48.某バヤシ、NET

2008年5月22日 Live2
「そうか……」
「そうかってなんですか!」
「そうかはそうかだよ!」
「あーそうですか!」
「あーそうですよ!」

 子供の口喧嘩をしているのは、アレックスとNETである。

「そんなことよりも……」
「そんなことってなんですか!」
「そんなことはそんなことだよ!」
「あーそんなことですか!」
「あーそんなことですよ!」

 再び子供の口喧嘩をしているのは、【救世】と元元老である。

「……死んだっていっても、また俺みたいに帰ってこれるんだから……」

 見も蓋もないことを言うNETであったが、

“GM緊急告知! まことに申し訳ありませんが、Live世界はただいまよりしばらくの間、ログインができなくなります。Liveよりログアウトか、死亡をいたしますと、しばらくの間Liveへは戻れませんので、ご注意ください。以上です”

 というGMの全世界テレパシーに途中で言葉を遮られた。

「ほら、NETさんがそんなこと言うから……」

「……」

 これで、ログアウトか死亡すれば、しばらくの間戻ってこれない。そのしばらくによっては、二度とLive世界に戻ってこれなくなるかもしれなかった。

「こういうときの業者の告知の“しばらく”ってのは、“永遠”となるのがセオリーである」

 何気なく言ったNETであったが、

「ほら、NETさんがそんなこというから……」

 アレックスのボケも、洒落にならなくなってしまった。

「――原因はやっぱり、世界のズレだろうな」
「世界のズレってなんですか?」

 NETが「そんなことも知らないのか、このクズが」という顔をする。負けじとアレックスは、「知るわけないだろうが、このNEETが」という顔をする。
 もちろんNETは、得意気に語りだした。

「こんな情報知ってるか? Live世界は【バグ】で成り立っている」
「……はぁ?」

 NETが「そんなことも知らないのか、この二次元に恋する男」が、という顔をすると、負けじとアレックスは、「根本的に間違ってますけどー、まずサティンは三次元ですー」という顔をする。
 構わずNETは続ける。

「確かにLive世界は完璧ともいえる。リアルな描写。リアルな感触。素晴らしいバランス。しかーし? はたしてここまで完璧な世界は完璧なのか? 答えはNO!」
「バカですか」

 NETが「殺」という顔をすると同時に、二人は取っ組み合った。

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 ――数十分後。

「つまりこの世界は、バグだらけだった! ということなんだよ!」

 ΩΩΩ<な、なんだってー

 某バヤシになりきったNETは、喧嘩によって集まってきた野次馬達を『な、なんだってー』と言わせることに成功した。もちろんアレックスは気絶していて聞いてない。あとで嫌というほど聞かされるので問題はないのだが。

「そもそも、バグ、つまり誤りというのは前進のために必要なのだ。成功と失敗は表裏一体。どちらもなくてはならぬ存在。
 人は、いや、動物は、いや、世界は! 失敗を繰り返しながら成長していく! このLive世界もそうなのだ! 失敗に失敗を繰り返し、試行錯誤を繰り返しに繰り返し、やっと一つの成功をつかんでそれが世界に定着するのだ! そう! まさに今のLiveは誤り! つまりバグの塊の上に成り立っているのである!」

 ΩΩΩ<な、なんだってー

 まあ、NETの話は極端といえば極端なのだが。

「初期の昏迷期に起きた、バグだらけのアイテムやダンジョンの山が、そのいい例だろう。あれらがあったからこそ、今の安定……したかどうかはしらんが、まあ今のLive世界がある。つまり、バグはなくてはならない。それはわかったな?」

 某バヤシ節はすでに道を塞ぐほどの人だかりを作っていた。

「じゃあ? 【間違い】を繰り返してきた、今のLive。その【間違い】は? 【バグ達】は何処へ行ったんだ?
 ――答えは、『何処にも行ってない』んだ。バグは今もLive世界の裏側に、あるいは表側に目立たないように潜んでいて、虎視眈々と大きな亀裂になろうと頑張っている! Live世界! 世界といっても、この世界は大量のコンピューターからできた限定された世界だ! 容量がある! その容量を超える、あるいはそれに迫ったとき、世界の処理力は大幅に失われ、ズレが発生する! ラグ! 処理落ち! それがだんだん大きくなり、いよいよズレが完全な『【ハ】ズレ』になったとき!! 世界は、終わるだろう!!!

 そう! このLive世界は! バグによって滅亡する!!!

 わいわいがやがや。
 いつもの人通りが戻ってきた。
 某バヤシポーズを取るNETと、気絶して道路の真ん中で寝ているアレックスには、目もくれない通行人達。
 なーにが滅亡だよ。バカらしい。
 どこからか、そんな声が聞こえた。

「すでにその兆候は……いたるところで見られるというのに」

 NETは残念そうに、アレックスを背負った。

47.五元帥、議会

2008年5月21日 Live2
「法王カナン……またやってくれたな」

「議会はなんと言っているんですか! 今回ばかりは承認できるはずがない!」

 静かに怒る7−1と、怒りを露にする7−7。そして沈黙する7−2、4、6の魔導三兄弟。

「アイゼン様も、こんなことを許すはずがない! 『五元帥』は衆への宣戦布告への否決を……」

 7の中で一番真面目な気質である、7−7は、戦争など許すはずがなかったが、

「なぜだ?」

 7の中の魔導三兄弟の中で長兄である7−2は、そんな問いを口から発していた。その言葉を聞き、1と7は絶句する。

「そもそも、アイゼン様の願いは『シムシの繁栄と、国民の幸せ』じゃなかったか?」

 2はのうのうと言った。

「馬鹿な! 衆と戦争を起こして、何が国民の幸せだ!」

 7が当たり前だろう、と言わんばかりに反論する。1も7に同意見のようで、黙って頷いた。

「ふん、衆との戦争は小規模ながらも、アルル大渓谷で長年続いているじゃないか。最近は内乱のおかげで沈静化に向かっていたとはいえ、新長就任で今後どうなるかわからない。それとも7<セブン>は、もしくはアイゼン様は、アルル大渓谷で散っていた国民達を、国民とは認めないのかね?」

「なっ!」

 それとこれとは、と言おうとしたが、7はそこで言葉を止める。事実が、7の言葉を止める。だが、戦争を起こすのは、絶対に、違う! 違うだろう! が、言えない。

「1、7が反対したとしても、私達2、4、6は賛成する。それで終わりだ。【五元帥】は宣戦布告を支持する」

 カナン就任議決時と同じである。始めから金と権力にまみれた【議会】も、何の機能もしない。シムシは、カナン法王の思い通りに、戦争へと向かう。

「お前達は、カナンの言いなりか!?」

 7が発した最後の言葉は、負け惜しみと同じだった。

「違うな。魔導の言いなりだ」

 そんな言葉だけを残して、7−2、4、6は議会場から消えた。残された1は腕を組み何事かを静かに考え、7は怒りのあまり手に残された資料を握りつぶしてしまった。

46.周、こころ

2008年5月20日 Live2
 その後はもちろん、シンリがチョコを仕切り、自然衆を仕切っていく形になった。衆始まって以来の、長交代が、よどみなく、素早く行われていった。
 すでにシンリ軍は、内乱で暴れる賊をいくつか討伐し、衆での知名度をある程度得ていた。そして誰もが内乱で疲れていた状況で、立ち上がり、内乱に対して何も打開策をうち出さなかった現体制を打倒したという功績は大きい。
 一ヶ月もしないうちに一国の長となったシンリは、無名から有名へ、他に比べれば一瞬ともいえるスピードで出世を果たした。

