8.カナン

2007年12月23日 Live2
 スクリーンに映し出された【法王カナン】は、どう見てもまだ子供だった。
 かなり末広がりの白いローブに、水色線がいくつか入っていた。頭にはローブと同じ配色で、少し大きめのとんがり帽子。髪の毛も目の色も全てスカイブルーで、髪型はセミロング。

 どう見ても魔術師で、子供である。

「皆さん、こんにちは」

 しかしその小さな口から出てくる言葉達は、とても落ち着いていて、大人びていた。

「【法王カナン】です」

 同時に歓声。

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 短い演説が終わった後、カナンはアレクサンドル城のある一室で、自分の直属親衛隊の隊長と話していた。隊長は白い外套に金髪ロングツインテールの魔導士で、名をエラシナといった。

「以上で、魔導砲実験結果報告を終わります。もう試作段階から実用段階に移ったと言っても良いでしょう。これもカナン様のお力のおかげです」
「そう……」

 エラシナとは裏腹に、カナンはその魔道砲開発にはあまり熱心ではなかった。それより、カナンが気にしていたのは。

「ねえ、エラシナ」
「ハッ、なんでしょうか」
「改まらなくてもいいんだけれど……、……私、演説上手くできていたかしら……?」

 それまでの自信に満ちていた態度は何処に行ったのやら、数え切れないほどのシムシ国民に称えられている【法王カナン】は目を伏せ、エラシナに問う。

「ええ、もちろんです」

 即座に、エラシナは微笑して答えた。その後、エラシナは「失礼します」と一礼して、無駄のない動作で部屋の外に出て行った。そのエラシナの様はまさに、『カナン様の忠実なる僕』である。

(……もっと、気楽に話してもらってもいいのにな……)

 自分の今の立場を思えば、それは無理だということは、わからないはずもない。考えても仕方が無いことだったので、カナンは目を瞑り、両手で顔を抑え、考えた。

(……キサノ……)

7.シムシ

2007年12月23日 Live2
 大陸東に位置する大国、【シムシ】。

 二年前、【無神戦役】により、『首相アイゼン』が死亡という未曾有の事件が起こるも、その後生き残った五人の元幹部(7、セブン)達による【五元帥制】や、【魔導導入】という世紀の改革により、機械と魔導の融合を実現させ、さらに屈強な国となった――。

 ――それが、表向きの歴史。

 二年前。
 元々科学力、機械のみを信仰していたといえるシムシの民達は、もちろん【魔導】、自分達の今までの全てを否定するようなものを、すぐに受け入れることなどはできなかった。【五元帥】はもちろん、民主主義の要であるシムシの【議会】からも、承認は得られなかった。

 そんな彼らを無理やり【魔導】の道へ、行かせ従わせたのは、やはり、『力』だった。

 突然のことである。二年前、【無神戦役】のすぐ後に、自らを【シムシ国王】と名乗った【法王カナン】。彼女は魔法系最強のスキル、【全魔法行使】で瞬く間に【五元帥】【議会】を黙らせ、制圧することになる。実際その時戦った者達が目の当たりにした、『力』に、魅せられる者がシムシのトップの中から出ても不思議ではないほど、そこで見せたカナンの『力』は圧倒的だった。

 【五元帥】のうち、元々魔導に精通していた三名が、承認。
 【議会】では、金、暴、権等の『力』により、国民達の理解を得られぬまま、承認。

 【法王カナン】の誕生である。
 その時、【無神戦役】からわずか一週間も経っていない。

 世紀の改革で変わったことは、主には+(プラス)が多かった。魔導と機械の融合、略して『魔械』の乗り物、武器は多く戦争に投入され、その成果はすばらしいものばかり。シムシの人々の生活は豊かになり、【法王カナン】に称賛の声があがりはじめるのもそう遅くはなかった。

(バッカだねえ)

 既に【魔道大都市】と化したシムシ王国首都、アレクサンドルで、青い軽鎧を身に纏った、シムシ諜報員が一人。背は少し低かった。アレクサンドル城正面に、【光魔法】と【科学技術】の結集によって作成された、巨大なスクリーンが垂れ下がっている。アレクサンドル城三階のテラスからは、【法王カナン】と【五元帥】が、アレクサンドル城中庭に詰め掛けたシムシ国民達に手を振っていた。

