われた。
――そんな事実。
誠実だったソウは、その事実を忘れなかった。
それが、元は白髪の初老の男性。
人々を平等に助けるために、自分の命をかけた。
無償を目指した。
ように見えた、男の在りかただった。
様々な苦労や苦痛、苦悩は彼に深い皺と傷を刻んだ。
何かが落ちていった時、髪からも黒い色が落ちていった。
だが、ソウは最期まで貫いた。
貫いた先でソウが見たものは、
――ソウの感じた世界とは逆の世界だった。
その時、ソウはソウではなくなった。
別のものとして再生した。
-----------------------------------
質量操作。
本来ならキバの能力であるこれは、理解者になったシラセが使うことにより、さらに凶悪さを増した。
物質、原子レベルでの質量操作。
物質、原子の質量の格差を利用して、ある物体を、細かく、引きちぎるのだ。そういうことにしておく。
シラセの褐色のオーラがソウに触れた。触れた部分が、さらさらと黒い霧になって大気に消えた。
ソウの全てを、一撫でで、シラセは消した。
その存在を、思考を、魂を、
――消した。
ソウはその時代には珍しい農家で生まれた。
その時代では逆に珍しいほど貧しかった。
両親は幼い頃に死んだ。
兄弟が沢山居たので、ソウはよく働いた。
ある冬に兄弟の一人が病気になった。
ソウは急いで医者に助けを求めた。
兄弟は重い病気だった。
兄弟を助けるのには大量の代償――お金が必要となった。
人はそんな貧しく不幸で健気な少年に同情を与えた。
募金。ボランティア。資産家からの寄付。
どういう形であれ、それは貧しい少年が一生かかっても得られない程の大量の代償に変わり、兄弟の一人の命を助けた。
不特定多数、多くの顔もわからない人々に、兄弟の一人が救われた。
――そんな事実。
誠実だったソウは、その事実を忘れなかった。
それが、元は白髪の初老の男性。
人々を平等に助けるために、自分の命をかけた。
無償を目指した。
ように見えた、男の在りかただった。
様々な苦労や苦痛、苦悩は彼に深い皺と傷を刻んだ。
何かが落ちていった時、髪からも黒い色が落ちていった。
だが、ソウは最期まで貫いた。
貫いた先でソウが見たものは、
――ソウの感じた世界とは逆の世界だった。
その時、ソウはソウではなくなった。
別のものとして再生した。
-----------------------------------
質量操作。
本来ならキバの能力であるこれは、理解者になったシラセが使うことにより、さらに凶悪さを増した。
物質、原子レベルでの質量操作。
物質、原子の質量の格差を利用して、ある物体を、細かく、引きちぎるのだ。そういうことにしておく。
シラセの褐色のオーラがソウに触れた。触れた部分が、さらさらと黒い霧になって大気に消えた。
ソウの全てを、一撫でで、シラセは消した。
その存在を、思考を、魂を、
――消した。
75、迷い 【まよい】 6/18分
2006年6月15日 100題・シラセエイスケ
今の僕は、思いと行動が同意だ。
確かに殺そうとした、が、少し「迷い」があったらしい。
僕は横から薙ぐようにして、知らない誰か(キバさん)をクレーターの外まで殴り飛ばしていた。
……それだけだった。殺してはいなかった。
――だが、自分の能力を理解することはできた。
砂嵐
――憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
なるほど、な。
砂嵐
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
妙に、納得した。
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
力と憎しみが僕の中に満ちている。
良い気分だ。
そして、
褐色のオーラが僕を包んだ。
――後は、一瞬である。
今の僕は、思いと行動が同意だ。
確かに殺そうとした、が、少し「迷い」があったらしい。
僕は横から薙ぐようにして、知らない誰か
……それだけだった。殺してはいなかった。
――だが、自分の能力を理解することはできた。
砂嵐
――憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
なるほど、な。
砂嵐
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
妙に、納得した。
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
力と憎しみが僕の中に満ちている。
良い気分だ。
そして、
褐色のオーラが僕を包んだ。
――後は、一瞬である。
74、雨は降っているか? 【あめはふっているか?】 6/17分
2006年6月15日 100題・シラセエイスケ
増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増
――もう飽きたぞ
増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増
――雨は降っているか
増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増
――血の雨を降らせてやる
増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増
にやりと、これでもかと、どうしようもなく、笑い顔になってしまう。
既に頭の7割は再生した。各部損傷も外見は補修した。
都合のいい事に、敵は誰かに抑えられている。
――笑い顔が、直らない。
嬉しい、楽しい、すばらしい、解放、真理、自由。
非常に気分が、良い。
僕は無意識のうちに、憎しみで満ちている世界の力を拒絶していた。
こんなに素晴らしいものだとは、気付かなかったからだ。
今の僕の移動は、思いと同意だ。
そこに移動したい、と思った瞬間にはそこに移動している。
クレーターの中心には、知らない誰か(キバさん)と敵がいる。
砂嵐
知らない誰か(キバさん)、邪魔だ。
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
――殺すか。
僕は知らない誰か(キバさん)の後ろに立ち、無慈悲に、無造作に、手という凶器を振り上げた。
増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増
――もう飽きたぞ
増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増
――雨は降っているか
増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増
――血の雨を降らせてやる
増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増増
にやりと、これでもかと、どうしようもなく、笑い顔になってしまう。
既に頭の7割は再生した。各部損傷も外見は補修した。
都合のいい事に、敵は誰かに抑えられている。
――笑い顔が、直らない。
嬉しい、楽しい、すばらしい、解放、真理、自由。
非常に気分が、良い。