 しかしシンリは考えることを止めない。止められない。

(これで、【周派】は消えたといってもいい。だが、【銀派】は?
 元々この内乱は、変革を望む【銀派】と、継続を望む【周派】との対立で起こったものだ。いつまでもシムシに対抗せず、のうのうと暮らす、過ごす、臆病な現長:周に反乱した銀とそれに同調する者達との戦い……ということらしいが)

「不自然なことが、多すぎます」

「……そうだな、ライ」

 チョコ、長の間で、シンリの横にいるのは、ライのみだった。

「まず、明らかに非があるのは裏切り者の銀です。というか、衆では基本的に裏切りは死罪です。お国柄、といいましょうか、銀は絶対に許されません。それなのに、この内乱が成り立ってしまっている。銀と同調する者がいる」

「その同調者は明らかに衆内部のプレイヤーではない」

「はい、シンリさん。それに周さんの行動も不可解です。内乱に対して有効な策を出せず、首都チョコは移動ばかりを繰り返して何もできていない。逃げの一手です。【未来視】の能力よりも、衆の長、周さんはその統率力で衆の頂点に君臨していたといってもいいです。ですが」

「何もできない。となれば」

「何らかの外因が働いたと思われます」

「あるいは圧力」

「あるいは脅し」

 二人の声が重なっていく。

「「周さんの場合、よほど大切な、『人』」」

 たとえば裏切られたとしても、親友が殺されると聞けば、その人はどうするのだろうか?
 まさかとは、思った。だが、否定しきることも、できなかった。

(非情だが、すべて終わったこと――か)

 スイッチを切り替える。過去の推察は終わった。あとは過去から、未来に何を得るかだ。

「ライ、ずっと何も言わずついてきた君に、感謝をする」

「いえ、シンリ様」

「シンリでいい」

「……でも」

「――頼む。
 私を、――これから……、助けてくれ」

「……はい、シンリ」

 イナヅマ色の瞳を少し潤ませ、ライは力強く頷いた。

 シムシ宣戦布告の報が届いたのは、その直後のことであった。
 衆の中心、首都であるといえる、チョコでは。

「周さんの決意を無駄にする気はありません。かといって、シンリさん、貴方に仕えることもできない」

「……そうですか」

 シンリとヒラタが、対面していた。

「他の周さんの仲間達も、同じ意見です。許されないというなら私達は潔く殺されます」

「……わかりました。それぞれの意思を尊重します」

 シンリは、周が死んだ後のチョコを、占領はしたが、踏みにじるようなことはしなかった。周の仲間達を手厚く迎え、その意思を尊重して自由にした。
 もちろん、周を殺した、と憤るものもいたが、それはヒラタと空羅が説得し、抑えた。なんにせよ、シンリ軍はそれでほぼ満足したと言えるし、周軍とシンリ軍の衝突はなかったに等しかったのだ。

 周とシンリの望みどおりに、ことは進んだ。

 シンリはそのことを周と画策、工作していたことを、ヒラタ達には話さなかった。話して協力を得ようと思うのは卑怯なことであり、自分を正当化するようなものだと、シンリは思っている。

 周の仲間達はそれぞれ、自分の集落へ戻ったり、チョコに残ってシンリ軍の動向を見極めようとしたり、そのままシンリ軍に入ってしまったりした。やはり人はさまざまである。

 そんな人を大量に見てきて、シンリは思った。

 ――人は、多いなあ。

 シンリにとって、人は人でしかない。シンリ達は行軍の中で、モンスターや動物を殺すことは一切しなかった。シンリが許さなかったからだ。
 なぜか? シンリにとっては、人も、モンスターも、等しくLive世界を保っている重要な「モノ」であるから。等しく愛すべき大切なLive世界の一部なのだ。

 シンリのLiveに対する愛は、等しく、深い。

 ヒラタは最後に、周軍として敵対したプレイヤー達を一人も咎めないシンリに対して、言った。

「……内乱を止めてくれたのが、貴方で良かった」

 その一言だけで、シンリは、いくらか救われた気分がした。気分だけということには、違いないのだが、それはシンリに涙を一粒、流させた。
「……【無神戦役】は失敗だったけど、それでも何の役にも立たなかったわけじゃないね。ここ数年で一つ頭が抜けていたシムシがダメージを受けたことによって、パワーバランスが再び拮抗し、世界中で小規模ながらも戦争が勃発しているし、シムシも焦ってなにやら面白そうなことをしている。無神のために引き抜いた銀が、まさか衆に、いや、周に、これほどの影響を与えるとも思っていなかったし……くくく!
 面白い、面白い……。これほどまでに俺の思い通り、思い通り以上になると、世界は「それ」を望んでいるんじゃないかと、思えてくるほどだ」

 久しぶりにアメツキは長々と喋った。

「ああ、周ちゃん、死んじゃったのか……」

 それを銀は、聞き流しているようだった。その瞳には何も映っていない。アメツキの話も一つも聞いていないようだった。

「……そうかあ、よかったねえ」

 ふふふ、と笑って、銀は「よかった」と言った。

「開放されて――」

 闇の空間、チャットルームにおいても、輝く銀色の長髪をなでながら、うっとりとした様子で銀は呟いた。周が死んだという報せを受けてから、ずっとこうであった。

「それより見たか、あの衆の新しい長の眼を! ますます力強く、ますます素晴らしい眼になっていたじゃないか! 今回は絶対に、うまく行くぞ! サーストのやりすぎは、逆に効果的だったのかもしれないな。殺してしまう前に褒美をやるべきだった」

 アメツキのテンションはこれまでになく高かった。現在に限らず、アメツキのテンションは実は浮き沈みが激しい。普段誰にも上がったときを見せないのでいつも沈んでいるように見えるのだが、なぜか銀には見せる。銀は見ていないが。

「周ちゃん……死んだのかあ」

 このかみ合わない二人は、いつまでもその話題を繰り返した。
「……嘘、じゃろう?」

 報告を聞いたカイド国王、アトラ。

「……あやつ……、馬鹿者……」

 動揺を隠すことが、できなかった。

「残念です……」

 シシは脳内とは裏腹のことを言う。
 アトラはカイドの裏で、動き始めたものに、まだ気づくことができない。

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「周さんが……死んだ?」

 結局四人で行動することになったアレックス達は、まずキルタイムとの接触を試みていた。アサトは諜報目的でキルタイムという組織に所属していたらしい。そこがどうやら世界の崩壊にかかわっているんだと、アサトは言う。
 なんとNETはキルタイムからお誘いがきたのを覚えているらしい。NETさんを誘うなんてどんだけ適当な組織なのだろう。アレックスはキルタイムを舐めていた。
 しかし、一応キルタイムは変態PKの集まりということで、アサトも何度も危ない目に遭っているらしい。その組織についても、そのPK達一人一人についても、情報は多いに越したことがない。ということで四人分かれてプロで情報収集をしているときに、アレックスはその情報を手に入れた。

 『衆の長、周死亡! 内乱、終結へ!』

「……信じられない」

 あの周さんが。アレックスも動揺を隠せなかった。アレックスは一度だけ周と会ったことがある。強い眼と、何者もを圧倒するオーラを持っていた。なのに?