(一番強いものに、流されて、流されて……。ま、それが普通なんだろうけど……。ゲームの中でくらいプライドは持とうよ……)

 法王カナン万歳と、熱狂する国民達を傍から冷めた目で見ているのは、シムシ国諜報員『コメタロー』である。彼はアメツキの同僚でもある。

(……そろそろシムシにも、見切りをつけたほうがいいかな……)

 彼はまだ、幼さが残る少女である法王カナンの顔をちらりと見て、アレクサンドル城から去った。あてはなかった。

6.シシ

2007年12月22日 Live2
 カイド王座の間で、アトラが報告兵を脅していた、一方その頃、フォロッサ城のほぼ中央に配置されている重要施設の割にはアトラがあまり利用しない場所、【大会議室】で、事実上のカイド王国のトップ達が出揃っていた。

 緑が基調とされている部屋の中で、一際目立つ白色の法衣。一分の隙も見せない物腰と話し方で、その会議場をほぼ支配している人物がいた。彼の名はカイド王国実質No.2、軍師【シシ】である。

「以上が、シムシの動きです。今後の対策は手はずどおりです。オールトンは、東カイドの国境を、ネイザンは西カイドの――」

 ゆったりと諭すような口調で、シシは部下一人一人に指示を伝えていく。そこで動かす口、手、空気の流れにさえも、彼は隙を作らない。

「――指示は以上です。貴方達の働きに期待しています」

「「ハッ!」」

 シシの言葉を合図に、カイドの軍事、政治を司るプレイヤー達が動き始めた。その指示は王から下されたものと同じ意味を持つ。王が既にそう明言している。

(――本来はアトラ王から、直接部下に指示を伝えていただくべきだというのに……)

 全てのプレイヤーが去り、随分広くなった大会議場で、シシは白い扇をどこからか取り出し、顔の下半分を隠した。それはまるで、誰にも自分の表情を覚らせないためのようで、僅かに見えるシシの双眸は、空間のある一点を見据えて動かなかった。実際、彼が何を考えているのか、常人には理解できないだろう。

(アトラ王は戦争が嫌いだ)
(だが、それは甘い。こちらから仕掛けなければ)
(シムシの情勢が不安)
(奪われた【禁忌の武具】は、今はいいか?)
(衆の内乱がさらに悪化。情勢回復の見込み無し)
(Liveプレイヤー総数の急上昇)

 これらは全て、シシ一人の思考である。
 彼は瞬時に全てのことを考え、一の答えを出す。

(シムシを一刻も早く倒す)

 もうだらだらと戦争を続けていくことはできない。あくまで本人は隠そうとして、実際シシ以外の誰も気付いていないが、シシにはわかっていた。アトラがなんとかカイドがシムシを倒さないようにしていることを。戦争の先延ばしを望んでいることを。

 ――シシには理解ができない。

(――そろそろ、考えなければなりませんね……)

 不穏な空気が、カイド王国に流れ始めていた。

5.フォロッサにて

2007年12月22日 Live2
 カイド王国は大きな円形の大海を挟み、東と西に分かれている。その円形の大海のほぼ中央には、ロフ島。そしてその島の北側には、カイド王国首都フォロッサがある。さらにフォロッサには世界最強と呼ばれる城があり、その王座に現在座っているのは、カイド国王、『アトラ』、別名『寅王』(だがあまり使われない別名)である。
 相変わらず変な『王』Tシャツを全く着こなす気なく着用し、悠々と玉座に座っているアトラは、鮮烈なエメラルドグリーンの瞳とツインテール、強大な威圧感で誰もかもを一歩ひかせる派手なオーラをもつ人物である。傍らで眠る巨大な白虎の上に肘を乗せて、頭を支えるというゆったりしたポーズは、本人はゆるんだ空気をかもし出そうと努力したポージングなのかもしれないが、一般人に対して逆効果なのは明らかである。

(こえー、あの巨大な虎にもたれかかってるよ……)