僕は無意識のうちに、憎しみで満ちている世界の力を拒絶していた。
こんなに素晴らしいものだとは、気付かなかったからだ。
今の僕の移動は、思いと同意だ。
そこに移動したい、と思った瞬間にはそこに移動している。
クレーターの中心には、知らない誰か
砂嵐
知らない誰か
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
――殺すか。
僕は知らない誰か
73、最後 【さいご】 6/16分
2006年6月15日 100題 ――死力 意味:命を捨ててもよい、という覚悟で出す力。必死の力。
・真回宗 最後
私を殺そうとしている敵は、死力を尽くしているのだろう。
だが、生きている人間の死力など、死んでいる人間の死力に敵う筈がない。
イノチを捨てても良い覚悟など、私はとうの昔にできていて、とうの昔に証明しているのだから。
頭のカタチは既に潰れていたが、どうということもない。
抑えられていない右腕で敵の胸を貫けば、終わりである。
――そこで私は自分の愚かさを知った。
頭、五感をほとんど潰された私は、それを第六感で感じた。
――時を与えすぎたか。
敵(キバ)の攻撃はふとなくなったが、
私は自身の敗北を知る。
そこに敗北感はなく、
解放感だけがあった。
――いつから私は、何かを成し遂げるために、命を捨てる覚悟を、なくしてしまったのだろう。
それがソウの最後の思考となった。
・真回宗 最後
私を殺そうとしている敵は、死力を尽くしているのだろう。
だが、生きている人間の死力など、死んでいる人間の死力に敵う筈がない。
イノチを捨てても良い覚悟など、私はとうの昔にできていて、とうの昔に証明しているのだから。
頭のカタチは既に潰れていたが、どうということもない。
抑えられていない右腕で敵の胸を貫けば、終わりである。
――そこで私は自分の愚かさを知った。
頭、五感をほとんど潰された私は、それを第六感で感じた。
――時を与えすぎたか。
敵(キバ)の攻撃はふとなくなったが、
私は自身の敗北を知る。
そこに敗北感はなく、
解放感だけがあった。
――いつから私は、何かを成し遂げるために、命を捨てる覚悟を、なくしてしまったのだろう。
それがソウの最後の思考となった。
72、崩壊 【ほうかい】
2006年6月15日 100題『長かった戦いは終わり、【崩壊】に近づく』
・真回宗
違和感は拭いきれない。
しかし、問題はない。
少し、躊躇してしまったが。
シラセを破壊す――
視界、消失。
頭部、衝撃。
-----------------------------------------
・灰牙 (忘れていませんか、褐色の人です)
「ソウーーーーーーーーッ!」
ソウの頭を鷲掴み、コンクリートに叩きつける。
ズドン、とクレーターができる。全エネルギーを色のチカラの発現に注ぎ込む。
ぐにゃり、とソウの顔が歪む。同時に、優しかったころのソウさんの顔になる。
幻覚だ。
ズドン、と圧縮された地面を、ソウの頭ごと、さらに圧縮する。クレーターは倍近くの大きさになる。
ズキン
頭痛と骨や内臓の損傷は、褐色のオーラが強くなるのに比例して大きくなる。カイの治癒は気休めにすぎなかった。ばっと赤い液体が口から出て、自分の手にかかる。
ズキン
構うものか。
――何時か、 カイのために右腕右足と腹の内臓のほとんどを失い、口から血を吐き出し、床に横たわっていたソウさん――
ズキン
構うものか。
――何時か、 それでも、そっと微笑み、息絶えたソウさん――
ズキン
構うものか。
――何時か、 蘇り、『全て解った』と言った後、突然姿を消したソウさん――
ズキン
構うものか。
――何時か、 黒く染まってしまったソウさん――
ズキン
痛みが走るたびに、自分のココロも崩壊していくのが解った。
――構うものか!
・真回宗
違和感は拭いきれない。
しかし、問題はない。
少し、躊躇してしまったが。
シラセを破壊す――
視界、消失。
頭部、衝撃。
-----------------------------------------
・灰牙 (忘れていませんか、褐色の人です)
「ソウーーーーーーーーッ!」
ソウの頭を鷲掴み、コンクリートに叩きつける。
ズドン、とクレーターができる。全エネルギーを色のチカラの発現に注ぎ込む。
ぐにゃり、とソウの顔が歪む。同時に、優しかったころのソウさんの顔になる。
幻覚だ。
ズドン、と圧縮された地面を、ソウの頭ごと、さらに圧縮する。クレーターは倍近くの大きさになる。
ズキン
頭痛と骨や内臓の損傷は、褐色のオーラが強くなるのに比例して大きくなる。カイの治癒は気休めにすぎなかった。ばっと赤い液体が口から出て、自分の手にかかる。
ズキン
構うものか。
――何時か、 カイのために右腕右足と腹の内臓のほとんどを失い、口から血を吐き出し、床に横たわっていたソウさん――
ズキン
構うものか。
――何時か、 それでも、そっと微笑み、息絶えたソウさん――
ズキン
構うものか。
――何時か、 蘇り、『全て解った』と言った後、突然姿を消したソウさん――
ズキン
構うものか。
――何時か、 黒く染まってしまったソウさん――
ズキン
痛みが走るたびに、自分のココロも崩壊していくのが解った。
――構うものか!
71、積み上げる 【つみあげる】
2006年6月14日 100題・高橋冴
――え?
私は今、飛び出した、はずだ。
しかし、私は、何故か、立っていただけだった。
――何も、なかった。
何もなかったはずなのに、違和感。
私の左腕は、誰かに掴まれていた。
私は――その――誰か――を
「――バカ――」
何故か、罵倒したくなった。
――幸せそうに微笑みながら、誰か(弟)は目を閉じていた。倒れながらも、誰か(弟)の右手は、私の左腕を、しっかりと掴んでいた。誰か(弟)は、本当に、眠るように、穏やかに、――でいる(?)。
「闘」わなければ、という炎の意志は、冷たく、鋭い不安に消されそうだった。
「おい、どうした? 死んだふりか?」
誰か(弟)を揺する。
「――いつもの、憎まれ口はどうした?」
誰か(弟)を揺する。
今度は、強く、揺する。
誰か(弟)の声は、聞こえない。
「お前は、死んでも死なないだろ」
そうだ、死なんてありえない。
強く、強く揺する。信じたくナイ。信ジラレナイ。
誰か(弟)の眼は、開かない。
「そうだろ、お前は殺しても、死なないよな」
私は誰か(弟)の顔を直に見れなくなる。
誰か(弟)の顔は、あまりにも穏やかで。
「私が、鍛えてやったじゃないか」
絞るように、言葉を出す。
誰か(弟)に向けた言葉。
それは誰にも届かず、空気に溶けていく。
「答えろ! シュウ!」
――そんなに強く揺すらないでくれ……姉と一緒にしないでくれ……俺はひ弱なんだ――
遠くで、誰かが、言った。(ように聞こえた、幻聴だ)
「どうして――」
しばらく忘れていた、胸が詰まるような感覚。
胸から眼へあがっていく「水」を止めるすべはなく。
――また、誰かが、言った――
――鬼の目にも、涙……だな。――
幻聴だ。ああ、でも、幻聴でも、幻想でも、良かった。
白い背景が頭一杯に広がった。そこにシュウの笑顔が浮かび、すぐにマッチの火のように儚く消えた。
積み上げてきたものは、一瞬で消えた。
まだ私を離さないシュウの右手は、段々冷たくなっていく。
――え?
