「ぐへへ、チャットルームはなくなったとさ」
「……そうですか、……やはりね」
ルツェンのある宿屋で、かつては【暴君】、かつては【炎帝】の二つ名を持っていたプレイヤーが、二人。
「と、いうことは、この子の受取人は行方不明ということですね」
「ぐへへ、そうだなあ……」
ベッドには、かつて【無神】と呼ばれていたモンスターが一匹。
「こんな小娘がなあ……最強最悪? ぐへへ!」
「……気を抜いてはいけませんよ」
「ぐへへ、わかってるって。オラの【幻惑】がここまで効いたのは、まだ第二段階だったからだろう?」
「……貴方、頭が悪いフリをしていませんか?」
「ぐへへへへ」
なんだかんだ言いながら、この二人は結構仲が良かった。
チャットルームはなくなった。ここ、シムシ極東ルツェンの町から、大陸極東チャットルームまで行く理由は、もうない。
「これからどうするぅ?」
「……どうしましょうね」
協力してくれたプレイヤーを焼いてみようか。撒いたエサを食べにきた小鳥を焼くのも面白そうだ。東から来るであろう集団を待つのもいい。だが、最も楽しそうなのは……。
「……」
静かに眠っている【無神】の顔を、フルファイアはサングラス三号をずらしてよく見た。
……フルファイア、狂気の笑みを抑えきれず。
「……そうですか、……やはりね」
ルツェンのある宿屋で、かつては【暴君】、かつては【炎帝】の二つ名を持っていたプレイヤーが、二人。
「と、いうことは、この子の受取人は行方不明ということですね」
「ぐへへ、そうだなあ……」
ベッドには、かつて【無神】と呼ばれていたモンスターが一匹。
「こんな小娘がなあ……最強最悪? ぐへへ!」
「……気を抜いてはいけませんよ」
「ぐへへ、わかってるって。オラの【幻惑】がここまで効いたのは、まだ第二段階だったからだろう?」
「……貴方、頭が悪いフリをしていませんか?」
「ぐへへへへ」
なんだかんだ言いながら、この二人は結構仲が良かった。
チャットルームはなくなった。ここ、シムシ極東ルツェンの町から、大陸極東チャットルームまで行く理由は、もうない。
「これからどうするぅ?」
「……どうしましょうね」
協力してくれたプレイヤーを焼いてみようか。撒いたエサを食べにきた小鳥を焼くのも面白そうだ。東から来るであろう集団を待つのもいい。だが、最も楽しそうなのは……。
「……」
静かに眠っている【無神】の顔を、フルファイアはサングラス三号をずらしてよく見た。
……フルファイア、狂気の笑みを抑えきれず。
体力・魔力共ニ、規定値ニ達シタ。
キャラクタート、遭遇。
ネーム:確認、エラー。
再度、確認、エラー。
……?
エラー、エラー、エラー、ダレ!? ダレ!?
アアアエラーアアアエラーアア!?
エラー抹殺推奨。(消去)
*
大丈夫、大丈夫……。
――。
大丈夫……?
対象、照合作業。
「君ハ……ダレ?」
対象、変化有リ。(消去)
モンスター、イレブン。
疑問、思考推奨。(消去)
プレイヤー、デハナイ。
抹殺推奨。(消去)
プレイヤー、デハナイ。
抹殺推奨。(消去)
プレイヤー、デハナイ。
抹殺推奨。(消去)
プレイヤー、デハナイ。
……嬉シイ。ドウスレバ。
――。
インプット、【アリガトウ】。
――。
キャラクタート、遭遇。
ネーム:確認、エラー。
再度、確認、エラー。
……?
エラー、エラー、エラー、ダレ!? ダレ!?
アアアエラーアアアエラーアア!?
エラー
*
大丈夫、大丈夫……。
――。
大丈夫……?
対象、照合作業。
「君ハ……ダレ?」
モンスター、イレブン。
プレイヤー、デハナイ。
プレイヤー、デハナイ。
プレイヤー、デハナイ。
プレイヤー、デハナイ。
……嬉シイ。ドウスレバ。
――。
インプット、【アリガトウ】。
――。
僕は、何になりたかったのだろうか。
……国を守る、兵士?
ここは衆。ステラという集落。
薄い布の上で、マグマが腹部で暴れまわっているような感覚に耐え、トレーニングを続けていた。
「ちょっと! 絶対安静です! 何トレーニングしてるんですか! お腹から血ィ噴き出ますよ! おとなしく死んでいてください!」
……彼女の『癒し』に対するこだわりは本当に凄い。強く言わないと僕がおとなしくできない性格であることも知っているのだろう。彼女はそこまで気を使ってくれているのだ。……きっと。
「兄ちゃんも癒しの泉を見にきたのかい? あの泉は不思議だよ。傷がたちまち治ってしまう」
赤銅色の肌をした老婆が、この集落の長だった。目じりは垂れ下がっていて人のよさそうな顔をしていた。
「いいよ、その傷は軽いものではあるまい。ようこそステラへ。歓迎するよ、怪我人」
だが、辛辣だった。
その集落の民も、ザクロさんも、僕には良くしてくれた。しかし、傷は思いのほか深かった。
*
戦場の夢を見た。誰かを殺した。仲間が死んだ。
(貴方は仲間を守ってくれました)
そう言ってくれた隊員が、死んだことも思い出した。
そして次は、僕の番だった。
血の水溜りの中に、倒れた。
*
僕がなりたかったものは……仲間を守れる強い人?
傷は中々治らなかった。噂の癒しの泉に行き、ザクロさんに白魔法を腹部の傷に施してもらっても、中々傷は塞がらなかった。
「毒、ですね」
「毒、ですか」
「ええ、本当に意地の悪いっ、毒です!」
僕より彼女の方が、悔しそうで必死だった。
*
僕は、何になりたかった?
*
……英雄?
「まあ兄ちゃんゆっくり治していきな」
ここにきて、数日。歩くこともハードだった初期に比べれば、僕の体調は格段に良くなっていた。
「……もっと早く治ってもおかしくないのに……」
ザクロさんには怪しまれていたけれど。
「チョコが移動したそうだな」
「……」
この集落で一番強く、一番気の良い男は、よく僕と話をしてくれた。
「なんだか、怖いな。今衆は真っ二つに別れている。それに、あの最大の集落チョコの移動。……衆、いや世界が、なんだか大きく変わっているような……」
それがその男との、最後の会話だった。
銀派を名乗る一派に切り殺されたその男は、テントから飛びした僕に腕を伸ばそうとしたところで、昇天した。
*
僕は、何に。
今は、この集落を守るプレイヤーに。
*
周派も銀派もなく、静かに『癒しの泉』を守る集落、ステラ。そこにいる気のいい人々、そしてザクロさん。
……守ろう。
引き抜いた剣の血を一振りして飛ばし、鞘にしまった。同時に、複数の昇天音。銀派と名乗る一派は全員殺した。集落を脅かす者は全員切り殺した。
血を吐いた。腹部の包帯に血が滲んだ。
その後も僕はちょくちょく、そういうことを繰り返した。
(もちろんザクロさんに見つからないように)
だ。
……国を守る、兵士?
ここは衆。ステラという集落。
薄い布の上で、マグマが腹部で暴れまわっているような感覚に耐え、トレーニングを続けていた。
「ちょっと! 絶対安静です! 何トレーニングしてるんですか! お腹から血ィ噴き出ますよ! おとなしく死んでいてください!」
……彼女の『癒し』に対するこだわりは本当に凄い。強く言わないと僕がおとなしくできない性格であることも知っているのだろう。彼女はそこまで気を使ってくれているのだ。……きっと。
「兄ちゃんも癒しの泉を見にきたのかい? あの泉は不思議だよ。傷がたちまち治ってしまう」
赤銅色の肌をした老婆が、この集落の長だった。目じりは垂れ下がっていて人のよさそうな顔をしていた。
「いいよ、その傷は軽いものではあるまい。ようこそステラへ。歓迎するよ、怪我人」
だが、辛辣だった。
その集落の民も、ザクロさんも、僕には良くしてくれた。しかし、傷は思いのほか深かった。
*
戦場の夢を見た。誰かを殺した。仲間が死んだ。
(貴方は仲間を守ってくれました)
そう言ってくれた隊員が、死んだことも思い出した。
そして次は、僕の番だった。
血の水溜りの中に、倒れた。
*
僕がなりたかったものは……仲間を守れる強い人?
傷は中々治らなかった。噂の癒しの泉に行き、ザクロさんに白魔法を腹部の傷に施してもらっても、中々傷は塞がらなかった。
「毒、ですね」
「毒、ですか」
「ええ、本当に意地の悪いっ、毒です!」
僕より彼女の方が、悔しそうで必死だった。
*
僕は、何になりたかった?
*
……英雄?
「まあ兄ちゃんゆっくり治していきな」
ここにきて、数日。歩くこともハードだった初期に比べれば、僕の体調は格段に良くなっていた。
「……もっと早く治ってもおかしくないのに……」
ザクロさんには怪しまれていたけれど。
「チョコが移動したそうだな」
「……」
この集落で一番強く、一番気の良い男は、よく僕と話をしてくれた。
「なんだか、怖いな。今衆は真っ二つに別れている。それに、あの最大の集落チョコの移動。……衆、いや世界が、なんだか大きく変わっているような……」
それがその男との、最後の会話だった。
銀派を名乗る一派に切り殺されたその男は、テントから飛びした僕に腕を伸ばそうとしたところで、昇天した。
*
僕は、何に。
今は、この集落を守るプレイヤーに。
*
周派も銀派もなく、静かに『癒しの泉』を守る集落、ステラ。そこにいる気のいい人々、そしてザクロさん。
……守ろう。
引き抜いた剣の血を一振りして飛ばし、鞘にしまった。同時に、複数の昇天音。銀派と名乗る一派は全員殺した。集落を脅かす者は全員切り殺した。
血を吐いた。腹部の包帯に血が滲んだ。
その後も僕はちょくちょく、そういうことを繰り返した。
(もちろんザクロさんに見つからないように)
だ。
私だけが楽しい衆 イメージアップ大作戦
2007年3月4日 LIVE番外編 コメント (3)「この頃、衆がプレイヤー達の間で悪く言われているそうだ」
「へえ……そうなんですか。シュウちゃんったらそんなこと気にしてるんですか」
「茶化すな銀。確かに民の噂などおれは気にしない。だが、衆が他国になめられるわけにはいかないのだ」
「おっしゃるとおりで」
「筋肉馬鹿だとか、見栄えが悪いだとか、環境が厳しいだとか、魅力的な要素がないだとか」
「その通りだと思いますけどね……」
「とにかく! このままでは新規の人材も尽きてしまう。今、衆には良いイメージが必要なのだ! 強い、凄い、かっこいい! そんなフレーズが必要なのだ!」
「珍しく熱くなっていますね」
「と、いうことでおれは模擬戦を開こうと思う」
「……どういうことかわかりませんが、なるほど。ちなみに何処と?」
「もちろんシムシだ」
二日後。
“レディースエーンジェントルメーン! ようこそ皆様アレクサンドルコロッセオへ! これから開かれますシムシvs衆(因縁の対決)模擬試合は五人対五人の団体戦! 先に三勝した方が勝ちとなります! ナレーターは私、なんでもそつなくこなすと評判の7−7が務めさせていただきます!”