 ――NETさんにも、一刻も早く伝えておかないと……。

 アレックスは久しぶりに【神速】を発動した。いよいよ、疲れる、メンドイなどと言っている場合ではなくなってきた。何かが高速で通り過ぎる気配を感じる通行人達。しかし通行人たちは、そこに何もいないことを認めて、プロはいつもどおり平和だった。

 『新、衆の長は、民衆より支持された無名のプレイヤー、シンリ!』

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「カナン様」

「……どうしたの、エラシナ?」

「魔導砲が完成しました」

「……そう」

「そして、衆の長が、死にました」

「……そう」

「今こそ、ご決断を」

 シムシ首都、アレクサンドルには、雨が降っていた。城の中央、王の寝室で、窓を打つ雨を見ながら、カナンは言った。

「衆に宣戦布告します」

42.周、最期

2008年5月19日 Live2
 夕日が真っ赤に照らす大砂漠と……

 巨大なチョコの集落。

 その周りを取り囲む、五百のシンリ軍。

 それに対抗するのは、静まったチョコの物見やぐらの屋根の上に立つ、一人の男だった。
 腕を組み、灼熱色の髪を砂漠の熱風でたなびかせ、周は叫んだ。

「聞けっ! 双方ともよ!」

「……どこに行ったかと思えば、あんなところに!」

 すぐさま集落内で待機していた空羅、ヒラタが飛び出し、物見やぐらに向かった。

「この戦いに意味はない! 内乱を起こした首謀者の片割であるおれ、周が、今ここで、死ぬからだ!
 ――内乱はこれで終わる! 終わらなければならないッ!」

 自分で、死ぬと宣言しても、周の決意に満ちた表情は変わらなかった。

「……周さん!?」

 ザクロがその周の姿と、言葉を認めて驚く。すぐさま飛び出そうとするが、待機していたステラの戦士達に止められる。

 周が何気なく見た一人は、決意の瞳をしていた。そうか、お前が、そうなのか。

「あとは頼む」

 小さく、つぶやくように、周はいった。ポチは拳を血が滲むほど握ってその場に待機し、リペノも自分の隊から離れることができなかった。ザクロが周さん、ともう一度名前を叫んだ。その声は周に届かない。
 空羅が十メートルはあろうかという物見やぐらを一瞬で上りきり、ヒラタがミノタウロス化して、やぐらの周りにテントを敷き詰めきる前に、周はヒラタがいない方向へ向かって、飛んだ。

「周さああああああああああん!」

 ヒラタが叫んだ。周をもうその手で受け止めようと、周が飛んだ方向に走り、両手を広げる。

「昔からこんな役ばかり、やってるなあ……」

 ヒラタはそんな言葉を聴き、同時に気絶した。走電がヒラタの急所を確実に突き、気絶させたのだ。空羅の伸ばした手をすり抜け、周はどんどん地面へと加速していく。下にはもう、誰もいなかった。主要な周崇拝者は走電がもう片をつけていた。ザクロが暴れる。夕日が、さらに映える。周は流れていく、壮大な夕日沈む砂漠の景色を見ながら。

「銀……」

 と、最後に言った。

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 走電と、周が出会ったのは、その日の昼のことだった。ヒラタが出て行ってすぐである。

「ほう、お前がシンリ、とかいう奴のところの?」
「ああ、まあスパイといったところか」

 走電はよっこらせ、と、周に遠慮する気配もなく座った。周も警戒する気配を見せず、ゆっくりと平たい小さな皿に注がれた水を飲んだ。

「お前達の大将は、なんて言ってるんだ?」
「終わらせたい。その一言だよ」

 走電は自分も同じ意見だ、と付け足した。

「……そうか、それは……、おれたちもそうだ……」

 周は静かに皿を床に置いた。

「逃げてばかりで、内乱にけじめをつけなかったおれの罪は重いだろう。そして……、あいつも……」
「……」
「それでおれは生き残って、話し合いで解決しましょう。そんなんじゃ、民は納得しない。これは、あきれるほど事実だ。何せ、もう、この眼で視てしまったからな……

 周は空になった皿に、陶器でできた簡単なポッドで水を注ぎ続けた。

「なぜ、こんなことになってしまった? なぜ、なにもしなかった? なぜ、 なぜ、 なぜ?
 それが、俺が視た未来では、爆発し、――なんと、内乱はもっとひどいことになるらしい」

 注ぎ続けた水が皿から溢れ、どんどん床に広がっていく。

「これは、決まったことだ。おれの【未来視】は、今まで外れたことがない。……いや、おれのスキルは【未来視】なんかじゃない。未来を、おれが視た悪夢の方向へと捻じ曲げていく、最悪のスキルさ。ヒラタが立ったまま殺され、空羅が両手を失いながらも戦い、それを終えても、おれは生き続けて……、衆の終わりを見ていく。そんな世界へと変えていく、最悪のスキルさ……。
 そしてそんなスキルを所持しているおれもまた、最悪なんだ。
 ――おれは、それが、わかっているようで、わかってなかったんだな」
「……」

 走電はただ、黙って聞いていた。
 周は、ポッドの口をおさえた。流れ出る水が止まる。

「止めないとな」

 周の眼には、覚悟が宿っていた。

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 そして、シンリは、それを了承した。

 軍の憎しみの方向を首謀者、周へと仕向ける。

 今回の戦争の目標を周個人にする。

 その姿が全員に見えるよう昼間にチョコへ向かう。

 衆の灼熱の夕日の中で、見送る。

 その方向へ、その方向へ、工作する。

(嫌な役を任せて、すいませんでした走電さん。嫌な作戦を考えさせて、ごめん、ライ)

 夕日に落ちていく一つの影を見送りながら、言葉にも、表情にさえ出さず、シンリは謝った。

(……そして、元衆の長、周さん……)

 謝罪と、感謝と、尊敬と、悔恨と、

 シンリはごちゃまぜになったココロを、どうにかして自分の中へ押し込んだ。

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 ひとつだけ昇った、昇天の光。絶賛するような、天使の歌声。

 夕日はその一筋の光を照らし、五百のシンリ軍に、ヒラタに、空羅に、周の仲間たちに、一人の死に様を見せつけた。

 そして昇天の光と天使の歌声が終わると同時に、夕日も砂漠の海の中へと沈んだ。

(ここからの未来は、誰にもわからない)