 初めて王と対峙する報告兵は、カチンと彫刻のように固まり、

「報告を頼むぞ」

 王の一言で何かに背中を蹴られたように『気をつけ』し、報告を始めた。

「ハ――ハッ! 報告いたします! 先日、ユグドラシル樹近辺で、【深緑のケルビン】が、何者かに襲撃されました! その際、ケルビンは禁忌の武具、【トロイ】を奪われた、とのことです!」

「ほう、ケルビンが……。あやつは世界でも一二を争う弓の名手であったはずじゃが……?」

「ハッ! ケルビン殿は我がカイド王国の精鋭部隊、アトラ王直属の部隊の一員としても有名であり、自らの希望で僻地の防衛に回られ、」

「んなこと、知っておるわい」

「ハッ! 申し訳ありません!」

 自らの行き過ぎた言葉に、後悔する兵士。そしてアトラの次の言葉を恐れる兵士。重苦しい空気に場が包まれる。

「……いいから、力を抜け。別に取って、食ったりはせん。――わしはな」

 アトラがシロトラから肘を離して、王座にきちんと座ったことで、シロトラがグルルと唸った。報告兵はさらに固まり、呼吸さえ行うのを忘れた。

「……いかん、いかん、冗談が過ぎたか。すまんすまん! 冗談じゃよ冗談! わはは!」

 アトラは話をはぐらかしたが、まだ動揺は隠せていなかった。

(禁忌の武具……? 何故いまさらあんな旧バージョンの遺物みたいなものを欲しがる輩がいるのじゃ……? ……これは変態的な怪しさのある事件じゃな……)

 アトラは嫌な予感を拭いきれず、

「ケルビンを呼んでおくれ。詳しいことを聞きたい」

「ハッ!」

 固い声で、兵に命じた。

4.カイド

2007年12月20日 Live2
 カイド王国。

 王はアトラ。別名寅王。
 大陸の北に位置している自然と魔法の国。厳しい環境(大雪、寒冷)、と壮大な自然(迷いの森、ユグドラシルの大木、エルフの里)等など、自然の力を味方(時々敵)につけた国である。
 一つの特徴として、恐ろしく強いモンスターがあげられる。度々強力なモンスターに国家存亡の危機にあうが、逆に強力なモンスターを味方につけて、戦力にすることもある。もちろん滅多なことではない。が、その力もあり、三大国とされた。
 ちなみに地形は、円形の海をはさみ、東と西カイドに分かれている。その間の海のほぼ中央には、首都フォロッサのあるロフ島がある。

 そのカイド王国の、寒冷地の中の寒冷地にある森、【迷いの森】は、【魔女】が住むと噂されていた。

 ――実際、存在するのだが。

「あー、寒いったらありゃしないわ」

 黒いローブをはおり、寒そうに両手で自分を抱きしめている女性は、【迷いの森の魔女】ヘレナである。彼女は日夜【迷いの森】の奥で怪しい研究を続けることに余念が無い。
 そんな彼女が自宅のこの森唯一の高発熱物である暖炉を離れ、数メートル先の視界さえ確保できない程の猛吹雪の外へ出てきたのは、もちろん理由があった。

「アサトくん?」
「ああ」
「相変わらずね。よくもこんな、か弱い私を、心まで凍てつきそうなこの厳しい環境の中におかせることができるわね。あなたが本当に、人間の心を持っているのか、疑ってしまうわ。それとも、あまりのカイドの寒さに、もう心は凍てついてしまっているのかしら?」
「あんたも相変わらずだな。まあ挨拶は程々にして、単刀直入に言おう。情報が欲しい」
「……ふーん。ま、断る理由はないけど、承諾する理由もないわね」
「『賢者の石』に一歩近づいた、といえば」
「!?」
「ほら、眼の色を変えたな、【迷いの森の魔女】」

 ヘレナはアサトの言葉に、眼を見開いた。そして一瞬、寒さで震えていたヘレナの体は時を忘れ、弛緩する。普段隙を見せない魔女の、そんな姿は、アサトにはとても新鮮だった。