私は今、飛び出した、はずだ。
しかし、私は、何故か、立っていただけだった。
――何も、なかった。
何もなかったはずなのに、違和感。
私の左腕は、誰かに掴まれていた。
私は――その――誰か――を
「――バカ――」
何故か、罵倒したくなった。
――幸せそうに微笑みながら、誰か
「闘」わなければ、という炎の意志は、冷たく、鋭い不安に消されそうだった。
「おい、どうした? 死んだふりか?」
誰か
「――いつもの、憎まれ口はどうした?」
誰か
今度は、強く、揺する。
誰か
「お前は、死んでも死なないだろ」
そうだ、
強く、強く揺する。信じたくナイ。信ジラレナイ。
誰か
「そうだろ、お前は殺しても、死なないよな」
私は誰か
誰か
「私が、鍛えてやったじゃないか」
絞るように、言葉を出す。
誰か
それは誰にも届かず、空気に溶けていく。
「答えろ! シュウ!」
――そんなに強く揺すらないでくれ……姉と一緒にしないでくれ……俺はひ弱なんだ――
遠くで、誰かが、言った。(ように聞こえた、幻聴だ)
「どうして――」
しばらく忘れていた、胸が詰まるような感覚。
胸から眼へあがっていく「水」を止めるすべはなく。
――また、誰かが、言った――
――鬼の目にも、涙……だな。――
幻聴だ。ああ、でも、幻聴でも、幻想でも、良かった。
白い背景が頭一杯に広がった。そこにシュウの笑顔が浮かび、すぐにマッチの火のように儚く消えた。
積み上げてきたものは、一瞬で消えた。
まだ私を離さないシュウの右手は、段々冷たくなっていく。
70、コーヒー 【こーひー】
2006年6月13日 100題・特別編
澄んだ青空は雲を浮かべて嬉しそうにしている。容赦なくコンクリートを焼く太陽。光の異常屈折によってぐにゃぐにゃ曲がる景色。そんな現象によって、傍からも道路が高温を保っていることがわかった。
だけどそれは、喫茶店という冷気を封じ込めることが可能な超テクノロジーの箱に入っている僕達には関係がなかった。
「シラセ、僕の頼んだ商品が来たようだ」
四人ほど座れるテーブル席。僕とヨウは向かい合うようにして座っていた。ヨウが興味深そうに眺めているソレは、背の高いグラスに層構造。無駄なくせに無駄のない豪勢な盛り付け。イコール。
「スペシャル・チョコ・パフェ。高層マンションを連想させる抹茶とメロンの多重層。神を超えたトッピング。そして店側がしかけた様々な罠《トラップ》。まさに夢が詰まった一品」
――僕の大好物である。だからこそ僕はこれをヨウに勧めた。
「なるほど確かに、この触れただけでも全てが崩れ去りそうなバランスは……堪らないな、シラセ」
ヨウはごくり、と喉を鳴らし、頬を伝う冷や汗を拭った。
――今回だけ、フィクションの中のフィクションです。
70、コーヒー 【こーひー】
コーヒー-ブレーク [coffee break]<
コーヒーを飲む小休憩時間。
---------------------------------------
――戦闘結果報告。広範囲に甘い物体が散乱。みっともないので無料兵器「おしぼり」等で応戦するが、服についた緑の物体は手ごわく、戦略的撤退を余儀なくされた。
肝心のパフェ残量は、三分の二程度。既にヨウは戦闘不能。テーブルに突っ伏している。コーヒーを飲みながらそれを眺める僕。ヨウは一言。
「こりゃ、ムリだ」
だろうね。
「抹茶、メロン、抹茶、メロン、までは良かった。その後、抹茶、コーラ、キリンレモン、リポビタンDと続くのは何故なんだ。なんでここで炭酸? しかもコーラとレモン、コメントしにくいぞ。栄養ドリンクは完全にコメントできない。酸っぱくて苦くて甘くて痺れて、どうしようもなかった」
そのサプライズがスペシャル・チョコ・パフェの売りである。
「そして驚くべきことにチョコが入ってないよな、これ。完全に裏をかかれた」
悔しそうにヨウは呟く。以前、僕がこのパフェに挑戦したときは、全て食い終わるまでそのことに気付かなかった。それどころじゃなかった。
「ふむ、チョコがないことに気付くとは――。中々の洞察力だな」
素直に感心した。
「うん、まぁ、でも、なんか、いいや」
カラン、とスプーンがヨウの手から落ちた。それは彼の完全な敗北を意味した。
そう――罰金5000円だ。
澄んだ青空は雲を浮かべて嬉しそうにしている。容赦なくコンクリートを焼く太陽。光の異常屈折によってぐにゃぐにゃ曲がる景色。そんな現象によって、傍からも道路が高温を保っていることがわかった。
だけどそれは、喫茶店という冷気を封じ込めることが可能な超テクノロジーの箱に入っている僕達には関係がなかった。
「シラセ、僕の頼んだ商品が来たようだ」
四人ほど座れるテーブル席。僕とヨウは向かい合うようにして座っていた。ヨウが興味深そうに眺めているソレは、背の高いグラスに層構造。無駄なくせに無駄のない豪勢な盛り付け。イコール。
「スペシャル・チョコ・パフェ。高層マンションを連想させる抹茶とメロンの多重層。神を超えたトッピング。そして店側がしかけた様々な罠《トラップ》。まさに夢が詰まった一品」
――僕の大好物である。だからこそ僕はこれをヨウに勧めた。
「なるほど確かに、この触れただけでも全てが崩れ去りそうなバランスは……堪らないな、シラセ」
ヨウはごくり、と喉を鳴らし、頬を伝う冷や汗を拭った。
――今回だけ、フィクションの中のフィクションです。
70、コーヒー 【こーひー】
コーヒー-ブレーク [coffee break]<
コーヒーを飲む小休憩時間。
---------------------------------------