 衆の砂漠に夜が訪れる。静かに吹き抜けた砂漠の風は、まだ昼間の熱気を残していた。
「なんでチョコを攻め落とす必要があるんですか?」

 リペノは、ポチに聞いた。砂漠は普通の馬だと足を取られるため、基本は徒歩である。ラクダという手もあるが、それは生産者達に使用させている。

「それが内乱を終わらせるために、必要だからだ」

 有無を言わさぬ口調で、ポチは言った。歩くスピードも、顔の角度さえも変わらない。

「でも! それなら銀派、周派、双方で武力的な集団を……」

「急ぐ必要がある」

 ポチは、固いながらも、優しく、言う。

「衆は、疲れている」

 ポチが任された隊も、内乱でさまざまな事情を持つ者が集まっていた。ポチは一人一人の思いをすでに、聞いていた。

「早く、休ませないと」

「……でも」

「シンリ様を、信じよう」

 ポチはそれだけ言って、リペノと別れた。

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 ジョーカー仮面が任されたのは、諜報部隊だった。

「……なるべく双方とも被害が少なくなるように、か」

 シンリになんとなくついてきて、また昔と同じようなことをやっている。なんだか自嘲したくなるような状況だったが、衆の内情を見過ごすわけにもいかない。
 チョコ情報を調べ上げ、シンリに報告へ向かう。それにしても、自分の経歴をシンリが知っているとは思えない。この人事は、なるほど凄い。
 誰かの提案なのだろうか? まあ疑っても仕方がないことではあったから、ジョーカー仮面、走電は全くそのことを気にしなくなった。

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 ザクロは医療班として、疲れや病気、怪我の悪化などによって連れてこられる患者の看病に追われていた。何せそれを、移動しながら行わなければならない。ラクダ車の数には限りがあるし、時には自分は歩き、患者は車に乗せて治療を行うこともあった。
 何か別のことを考える余裕はなかった。もうすぐチョコという集落に着く。その事実が何を意味するのか、それさえおぼろげにしか理解していなかった。

「次の人は!?」

 内乱で傷を負った人。内乱によって失った人の仇のために頑張る人。

 いろんな人、人、人。

 さまざますぎて、ザクロは目を回しそうだった。

「はい、もう大丈夫ですよ」

 ポチさんは、シンリさんは? どこに行ったのだろうか?

40.周、ヒラタ

2008年5月19日 Live2
「きましたよ、周さん。数は三百以上」

「ということは五百ぐらいだろう。そんな微妙な気遣いは要らないぞ、ヒラタ」

「……そうですか。対する私たちの数は百いけばいいところ。あちらはいくつもの賊を潰してきた精鋭で、こちらは移動ばかりで疲弊しているただの移民。ネルエもアグニもこの衆の内情には愛想をつかしたようですしね。ああ、なんで私はまだここにいるんでしょう。一応私、無所属なんですけどね」

「すまなかった」

 衆、長の間が、一瞬で静かになった。周とヒラタは向き合い、楽に話していたのだが、突然の周の謝罪により、ヒラタは困惑に困惑を重ねた。

「こうなったのは、すべて、俺の責任だ」

 謝罪を重ねた。

「あ、あ、謝った? 周さんが?」

 ヒラタの報告書を持つ手が震えた。

「なんだ? 悪いか? 実はおれは元々気が弱いほうなんだ。衆の長であるという責任もあるし、そう簡単に謝ることなんてできなかったからな」

 胡坐をかいたまま後ろにごろんと寝転がった周は、天井を見つめながらすっきりした顔でつぶやいた。

「……じゃあなんで今、謝るんですか」

「……」

 周は、答えなかった。

「今、空羅さんが、軍の編成をしてくれています。話し合いが一番、とてつもなく素晴らしい方法なんですけど、あちらの完璧な布陣を聞くと、どうやら問答無用と同じようです。
 ――今この集落に残っているのは、周さんのためなら死んでもいい、そんな人たちばかりですよ」

「……はた迷惑なやつらだ」

「今から嫌われようとしても遅いですよ。もっと前から計画しておくべきでしたね」

「……」

 部屋の四隅にある松明が、ボッと音を立てた。

「やけになるのは早いですよ、周さん」

 ヒラタが立ち上がり、長の間の出口へと向かう。広い長の間に、ヒラタの静かな足音が木霊する。
 周は、ひとつだけ聞いた。

「お前はどうする? ヒラタ」

 その言葉で足を止めて、振り返り、ヒラタは笑った。

「戦いますよ。危なくなったら逃げますけどね」

 最後にボソリ、「まあ作者キャラなんであんまり活躍できないとは思いますが」と言って、ヒラタは再び諜報業務へと戻った。もうこいつ衆の民でいいんじゃね。

39.シンリ、一人

2008年5月19日 Live2
 そこでシンリは、目を覚ました。

 シンリは薄暗いテントの中で、荒くなった息を整え、そして自分の胸に触った。

 ――自分だ。

 なぜかそのことが、無性にうれしくて仕方がなかった。

 その小さなテントの中には、シンリが一人だけ。何もない。シンリが一人だけ。
 護衛に24時間つくと、ポチは言って聞かなかったが、シンリは許さなかった。自分(シンリ)を守るくらいなら、自分(ポチ)を守ってほしかったからだ。

 ――さあ、準備はよいか?

 違う自分から、問いがきた。今の自分は、どう答えるのだろう。

 ――いや、

 答えるまでも、 ない、 か。

 白と黒のリバーシブルローブ。その白側を衆の灼熱の太陽の下にさらした。

 同時に、絶大な歓声

 数百を超える衆の民が、シンリを称え、迎えた。

「「「シンリ、シンリ、シンリ!」」」

 数百の声が重なり、その重低音が砂漠の砂を震えさせ、シンリの耳朶をうつ。

 数百の命をその背中に乗せて、潰されそうなシンリを支えることができるプレイヤーは今、一人もいない。

 ザクロも、ポチも、ジョーカー仮面も、リペノも、ステラの戦士も、それぞれ役職を与え、責任を与えて、自分から離した。

「……」

 それでよかった。たとえ、それが、逃げているということだとしても。

「「「シンリ、シンリ、シンリ!」」」

 砂漠全体を覆いつくすほどの数のプレイヤー達の声は、鳴り止まない。人海戦術でつきとめたチョコの集落までは、今日中にたどり着くだろう。
 そのとき、どうなるのかは、相手次第である。

「シンリ様」

 役職も、責任も捨て、夜も寝ずにテントの外で見張っていたのは、ライだった。

「……」

 シンリは答えず、前に一歩出た。歓声が静まる。

「進め」

 シンリは静かに言った。静かな声なのに、一瞬で集団に浸透し、その軍は進行、あるいは侵攻をはじめた。

 シンリは、一人だった。

38.シンリ、夢3

2008年5月19日 Live2
 ――夢の始まり――。

 凶悪さ、禍々しさ、気持ち悪さ、どれをとっても一級品のダンジョンの奥底で、三人が見つけたのは、黒々としたただの玉だった。人間の拳ぐらいの大きさの黒玉は、三人が持つ松明の光さえ反射せず、無限の闇をその表面に湛えて、宙に浮いていた。

「こレが【禁忌】……?」

 黒塗りの人物が、とりやすい高さにあるその玉を取ろうと、手を伸ばした。

「……待て!」

 それを突然アイゼンが、大声で制した。何事かとアイゼンにパーティの視線が集まる。アイゼンは自分でも驚いたようで、言葉を探している様子だった。

「……悪い予感がする、としか言いようがない。やはり、GMから聞き出したバグの塊のアイテムなんかに、手をだすべきでは……」

 アイゼンは自分でも、今それは言うべきことではないとわかっていた。だが、言ってしまった。何かが言わせたのだ。
 しかし。

「何を言ってるのさ、市超。いや、【鉄壁】のアイゼンと呼んだほうがいいのかな? 今、カイドは賢者の石を持っているんだよ? 衆、シムシなんかの弱小国も、そんな強力な武器が「今」必要なのさ。
 ――せっかく、■▲■が情報を持ってきてくれたんだから」

 銀がアイゼンを諭す。■▲■は、おそらく黒塗りの名前だろう。

「――君の国の民のためにも、ね?」

 「民」。その単語が出てしまっては、アイゼンは何もいえない。銀ははじめから、知識の探求と、周のこと、そして好奇心を満たすことしか考えていない。

 なら、黒塗りの人は何を考えているんだろう?