「とにかく、情報が欲しい。【禁忌の武具】についてだ」

 アサトはその一瞬の隙を見逃さず、鋭くヘレナに切り込んだ。

3.名

2007年12月17日 Live2
 銀はとあるチャットルームの一室で、最終的な仕上げにとりかかっていた。

「【無神】は失敗だったね……。アレの元は私達の理想とは、違ったものだったから……。やはり全て一から作り直さないと、駄目だね……」

 巨大な四角い空間の中を、銀の指示によって細かいドットが飛び交い、一つの『人』(と呼べるのかあやしいもの)を形成していくその光景は、見るものに『神』をそのまま連想させるほど神秘的なものだった。最早その世界の物質を原子単位で操ることも可能であり、錬金術、錬成術、武具防具作成術、薬術と、数多ある生産系スキルツリーの、『根』と呼べるスキル。根本的で、単純明快。『思い通りのものを作り出す』、最高の物体創作術、または半チートとも呼べるべきシロモノ。

 ――【創作(クリエイト)】:―。は、もちろんLive世界では銀しか所有していない、しえないスキルである。

(……)

 その光景を見て、冷や汗を流しているのは、この組織の中で最も一般的な思考を持つといえるプレイヤーだった。

(……や……ばい)

 表面上は涼しい顔をしながらも、『Live世界で最も理解力がいい』であろう、そのプレイヤーからすれば、その反応は全くもって正しすぎる反応。この組織に入る前から、ある程度の危険、あるいは狂気を、覚悟していたはずなのだが。

「……どうしたの?」

 突然声をかけられ、同時に濃厚な死の気配に包まれるこの環境は、今まで幾多かそれなりの修羅場をくぐり、そして乗り越え、世界を知ってきた、そのプレイヤーからしても――『理解不能』の四文字につきる。

「こんなものを見ていても、何も面白くないと思うんだけどな。あ、死にたくなければ俺の顔は見ないほうがいいよ」

 黒いサングラスをかけた人物が、その恐怖に慄いているプレイヤーの横をするりと通り過ぎた。そんな、一瞬でも『恐怖』を感じてしまった自分を罵倒しながら、そのプレイヤーは『仕事』へと向かった。

(――くそっ!)

 少しかけたプライドを取り戻そうとするかのように。

 突然走り出して逃げたプレイヤーをまるで気にしない素振りで、サングラス男は銀に、何の躊躇も遠慮もなく話しかけた。

「おーっす! 銀!」

 巨大な空間に、そのプレイヤーの高めの声が響きわたった。

「ふふ、そこの黒いサングラスは【邪眼】、ネクターですね」

 少しの間のあと、銀がその無礼さをまるで気にしていない様子で答える。

「うん、あの日しぶとく生き残った【邪眼】、ネクターだよ。久しぶりだね!」
「ええ、久しぶりです。生きてて嬉しいですよ」
「俺も嬉しいよー。まあ実際あれは、アメツキの仕業っぽかったからねー。銀さんとか利用価値高いからまあ死ななかったんだろうなー。マジ、気まぐれすぎるよあいつ!」
「ふふ、滅多なことは言わないほうがいいですよ。あと喋るのも疲れるのでちょっと黙ってていいですか」
「うわー、あの銀ちゃんが本当に必死だよー。まあ、いいや、報告しにきただけだから。組織の名前がやっと決まったよ」
「ほう……それは興味ありますね? 名は体を表す。この集団を一言で表すならば?」

「キルタイム、【退屈しのぎ】だってさ」

 からからと、ネクターは笑いながら言った。

 
 

「ところでさー、さっき立ってた子、どこ行ったの」
「さあ……私は知りません」

「ふーん、『アサト』。面白そうな子だったなあ」

2.なにかのために

2007年12月15日 Live2
 自己紹介も終わり、メンバーはそれぞれの仕事に取り掛かるため、チャットルームから出て行く。その数は十人以上だった。
 アメツキは声をかけるだけかけ、「興味があるならここへ」と誘っただけなのに、今集まった数を知り、少し驚いていた。誰とも会話が成り立たないと思われた、奇抜なプレイヤーばかりに話をもちかけた。だのに、今集まったメンバーの数は、予想よりも多い。計算外の好評さだ。何故か? おそらく、――ある一点、“愉悦”のために。このメンバーは、それだけのために集まり、その一点でかろうじて一つとなることができたのだろう。