アレクサンドルコロッセオ全体が震えるほどの歓声。
“ありがとうございまーすありがとうございます。さて、早速ですが両国の代表の挨拶です!”
『周だ。この戦いで衆の強さを全世界が知るだろう。守るだけでは勝利がないことをそこの老人に味あわせてやる』
“おーっと、衆代表周さん! いきなり挑戦的だー! もちろんコロッセオはブーイングの嵐!”
ブーブー!
『アイゼンだ。皆のもの、落ち着きたまえ。南の民達は必死すぎて余裕がない。ここは我々の優雅な戦いを見せてやろうではないか』
ワー! ワー!
“おーっとアイゼン様も負けていない! お互い睨みあいながら固い握手を交わします!”
「今日はよろしくお願いするぞ、周よ」
「相変わらず重そうな鎧だなアイゼン。無理するな」
“それでは早速第一試合です! 第一試合:周代表、空牙vsシムシ代表7−3!”
「おっしゃー! 出番だ! 久しぶりに出番だ!」
「見ててくださいアイゼン様ー!」
“戦闘描写は面倒なので観客の皆様は会話だけでフィーリングしてください! それではファイト!”
「音速!」
“おーっと、空牙選手、突然消えました! 初っ端から全開だー!”
「む、速いな!」
「さらに加速! 加速! ふははは! 音速で移動する俺の動きを」
「物理防御バリア!」
バリーン
「ぎゃああ!」
“勝者、シムシ国7−3!”
「馬鹿め、そんなスピードでバリアにぶつかればどうなるか考えなかったのか。やりましたよ、アイゼン様ー♪」
“あっけない! あっけなさすぎるー! アイゼン様、何か一言!”
「うむ」
「ぐぐぐ……何をやっているんだ空牙……」
“さあこんな感じで進めていきます! 早速第二試合:周代表空羅vsシムシ代表7−6!”
「何故ボクはこんなところに……」
「…………死にたい」
“どちらとも乗り気ではないようですが問答無用でファイトッ!”
「あ、7−6さん、あの……」
「……死にたい……」
「あの……」
「…………死にたい」
“おーっと、7−6、塞ぎこんでしまいました! これは戦闘不能とみなしますっ! 勝者、衆代表空羅ッ!”
ワー! ワー!
「……なんなんですか、これ」
“空羅選手から当然の疑問が出ましたっ! さて、周さん、コメントをどうぞ!”
「当然だ」
“当然だー! 当然だときました! それではどんどん次の試合です! 現在戦績は1対1の互角! 第三試合:周代表謎のジョーカー仮面vsシムシ代表コメタロー!」
「これは愉快な舞台だな!」
「僕と戦うというのかい!」
“やっとまともな対戦が見れそうです! 風のような速さでファイトッ!”
「……しまった」
“コメタロー選手、何かに気付いたようです!”
「飛ばす物がない!」
“致命的だー! 念動力の達人のコメタロー選手! 残念ながら飛ばす物がなければただの人です!”
「それは気の毒だな」
“不敵に笑った感じを醸し出す謎のジョーカー仮面選手! しかし顔は見えません!”
「おりゃあああ! ストレートマグナム!」
“放ったぁ! 結果的にはただのパンチを放ちました謎のジョーカー仮面選手の勝利です! なんとこれで2−1! 衆国が勝利に王手です!”
「ふはは! どうだアイゼン!」
「……くっ」
“どうやら周さんは完全に勝った気でいるようだー! それでは段々面倒になってきた第四試合! 周代表ヒラタvsシムシ代表アメツキ!
「私、周に所属してないんですけど……」
「オレハナゼココニイル……」
“色々言いたいことはあるでしょうが第四試合、ファイトッ!”
「うーん、しょうがない。変身」
“おーっと、ヒラタ選手ミノタウロスに変身しました! アメツキ選手はどう出るっ!?”
「……無理だろ」
“デターッ、無理だろーっ! アメツキ選手は無理だろと判断しました! あ、あれ? おーっと!? なぜかヒラタ選手がコロッセオの四方に飾ってある像を見て、わなわなしだしたぞ!?”
「英雄……」
“ミノタウロスは英雄が弱点だー! ヒラタ選手、コロッセオの四方に飾ってあった英雄の像を見つけてしまったー! そのままヒラタ選手は倒れてしまいました! 奇跡の大逆転アメツキ選手の勝利! これで2−2のイーブン! 勝敗は最後の戦いに託されました! 両代表一言!”
「おれ達は負けん」
「最後の選手を信じます」
“月並みだー! さあそんなこんなで第五試合最終戦! 衆代表! 最強! 不敵に笑う召喚士、銀ー!”
「ふふふ……」
“怪しい煙の中から登場しましたー! これは今までの雰囲気とは違います! バーサス! シムシ代表、超絶ルーキー、【隻眼の剣士】、ポーーーーチーーーー!」
ワー! ワー!
「なんなんだこの空気……」
“それでは、両雄ラストを飾るに相応しい戦いを期待します! レディー、ファイトッ!”
「【召喚】」
“いきなり来ましたーっ! 銀の【召喚】! 強力なパートナーを異次元から召喚するスキルです! これは早々に止めなければやばいッ!”
「……」
“しかしポチは見ているっ! 見ています! 腕を組んで見ています! 無防備な相手は攻撃しない! まさに騎士道ど真ん中です!”
「僕は卑怯なことはしません」
「ふふ……流石シムシでも有名な剣士ですね。では、遠慮なく。
【殺戮の王:グラシャラボラス】」
“おっそろしい名前を呟きました銀選手! 不気味な魔方陣がコロッセオ全体に浮かび上がりました! 昼だというのに空は真っ暗になってしまいました! 観客の間で動揺が広がっております!”
「ふふ……実はまだこの子は制御しきれていないんですけどね」
“今、さらに恐ろしい事実を呟いた銀選手ー! 既に危険を感じ取った聡明な観客の大半が外に非難しております! あっ、魔方陣からこの世のものとは思えない歪で大きな手が出てきました! どうやら私も実況できるのはここまでのようです! では皆さんさようなら!”
その後、コロッセオは瓦礫の山となり、後片付け等で模擬戦の勝敗は有耶無耶になった。
「銀ー!」
「はは……ごめんごめん。でも、シュウちゃんが戦うところも見たかったなあ」
「……」
「あれ? どうして黙るの?」
-終-
「へえ……そうなんですか。シュウちゃんったらそんなこと気にしてるんですか」
「茶化すな銀。確かに民の噂などおれは気にしない。だが、衆が他国になめられるわけにはいかないのだ」
「おっしゃるとおりで」
「筋肉馬鹿だとか、見栄えが悪いだとか、環境が厳しいだとか、魅力的な要素がないだとか」
「その通りだと思いますけどね……」
「とにかく! このままでは新規の人材も尽きてしまう。今、衆には良いイメージが必要なのだ! 強い、凄い、かっこいい! そんなフレーズが必要なのだ!」
「珍しく熱くなっていますね」
「と、いうことでおれは模擬戦を開こうと思う」
「……どういうことかわかりませんが、なるほど。ちなみに何処と?」
「もちろんシムシだ」
二日後。
“レディースエーンジェントルメーン! ようこそ皆様アレクサンドルコロッセオへ! これから開かれますシムシvs衆(因縁の対決)模擬試合は五人対五人の団体戦! 先に三勝した方が勝ちとなります! ナレーターは私、なんでもそつなくこなすと評判の7−7が務めさせていただきます!”
アレクサンドルコロッセオ全体が震えるほどの歓声。
“ありがとうございまーすありがとうございます。さて、早速ですが両国の代表の挨拶です!”
『周だ。この戦いで衆の強さを全世界が知るだろう。守るだけでは勝利がないことをそこの老人に味あわせてやる』
“おーっと、衆代表周さん! いきなり挑戦的だー! もちろんコロッセオはブーイングの嵐!”
ブーブー!
『アイゼンだ。皆のもの、落ち着きたまえ。南の民達は必死すぎて余裕がない。ここは我々の優雅な戦いを見せてやろうではないか』
ワー! ワー!
“おーっとアイゼン様も負けていない! お互い睨みあいながら固い握手を交わします!”
「今日はよろしくお願いするぞ、周よ」
「相変わらず重そうな鎧だなアイゼン。無理するな」
“それでは早速第一試合です! 第一試合:周代表、空牙vsシムシ代表7−3!”
「おっしゃー! 出番だ! 久しぶりに出番だ!」
「見ててくださいアイゼン様ー!」
“戦闘描写は面倒なので観客の皆様は会話だけでフィーリングしてください! それではファイト!”
「音速!」
“おーっと、空牙選手、突然消えました! 初っ端から全開だー!”
「む、速いな!」
「さらに加速! 加速! ふははは! 音速で移動する俺の動きを」
「物理防御バリア!」
バリーン
「ぎゃああ!」
“勝者、シムシ国7−3!”
「馬鹿め、そんなスピードでバリアにぶつかればどうなるか考えなかったのか。やりましたよ、アイゼン様ー♪」
“あっけない! あっけなさすぎるー! アイゼン様、何か一言!”
「うむ」
「ぐぐぐ……何をやっているんだ空牙……」
“さあこんな感じで進めていきます! 早速第二試合:周代表空羅vsシムシ代表7−6!”
「何故ボクはこんなところに……」
「…………死にたい」
“どちらとも乗り気ではないようですが問答無用でファイトッ!”
「あ、7−6さん、あの……」
「……死にたい……」
「あの……」
「…………死にたい」
“おーっと、7−6、塞ぎこんでしまいました! これは戦闘不能とみなしますっ! 勝者、衆代表空羅ッ!”