 それを一番わかっていたのは、自分だと思っていた。

 今は【彼】のことを理解できていなかった。

 黒塗りの人物が、【禁忌】へと手を伸ばす――。
「あんたが【救世】のアレックスだな?」

 ある昼下がりのプロで、アレックスとNETはロッカク堂にて暇を潰していた。そんな気が緩みまくりの空気に割り込んだのは、いかにも理由あり気な二人組みである。少し背の高めの男と、ロングの紫色の髪が暗闇で映える、いかにも魔女な女。アレックスの顔がさっと「面倒そう」な顔に変わり、NETの顔がさっと「面白そう」な顔に変わる。

「? いや違いますよ」

 表情を変えず、アレックスはしれっと答えた。

「アレックス、その嘘は意味ないぞ。ネーム見えてるから。あと微妙に顔を背けると余計怪しいから」

 すかさずNETがフォローする。

「なんでそういうこと言うんですか! もしかしたらそのまま気付かず帰ってくれるかもしれないでしょ!」

 もちろん激昂アレックス。いつものパターンである。

「いや、アンタは99.9%、【救世のアレックス】だ」

 少し背の高めの男が、言った少し違和感のある言葉。

「……」
「……おお、珍しいな、【解析】か」

 元元老、NETは「ますます面白く」、【神速】のアレックスは「ますます面倒だ」、といったような表情に変化した。

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 四人は喫茶店でもないのに普通においてあるテーブル席に座り、喫茶店でもないのに普通においしいコーヒーを店主シンカに頼み、さあこれからどうしようといった空気になった。
 店主なのに全く客を敬う気配を見せずコーヒーを雑に置いたシンカは、さっさとカウンターに戻って新聞を読み始めた。

「あなたたちなら、気付いていると思って」

 そら来た。アレックスはすっかり毒され、昔のまじめさ、ピュアさをすっかり失い、いかに『楽』に生きるか、『ストレス』に悩まされず生きるかをいつも考えるようになっていた。これはいつもNETが側にいる成果である。「あなたたちなら、気付いていると思って」と言ったのは、背の高い方の男である。このような言葉が出だしでは、

「『世界に崩壊が近づいている』ことに」

 ほらぁ。思わず手で顔を覆い隠し、空を仰ごうとしたアレックス。NETの目はますます輝きだしている。アレックスに悪夢が訪れようとしていた。

「俺はアサト。こっちは魔女」
「ヘレナ。本当に、あなたは失礼ね。お二方も馬鹿ではないのだから、ネーム確認すれば自己紹介なんて不要でしょう。
 久しぶりにカイドの森を出て、プロくんだりまで来たかと思えば、なんでこんなことをしてるんだか……。私は賢者の石が手に入ればそれでいいのに……」

 口を開いた冷たそうな魔女は、まだ文句を言いたいらしかったが、

「世界を救いたいって、わけじゃないんだ。だけど、俺はまだこの世界を見て、視て、観て、診て、【解析】し尽くしていない。それで終わるのが嫌なんだ」

 アサトが言葉を紡いだ。

 それは、世界を救いたいということなんですよ。アレックスは優しく諭そうとした。が

「ああ、その通りだ。このまま終わらせてはいけない」

 NETに容易く阻まれた。

36.アメツキ、銀

2008年5月18日 Live2
「銀ちゃん、お疲れー」

「ええ、今回は大作ですよ、アメツキ」

 銀ちゃん、アメツキと気安く呼び合った二人。チャットルームにて。

「一つ目の『創作』は本当に楽しかったんだけどね。二つ目の『抽出』や『凝縮』はちょっとつまらなかったかな」

「ふふふ、一つ目の方が大仕事だったと思うんだけどなあ」

 銀も、アメツキも、めったに見せない笑顔を見せていた。しかし、部屋の空気の重さは変わっていなかった。

「コレはどうする?」

 銀が示したのは、大量の武具、防具の山だった。すべては第二の作品のために、『空(から)』になっているのだが。

「好きにしていいよ、捨てちゃってもいいし」

 ふらふらと手を振り、アメツキはその空間を立ち去ろうとしたが……。

「ごめん、面倒なことになっちゃった」

 突然その空間にネクターが現れ、すばやい動きでアメツキの後ろに隠れた。追って無言で突入してきたのは、空間を押しつぶすような質量、大量の砂だった。

「……」

 砂の隙間から除く赤く血走った目は、ネクターを捉えて離さなかった。

「……ごめーん、接触は避けようとは思ってたんだけど」

「……しょうがないな」

 面倒そうにゆらりと動いたアメツキは、一瞬で消えた。敵が視界に入っている、あるいは敵の座標さえ特定できれば、アメツキはその近くの空間に割り込むことができる。最強に近い先天性スキル、【テレポート】:A 。

「面白くないな……」

 砂を空間ごと押しのけてサーストの目の前に現れたアメツキは、サーストの頭を右手で鷲掴みにした。すかさず押しのけられた砂がサーストの意思を受け、1秒も経たずアメツキの胴体をひねり潰した。だが、しかし

「流石、残念」

 かまわず、アメツキは右手に力を込めた。サーストの頭がいとも簡単に、握りつぶされたトマトのようになり、砂が主の意思を失い崩れる前に、アメツキは元の空間へと戻った。

「ネクターは、大事だからね」

 まだ使える、の間違いでしょ。ネクターは思うだけに留めた。
 ――目を開けてシンリがまず行ったのは、自分の確認だった。

 自分は何者か。 わからない。

 何がしたいのか。 わからない。

 何を求めているのか。 わからない。

 テントから外に出る。シンリは考える。

 それぞれ、生きている、三十八名を見て。

 ……。

 シンリが抱いた、ただひとつ確かなものは、

 これ以上壊させない

 そのための力が、必要であること。

「――ライ」

「――はっ」

 自然と、敬語は消えていた。情報を伝達する上で必要がなかったからだ。余計な言葉は、余裕のあるときにつけたせばいい。

「三十分後に出発する。準備を頼む」

「……はい」

 ライは何名かと共に、跡形がかろうじて残った集落に使えるものを使えるだけ探しに行く。

「ポチ、訓練を」

「――はい」

 今すぐに? という言葉と疑問をポチは飲み込んだ。有無を言わせぬ雰囲気。――そして眼だった。

「――ザクロ」

「……はい?」

 最後にしよう。余計は、これが最後にしよう。シンリは自分に誓った。命にかけて誓った。

「今の私は、どうだろう?」

 

 

 

 

 