「中々、捨てたものじゃないな、今の世界も」

 ほとんどのメンバーがいなくなったチャットルームで、アメツキは心にも無いことを呟いた。背中から現れたネコが、アメツキの頭の上に登り、大きな欠伸をした。その後、

「ツングースカ、ソドム・ゴモラ、チェルノブイリ、ハイロウ・ナーガ……シュヴィッツも確定。あと二本は欲しいところだなぁ」

 と、独り言。久しぶりに目標ができた、と何の感慨もなくアメツキは思った。
 アメツキが呟いた名前たちは、禁忌の武具と呼ばれる、Live世界では最も忌み嫌われ、呪われている武器たちである。ある特殊な条件を満たすと、所有者の体をモンスターに変質させ、時にはそのプレイヤーの心まで支配すると言われている武器である。それらを集め、一体アメツキは何をしようとしているのか。

「ん? ……なるほど、わかったよ、ネコ」

 またアクビをして、ネコはアメツキの背中の中に戻った。

「まあ武器のほうは皆に任せたし……。さて、俺は何を探そうかな……。

 『――』のために」
 打ち切りが散発した猛省。

 プロットを相当練りましたがラストはお約束の未定。

 他のクロスオーバーの様々なキャラが登場しますが、中身はパラレルだと思ってください。

 更新は不定期ですが、二日に一つ、頑張ります。

 では久しぶりに、社会人生活が軌道に乗ったところで創作意欲を無計画に吐き出す妄想癖の底が浅い戯言をご覧ください。

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 Live:徹底的にリアルを追求した【ゲーム】。

 そう、【ゲーム】である、はずだが――。

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 そこは、主の心情を表すかのような、暗い、暗い空間だった。
 かつては最悪のPK集団、『ゴッドレス』の本拠地として、様々な変質者達を匿っていた『チャットルーム』と呼ばれていた、その空間は、実は一人の女性プレイヤーだけによって作り出されていた。

 彼女の名は、【空間のアカシア】。虚ろな眼をした彼女は見えない壁にもたれかかって座っており、そこに会する、『ゴッドレスのメンバーを超えるさらなる変態達』の視界に一切入らない。一切の興味をもたれない。彼女はただのモノとなっていた。

 かつて、ゴッドレスという組織があった。彼女は世界の滅びを目指し、その末GMたちによって滅ぼされるという運命を辿った、その殺戮集団のメンバーの一人だった。そして彼女は、そのあっけない結末を辿った組織の首領である【無常】に狂信していた。自身を省みず、GM達の襲撃から逃がすほどに。――かつて。

 今、【ゴッドレス】は滅び、ボス【無常】は死んだ。

 GMたちによって断罪されたはずの彼女は、その特異なスキルに価値を見出され、生かされた。GMたちと通じているアメツキに助け出された後、『【ゴッドレス】は滅び、ボス【無常】は死んだ』、それだけが彼女の真実になり、これからもずっとそのままだ。

 それでも、彼女は【無常】が帰れる空間を作った。

 僅かにも残っていない希望に、かけて。

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「では自己紹介を始めよう。
 俺は『アメツキ』。特に通り名は無い。好きに呼んでくれていい。この組織を立ちあげたのは一応俺だが、別にボスとかはやりたくない。好きにやってくれていい。表向きはシムシの諜報員をやっている。とにかく世界が退屈でたまらない。以上だな」

 真っ暗な空間から、青白い軽鎧を纏った眠そうな瞳をした人物が浮き上がった。彼はどうみても、『どこにでも居るシムシ諜報員』だった。そういうのは、おかしな言い方かもしれない。だが、それなりに努力して、それなりに特異な力を持ち、それなりの個性で、それなりの評価を受けている。そのどれもが、突き抜けていない。
 なのに何故、Live史上最も異質とまでいわれるようになる、変質変態変人集団を彼は作ることができたのか。
 その瞳にうつるものがないのが、答えなのかもしれない。
 アメツキは軽く会釈をして闇にまた消え、代わりに光がないのに輝く銀髪と、ルビーの瞳を持った、華麗な召喚士がその舞台に現れた。

「初めまして皆さん。銀です」

 万人が見て、誰もが不快な思いをしない、最高の笑顔で、現在の衆の長である『周』、その親友であるといわれていた『銀』が、現れた。

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