――戦闘結果報告。広範囲に甘い物体が散乱。みっともないので無料兵器「おしぼり」等で応戦するが、服についた緑の物体は手ごわく、戦略的撤退を余儀なくされた。
肝心のパフェ残量は、三分の二程度。既にヨウは戦闘不能。テーブルに突っ伏している。コーヒーを飲みながらそれを眺める僕。ヨウは一言。
「こりゃ、ムリだ」
だろうね。
「抹茶、メロン、抹茶、メロン、までは良かった。その後、抹茶、コーラ、キリンレモン、リポビタンDと続くのは何故なんだ。なんでここで炭酸? しかもコーラとレモン、コメントしにくいぞ。栄養ドリンクは完全にコメントできない。酸っぱくて苦くて甘くて痺れて、どうしようもなかった」
そのサプライズがスペシャル・チョコ・パフェの売りである。
「そして驚くべきことにチョコが入ってないよな、これ。完全に裏をかかれた」
悔しそうにヨウは呟く。以前、僕がこのパフェに挑戦したときは、全て食い終わるまでそのことに気付かなかった。それどころじゃなかった。
「ふむ、チョコがないことに気付くとは――。中々の洞察力だな」
素直に感心した。
「うん、まぁ、でも、なんか、いいや」
カラン、とスプーンがヨウの手から落ちた。それは彼の完全な敗北を意味した。
そう――罰金5000円だ。
69、幸せ 【しあわせ】
2006年6月12日 100題 コメント (2)・高橋秋
蒼い世界に白い線が無数に引かれる。
やがて白い線は重なり、完全に世界を白く染めた。
特に驚きはしなかった。
思い出《走馬燈》が白い脳内空間に浮かび上がった。
――彼女はいつも強く美しかった。
――だから俺は、
俺は両親の顔を覚えていなかった、知らなかった。
だから、両親は自分が幼い頃に死んだ、と他人に言ったとき、「お気の毒様」と言われたが、別にそれほどお気の毒ではなかった。
確かに、そのことでイジメられたりもしたが、少なくとも、彼女よりは、気の毒ではなかったと思う。
よく彼女は語った。俺と彼女の死んだ両親のことを。彼女は微笑みながら、語った。戻らなくなった日常を。その話の端々から、両親の優しさ、温かさがじんわりと伝わってきた。だからこそ、彼女の両親を失った時の悲しみは、計り知れなかったと思う。
「姉ちゃん」
まだ俺が小さかった頃は、彼女をよくそう呼んでいた。彼女は俺が成長する毎に、恥ずかしがって「姉と呼べ」、と言うようになった。妙なところで恥ずかしがり屋だった。
彼女は美しかった。ただ、生き方が美しかった。
両親の死、そんな人生最高ランクとも言える壁にぶち当たったときも、彼女は強く美しかった。その時、両親の愛や思い出はココロの中だけではなく現実の物としても結構残った。それを狙う心無い親類もいることにはいた。そんな中でも彼女は大切なものを「戦い、守る」ことを選んだ。困難な道だった。
俺は彼女と十歳も歳が離れていた。彼女はまだ幼い俺を養い、財産の処理もこなした。まだ高校を卒業したばかりだった彼女には、辛すぎることばかりだったと思う。今になってそんなことが少しだけ解った。
それでも彼女は決して弱音を吐かなかった。いつも生きる力に満ちていた。いつも本気だった。いつも笑っていた。いつも怒っていた。幼かった俺を守ってくれた。時々、間が抜けたところがあった。妙なところで意地になった。料理は段々上手くなっていった。誰にでも平等に接した。意地を張りながらも、恥ずかしがりながらも、優しかった。
――そして、迷いがなかった。
彼女は自分の信念に従って、一番の困難に、一番初めに立ち向かった。どんな困難でも、彼女は先に行ってしまう。何人にも汚されない、純然たる炎のような意志で。
そこには理屈も何もなかった。俺はそれに、どうしようもなく、惹かれ、憧れたのだ。自分が正反対だということを、薄々感じていたのだろうか。
そして同時に、彼女は危うく、儚いとも思った。彼女のイメージは「炎」そのものだ。どんなモノでも一瞬で焼き尽くすことがあれば、少々の風や水で、前触れもなく、消えてしまうこともある。
誰かが守ってやらないと、と俺はいつのまにか思う。
――彼女の手を掴んでいないと。
いつか、すっと消えてしまいそうで。
彼女を守る必要はないかもしれない、彼女は俺よりも強いかもしれない(いや、強い)。
彼女を縛ることになるかもしれない、彼女の意志を汚すことになるかもしれない。
――でも、ただ、手を掴んで。
確かめたかった。彼女が今、確かに存在するのか。彼女は確かに生きているのか。
確かめたかった。
白い霞が浮かび上がった思い出たちを蔽っていく。二度と戻らないソレらから、俺は仕方がないな、と視線を外す。
視界が滲んだ。脳内空間でも泣けるとは、思わなかった。
「幸せ」は消えていく。
俺をいつも温めてくれた「幸せ」は、名残惜しむように、消えていく。
でも、確かに、右手に彼女の温かさを感じていた。
いろいろなものを犠牲にして、やっと掴んだ手の温かさは――犠牲になったいろいろなものを――少し埋めてくれた。
――それで――充分だった。
――ああ、姉さん、俺の名前は――何だっけ
――ああ、大切な、大切な人は 誰だったっけ――
――姉さん? ――姉さん……? ――ソレは――――――なんだった――っけ――――
――――――――――――
蒼い世界に白い線が無数に引かれる。
やがて白い線は重なり、完全に世界を白く染めた。
特に驚きはしなかった。
思い出《走馬燈》が白い脳内空間に浮かび上がった。
――彼女はいつも強く美しかった。
――だから俺は、
俺は両親の顔を覚えていなかった、知らなかった。
だから、両親は自分が幼い頃に死んだ、と他人に言ったとき、「お気の毒様」と言われたが、別にそれほどお気の毒ではなかった。