 ザクロは、一言だけ。

「――少し、悲しいです」

 ――でも、必要かもしれないです。
 またシンリの、【夢】。

 黒で塗りつぶされたヒトと、旅を始めてかなり経った。

 共に多くの景色を見て、共に多くの危機を乗り越え、共に多く笑った。

 他のプレイヤーとの出会い、別れ。モンスターとの戦い。時には逃げた。
 その全てに感動した。私はいつのまにか全て、そう何故か『全て』が愛おしくなってしまった。

 風の音。草の香り。太陽。月と星。プレイヤー達の会話。足音。馬車の車輪。

 そんな当たり前のことでさえ、いや、当たり前だからこそ、全ては素晴らしい。

 食事を終え、黒塗りのプレイヤーが現れた。相変わらず、何を言っているのか聞き取りにくい。
 しかしどうやら、新しい仲間と財宝を手に入れる、といった内容のことを言っているようだ。

「紹カイ、シテおコウ。ギン、アイゼンだ」

 美しい銀髪のプレイヤーと、頑丈そうな鎧を纏った壮年の男が、笑っていた。ギン、とよばれたプレイヤーが私の頭に手を置いた。

「よろしく」

 子供のような扱いに文句を言う暇も無く、満面の笑みで言われたのだから仕方が無い。私は黙った。アイゼンと呼ばれた男はその様子を両腕を組んでただ見守り、微笑んでいた。
 一目でわかった。この二人のプレイヤーは、私の『大切な黒塗りのプレイヤー』と同じく、とても【良い】属性のものだ。この二人のプレイヤーは、決して友を、国を、裏切らない。裏切ろうとしてもできない属性だ。何故今そんなことを思ったのだろう。今だからこそ思えるからだろうか。

 その後に起こる、【サイ【災厄】アク】な出来事の原因を、まず一つあげるとするならば、このパーティが素晴らしすぎたことかもしれない。

33.心理、心裏

2008年4月27日 Live2
 圧倒的な力には、圧倒的な力を。

 まさしくそのままに。

 大津波に飲み込まれた砂とサーストは、その場から何百メートルも押し流された。全身の包帯が濡れ、湿った砂の上を何メートルも転がって、サーストはようやく止まった。全身の包帯は水と砂で汚れてしまった。

 サーストの右目が、みるみる血走っていく。

 ----------------------------

 津波の後の静けさの中に、生き残ったものたちは佇んでいた。
 片手を津波が発生した空間に掲げたまま、謎の少年(青年?)は、口の端を少しつりあげて不敵に笑っていた。

「危ない、危ない」

 そしてわざとらしく、片手で額の汗をぬぐうポーズ。

「ここで死なれちゃ、困るもんね!」

 シンリを見て、にっこり!

「それじゃ!」

 名前確認する間もなく、その少年は、去った。
 シンリは、ザクロは、ライは、呆然としていた。

 ----------------------------

「――生き残ったのは、三十八名です」

 族長のテントに、その集落の全プレイヤーが集結していた。逆に言えば、一つのテントに入りきる人数が、今の現実の数である。

「襲ってきたのは【砂漠】のサーストで間違いないでしょう。――そして少年のほうですが……、結局は誰もネーム確認をしておらず、詳細はわかりません。【全魔法行使】を使用した、という情報もありますが……間違いないでしょうか?」

 一人立ち上がって、淡々と情報の整理をしていくライ。幾名かが意見を述べ、また次の情報整理に移る。

「次に今後の私達の方針と、集落の皆さんの方針についてですが……」

 一人、テントの隅、闇の中で、シンリはただ考えていた。

「この人数では集落の維持は――」

 ライの言葉に、ノイズが入っていく。シンリの心理はある一点に向かって収束する。

「――難シく、だ―らこそ――」

 まばたきを、呼吸を忘れ。

「――、――」

 ただ、 がいル。

 シンリの両目から、血の涙が一筋だけ。

32.砂、水

2008年4月5日 Live2
 たまらずサーストは、焦りと恐怖を砂で具現化させた巨大な【砂人形】の内部へと逃げ込んだ。
 体長は五メートルを軽く超え、あまりの質量にぼろぼろと砂を零しながらも拳を振り下ろす砂人形。衝撃に飛び散る砂とプレイヤー達。
 だが、そこにはやはり恐怖はなく。

 状況は絶望的。圧倒的な力の差。だが、それでも立ち向かう。

(……? ?)

 サーストには理解できない。

「あああーー!」

 シンリは力の限り叫んだ。そして虚無の瞳から大量の涙を流す。

 “力さえ、あれば!”

 誰も傷つかず、誰も泣かず、誰も悲しまず、

 誰もが笑えるはずなのに!

「あああああああああ!」

 シンリは涙が止められなかった。自分の顔を両手で覆っても、意味が無いことだった。ザクロとライは戸惑う。

 しかしサーストからすれば、シンリはたまらなく不気味。全ての元凶はシンリだと、思ってしまい、それが事実だということに気付くほどに。

 砂巨人がシンリの方向に向き、その大きな拳を振り上げた。泣いても、いくら嘆いてもシンリと、今ある戦力では、勝てないのだ。それを残酷に、体中に切り刻まれて実感したシンリ。ただ、情けないという思いだけが残る。

 ポチが疾走する。走電が砂巨人にとりつき破壊しようとする。だが、全てが間に合わない。

「さーて、どれにしようかな……」

 呟きは、シンリのすぐ傍で聞こえた。シンリはすぐ右横を見る。そこには、まだ顔に幼さを残す男が、立っていた。ザクロとライも驚く。やはり、誰も知らなかった。服装はTシャツにジーパン、簡潔。世界観に合わない、もちろん砂漠にも合わない。むしろ現代に合う、何処にでもいるような……そんな存在。
 だからこそ、今この場では異質な存在。

「やっぱり砂漠なら、水だよねぇ。

 【全魔法行使:水魔法:大水流『タイダルウェーブ』】」

 シンリ達の目の前の空間に突然、大量の水が渦を巻いて現れた。瞬く間に量を増やし、砂巨人の巨大な拳を受け止めた水流は、爆ぜ、一瞬で拡大。まさしく巨大な【津波】となって、砂巨人を飲み込んだ。

 一瞬の、出来事だった。

31.静かな、声

2008年3月25日 Live2
 【 無 力 】

 力なきこと。それ以外ありえないほど。

 目の前で真っ二つにされたプレイヤー達の鮮血がシンリの涙と重なった。

 同時にシンリの瞳から、子供のような輝きが失われていく。

 それはまるで、人間より人間らしく、世界一のお人好しであろうとしたシンリという人格を消し去り、元来、または根源の【本能】を呼び覚まそうとしているようでもあった。
 その【本能】が、シンリにはあるのだ。

「『怖くない』」

 シンリの声は静かだった。しかし、空気を凍らせるほど冷たく、暗闇の底から響くような声でもあった。それは何故か静かでありながら凍った空気を一瞬で這い伝わり、そこにいたプレイヤー達全員の脳へ響いた。

(これは怖くない)

 信じた。数十人が一瞬で死んでも、圧倒的力を見せられても、その集団にパニックはなかった。指や腕が取れたプレイヤーも、冷静に自分の傷の酷さ、周りの状況を把握しはじめた。シンリとサースト以外のプレイヤーには、この戦場、惨状に対する『恐怖』がなくなった。

「……?」

 その静かさに、逆に恐怖を覚えたのは、サーストである。と、いっても、両耳を完全にふさいでいるサーストには、シンリの言葉は届かず、【死んだほうがいい】という言葉を信じなくてすむということなので、誰が何を言っているのかわからないということではあるが、唇を読むことぐらいはできるし、空気の震えぐらいもわかる。いくつもの混沌の戦場を渡ってきたサーストには、それがわかる。

 こいつらは、恐ろしいほど静か。

 渾身の、最も効率の良い【殺し】を実行したサースト。実は、砂人形での遊びで逆上し、ただ単なる殺しを実行した。いうなれば彼は『子供』である。ただ渇きを欲し、自分の目的が達成できなければ、駄々をこねる。
 そんな子供は、やはり自分の思い通りにならなければ面白くない。疑問がつきない。泣きたくなってくる。

(生ヘノ渇望ハ ナイノカ……!?)