ワー! ワー!
「……なんなんですか、これ」
“空羅選手から当然の疑問が出ましたっ! さて、周さん、コメントをどうぞ!”
「当然だ」
“当然だー! 当然だときました! それではどんどん次の試合です! 現在戦績は1対1の互角! 第三試合:周代表謎のジョーカー仮面vsシムシ代表コメタロー!」
「これは愉快な舞台だな!」
「僕と戦うというのかい!」
“やっとまともな対戦が見れそうです! 風のような速さでファイトッ!”
「……しまった」
“コメタロー選手、何かに気付いたようです!”
「飛ばす物がない!」
“致命的だー! 念動力の達人のコメタロー選手! 残念ながら飛ばす物がなければただの人です!”
「それは気の毒だな」
“不敵に笑った感じを醸し出す謎のジョーカー仮面選手! しかし顔は見えません!”
「おりゃあああ! ストレートマグナム!」
“放ったぁ! 結果的にはただのパンチを放ちました謎のジョーカー仮面選手の勝利です! なんとこれで2−1! 衆国が勝利に王手です!”
「ふはは! どうだアイゼン!」
「……くっ」
“どうやら周さんは完全に勝った気でいるようだー! それでは段々面倒になってきた第四試合! 周代表ヒラタvsシムシ代表アメツキ!
「私、周に所属してないんですけど……」
「オレハナゼココニイル……」
“色々言いたいことはあるでしょうが第四試合、ファイトッ!”
「うーん、しょうがない。変身」
“おーっと、ヒラタ選手ミノタウロスに変身しました! アメツキ選手はどう出るっ!?”
「……無理だろ」
“デターッ、無理だろーっ! アメツキ選手は無理だろと判断しました! あ、あれ? おーっと!? なぜかヒラタ選手がコロッセオの四方に飾ってある像を見て、わなわなしだしたぞ!?”
「英雄……」
“ミノタウロスは英雄が弱点だー! ヒラタ選手、コロッセオの四方に飾ってあった英雄の像を見つけてしまったー! そのままヒラタ選手は倒れてしまいました! 奇跡の大逆転アメツキ選手の勝利! これで2−2のイーブン! 勝敗は最後の戦いに託されました! 両代表一言!”
「おれ達は負けん」
「最後の選手を信じます」
“月並みだー! さあそんなこんなで第五試合最終戦! 衆代表! 最強! 不敵に笑う召喚士、銀ー!”
「ふふふ……」
“怪しい煙の中から登場しましたー! これは今までの雰囲気とは違います! バーサス! シムシ代表、超絶ルーキー、【隻眼の剣士】、ポーーーーチーーーー!」
ワー! ワー!
「なんなんだこの空気……」
“それでは、両雄ラストを飾るに相応しい戦いを期待します! レディー、ファイトッ!”
「【召喚】」
“いきなり来ましたーっ! 銀の【召喚】! 強力なパートナーを異次元から召喚するスキルです! これは早々に止めなければやばいッ!”
「……」
“しかしポチは見ているっ! 見ています! 腕を組んで見ています! 無防備な相手は攻撃しない! まさに騎士道ど真ん中です!”
「僕は卑怯なことはしません」
「ふふ……流石シムシでも有名な剣士ですね。では、遠慮なく。
【殺戮の王:グラシャラボラス】」
“おっそろしい名前を呟きました銀選手! 不気味な魔方陣がコロッセオ全体に浮かび上がりました! 昼だというのに空は真っ暗になってしまいました! 観客の間で動揺が広がっております!”
「ふふ……実はまだこの子は制御しきれていないんですけどね」
“今、さらに恐ろしい事実を呟いた銀選手ー! 既に危険を感じ取った聡明な観客の大半が外に非難しております! あっ、魔方陣からこの世のものとは思えない歪で大きな手が出てきました! どうやら私も実況できるのはここまでのようです! では皆さんさようなら!”
その後、コロッセオは瓦礫の山となり、後片付け等で模擬戦の勝敗は有耶無耶になった。
「銀ー!」
「はは……ごめんごめん。でも、シュウちゃんが戦うところも見たかったなあ」
「……」
「あれ? どうして黙るの?」
-終-
「ゴッドレス全メンバーに伝えろ。必ず【無神】を探し出せ。失敗は許さぬ!」
無常は怒り、屈辱、後悔に震えていた。逃がした。逃がした。【無神】を、逃がした。
このときのために。全て。全てこの計画のために。捨て、捨て、捨てた! なのに!
(何故だ、何故だ、何故だ、完璧だった。完璧だったはずだ)
「何故だ! 【空間】!」
「……は、はい。ま、まず、【無神】が脱獄したのは第7……」
「そんな前置きはいい!」
「はっ! も、申し訳ありません。【無神】はおそらく、テレポートを使用したものと思われます……」
「何故そんなスキルを使えた!? プリズンは確かにテレポート系スキルには無力だが、そのスキルを【無神】が使えたはずがない! コピーしたというのか!? テレポート、そんなスキルを覚えたプレイヤーなら、牢獄からはとっくに逃げ出しているはずだ! ありえぬ!」
「は、はい。確かにそうです。ですが、もしも、そのプレイヤーがテレポートを使えても、使えなかったとしたら……」
「前置きはいいと……」
「申し訳ありません! 恐らく、捕らえらていたプレイヤーのテレポートは、過度のリスクを背負ったものだったと推測します。使えば、スキルや体、魔力、或いは生命力に悪影響を受けるテレポート。【無神】に命の危機を感じたプレイヤーが苦肉の策として使用した「リスクテレポート」(おそらく本来は大人数長距離移動等の効果がある)を、【無神】がコピーし、使用した」
「……」
いくら【無神】が最強といえども、今は姿どおりの「子供」。その上、今、何らかのリスクを背負って、世界に飛び出した……?
何故だ、【無神】のことを知り得る元老達は、できる限り抹殺した。【ゼロ】も警戒し、それぞれの国も疲弊させた。多くの【無神】のための空間も作った。順調だった。順調だった。
なのに、何故! 何故だ! 何が気に入らなかったんだ! 無常にはわからない。
「必ず! 必ずだ! 【無神】を探し出せ!」
怒り狂う無常。
「面白くなってきましたね……」
そんな無常を物陰から見ていたフルファイアは、炎を纏って闇に消えた。
無常は怒り、屈辱、後悔に震えていた。逃がした。逃がした。【無神】を、逃がした。
このときのために。全て。全てこの計画のために。捨て、捨て、捨てた! なのに!
(何故だ、何故だ、何故だ、完璧だった。完璧だったはずだ)
「何故だ! 【空間】!」
「……は、はい。ま、まず、【無神】が脱獄したのは第7……」
「そんな前置きはいい!」
「はっ! も、申し訳ありません。【無神】はおそらく、テレポートを使用したものと思われます……」
「何故そんなスキルを使えた!? プリズンは確かにテレポート系スキルには無力だが、そのスキルを【無神】が使えたはずがない! コピーしたというのか!? テレポート、そんなスキルを覚えたプレイヤーなら、牢獄からはとっくに逃げ出しているはずだ! ありえぬ!」
「は、はい。確かにそうです。ですが、もしも、そのプレイヤーがテレポートを使えても、使えなかったとしたら……」
「前置きはいいと……」
「申し訳ありません! 恐らく、捕らえらていたプレイヤーのテレポートは、過度のリスクを背負ったものだったと推測します。使えば、スキルや体、魔力、或いは生命力に悪影響を受けるテレポート。【無神】に命の危機を感じたプレイヤーが苦肉の策として使用した「リスクテレポート」(おそらく本来は大人数長距離移動等の効果がある)を、【無神】がコピーし、使用した」
「……」
いくら【無神】が最強といえども、今は姿どおりの「子供」。その上、今、何らかのリスクを背負って、世界に飛び出した……?