確かに、そのことでイジメられたりもしたが、少なくとも、彼女よりは、気の毒ではなかったと思う。
よく彼女は語った。俺と彼女の死んだ両親のことを。彼女は微笑みながら、語った。戻らなくなった日常を。その話の端々から、両親の優しさ、温かさがじんわりと伝わってきた。だからこそ、彼女の両親を失った時の悲しみは、計り知れなかったと思う。
「姉ちゃん」
まだ俺が小さかった頃は、彼女をよくそう呼んでいた。彼女は俺が成長する毎に、恥ずかしがって「姉と呼べ」、と言うようになった。妙なところで恥ずかしがり屋だった。
彼女は美しかった。ただ、生き方が美しかった。
両親の死、そんな人生最高ランクとも言える壁にぶち当たったときも、彼女は強く美しかった。その時、両親の愛や思い出はココロの中だけではなく現実の物としても結構残った。それを狙う心無い親類もいることにはいた。そんな中でも彼女は大切なものを「戦い、守る」ことを選んだ。困難な道だった。
俺は彼女と十歳も歳が離れていた。彼女はまだ幼い俺を養い、財産の処理もこなした。まだ高校を卒業したばかりだった彼女には、辛すぎることばかりだったと思う。今になってそんなことが少しだけ解った。
それでも彼女は決して弱音を吐かなかった。いつも生きる力に満ちていた。いつも本気だった。いつも笑っていた。いつも怒っていた。幼かった俺を守ってくれた。時々、間が抜けたところがあった。妙なところで意地になった。料理は段々上手くなっていった。誰にでも平等に接した。意地を張りながらも、恥ずかしがりながらも、優しかった。
――そして、迷いがなかった。
彼女は自分の信念に従って、一番の困難に、一番初めに立ち向かった。どんな困難でも、彼女は先に行ってしまう。何人にも汚されない、純然たる炎のような意志で。
そこには理屈も何もなかった。俺はそれに、どうしようもなく、惹かれ、憧れたのだ。自分が正反対だということを、薄々感じていたのだろうか。
そして同時に、彼女は危うく、儚いとも思った。彼女のイメージは「炎」そのものだ。どんなモノでも一瞬で焼き尽くすことがあれば、少々の風や水で、前触れもなく、消えてしまうこともある。
誰かが守ってやらないと、と俺はいつのまにか思う。
――彼女の手を掴んでいないと。
いつか、すっと消えてしまいそうで。
彼女を守る必要はないかもしれない、彼女は俺よりも強いかもしれない(いや、強い)。
彼女を縛ることになるかもしれない、彼女の意志を汚すことになるかもしれない。
――でも、ただ、手を掴んで。
確かめたかった。彼女が今、確かに存在するのか。彼女は確かに生きているのか。
確かめたかった。
白い霞が浮かび上がった思い出たちを蔽っていく。二度と戻らないソレらから、俺は仕方がないな、と視線を外す。
視界が滲んだ。脳内空間でも泣けるとは、思わなかった。
「幸せ」は消えていく。
俺をいつも温めてくれた「幸せ」は、名残惜しむように、消えていく。
でも、確かに、右手に彼女の温かさを感じていた。
いろいろなものを犠牲にして、やっと掴んだ手の温かさは――犠牲になったいろいろなものを――少し埋めてくれた。
――それで――充分だった。
――ああ、姉さん、俺の名前は――何だっけ
――ああ、大切な、大切な人は 誰だったっけ――
――姉さん? ――姉さん……? ――ソレは――――――なんだった――っけ――――
――――――――――――
68、天使と悪魔 【てんしとあくま】
2006年6月11日 100題・高橋秋
――あ、 やばい、 死ぬな、 これ
闇<脳内>のなかに扉がある。
天使と悪魔が守っている扉がある。
天使は言う。 「戻りなさい」
悪魔は言う。 「戻れ」
扉は封印されている。
血管のようなものが何十にも重なって扉に張り付いている。
俺は扉を無理矢理開ける。
ぶちぶち
血管のようなものを引きちぎり 「戻りなさい」
ぶちぶち
同時に起こる、殺人的な頭痛に耐え 「戻れ」
ぶちぶち
扉を開けて向こう側へ行く。 「戻りなさい」
ぶちん
――――、――――、――ああ
扉が開け放たれると同時に、時間が止まった。
姉は飛び出し、俺の手の届かないところで止まっている。
ソウの腕は黒くなり、今にも変形して姉を貫こうとしているところで止まっている。
――ぶちぶち 痛い
三秒でも時が進めば、姉は死ぬだろう。
――ブ×ン、何かが切れた。 ――もう戻らない
青の眼は、告げる。
姉の 死の 確立 99.9%
――改変しなければならない。
姉の確実な(99.9%)、死を。
自己の死の考慮――消去《デリート》。
不可能を、可能にする
――既に起こった事柄の改変
――世界の改変
――×不可能×である
ばつんぶつ×
――不可能だ ムリ、イタイグリグリグリ――ドリルで脳を直接削ラレル――シカシ
―― 改変ハ××××可能デアル
無理矢理ナ結論を、ムリヤリ出す。
無理矢理なチカラの行使。
世界の力を借りての世界の変革。
超、無茶ダ。
無茶でも、不可能でも、ソレヲ具現した。
――そう、扉の向こう側ニハ
蒼の世界
空間は、時は、蒼に、
蒼き風、蒼に、
蒼い空、蒼に、
蒼い大地、蒼に、
蒼に、蒼い世界。
視界は一瞬赤に染まるも
止まった世界は逆行しだした
――一秒一秒、書き換える
ぶつんぶつん
――一秒一秒、時は戻る
ぶつんばつん
――死と判定された姉の手を掴むために
ばちんばちん
――俺は時間という流れに逆らう
ばちん ――アタマが痛い
――時の流れは暴風、人など楽に殺し得る暴風
ばちん ――嗅神経切断
――逆行 逆行 逆行 時間逆行
ぶちぶち ――死ヌ
――死に赴いた姉がゆっくり、ゆっくり戻ってくる