 サーストは、Liveにログインして初めて、焦りと恐怖を覚えた。
 ――試練

 ――まあ、練習か

 この世の中には、『偶然』などない。

 そう確信しているアメツキにとって、『奇跡』や『才能』は世界に必要のない言葉だった。

 奇跡は起こるべくして起こる。才能はアメツキには似合わない言葉だが、結局は『努力と環境の賜物』である。と、彼は断言する。

 もちろん、そうではない、と思われる事例は世界にいくらでもある。だが、それら全てを目の当たりにし、あるいは体験したとしても、アメツキの考え方は揺るがないだろう。自らが持つ先天性スキル、『テレポート』さえも何らかの因果が働いたとアメツキは考えている。

 アメツキにとって、『奇跡』は起こすもの。『才能』は努力して得るものなのだから、

 そんなアメツキにとって、練習とは、試練とは、とても大切な事柄なのである。

 ----------------------------------

 つまり、覚悟する以外、選択肢はなかった。

 砂の一粒一粒さえ、確認できるところまで、大津波は迫っていたのだから。

 呑み込まれるまで何秒もあると感じたのは、走馬灯の一種ではないか、と思えた。

 だが、その集落の東側に集結した総勢およそ百のプレイヤーは、もう数秒後にようやく目を開け、気付くことになる。

 そして、誰もが目を閉じれなくなった。

 映画のワンシーンを切り抜いたかのように、砂の大津波がプレイヤー達の眼前で止まっていた。まさしく、止まっていた。本来ありえるべき、重力による自然落下、物理法則を抑えきり、止まっている。それはかなり難易度の高い止まり方だった。その不自然な止まり方は、津波を起こした張本人の仕業とは、とても考えにくい止まり方ではある。だが、その張本人にぐらいしか、そんな止め方ができるプレイヤーはいないようにも感じる。時なんかを止めたりできるプレイヤーがもし存在するのならば、話はまた別になってくるが。
 事実は、津波は止まり、シンリ達はまだ生きているということだ。津波が集落を襲った理由も、止まった理由もわからず、ただ身を寄せ合うしかないおよそ百人のプレイヤー達。だが、あまりの静けさ、不気味さに、誰も一言も声を発せない。身じろぎさえできない。何か喋れば、空気を動かしてしまったら、また津波が動き出しそうで恐ろしかったこともある。

 だが、そんな静寂に構うことなく、津波は再び蠢きだした。

 一瞬怯えたプレイヤー達。しかし、次は動き方が違った。津波が細かく分裂し、ぼたぼたと形をそのまま垂直に崩し始めた。結局プレイヤー達に直接の影響はなく、大きな山となった砂粒は、さらに蠢き、分かれ、大雑把な人型をした砂人形を形作っていった。

 ――それらが、数百にも及び、大群となるのにそう時間はかからなかった。ゆらゆらと体をゆらし、人間の輪郭だけまるで取り繕うかのように作られた、できそこないの砂人形。あまりの不気味さに誰も声を発さない。発せない。
 シンリはその光景を見て、正直、心の奥底では安堵していた。先ほどまでの砂の津波という単純な大物量と大エネルギーの攻撃に比べれば、まだ個体のスペックがわかっていないとはいえ、ある程度カタチとなった砂のほうが扱いやすいと考えるのは、自然である。また、その砂人形のカタチを保つのに、操作者が無駄なエネルギーを使っているであろうことは簡単に予想でき、まあ結局はその時すぐ迫っていた「死」が少し先伸ばされたことだけに、シンリは安堵していたのかもしれない。逆に考えれば、何故そんな状況で自らを不利に追いやったのか。一線を越えたPK(プレイヤーキラー)の思考を追うのは無駄、と疑問をばっさりあっさりきっておとし、シンリはプレイヤー達へ号令した。

「敵が攻撃を止めた理由はわかりません!
 ですが、生き残るために、私達は戦うしかありません!
 『『協力すれば必ず勝てます!』』

 声はシンリが思っていたより大きく、響いた。今は。前に進むしかないのである。

 『協力すれば必ず勝てる』。シンリの言葉が【カリスマ】というスキルによって増幅された悪くいえばある種の呪いとなって、プレイヤー達の思考に入り込む。プレイヤー達はシンリの言葉を疑問に思うこともできず鵜呑みにし、信じる。

 【協力すれば】【勝てる】。

 確定事項。最早プレイヤー達の間では、その言葉の意味あいは【朝になると】【太陽が昇る】と同じ程度になった。戦闘系のプレイヤーは剣を、槍を、各々武器を構えた。ポチは最初から抜き放っていた剣を月明かりで照らし、走電は両拳をぱきぱきと鳴らした。ライはシンリの横で控え、ザクロが怯えを瞳から消した後で。

 サーストは、住民達に【生への渇望】を見出し、満足した。

 集落の戦闘系プレイヤーは67名(走電含む)。プラス、シンリ陣営7名(ポチ、ステラ兵三名(ムラビ、ウルフ、キョウ)、ザクロ、ライ、シンリ)。合計74名。

 大して砂人形は、術者の力が尽きるまで、∞(ムゲン)。

 不利には、変わりがなかった。

 砂人形達の戦略は、結局は先ほどの大津波とほとんど変わらない。

 ただ単に、『量』である。

 一つ一つの個体は、やはり見た目どおりたいしたことはなかった。剣で一回薙げば、豆腐のように軽く切れ、崩れ落ちる。何か武器を持っているわけでもないので、攻撃を恐れる必要は何もない。

 ただ単に、『量』である。

 『質より量』。

 最前線で戦っていたプレイヤーの一人に、砂人形が抱きついた。そのプレイヤーは振り払おうと暴れたが、既に二匹目が背中に取り付いてた。砂なので、もちろんそれなりに重い。少し動くのが困難になり三匹目。それを助けようとしたプレイヤーもいたが、砂人形はあまりにもろく、中のプレイヤーを助けるためにはそれなりの力加減が必要になり四匹目。既にプレイヤーの体がかけらも見えなくなり五匹目。なりふり構わず助けようとしたプレイヤーに背中から一匹目、さらに重なる六匹目、七匹目。
 ついに大きな砂山ができた八匹目。なかで何かつぶれる音がしても九匹目。サーストは砂の中で目を見開き、

(……!!)