何故だ、【無神】のことを知り得る元老達は、できる限り抹殺した。【ゼロ】も警戒し、それぞれの国も疲弊させた。多くの【無神】のための空間も作った。順調だった。順調だった。
なのに、何故! 何故だ! 何が気に入らなかったんだ! 無常にはわからない。
「必ず! 必ずだ! 【無神】を探し出せ!」
怒り狂う無常。
「面白くなってきましたね……」
そんな無常を物陰から見ていたフルファイアは、炎を纏って闇に消えた。
(素晴らしい……。これでまだ第二段階か)
返り血を浴びた子供、最悪のモンスター、【無神】はまだ笑っていた。
(【空間】。出口を用意してくれ)
(はい、無常)
後ろに出口が開いた気配。【無常】はチャットルームに戻った。【無神】はまだ笑っていた。
「計画は順調だな?」
「ええ、私や他のゴッドレス構成員の空間に、【障壁】の鍵を合わせた牢獄(プリズン)。もう半分ぐらいは埋まっています」
「数は?」
「100くらいですね。苦労したんですよ」
「それだけあれば次の段階に行けるな。まだ【無神】は不安定だ。大切に育てねばなるまい」
【無常】と【空間】は、目的地に向かいながら会話をしていた。
「同じ部屋にエサを“何人”も入れたら、【無神】が倒されてしまう可能性がありますからね」
「ああ。この『計画』のために、収納空間の使える構成員を増やした。だが最終的にはお前を信頼するからな、【空間】。大きな部屋を用意しておいてくれ」
「ありがとうございます」
二人はやがて止まった。薄暗闇に浮いている札には『プリズン1』と書かれている。
「中は?」
「ビギナの草原から【攫った初心者一名】です。最初のエサはこんなものでしょう。まあ最初にゴッドレス構成員を殺していますから、初心者なんて相手にならないでしょうけど」
「わからぬよ、初心者の方が我らより強い場合もある。だがそういう場合も好都合だがな。【無神】をこの部屋に入れろ」
「仰せのままに」
【無常】は瞳を無数に並べられた【プリズン】、つまりは【エサ箱】に向けた。その瞳に、感情はなかった。
(もっともっと、殺して成長しろ、【無神】)
プリズンに、プレイヤーの悲鳴が木霊した。
返り血を浴びた子供、最悪のモンスター、【無神】はまだ笑っていた。
(【空間】。出口を用意してくれ)
(はい、無常)
後ろに出口が開いた気配。【無常】はチャットルームに戻った。【無神】はまだ笑っていた。
「計画は順調だな?」
「ええ、私や他のゴッドレス構成員の空間に、【障壁】の鍵を合わせた牢獄(プリズン)。もう半分ぐらいは埋まっています」
「数は?」
「100くらいですね。苦労したんですよ」
「それだけあれば次の段階に行けるな。まだ【無神】は不安定だ。大切に育てねばなるまい」
【無常】と【空間】は、目的地に向かいながら会話をしていた。
「同じ部屋にエサを“何人”も入れたら、【無神】が倒されてしまう可能性がありますからね」
「ああ。この『計画』のために、収納空間の使える構成員を増やした。だが最終的にはお前を信頼するからな、【空間】。大きな部屋を用意しておいてくれ」
「ありがとうございます」
二人はやがて止まった。薄暗闇に浮いている札には『プリズン1』と書かれている。
「中は?」
「ビギナの草原から【攫った初心者一名】です。最初のエサはこんなものでしょう。まあ最初にゴッドレス構成員を殺していますから、初心者なんて相手にならないでしょうけど」
「わからぬよ、初心者の方が我らより強い場合もある。だがそういう場合も好都合だがな。【無神】をこの部屋に入れろ」
「仰せのままに」
【無常】は瞳を無数に並べられた【プリズン】、つまりは【エサ箱】に向けた。その瞳に、感情はなかった。
(もっともっと、殺して成長しろ、【無神】)
プリズンに、プレイヤーの悲鳴が木霊した。
闇の空間。
その空間には、闇が立ち込めていた。
その空間には、泣きじゃくる子供。
その空間には、不気味なオーラを出している長身の男。
その空間には、【無常】アイゼン。
(二人の視界は奪ってあります。解除しますよ)
(ああ)
【空間】に答えを返すアイゼン。空気が一瞬変わる。
(二人から貴方は見えません)
(わかった)
「うわああああん!」
子供は黒髪の長髪で、見た目性別はわからない。身長は150cmほどだろう。闇の空間に怯え、座り込んで泣いている。
「……」
男は身長が190cmはある。真っ白な短髪、鋭い赤眼。
「う?」
子供は泣き止んだ。突然目の前に長身の男が現れたからだろう。きっと何も見えない状況よりは、マシだったに違いない。
「……」
だが、長身の男は子供を見ても、何も言わなかった。赤目でギョロリと子供を睨みつけただけだった。
「うっ……」
子供はまた泣きそうになった。【無常】は身動きもせずにそれを見ている。長身の男が静かに歩き出した。両手にはいつのまにか、禍々しい黒ナイフが握られていた。
「あ……あ……」
子供は後ずさる。子供の着ていた大き目の布の服が擦れて音を立てた。
長身の男は無言。黒いナイフを一度手の上で回した後、口元を邪悪にゆがめた。
「わあああああああああん!」
子供は悲鳴をあげた。
*
*
*
水滴の、落ちる音。
ピチャン
綺麗な、氷のオブジェは、赤に染まっていた。
ピチャン
つららで体中を貫かれた長身の男。
ピチャン
昇天して消えた。
ピチャン
血で赤く染まった自分の手をみた子供は。
「あー……? あはっ!」
笑った。
その空間には、闇が立ち込めていた。
その空間には、泣きじゃくる子供。
その空間には、不気味なオーラを出している長身の男。
その空間には、【無常】アイゼン。
(二人の視界は奪ってあります。解除しますよ)
(ああ)
【空間】に答えを返すアイゼン。空気が一瞬変わる。
(二人から貴方は見えません)
(わかった)
「うわああああん!」
子供は黒髪の長髪で、見た目性別はわからない。身長は150cmほどだろう。闇の空間に怯え、座り込んで泣いている。
「……」
男は身長が190cmはある。真っ白な短髪、鋭い赤眼。
「う?」
子供は泣き止んだ。突然目の前に長身の男が現れたからだろう。きっと何も見えない状況よりは、マシだったに違いない。
「……」
だが、長身の男は子供を見ても、何も言わなかった。赤目でギョロリと子供を睨みつけただけだった。
「うっ……」
子供はまた泣きそうになった。【無常】は身動きもせずにそれを見ている。長身の男が静かに歩き出した。両手にはいつのまにか、禍々しい黒ナイフが握られていた。
「あ……あ……」
子供は後ずさる。子供の着ていた大き目の布の服が擦れて音を立てた。
長身の男は無言。黒いナイフを一度手の上で回した後、口元を邪悪にゆがめた。
「わあああああああああん!」
子供は悲鳴をあげた。
*
*
*
水滴の、落ちる音。
ピチャン
綺麗な、氷のオブジェは、赤に染まっていた。
ピチャン
つららで体中を貫かれた長身の男。
ピチャン
昇天して消えた。
ピチャン
血で赤く染まった自分の手をみた子供は。
「あー……? あはっ!」
笑った。
「生まれたか? 【空間】」
「生まれたわよ……【無常】。闇の部屋に閉じ込めてあるわ」
「そうか、銀は?」
「部屋で寝てる。あの人はよくわからないわね」
それだけ言うと、【空間】は眠そうにあくびをした。ここはゴッドレスの本拠地、東の果ての地に作られた『チャットルーム』。【空間】と【障壁】の二人の力によって作られた、第三者には発見不可能な真っ黒な空間。だが、何故かそこに存在するプレイヤーやアイテムは視認できる。
「確かめたい」
「……まだ第二段階とはいえ、危険だって言ってたのよ。あの銀が、『危険』って言ってたのよ?」
「わかっている。リスクは承知の上だ。頼むぞ【空間】」
「……はいはい。あ、あと、スキルは使わないようにね。奴はスキルを見ただけで盗めるそうよ」
「わかっている」
では、と【空間】が開けたのは闇の部屋への入り口。【無常】は無言でその中へ入った。
「生まれたわよ……【無常】。闇の部屋に閉じ込めてあるわ」
「そうか、銀は?」
「部屋で寝てる。あの人はよくわからないわね」
それだけ言うと、【空間】は眠そうにあくびをした。ここはゴッドレスの本拠地、東の果ての地に作られた『チャットルーム』。【空間】と【障壁】の二人の力によって作られた、第三者には発見不可能な真っ黒な空間。だが、何故かそこに存在するプレイヤーやアイテムは視認できる。
「確かめたい」
「……まだ第二段階とはいえ、危険だって言ってたのよ。あの銀が、『危険』って言ってたのよ?」
「わかっている。リスクは承知の上だ。頼むぞ【空間】」
「……はいはい。あ、あと、スキルは使わないようにね。奴はスキルを見ただけで盗めるそうよ」
「わかっている」
では、と【空間】が開けたのは闇の部屋への入り口。【無常】は無言でその中へ入った。
「何を熱くなっていらっしゃるんですか、ボス様」
緊迫した空間に、可愛らしい女性の声が何処からか聞こえ、響いた。
「……【蠢動】か……」
「もう元老を殺しておく必要はなくなっちゃいましたよ。【無神】が『生まれ』ちゃったそうです♪」
「!」
「!」
「!」
元老三名の顔色がほぼ同時に変わる。
「馬鹿な! まさかアレが!? 早すぎる!」
アトラでさえ眼を見開き驚いた。『生まれた』という単語。
「……本当か?」
「ええ、そうですよ。最早元老といえども、どうしようもありませんわ」
「……そうか。流石、銀だな……くくく」
アイゼンは展開していた『絶対領域』を解除した。アイゼン、その表情は恍惚。最早アトラ達への興味はなくしていた。
「“悪逆なる雷撃”」
クサモチが長い詠唱の後に繰り出した黒い巨大雷は、周の仮宿全壊という結果を残しただけだった。
--------------------------------
「……全員回収したか? 【蠢動】」
「バッチリですわ」
黒く狭い部屋の中で、【無常】【暴君】【炎帝】【蠢動】の四人が座っていた。
「ぐへへ、良いとこだったのによう。苦しみで歪んだ顔が今度は諦めで段々緩んでくるんだ……。そのときの表情がまたたまらないんだあ……ああああもったいねえ!」
「気持ち悪い話はやめろよ、【暴君】。そして息もだ。空気が悪くなる」
「……【炎帝】。お前、誰に向かって命令してんだ? あ?」
「うるせえよ。俺はお気に入りのサングラス割られてキてんだよ。なんならここでやるか? いいぜ、俺を静めてくれよ」
「やめてくださいー! 私の可愛い『もぐちゃん』の中で暴れたら、二人とも消化しちゃいますよ!」
「……」
「……」
衆の砂漠地帯。四人を飲み込んだ巨大なモグラが、地中を進行していた。
「ああ、【無神】……。どんな子なのでしょう、楽しみですわ……」
「【蠢動】……。ぐへへ。お前変態だな……」
「貴方にだけは言われたくありませんでしたわ……」
緊迫した空間に、可愛らしい女性の声が何処からか聞こえ、響いた。
「……【蠢動】か……」
「もう元老を殺しておく必要はなくなっちゃいましたよ。【無神】が『生まれ』ちゃったそうです♪」
「!」
「!」
「!」
元老三名の顔色がほぼ同時に変わる。