ぶちぶち ――右聴神経切断、ハヤク
――ゆっくり、ゆっくり、戻ってくる
ぶ×ん 死、死、死、右視神経切断、ハヤク
――手はまだ届かない 逆行<67%>
ばちん 左腕の感覚がナクナッタ
――時間逆行、逆行、ゆっくりと<51%>
ぐしゃり 何故、オレハコンナコトヲ
――ギャ×ッコウ<43%>
ぷち× 死、×、死、×、 思×出がナク×ル
――指先× 触れる <32パー×ント>
ズ× 言語、 ×××
―― ×× ツカ ×× ツカ × × ツカツカ××<1×××>
――×××ツカ、ム
――あ、 やばい、 死ぬな、 これ
闇<脳内>のなかに扉がある。
天使と悪魔が守っている扉がある。
天使は言う。 「戻りなさい」
悪魔は言う。 「戻れ」
扉は封印されている。
血管のようなものが何十にも重なって扉に張り付いている。
俺は扉を無理矢理開ける。
ぶちぶち
血管のようなものを引きちぎり 「戻りなさい」
ぶちぶち
同時に起こる、殺人的な頭痛に耐え 「戻れ」
ぶちぶち
扉を開けて向こう側へ行く。 「戻りなさい」
ぶちん
――――、――――、――ああ
扉が開け放たれると同時に、時間が止まった。
姉は飛び出し、俺の手の届かないところで止まっている。
ソウの腕は黒くなり、今にも変形して姉を貫こうとしているところで止まっている。
――ぶちぶち 痛い
三秒でも時が進めば、姉は死ぬだろう。
――ブ×ン、何かが切れた。 ――もう戻らない
青の眼は、告げる。
姉の 死の 確立 99.9%
――改変しなければならない。
姉の確実な(99.9%)、死を。
自己の死の考慮――消去《デリート》。
不可能を、可能にする
――既に起こった事柄の改変
――世界の改変
――×不可能×である
ばつんぶつ×
――
―― 改変ハ××××可能デアル
無理矢理ナ結論を、ムリヤリ出す。
無理矢理なチカラの行使。
世界の力を借りての世界の変革。
超、無茶ダ。
無茶でも、不可能でも、ソレヲ具現した。
――そう、扉の向こう側ニハ
蒼の世界
空間は、時は、蒼に、
蒼き風、蒼に、
蒼い空、蒼に、
蒼い大地、蒼に、
蒼に、蒼い世界。
視界は一瞬赤に染まるも
止まった世界は逆行しだした
――一秒一秒、書き換える
ぶつんぶつん
――一秒一秒、時は戻る
ぶつんばつん
――死と判定された姉の手を掴むために
ばちんばちん
――俺は時間という流れに逆らう
ばちん ――アタマが痛い
――時の流れは暴風、人など楽に殺し得る暴風
ばちん ――嗅神経切断
――逆行 逆行 逆行 時間逆行
ぶちぶち ――死ヌ
――死に赴いた姉がゆっくり、ゆっくり戻ってくる
ぶちぶち ――右聴神経切断、ハヤク
――ゆっくり、ゆっくり、戻ってくる
ぶ×ん 死、死、死、右視神経切断、ハヤク
――手はまだ届かない 逆行<67%>
ばちん 左腕の感覚がナクナッタ
――時間逆行、逆行、ゆっくりと<51%>
ぐしゃり 何故、オレハコンナコトヲ
――ギャ×ッコウ<43%>
ぷち× 死、×、死、×、 思×出がナク×ル
――指先× 触れる <32パー×ント>
ズ× 言語、 ×××
―― ×× ツカ ×× ツカ × × ツカツカ××<1×××>
――×××ツカ、ム
67、扉 【とびら】
2006年6月10日 100題 コメント (1)・高橋秋
やばい。
シラセは死んだ。常識はそう告げているが、青い眼はシラセが生きていると告げる。生きている、いや、まだ存在している。
しかし、やばいのには変わりがない。ヒビだらけで今にも壊れそうな状態。限りなく漏れ出る力。でも今にも破裂しそう。
何故ソウが、シラセの壊れる直前で攻撃を止めたのかはわからない。だが、この機会を逃せば。
シラセ死ぬ
↓
俺たち全滅
……阻止、せねば。
しかしそんな解りきったことは、
俺、飛び出す
↓
ソウに殺される
という、もっと解りきったことになるという見解に一考させられることになる。冷静に考えれば、無理だ。確率的に、こっちの方が高い。
青だろ、俺は、クールだろ、俺は。
――その一考がなかった姉は、既に飛び出していた。
――間に合わない。
姉は決して頭が悪いわけではない。だから、敵わないと知って敵に挑むことはない。でも、姉は今、俺の腕の届かないところまで行ってしまっていた。
オブジェを眺めていたソウは、最早普通の人間は眼中にないのか、背後から襲う姉の方を見ず、腕を上げて迎撃体制をとる。
黒いものが姉を貫くイメージ。
――扉、開けないと。
やばい。
シラセは死んだ。常識はそう告げているが、青い眼はシラセが生きていると告げる。生きている、いや、まだ存在している。
しかし、やばいのには変わりがない。ヒビだらけで今にも壊れそうな状態。限りなく漏れ出る力。でも今にも破裂しそう。
何故ソウが、シラセの壊れる直前で攻撃を止めたのかはわからない。だが、この機会を逃せば。
シラセ死ぬ
↓
俺たち全滅
……阻止、せねば。
しかしそんな解りきったことは、
俺、飛び出す
↓
ソウに殺される
という、もっと解りきったことになるという見解に一考させられることになる。冷静に考えれば、無理だ。確率的に、こっちの方が高い。
青だろ、俺は、クールだろ、俺は。
――その一考がなかった姉は、既に飛び出していた。
――間に合わない。
姉は決して頭が悪いわけではない。だから、敵わないと知って敵に挑むことはない。でも、姉は今、俺の腕の届かないところまで行ってしまっていた。
オブジェを眺めていたソウは、最早普通の人間は眼中にないのか、背後から襲う姉の方を見ず、腕を上げて迎撃体制をとる。
黒いものが姉を貫くイメージ。
――扉、開けないと。