 歓喜。実際、声にならない声を出したサースト、砂に染みた血で渇きを癒し十匹目。砂の山の下から昇天の光が立ち上った。その壮絶な殺し方は、質より量。そう、先ほどの大津波と全く変わらないのだ。

「う、うわあああああ!」

 パニックは伝染する。何も見えなかった位置にまでいたプレイヤーにまで伝染する。それはまた別の津波となってプレイヤー達を襲い、一瞬で飲み込んだ。
 ポチが動く。砂人形の撃破より、砂人形に取り付かれたプレイヤー達の救出にスイッチを切り替える。プレイヤー達の皮一枚スレスレを狙って砂人形だけを切るのは、ポチにとっては容易かった。だがしかし、それは後手。
 次々と立ち上る昇天の光。しかし、この辺りでもう容易く崩れる大軍を多く見てきたサーストに誤算。プレイヤー達が協力して、砂人形にとりつかれたプレイヤーを助け始めた。そう、彼らの根底にはまだ、『協力すれば勝てる』という言葉が残っているのだ。それを全員が徹底すれば、砂人形の量に押されることは少なかった。そう、一で敵わなければ、十で立ち向かえばいい。そんな簡単なことが、なんと難しいのか。だが、シンリの軍ならやり遂げることができるのだ。惜しむべきは、あいてが百だということ。昇天の光は止まらなかった。

(……)

 シカシ、クズレナイ。サーストの誤算は苛立ちに変わり、自身あまり経験したことのない時間帯にうつる。ライがプレイヤー達の位置、つまり陣についてシンリに進言した。五人ほどの小隊編成、前方向(この場合は砂人形の発生位置)の戦力強化を目論んだ、変形陣である。ステラの兵士、キョウ、ムラビ、ウルフの三人が伝令役を務め、最前線の指示が通りにくい小隊達には一時的にポチが直接指示を出す形態に自然となった。それは見事にはまり、砂人形はポチに切られ、走電に拳圧だけで吹き飛ばされ、プレイヤー達の協力によって、作業的といえるまでに確実に、排除されていった。
 砂から砂人形が生まれるまでには若干のタイムラグがある。出現場所はまちまちだが、主に発生しているのは津波跡の砂山からだ。その地点を制圧できれば――。

「……なっ!」
「……あ、あああっ!」

 一番早く、同時に気付いたのは、二名だった。最前線と最後線。つまりはポチと、シンリだけである。

「「伏せろぉおおお!」」

 二人の言葉は結局、最前線と最後線のごく一部にしか届かなかった。

 正面から見れば、【線】である。それが伏せたポチの頭上を通り過ぎたとき、ぱらぱらと落ちた少量の砂。

 ナニカが通り過ぎた後、立っていた多くのプレイヤー達は、疑問の表情で叫んだポチを見ていた。

 何故か、動いてないのに、ズレていく視界。踏ん張ろうとしても、踏ん張れない。倒れる。表現が正しくない。上 半 身 が 落 ち た。目の前に自分の足が見え、そのプレイヤーは絶叫した。
 
 恐ろしい程の長さ、狂っている程鋭利な砂の刃は、最前線で戦っていた、ポチの言葉に反応できなかった者達の胴と下半身を切り離し、半ばから前線を援護していたプレイヤー達も無慈悲に切断。最後にシンリの言葉に反応しようとして、しゃがもうとしてた数人のプレイヤーの首を、体から切り落とした。

 それだけですんだ、と言えば、世界のほとんどの出来事が「それだけですんだ」になってしまうだろう。だが、それは「それだけですんだ」のだった。

 約四十名。戦闘系プレイヤーは半数以上が昇天。後方で控えていた生産系プレイヤーにもそれなりの被害が出た。刃の起点を見て、愕然とする残ったプレイヤー達。避けようとして、腕や足だけが落とされたプレイヤーも多数いた。シンリに無理やり伏せさせられたザクロは、顔をこれでもかというほど歪め、ライは驚愕を隠せない。

 シンリが何事か叫んだ。

 赤い雨が降り、血を大量に吸った砂漠。

 砂の中から、ミイラ男、【砂漠】のサーストが現れた。

29.砂、津波

2008年2月24日 Live2
 その時、集落は暗黒に包まれた。

 近づく地響き音。月の明かりを遮ったナニカは、もうすぐそこまで来ていた。

 砂漠ではありえないその光景を見て、誰もが眼を疑い、何事かとテントの外に出た、寝ぼけ眼のプレイヤーたちは、なんだ夢かと再び床についた。

 それほど、現実感のない光景だった。

 だが、現実に起きている光景だった。

 巨大な【津波】が、シンリ達のいる集落に向かって、襲い掛かってきていた。それは遠くから高速度で集落に近づいているにも関わらず、あまりの規模に人々たちからはゆっくり進んでいるようにしか見えなかった。
 だが、逃げ場は無かった。その津波は地平線いっぱいに広がって、着実にその集落を飲み込もうとしていた。最早、その現実を受け入れない以外に、逃げる術はなかった。

 だがまだ宿への帰り道の途中でその光景を発見したシンリは、真っ向から立ち向かう。

「ポチさん!」
「はいっ!」

 宿から恐るべき判断とスピードで一番乗りで到着したポチが、急ブレーキによる砂煙を巻き上がらせながら、いつのまにかシンリの横で跪き指示を待っていた。

「すぐさま住民へ非難を促してください! 場所は東門! 分散しては駄目です! 一点に集めましょう」
「はい!」

 一番早くシンリの元へたどり着いたポチを、一番迅速さが要求される役割へ。その場から消えるような速さで走り去ったポチの次に到着したのは、ライである。

「シンリ様!」

「おしい! ライくんは二着! あの馬鹿げた津波について何か知ってるかい!?」

 シンリは段々近づいてくる地響きを無視するように言った。

「あれはおそらく【砂漠】の異名を持つSクラスプレイヤーキラー『サースト』の『砂津波』サンドタイダルウェーブです!」

「一つ最も助かる仮説があるんですけど」

「俺も【幻術】とかならいいと思います! ですが恐らく本物です! 集落にいるプレイヤー全員に幻を見せるのは無理がありますし、馬鹿げた光景ですがSクラスの奴らならあれくらいできます!」

 それは最早【天災】クラスといっていい。あれを個人が起こしたのなら、どれだけのエネルギーがどこからわいてきたのか。そんな考えてもしょうがないことを考えてしまうほど、シンリは焦り、状況は切迫していた。

「止めるならプレイヤーを倒すのが一番手っ取り早そうですが、サーストは姿すら滅多に見せません! あの津波を消すのは物理的に不可能に近いですし、あれを防ぐ程のバリアや建築物はこの集落にはないと思います!」

 ライはこの状況でも冷静で的確だった。なるほど元々狡賢かっただけあって中々賢いのだとシンリはライの能力を把握したが、それで状況が何か進展するわけでもない。
 地響きが最早体全体で感じ取れるまでに成長してきた。空の半分ほどを喰ってしまった津波が、シンリ達の目前まで迫る。
 その時、三人のステラの戦士も遅れて到着した。

「途中でポチさんと合流して住民への非難勧告を実行しました!」

「グッジョブです! では私達も東門へ移動しましょう! 急いで!」

 結局、シンリ達は何も打開策を見出すことはできなかった。

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