「馬鹿な! まさかアレが!? 早すぎる!」
アトラでさえ眼を見開き驚いた。『生まれた』という単語。
「……本当か?」
「ええ、そうですよ。最早元老といえども、どうしようもありませんわ」
「……そうか。流石、銀だな……くくく」
アイゼンは展開していた『絶対領域』を解除した。アイゼン、その表情は恍惚。最早アトラ達への興味はなくしていた。
「“悪逆なる雷撃”」
クサモチが長い詠唱の後に繰り出した黒い巨大雷は、周の仮宿全壊という結果を残しただけだった。
--------------------------------
「……全員回収したか? 【蠢動】」
「バッチリですわ」
黒く狭い部屋の中で、【無常】【暴君】【炎帝】【蠢動】の四人が座っていた。
「ぐへへ、良いとこだったのによう。苦しみで歪んだ顔が今度は諦めで段々緩んでくるんだ……。そのときの表情がまたたまらないんだあ……ああああもったいねえ!」
「気持ち悪い話はやめろよ、【暴君】。そして息もだ。空気が悪くなる」
「……【炎帝】。お前、誰に向かって命令してんだ? あ?」
「うるせえよ。俺はお気に入りのサングラス割られてキてんだよ。なんならここでやるか? いいぜ、俺を静めてくれよ」
「やめてくださいー! 私の可愛い『もぐちゃん』の中で暴れたら、二人とも消化しちゃいますよ!」
「……」
「……」
衆の砂漠地帯。四人を飲み込んだ巨大なモグラが、地中を進行していた。
「ああ、【無神】……。どんな子なのでしょう、楽しみですわ……」
「【蠢動】……。ぐへへ。お前変態だな……」
「貴方にだけは言われたくありませんでしたわ……」
番外編 喧嘩するほど仲がいい
2007年2月21日 LIVE番外編 コメント (1) シムシ国首相、アイゼン。
カイド国王、アトラ。
衆族長、周。
三大国を統べる長達が、今ここに会していた。その張り詰めた空気の中を動けないザクロ。まだ寝る大物クサモチ。
「クサモチ……お主と言う奴は……」
流石のアトラも、呆れていた。その腹部に一撃蹴りを見舞う。
「おふっ!?」
「起きたか?」
「……もう起きれなさそう……」
「そうか、起きろ」
その様子を、アイゼンは黙って見ていた。
「……なんでアトラ王いるの……ああ、テレポートスクロールか……」
「そうじゃよ。なるべく来たくはなかったのじゃが、これは来るしかなかったわい」
「……俺、まだ状況飲み込めないんだけど……」
「たわけめ。勝手にカイド王国を出て行きおって。賢者の石強奪の黒幕が、そこにおるということよ。お主はそれだけわかればよいじゃろう」
「……うん、その通り……」
クサモチはゆっくりと起き上がり、アイゼンを見据えた。だがアイゼンは動かない。
「さて、そろそろ周の顔色が悪くなってきておるし、行くかのう」
「……ふぁああ……寝起きはキツい……」
アトラは肩や腰を捻って準備体操をしていた。クサモチは雷の玉をいくつも出している。
「……我と戦うか」
「アレの復活は断固阻止せねばなるまい。それに友がトチ狂っておるときに、一発ぶん殴って目を覚まさせてやるのが、友情というものじゃ、ろっ!?」
アトラの跳躍。ツインテールが風圧で激しく靡き、少し大きめのジャージが風圧でバタバタと音を立てた。アイゼンはやはりそれを黙って見ていた。繰り出されたアトラの拳が、見えないバリアに止められるのがわかっていたからだ。
「はっ!」
アトラの気合一発。ガラスの砕けたような効果音。だが実質アイゼンにも、アトラにもダメージはなかった。アトラはすぐさましゃがみ、「……ライジング・アロー……」、後ろからきたクサモチの数百本はあろうかという『雷矢』にあとを任せた。
「……愚かな」
アイゼンは呟く。そう、鉄壁と言われたアイゼンが、魔法に対する障壁を張っていないわけがなかった。魔法ならば、防御どころか反射もする反射障壁で跳ね返せる。術者は自分で放った攻撃を喰らうことになるのだ。
だが、『雷矢』の一発目は、アイゼンに直撃した。現れるべきバリアは、現れなかったのだ。
「なっ!」
『に』は言えず、アイゼンは二撃、三撃、四五六七大量の『雷矢』を喰らった。一撃一撃の威力は低くても、絶え間無く襲いつづける雷矢は、アイゼンに一瞬の呼吸さえ許さなかった。加えて電撃。アイゼンは体中が麻痺し、周を掴んでいた手の力を緩めた。周はその場に落ちて倒れ、アイゼンはまだ襲いつづけてくる雷矢の嵐の中で、思考していた。
(何故だッ!? 何故バリアが出ない!?)
「ぐっ! 貴様っ! ぐあっ! 何をしたああ! ぐっ! アトラぁああ! ぐはっ!」
まだまだ、続く雷矢の射撃。電撃が体中を巡り、遂にアイゼンは膝を床についた。これだけダメージを喰らったのも、膝をついたのも、アイゼンにとっては始めての経験だった。屈辱だった。
それに対してのアトラの一言は。
「気合で、どうにかした」
……。
アイゼンの黒いオーラが、密度を増した。
「やべ、『絶対領域』じゃ。クサモチ、そんな魔法じゃ効かぬぞ」
「……この甚振り《いたぶり》感がいいんだが……」
「このドSめ。でかいのを詠唱しておけ。儂がアイゼンをひきつける」
「……命令すんな……」
「言うとる場合か」
アイゼンの黒いオーラは『雷矢』を全て弾いていた。最早アイゼンの眼中に周は入っていない。今この世界で、おそらくは最強の脅威。賢者の石が失われた今でも、意味不明のこの強さ。カイド国王、
「アトラ! 貴様はここで消しておかねばならぬようだ」
アイゼンの黒いオーラの範囲が広がっていく。床さえも破壊し、広がっていく。
「よう言うたの、アイゼン。儂も久しぶりに本気を出すとするかのう」
元老vs元老。果てしない強さの対決が今、始まろうとしていた。
カイド国王、アトラ。
衆族長、周。
三大国を統べる長達が、今ここに会していた。その張り詰めた空気の中を動けないザクロ。まだ寝る大物クサモチ。
「クサモチ……お主と言う奴は……」
流石のアトラも、呆れていた。その腹部に一撃蹴りを見舞う。
「おふっ!?」
「起きたか?」
「……もう起きれなさそう……」
「そうか、起きろ」
その様子を、アイゼンは黙って見ていた。
「……なんでアトラ王いるの……ああ、テレポートスクロールか……」
「そうじゃよ。なるべく来たくはなかったのじゃが、これは来るしかなかったわい」
「……俺、まだ状況飲み込めないんだけど……」
「たわけめ。勝手にカイド王国を出て行きおって。賢者の石強奪の黒幕が、そこにおるということよ。お主はそれだけわかればよいじゃろう」
「……うん、その通り……」
クサモチはゆっくりと起き上がり、アイゼンを見据えた。だがアイゼンは動かない。
「さて、そろそろ周の顔色が悪くなってきておるし、行くかのう」
「……ふぁああ……寝起きはキツい……」
アトラは肩や腰を捻って準備体操をしていた。クサモチは雷の玉をいくつも出している。
「……我と戦うか」
「アレの復活は断固阻止せねばなるまい。それに友がトチ狂っておるときに、一発ぶん殴って目を覚まさせてやるのが、友情というものじゃ、ろっ!?」
アトラの跳躍。ツインテールが風圧で激しく靡き、少し大きめのジャージが風圧でバタバタと音を立てた。アイゼンはやはりそれを黙って見ていた。繰り出されたアトラの拳が、見えないバリアに止められるのがわかっていたからだ。
「はっ!」
アトラの気合一発。ガラスの砕けたような効果音。だが実質アイゼンにも、アトラにもダメージはなかった。アトラはすぐさましゃがみ、「……ライジング・アロー……」、後ろからきたクサモチの数百本はあろうかという『雷矢』にあとを任せた。
「……愚かな」
アイゼンは呟く。そう、鉄壁と言われたアイゼンが、魔法に対する障壁を張っていないわけがなかった。魔法ならば、防御どころか反射もする反射障壁で跳ね返せる。術者は自分で放った攻撃を喰らうことになるのだ。
だが、『雷矢』の一発目は、アイゼンに直撃した。現れるべきバリアは、現れなかったのだ。
「なっ!」
『に』は言えず、アイゼンは二撃、三撃、四五六七大量の『雷矢』を喰らった。一撃一撃の威力は低くても、絶え間無く襲いつづける雷矢は、アイゼンに一瞬の呼吸さえ許さなかった。加えて電撃。アイゼンは体中が麻痺し、周を掴んでいた手の力を緩めた。周はその場に落ちて倒れ、アイゼンはまだ襲いつづけてくる雷矢の嵐の中で、思考していた。
(何故だッ!? 何故バリアが出ない!?)
「ぐっ! 貴様っ! ぐあっ! 何をしたああ! ぐっ! アトラぁああ! ぐはっ!」
まだまだ、続く雷矢の射撃。電撃が体中を巡り、遂にアイゼンは膝を床についた。これだけダメージを喰らったのも、膝をついたのも、アイゼンにとっては始めての経験だった。屈辱だった。
それに対してのアトラの一言は。
「気合で、どうにかした」
……。
アイゼンの黒いオーラが、密度を増した。
「やべ、『絶対領域』じゃ。クサモチ、そんな魔法じゃ効かぬぞ」
「……この甚振り《いたぶり》感がいいんだが……」
「このドSめ。でかいのを詠唱しておけ。儂がアイゼンをひきつける」
「……命令すんな……」
「言うとる場合か」
アイゼンの黒いオーラは『雷矢』を全て弾いていた。最早アイゼンの眼中に周は入っていない。今この世界で、おそらくは最強の脅威。賢者の石が失われた今でも、意味不明のこの強さ。カイド国王、
「アトラ! 貴様はここで消しておかねばならぬようだ」
アイゼンの黒いオーラの範囲が広がっていく。床さえも破壊し、広がっていく。
「よう言うたの、アイゼン。儂も久しぶりに本気を出すとするかのう」
元老vs元老。果てしない強さの対決が今、始まろうとしていた。
「ぐへへ、ぐへへ」
「……」
「ぐへへ、ぐへへ」
「……ぐへへ」
「真似すんなぁ!」
「なんなんだぁ!?」
ポチはこれまでに出会ったことのなかった性格の敵に、戸惑った。小柄な黒いローブを纏った不気味な男。明らかに戦士タイプではない。ポチの経験によると、オルゾフは十中八九魔法使いタイプ。しかも嫌らしい、とくれば、状態異常や幻惑系能力者とみて間違いが無い。
(僕の一番苦手なタイプだな。性格も駄目だ。だけど、早くアレックスさんを助けないと……)
このタイプは、中々戦士系にはキツかった。抗魔力、精神防御が戦士系は乏しいからである。
(一気に勝負を決めるしかないんだけど……)
オルゾフはポチと一定の距離を保っていた。時間の経過から言えば、ポチは自分自身が既にオルゾフの術中にはまっているであろうことも予測していた。
(迂闊には飛び込めない……)
歴戦の勘。それは予測としては正解だった。
「ぐへへ、あんた中々、やるなぁ……。修羅場、くぐってきてるね」
「誉めてくれてありがとうございます。ですが僕は、貴方に構っている暇は無い」
ポチはベルトからナイフを取り出し、オルゾフの額目掛けて投擲した。ナイフは見事にオルゾフの眉間に刺さった。が、オルゾフは倒れる前に霧となって消えた。
(やはり幻惑)
だとすれば、もう目はあてにならなかった。ポチは両目を瞑り、わずかな音、匂い、気流の変化を全身で感じ取った。
スキルレベルアップ:感覚【B】
(ヤツは油断している!)