66、グラス 【ぐらす】
2006年6月9日 100題 ここに、「シラセ」という名のグラスがある。
今、「世界の力」という名の液体が、シラセという名のグラスに、物凄い勢いで注がれている。
が、グラスは穴だらけで、液体の大半が流れ出ている。
液体の供給が止まることはないが、穴は広がる一方だ。
万能である「世界の力」という液体は、固体となって穴を塞ごうとするが、流れ出る勢いに中々逆らえない。
グラスにはぴしり、とヒビが入っていく。
液体の供給を止めるか、上手く穴を防ぐか、すればいいのだが、グラスにはそれができない。
もうすぐ割れて、それで、おしまい。
今、「世界の力」という名の液体が、シラセという名のグラスに、物凄い勢いで注がれている。
が、グラスは穴だらけで、液体の大半が流れ出ている。
液体の供給が止まることはないが、穴は広がる一方だ。
万能である「世界の力」という液体は、固体となって穴を塞ごうとするが、流れ出る勢いに中々逆らえない。
グラスにはぴしり、とヒビが入っていく。
液体の供給を止めるか、上手く穴を防ぐか、すればいいのだが、グラスにはそれができない。
もうすぐ割れて、それで、おしまい。
65、ネオン 【ねおん】
2006年6月8日 100題・白
目の前が真っ黒になった。
――死んだ。
自分の「死」と「無」を認識できた。
それは
無茶苦茶。
荒唐無稽。
でたらめ。
矛盾。
なんて、世界なんだろう。
そしてそれはネオンサインのように。
黒画面に浮かび上がった。
憎、と。
目の前が真っ黒になった。
――死んだ。
自分の「死」と「無」を認識できた。
それは
無茶苦茶。
荒唐無稽。
でたらめ。
矛盾。
なんて、世界なんだろう。
そしてそれはネオンサインのように。
黒画面に浮かび上がった。
憎、と。
・黒(真回宗)
驚いた。
起動直前でこの戦闘能力。
-ヤツの拳は確実にワレのカラダを削った
右胸部分、消失、再生。敵、右眼削。右腕削。左足削。
左腕部分、消失、再生。敵、右目再生、右腕再生。右腕部分、再消失。敵、右腕削、右わき腹削、左肩削、左足部分、弱体、出力下。敵――ウム、スバラシイ-
ソウは流れるように力の配置を変える。
敵の二手先を読み、フェイントとカウンターを組み合わせる。
複雑化していく闘い。
敵も自分も常に学ぶ。敵の特性、自分の特性、つまり癖。
闘いはパズルのようだと思う。物凄く面白いパズルだ。
思考する余裕があるソウ。
――シラセの再生能力はまだまだ拙い。
シラセはまだ胸に穴が開いたままだった。二人は人間ではないが、人間である。ある程度の臓器や骨、血液、人間として生きる要素がなくても力で動けるし、存在できる。だが、やはりカタチだけでも人間としての肉体は、あるに越したことはない。
理解者(ソウやシラセのような人のこと)が一度の攻撃で放つために使用する力を1とする。これは肉体が完全な状態(人間として)での数値だが、理解者は肉体が多少欠けていても、無理矢理動ける(思考を現実にできる)。心臓がなくても、脳がなくても、死んでいても、世界の力を借りて、意志のみで攻撃を放てる。それは両腕がなくてもパンチを放てるという事だ。
もちろん、それはあってはならないこと。矛盾だ。世界との摩擦が起きて消費される力が膨れ上がる。矛盾が深まるごとに、パンチ一回だけでも10、20と力の消費量は増えていく。闘いではそれを一瞬で何発も放つのだ。消費量は半端ではなくなる。
対して再生に使う力は部分や度合いにもよるが、完璧に再生しても精々2〜5の消費量である。闘いの最中で再生をできるかどうかは別にしてだが。
――効率よく闘うためにはいかに矛盾なく闘うかが重要なのだ。
ちなみに世界との摩擦を直すために使われるのは、主に世界の力である。これもまた矛盾だが、元々この世界は狂っている。
今、シラセは矛盾だらけだった。胸に穴が空いたまま、カラダの所々が削れたまま、死にながら闘っている。矛盾はどんどん大きくなる。それを力で修正しながら闘っているシラセは、まだ再生のコツを掴めていなかった。攻撃を止めて再生に専念するなど愚行。危ない橋ではなく確実に落ちる橋。
しかしシラセの矛盾は、既に橋を傾けていた。
シラセの腕が落ちた。シラセは再生を完璧にできず、矛盾した白い物体でソウを攻撃する。
その攻撃は世界との摩擦によって少しだけ速度が落ちた。それでおしまいだ。
――ソウの拳の嵐。
ずずずと、シラセのカラダ中に穴が空く。ぼとぼととカラダのカケラが棒状になって背中から落ちる。シラセの白い物体と、残っていた赤い液体は、交じって幻想的な色を作り出したがソウには関係がない。
――頭を一撃で破壊する。
シラセの頭はパァン、と花火のように弾けた。これでシラセのかろうじて残っていた人間の部分が綺麗になくなった。首がなく体中穴だらけのシラセは奇怪なオブジェのようだった。
驚いた。
起動直前でこの戦闘能力。
-ヤツの拳は確実にワレのカラダを削った
右胸部分、消失、再生。敵、右眼削。右腕削。左足削。
左腕部分、消失、再生。敵、右目再生、右腕再生。右腕部分、再消失。敵、右腕削、右わき腹削、左肩削、左足部分、弱体、出力下。敵――ウム、スバラシイ-
ソウは流れるように力の配置を変える。
敵の二手先を読み、フェイントとカウンターを組み合わせる。
複雑化していく闘い。
敵も自分も常に学ぶ。敵の特性、自分の特性、つまり癖。
闘いはパズルのようだと思う。物凄く面白いパズルだ。
思考する余裕があるソウ。
――シラセの再生能力はまだまだ拙い。