背後から迫る気配を、ポチは一刀両断した。
「ぎゃああああああ!」
(殺った!)
目を開けると、まさに今、光の柱が発生したところだった。天使の斉唱が、一人のプレイヤーの『昇天』を確実に告げた。
「幻惑を使って人の目を騙し、背後から仕留めようとするとは……卑劣な奴だった……。その魔力を正しい方向に使っていれば……いや……」
ポチは言い切らず、その場を立ち去った。苦戦しているであろう、11を助けるために。
*
しばらく11を探し回った後、ポチは集落の外の砂漠が燃えているのを発見した。そしてポチは集落の出口へと走り、傷だらけの11を見つけた。
「うわああああああ!」
「だ、大丈夫ですか!」
11は酷く錯乱していた。ポチを確認した11は、覚束ない足取りでポチへと近づいた。
「あああああ!」
「しっかりしてください!」
ポチは11をしっかりと抱きとめた。そして同時に腹部に、違和感を感じた。ズブリ、気色の悪い音。
「……アレックス……さん?」
「ぐへへ、ぐへへ。可哀想に。アンタが殺したのは、俺が操ってた一般プレイヤーだったんだよーん! ぐへへ! ひっかかった! ぐへへへへへ! ひっかかったぁ!」
11は嫌らしい笑い方をした後、小柄な男性へと変貌した。ポチは自分の腹部を貫いた、ショートソードの柄を見た。目をしっかり見開いて、もう一度、見た。
……しくじった……か。
いつのまにか、ポチは倒れていた。
綺麗な星と、月の夜。
砂漠にポチの血が、染みていく。
「……」
「ぐへへ、ぐへへ」
「……ぐへへ」
「真似すんなぁ!」
「なんなんだぁ!?」
ポチはこれまでに出会ったことのなかった性格の敵に、戸惑った。小柄な黒いローブを纏った不気味な男。明らかに戦士タイプではない。ポチの経験によると、オルゾフは十中八九魔法使いタイプ。しかも嫌らしい、とくれば、状態異常や幻惑系能力者とみて間違いが無い。
(僕の一番苦手なタイプだな。性格も駄目だ。だけど、早くアレックスさんを助けないと……)
このタイプは、中々戦士系にはキツかった。抗魔力、精神防御が戦士系は乏しいからである。
(一気に勝負を決めるしかないんだけど……)
オルゾフはポチと一定の距離を保っていた。時間の経過から言えば、ポチは自分自身が既にオルゾフの術中にはまっているであろうことも予測していた。
(迂闊には飛び込めない……)
歴戦の勘。それは予測としては正解だった。
「ぐへへ、あんた中々、やるなぁ……。修羅場、くぐってきてるね」
「誉めてくれてありがとうございます。ですが僕は、貴方に構っている暇は無い」
ポチはベルトからナイフを取り出し、オルゾフの額目掛けて投擲した。ナイフは見事にオルゾフの眉間に刺さった。が、オルゾフは倒れる前に霧となって消えた。
(やはり幻惑)
だとすれば、もう目はあてにならなかった。ポチは両目を瞑り、わずかな音、匂い、気流の変化を全身で感じ取った。
スキルレベルアップ:感覚【B】
(ヤツは油断している!)
背後から迫る気配を、ポチは一刀両断した。
「ぎゃああああああ!」
(殺った!)
目を開けると、まさに今、光の柱が発生したところだった。天使の斉唱が、一人のプレイヤーの『昇天』を確実に告げた。
「幻惑を使って人の目を騙し、背後から仕留めようとするとは……卑劣な奴だった……。その魔力を正しい方向に使っていれば……いや……」
ポチは言い切らず、その場を立ち去った。苦戦しているであろう、11を助けるために。
*
しばらく11を探し回った後、ポチは集落の外の砂漠が燃えているのを発見した。そしてポチは集落の出口へと走り、傷だらけの11を見つけた。
「うわああああああ!」
「だ、大丈夫ですか!」
11は酷く錯乱していた。ポチを確認した11は、覚束ない足取りでポチへと近づいた。
「あああああ!」
「しっかりしてください!」
ポチは11をしっかりと抱きとめた。そして同時に腹部に、違和感を感じた。ズブリ、気色の悪い音。
「……アレックス……さん?」
「ぐへへ、ぐへへ。可哀想に。アンタが殺したのは、俺が操ってた一般プレイヤーだったんだよーん! ぐへへ! ひっかかった! ぐへへへへへ! ひっかかったぁ!」
11は嫌らしい笑い方をした後、小柄な男性へと変貌した。ポチは自分の腹部を貫いた、ショートソードの柄を見た。目をしっかり見開いて、もう一度、見た。
……しくじった……か。
いつのまにか、ポチは倒れていた。
綺麗な星と、月の夜。
砂漠にポチの血が、染みていく。
何時から?
一年前。
何故?
わからない。
それは溜まった。まさしく溜まったのだ。
この世界に対する、不満、矛盾、抑圧、悪意、嫌気、疑問、怨念、後悔、つぎつぎつぎつぎつぎつぎと。
(アイゼン様バンザーイ!)
(アイゼン様ありがとう!)
民から受ける賞賛。それは心を素通りする。
(戦に勝利したぞ!)
(俺達の勝ちだー!)
何かに対する勝利。それも心を素通りする。
何が私の心を満たすのだろう?
悪だよ。
誰が言った……。
「誰が言ったのだろう……?」
「アイゼン!」
周の声。アイゼンの心を素通りする。
「昔を思い出していた……」
「アイゼン、何を言っている!」
必死の声。アイゼンの心を素通りする。
アイゼンは再び黒いオーラで顔を隠した。アイゼンが顔を見せたのは、『キング』であるアイゼン王行方不明を演じるために、フルファイアに素顔を見せたとき以来だった。
(ひどいですね。相手のキングがこちらの思い通りになるようなものです)
何故かアイゼンは、フルファイアのそんな言葉が、笑えた。
「だけど、お前に我の顔を見せたのは、何故なんだろうな、周」
「アイゼン……!」
もう何も言わせなかった。アイゼンは周の首を掴んで持ち上げる。初めてログインして、初めて出会ったプレイヤー。あれからどれだけ経った。アイゼンのそんな思い出は、黒く染まっていた。
「完全なるアレの復活の為に、死んでもらおう」
「アイゼン、お前まさか……!」
その時、ザクロはスクロールを思いっきり開いていた。中に描かれていた魔法陣から青い光が溢れ出した。
「よう、馬鹿者」
白のTシャツに、黒いジャージ。緑のツインテールを一度揺らして、段々と実体化。
「久しぶりじゃのう」
Tシャツの胸元には赤く描かれた『王』の一文字。だが『王』には見えないラフな格好。
「アトラ王の、お出ましじゃぞ」
一年前。
何故?
わからない。
それは溜まった。まさしく溜まったのだ。
この世界に対する、不満、矛盾、抑圧、悪意、嫌気、疑問、怨念、後悔、つぎつぎつぎつぎつぎつぎと。
(アイゼン様バンザーイ!)
(アイゼン様ありがとう!)
民から受ける賞賛。それは心を素通りする。
(戦に勝利したぞ!)
(俺達の勝ちだー!)
何かに対する勝利。それも心を素通りする。
何が私の心を満たすのだろう?
悪だよ。
誰が言った……。
「誰が言ったのだろう……?」
「アイゼン!」
周の声。アイゼンの心を素通りする。
「昔を思い出していた……」
「アイゼン、何を言っている!」
必死の声。アイゼンの心を素通りする。
アイゼンは再び黒いオーラで顔を隠した。アイゼンが顔を見せたのは、『キング』であるアイゼン王行方不明を演じるために、フルファイアに素顔を見せたとき以来だった。
(ひどいですね。相手のキングがこちらの思い通りになるようなものです)
何故かアイゼンは、フルファイアのそんな言葉が、笑えた。
「だけど、お前に我の顔を見せたのは、何故なんだろうな、周」
「アイゼン……!」
もう何も言わせなかった。アイゼンは周の首を掴んで持ち上げる。初めてログインして、初めて出会ったプレイヤー。あれからどれだけ経った。アイゼンのそんな思い出は、黒く染まっていた。
「完全なるアレの復活の為に、死んでもらおう」
「アイゼン、お前まさか……!」
その時、ザクロはスクロールを思いっきり開いていた。中に描かれていた魔法陣から青い光が溢れ出した。
「よう、馬鹿者」
白のTシャツに、黒いジャージ。緑のツインテールを一度揺らして、段々と実体化。
「久しぶりじゃのう」
Tシャツの胸元には赤く描かれた『王』の一文字。だが『王』には見えないラフな格好。
「アトラ王の、お出ましじゃぞ」
番外編 月が綺麗な夜
2007年2月20日 LIVE番外編「11さん!」
ザクロが叫ぶ。飛び出そうとしても、外へ出る穴を塞ぐ二人のプレッシャーは凄まじい。オルゾフ、と、名前も顔も見えない人物。顔は黒いオーラで隠れ、名前も11さんと同じように隠れている。
「待って、ザクロさん。僕が行きます」
ポチが立ち上がる。剣は既に抜かれていた。
「ぐへへ、ならお前の相手は俺だなぁ!」
黒いローブを纏った小柄な男が、ポチを誘った。
「……はあ、やれやれ。どうやら仕方がないようですね」
ポチは【無常】を警戒しながら、【暴君】オルゾフと共に外へ飛び出した。オルゾフも相当な実力者だとポチは見抜いていた。一番厄介そうな奴を残してしまうことになるが、仕方がなかった。
「我の目的は元老だけよ。……雑魚に用はない」
ポチをも無視して、【無常】が周に向かって歩き出そうとした。ヒラタはすぐさまミノタウロスに変身して、その前に立ちはだかった。
「雑魚に用はないと言っておろう」
「ミノタウロス、何も恐れない。ヒラタウロスは、かっこいいんですよおお!」
ヒラタは巨大な斧を振りかぶった。【無常】はそれを何もせずにそれをただ見ているだけだった。
「死を選ぶか、それも良い」
ヒラタの振り下ろされた斧が、【無常】に届く前に何かに弾かれた。
「何!?」
「対物理反射バリア……」
無常の呟きと共に、黒い風がヒラタを襲い、弾き飛ばした。ヒラタは部屋の壁をぶち破り、地面をしばらく転がって、止まった。ミノタウロスはピクリとも動かなくなり、やがて変身は解けてしまった。後には地面に倒れたままのヒラタと土煙だけが残った。
「馬鹿な、何故だ、何故だ!」
周はまだ取り乱したままだった。ザクロは動けない。クサモチはまだ寝ている。
「何故だアイゼーーーーーーーーーン!」
禍々しい黒のオーラ、【無常】その顔の部分だけが薄くなり、髪も髭も全て黒く染まった、アイゼンの顔を晒け出した。
月が綺麗な、夜だった。
ザクロが叫ぶ。飛び出そうとしても、外へ出る穴を塞ぐ二人のプレッシャーは凄まじい。オルゾフ、と、名前も顔も見えない人物。顔は黒いオーラで隠れ、名前も11さんと同じように隠れている。
「待って、ザクロさん。僕が行きます」
ポチが立ち上がる。剣は既に抜かれていた。
「ぐへへ、ならお前の相手は俺だなぁ!」
黒いローブを纏った小柄な男が、ポチを誘った。
「……はあ、やれやれ。どうやら仕方がないようですね」
ポチは【無常】を警戒しながら、【暴君】オルゾフと共に外へ飛び出した。オルゾフも相当な実力者だとポチは見抜いていた。一番厄介そうな奴を残してしまうことになるが、仕方がなかった。
「我の目的は元老だけよ。……雑魚に用はない」
ポチをも無視して、【無常】が周に向かって歩き出そうとした。ヒラタはすぐさまミノタウロスに変身して、その前に立ちはだかった。
「雑魚に用はないと言っておろう」
「ミノタウロス、何も恐れない。ヒラタウロスは、かっこいいんですよおお!」
ヒラタは巨大な斧を振りかぶった。【無常】はそれを何もせずにそれをただ見ているだけだった。
「死を選ぶか、それも良い」
ヒラタの振り下ろされた斧が、【無常】に届く前に何かに弾かれた。
「何!?」
「対物理反射バリア……」
無常の呟きと共に、黒い風がヒラタを襲い、弾き飛ばした。ヒラタは部屋の壁をぶち破り、地面をしばらく転がって、止まった。ミノタウロスはピクリとも動かなくなり、やがて変身は解けてしまった。後には地面に倒れたままのヒラタと土煙だけが残った。
「馬鹿な、何故だ、何故だ!」
周はまだ取り乱したままだった。ザクロは動けない。クサモチはまだ寝ている。
「何故だアイゼーーーーーーーーーン!」
禍々しい黒のオーラ、【無常】その顔の部分だけが薄くなり、髪も髭も全て黒く染まった、アイゼンの顔を晒け出した。
月が綺麗な、夜だった。
Live時間○月×日。
アレクサンドル城にて大規模な戦闘が発生。
戦場となった大会議場は大破した。
現場に残されていたのは、
片方のレンズが割れた赤いサングラスと、
真っ二つに割れていたアイゼンの鎧だけだった。
その後のアイゼンの行方は、不明。
行方は 不明。
アレクサンドル城にて大規模な戦闘が発生。
戦場となった大会議場は大破した。
現場に残されていたのは、
片方のレンズが割れた赤いサングラスと、
真っ二つに割れていたアイゼンの鎧だけだった。
その後のアイゼンの行方は、不明。
行方は 不明。
「7−5が……死んだ……?」
シムシ国首都、アレクサンドル城の大会議場に、この国のトップである首相アイゼン、それを補佐する7《セブン》が……『六名』、集まっていた。それぞれ管轄を持つ7《セブン》が、一箇所に集まるのは稀なことだった。
「はい、Live時間○月×日午前一時。グラズノの生き残った兵士の証言です。その日から現在まで、7−5の存在は確認されていません。7−5は、『死んだ』とみて間違いありません」
7−1が淡々と事実を報告する。一同の表情に顕著な変化はない。アイゼンは薄く目を閉じて、呟いた。
「5……ニエル……。ゴッドレス……フルファイア……」
アイゼンは席を立つ。
「皆、持ち場に戻れ」
「はっ?」
「皆、それぞれの管轄を今まで通り守れ」
「し、しかし……アイゼン様は……」
「私を守るのが、民を守るより大事なことだと?」
「……」
7−1は、そこで黙ってしまった。
---------------------------------------
最後に7−3が、アイゼン様……と呟きながら扉を閉じた。大会議場には、アイゼン一人が残った。
アイゼンは肘をテーブルに立てて手のひらを重ねた。そしてアイゼンは重なった手のひらを額につけ、
「きたか……。今は7も兵士もいない……出てこい……」
と呟いた。
「流石は『キング』。これ以上の犠牲を避けるために、自ら戦うというその姿勢は非常にいいですよ。ですが貴方はその時点で負けているということに気付けないようですね。非常におしい。私の考えどおりに動いてくれるのは助かりますけどね」
蜃気楼から現れた軽口は、フルファイア。赤い短髪、赤いズボン、赤いサングラス。フルファイアはアイゼンとはテーブルを挟んで反対側の椅子に、座っていた。
「御託はいい。実は私は、気があまり長いほうではないのでね……」
アイゼンは立ち上がり、ツーハンデッドソードを躊躇わず引き抜いた。巨大な剣をフルファイアに向けて振る。テーブルを切る前に止める。テーブルクロスが風圧でなびいた。
ツーハンデッドソードの切っ先をフルファイアに向けたまま、アイゼンは口を開いた。
「ゴッドレス、フルファイアだな」
「ええ、まあ、そうですよ。それにしても、怖いですねえ。客人にいきなり剣を向けるなんて。誰が言ったんでしょうね、アイゼン様は『温厚』だなんて」
「7−5を殺したのは、お前だな? フルファイア」
「ええ、それはもうこんがりと焼かせていただきましたよ……いい声で叫んでくれましたし……」
言い終わるのを待たず、アイゼンの巨体と巨剣が空を舞っていた。アイゼンは落下力と筋力で爆発的に上がった巨剣の破壊力を、全てフルファイアに向けて、叩きつけた。
爆発と同等の効果音。真っ二つに切れたというより折られたテーブル。陥没する床。飛び散る木片。だが、そこにフルファイアの姿はなかった。
銃声のような音と、炎の矢をアイゼンは確認していた。アイゼンは白いオーラを纏った手のひらでそれを弾いた。
「子供騙しを!」
アイゼンは『絶対防御』の白いオーラを、全身から噴出させた。それだけで地面が陥没し、アレクサンドル城全体が揺れた。並みのプレイヤーなら、それを見ただけでも動けなくなる。恐ろしいほどのプレッシャー。
「ふふふ……ふふ」
だが、フルファイアは笑っていた。自分が負けるなどと、微塵にも思っていない笑い。
「さあ、踊りましょう! 『キング』!」
「『ポーン』如きが百年早いわ!」
この出来事は、後にシムシ国全体を揺るがす大きな事件となった。
シムシ国首都、アレクサンドル城の大会議場に、この国のトップである首相アイゼン、それを補佐する7《セブン》が……『六名』、集まっていた。それぞれ管轄を持つ7《セブン》が、一箇所に集まるのは稀なことだった。
「はい、Live時間○月×日午前一時。グラズノの生き残った兵士の証言です。その日から現在まで、7−5の存在は確認されていません。7−5は、『死んだ』とみて間違いありません」
7−1が淡々と事実を報告する。一同の表情に顕著な変化はない。アイゼンは薄く目を閉じて、呟いた。
「5……ニエル……。ゴッドレス……フルファイア……」
アイゼンは席を立つ。
「皆、持ち場に戻れ」
「はっ?」
「皆、それぞれの管轄を今まで通り守れ」
「し、しかし……アイゼン様は……」
「私を守るのが、民を守るより大事なことだと?」
「……」
7−1は、そこで黙ってしまった。
---------------------------------------
最後に7−3が、アイゼン様……と呟きながら扉を閉じた。大会議場には、アイゼン一人が残った。
アイゼンは肘をテーブルに立てて手のひらを重ねた。そしてアイゼンは重なった手のひらを額につけ、
「きたか……。今は7も兵士もいない……出てこい……」
と呟いた。
「流石は『キング』。これ以上の犠牲を避けるために、自ら戦うというその姿勢は非常にいいですよ。ですが貴方はその時点で負けているということに気付けないようですね。非常におしい。私の考えどおりに動いてくれるのは助かりますけどね」
蜃気楼から現れた軽口は、フルファイア。赤い短髪、赤いズボン、赤いサングラス。フルファイアはアイゼンとはテーブルを挟んで反対側の椅子に、座っていた。
「御託はいい。実は私は、気があまり長いほうではないのでね……」
アイゼンは立ち上がり、ツーハンデッドソードを躊躇わず引き抜いた。巨大な剣をフルファイアに向けて振る。テーブルを切る前に止める。テーブルクロスが風圧でなびいた。
ツーハンデッドソードの切っ先をフルファイアに向けたまま、アイゼンは口を開いた。
「ゴッドレス、フルファイアだな」
「ええ、まあ、そうですよ。それにしても、怖いですねえ。客人にいきなり剣を向けるなんて。誰が言ったんでしょうね、アイゼン様は『温厚』だなんて」
「7−5を殺したのは、お前だな? フルファイア」
「ええ、それはもうこんがりと焼かせていただきましたよ……いい声で叫んでくれましたし……」
言い終わるのを待たず、アイゼンの巨体と巨剣が空を舞っていた。アイゼンは落下力と筋力で爆発的に上がった巨剣の破壊力を、全てフルファイアに向けて、叩きつけた。
爆発と同等の効果音。真っ二つに切れたというより折られたテーブル。陥没する床。飛び散る木片。だが、そこにフルファイアの姿はなかった。
銃声のような音と、炎の矢をアイゼンは確認していた。アイゼンは白いオーラを纏った手のひらでそれを弾いた。
「子供騙しを!」
アイゼンは『絶対防御』の白いオーラを、全身から噴出させた。それだけで地面が陥没し、アレクサンドル城全体が揺れた。並みのプレイヤーなら、それを見ただけでも動けなくなる。恐ろしいほどのプレッシャー。
「ふふふ……ふふ」
だが、フルファイアは笑っていた。自分が負けるなどと、微塵にも思っていない笑い。
「さあ、踊りましょう! 『キング』!」
「『ポーン』如きが百年早いわ!」
この出来事は、後にシムシ国全体を揺るがす大きな事件となった。
さらに再びくどいほど黒い空間。
「報告です」
フルファイアが、いた。
「7−5を消去しました」
「……ご苦労だった」
全身に禍々しい黒いオーラを纏った男が、いた。
「……あまり嬉しそうじゃありませんね? ボス【無常】」
「……」
「そりゃあ、そうですよねえ……」