シラセはまだ胸に穴が開いたままだった。二人は人間ではないが、人間である。ある程度の臓器や骨、血液、人間として生きる要素がなくても力で動けるし、存在できる。だが、やはりカタチだけでも人間としての肉体は、あるに越したことはない。
理解者(ソウやシラセのような人のこと)が一度の攻撃で放つために使用する力を1とする。これは肉体が完全な状態(人間として)での数値だが、理解者は肉体が多少欠けていても、無理矢理動ける(思考を現実にできる)。心臓がなくても、脳がなくても、死んでいても、世界の力を借りて、意志のみで攻撃を放てる。それは両腕がなくてもパンチを放てるという事だ。
もちろん、それはあってはならないこと。矛盾だ。世界との摩擦が起きて消費される力が膨れ上がる。矛盾が深まるごとに、パンチ一回だけでも10、20と力の消費量は増えていく。闘いではそれを一瞬で何発も放つのだ。消費量は半端ではなくなる。
対して再生に使う力は部分や度合いにもよるが、完璧に再生しても精々2〜5の消費量である。闘いの最中で再生をできるかどうかは別にしてだが。
――効率よく闘うためにはいかに矛盾なく闘うかが重要なのだ。
ちなみに世界との摩擦を直すために使われるのは、主に世界の力である。これもまた矛盾だが、元々この世界は狂っている。
今、シラセは矛盾だらけだった。胸に穴が空いたまま、カラダの所々が削れたまま、死にながら闘っている。矛盾はどんどん大きくなる。それを力で修正しながら闘っているシラセは、まだ再生のコツを掴めていなかった。攻撃を止めて再生に専念するなど愚行。危ない橋ではなく確実に落ちる橋。
しかしシラセの矛盾は、既に橋を傾けていた。
シラセの腕が落ちた。シラセは再生を完璧にできず、矛盾した白い物体でソウを攻撃する。
その攻撃は世界との摩擦によって少しだけ速度が落ちた。それでおしまいだ。
――ソウの拳の嵐。
ずずずと、シラセのカラダ中に穴が空く。ぼとぼととカラダのカケラが棒状になって背中から落ちる。シラセの白い物体と、残っていた赤い液体は、交じって幻想的な色を作り出したがソウには関係がない。
――頭を一撃で破壊する。
シラセの頭はパァン、と花火のように弾けた。これでシラセのかろうじて残っていた人間の部分が綺麗になくなった。首がなく体中穴だらけのシラセは奇怪なオブジェのようだった。
63、No.1 【なんばーわん】
2006年6月6日 100題 コメント (1)・白
最上、No.1に考えていることは、敵の打倒
砂嵐
-人間的思考の禁止-
視界が赤に染まる。右眼球に深刻な
砂嵐
-人間的思考の禁止-
いつのまにか、闘いは終わりに近づいていた
砂嵐
-人間的思考の禁止-
ボ、ぼぼ、僕は
砂嵐
-人間的思考の禁止-
最上、No.1に考えていることは、敵の打倒
砂嵐
-人間的思考の禁止-
視界が赤に染まる。右眼球に深刻な
砂嵐
-人間的思考の禁止-
いつのまにか、闘いは終わりに近づいていた
砂嵐
-人間的思考の禁止-
ボ、ぼぼ、僕は
砂嵐
-人間的思考の禁止-
・高橋秋
嘘だろう。シュウは呟く。
それはまさに、次元の違う闘いだった。
単純な殴り合いのはずなのに。
『美しい』闘いだった。
相手を消す。その一点のみ追求した、無駄と容赦の全くない攻撃の応酬。
一撃一撃が空気を掻き乱し、互いのカタチを抉る。
シラセのまだ人間だった部分からは血のようなものが出るが、それもすぐに再生される。
どんなダメージであっても、互いに無表情。ある一点に集中し、他は何も考えていない。
思考は、自身のダメージではなく、仲間の安否ではなく、敵の打倒。
純粋な闘い。
そこには黒も白もない。
シュウは惚けるようにシラセとソウの闘いを見る。
彼らの心臓や脳は、最早意味がない。彼らは既に人間ではなく「色」そのもの。そういう存在なのだ。
よって相手を一撃の下に殺す、そんな必殺の一撃は存在しない。
相手を殺すには、相手の存在を消すしかない。
だから、これは単純な力のぶつかり合い。相手の力、エネルギーを消す闘い、なのだが。
それでも、戦術は必要。急所、要所、弱点、力の流れを瞬時に、正確に、把握し、目にも留まらない速さ、人間ではありえない威力の攻撃を互いに、避け、受け、流し、放つ。
互いに無駄はなく、鋭く、強く、巧い。
見惚れる。
互いの存在を賭けた誰にも邪魔できない闘い。
これは理想の闘いだ、とシュウは思ってしまった。
嘘だろう。シュウは呟く。
それはまさに、次元の違う闘いだった。
単純な殴り合いのはずなのに。
『美しい』闘いだった。
相手を消す。その一点のみ追求した、無駄と容赦の全くない攻撃の応酬。
一撃一撃が空気を掻き乱し、互いのカタチを抉る。
シラセのまだ人間だった部分からは血のようなものが出るが、それもすぐに再生される。
どんなダメージであっても、互いに無表情。ある一点に集中し、他は何も考えていない。
思考は、自身のダメージではなく、仲間の安否ではなく、敵の打倒。
純粋な闘い。
そこには黒も白もない。
シュウは惚けるようにシラセとソウの闘いを見る。
彼らの心臓や脳は、最早意味がない。彼らは既に人間ではなく「色」そのもの。そういう存在なのだ。
よって相手を一撃の下に殺す、そんな必殺の一撃は存在しない。
相手を殺すには、相手の存在を消すしかない。
だから、これは単純な力のぶつかり合い。相手の力、エネルギーを消す闘い、なのだが。
それでも、戦術は必要。急所、要所、弱点、力の流れを瞬時に、正確に、把握し、目にも留まらない速さ、人間ではありえない威力の攻撃を互いに、避け、受け、流し、放つ。
互いに無駄はなく、鋭く、強く、巧い。
見惚れる。
互いの存在を賭けた誰にも邪魔できない闘い。
これは理想の闘いだ、とシュウは思ってしまった。