自らボスと呼んだ男に、フルファイアは少しの敬意も払おうとしなかった。むしろそこには侮蔑があった。
「口が過ぎるぞ……」
「はいはい……さっさと報告を終わらせますよ」
フルファイアはズボンのポケットを探り、虹色に輝く玉を取り出した。
「賢者の石。やはり凄まじいですよ。魔力がほぼ無限に供給されました」
「……素直に返すとはな……」
「ふふふ、貴方にはわからないでしょうねえ。『無敵』のつまらなさ。『危険』の楽しさ、面白さを」
ボスは戯言に耳を貸さない。
「次は……」
「わかっていますよ。『キング』には私の手の上で、踊ってもらう、でしょう?」
爽やかな笑顔を残して、フルファイアは黒い空間を去った。
「報告です」
フルファイアが、いた。
「7−5を消去しました」
「……ご苦労だった」
全身に禍々しい黒いオーラを纏った男が、いた。
「……あまり嬉しそうじゃありませんね? ボス【無常】」
「……」
「そりゃあ、そうですよねえ……」
自らボスと呼んだ男に、フルファイアは少しの敬意も払おうとしなかった。むしろそこには侮蔑があった。
「口が過ぎるぞ……」
「はいはい……さっさと報告を終わらせますよ」
フルファイアはズボンのポケットを探り、虹色に輝く玉を取り出した。
「賢者の石。やはり凄まじいですよ。魔力がほぼ無限に供給されました」
「……素直に返すとはな……」
「ふふふ、貴方にはわからないでしょうねえ。『無敵』のつまらなさ。『危険』の楽しさ、面白さを」
ボスは戯言に耳を貸さない。
「次は……」
「わかっていますよ。『キング』には私の手の上で、踊ってもらう、でしょう?」
爽やかな笑顔を残して、フルファイアは黒い空間を去った。
「私はチェス・ゲームが好きでして……」
アレクサンドルの東にある街、『グラズノ:Grazno』。
「強い相手と指すのは楽しいですね。私が勝つからです。
弱い相手と指すのはもっと楽しいですね。私が楽しめるからです」
グラズノ、その半分が、焼かれていた。
「まず、相手の力を見て加減します。ほら、ビショップを取れますよ。あー、残念。私の駒に取られてしまいました。ほらほら、クイーンも。あー、残念。私の駒に取られてしまいました。
――敵の戦力を、少しずつ殺いでいく」
真っ赤なズボンと真っ赤な短髪。真っ赤なサングラスをかけた、炎のベストを着た男。
フルファイアが、笑っていた。
「そう、周りから、少しずつ、少しずつ、力を殺いでいくのです」
対峙しているのるのは、7−5。
「あんた、自分が何やったのか、わかってんの」
「ええ、貴方、7−5の管轄であるグラズノを襲撃。それをエサに7−5をおびき寄せて、抹消する。全くやれやれ、こんな美しくない仕事をできるのは、美しい私ぐらいのものでね。必然こういう仕事は私に回ってきてしまうのです。やれやれですよ、本当に。うちの連中は『労働』という言葉を知らない。できればあなた方が教えてやってくれませんか? あ、それももうすぐ、できなくなりますね……困ったな」
ビキ。
7−5の額に血管が浮かぶ。
「そりゃ、俺達が消えるからかい?」
「ええ? それ以外にどういう結果があるのです?」
「……」
「まあ、貴方達には興味がありません。最終的には――『キング』を」
皆まで言わせず、7−5は飛び出していた。他の焼かれた兵士達の死体が、光の柱に包まれていた。業火で焼かれた街。炎で照らされた街。
「なめるなァアッ!」
全身に取り付けられたジェットが5の怒りに反応して激しく発火する。7−5は一瞬で【音速】『A』の速度に到達していた。全身に取り付けられた機械が悲鳴のような音をあげる。
その速度のまま、7−5はレアメタルでできたナックルをフルファイアの体に叩き込んだ。その威力はフルファイアの体を貫き、後ろの炎を風圧で全てかき消した。
が、体を拳で貫かれたフルファイアは、『炎』そのものに変わっていた。最高レベルの炎の魔法。
「炎の……魔人……」
「正解。これだけの炎があれば、私は割りとなんでもできるんですよねえ」
炎に浮かぶフルファイアの表情は『喜悦』。
炎の魔人は腕を伝わり、一瞬で7−5の体を飲み込んだ。
「ぐああああああああああああああ!」
「さようなら、『ナイト』」
アレクサンドルの東にある街、『グラズノ:Grazno』。
「強い相手と指すのは楽しいですね。私が勝つからです。
弱い相手と指すのはもっと楽しいですね。私が楽しめるからです」
グラズノ、その半分が、焼かれていた。
「まず、相手の力を見て加減します。ほら、ビショップを取れますよ。あー、残念。私の駒に取られてしまいました。ほらほら、クイーンも。あー、残念。私の駒に取られてしまいました。
――敵の戦力を、少しずつ殺いでいく」
真っ赤なズボンと真っ赤な短髪。真っ赤なサングラスをかけた、炎のベストを着た男。
フルファイアが、笑っていた。
「そう、周りから、少しずつ、少しずつ、力を殺いでいくのです」
対峙しているのるのは、7−5。
「あんた、自分が何やったのか、わかってんの」
「ええ、貴方、7−5の管轄であるグラズノを襲撃。それをエサに7−5をおびき寄せて、抹消する。全くやれやれ、こんな美しくない仕事をできるのは、美しい私ぐらいのものでね。必然こういう仕事は私に回ってきてしまうのです。やれやれですよ、本当に。うちの連中は『労働』という言葉を知らない。できればあなた方が教えてやってくれませんか? あ、それももうすぐ、できなくなりますね……困ったな」
ビキ。
7−5の額に血管が浮かぶ。
「そりゃ、俺達が消えるからかい?」
「ええ? それ以外にどういう結果があるのです?」
「……」
「まあ、貴方達には興味がありません。最終的には――『キング』を」
皆まで言わせず、7−5は飛び出していた。他の焼かれた兵士達の死体が、光の柱に包まれていた。業火で焼かれた街。炎で照らされた街。
「なめるなァアッ!」
全身に取り付けられたジェットが5の怒りに反応して激しく発火する。7−5は一瞬で【音速】『A』の速度に到達していた。全身に取り付けられた機械が悲鳴のような音をあげる。
その速度のまま、7−5はレアメタルでできたナックルをフルファイアの体に叩き込んだ。その威力はフルファイアの体を貫き、後ろの炎を風圧で全てかき消した。
が、体を拳で貫かれたフルファイアは、『炎』そのものに変わっていた。最高レベルの炎の魔法。
「炎の……魔人……」
「正解。これだけの炎があれば、私は割りとなんでもできるんですよねえ」
炎に浮かぶフルファイアの表情は『喜悦』。
炎の魔人は腕を伝わり、一瞬で7−5の体を飲み込んだ。
「ぐああああああああああああああ!」
「さようなら、『ナイト』」
私だけが楽しいアメツキ
2007年1月21日 LIVE番外編 コメント (1) 1.――機械――対魔法攻撃:防御バリア
「ああ、アメツキ、何やってんの」
「ああ、7−1か」
「ああ、お前、何でタメ口」
「ああ、知らん、俺は俺の道を行く」
「対魔法防御展開。ちなみにこれは外に出れん」
「ぬお! 貴様出せ」
2.――魔法――対魔法攻撃:防御バリア
「あれ……? なんでアメツキがバリアに閉じ込められてるの?」
「1の野郎が閉じ込めやがった」
「ふーん……」
「7−2さん助けてくれませんか」
「めんどい……」
「ああ! 即答して去っていかないで!」
3.――機械――対物理攻撃:防御バリア
「あはあははははははは!」
「うっせー! 笑うな!」
「あはははははは!」
「おい! 笑うな! 出せー!」
「ひー! 対物理防御バリア展開!」
「うおー待て待て! 二重はやばい!」
「あははははははは!」
4.――魔法――対物理攻撃:防御バリア
「……2、見なかった?」
「……お前の兄貴、7−2は俺を見捨てて何処かへ行った」
「……そう、ごめんね」
「……悪いと思うなら、助けてくれ」
「無理」
「……即答しながら、去るなよ」
(……めんどいし)
「呟きながら、去るなよ!」
5.――機械――対超能力:防御バリア
「なんだ? なんで7の機械系二重バリアにアメツキが小鳥の中の籠なんだ?」
「それを言うなら籠の中の小鳥だろうが」
「助けたいところだが、俺達は壊すことが得意じゃないからなぁ」
「そこをなんとかしろよ」
「ていうかお前、超能力テレポートで逃げろよ」
「あっ!」
「と気付いたところで俺の対超能力バリアをドーン!」
「あああああああああーーーーーーー!!」
「はははははははは!」
6.――魔法――対状態異常攻撃:防御バリア
「……アメツキが…………干からびてる……」
「…………たすけ…………て」
「…………………………めんどい」
「……魔法使いに…………もう期待しねー…………」
「…………………………あー…………しにたい」
「………………勝手に死ね………………」
7.――魔法――対特殊攻撃:防御バリア
「あれ? どうしたんだ、完璧な機械バリアに閉じ込められて。こんなの個人じゃ破れないぜ?」
「機械系の7に閉じ込められて、魔法系の7三兄弟に見捨てられた」
「あー、そうなのか」
「まともなのはお前くらいだろう。7−7。助けてくれないか」
「うーん、これ本当に完璧だぜ? 俺なんかにどうしろと?」
「アイゼンを呼んでくれ……」
「お前……首相を呼び捨てにするなって……」
「俺は俺の道を行く……」
「はあ、わかったよ。呼んできてやるよ」
アメツキがそのバリアから出られたのは五時間後だった。
「ああ、アメツキ、何やってんの」
「ああ、7−1か」
「ああ、お前、何でタメ口」
「ああ、知らん、俺は俺の道を行く」
「対魔法防御展開。ちなみにこれは外に出れん」
「ぬお! 貴様出せ」
2.――魔法――対魔法攻撃:防御バリア
「あれ……? なんでアメツキがバリアに閉じ込められてるの?」
「1の野郎が閉じ込めやがった」
「ふーん……」
「7−2さん助けてくれませんか」
「めんどい……」
「ああ! 即答して去っていかないで!」
3.――機械――対物理攻撃:防御バリア
「あはあははははははは!」
「うっせー! 笑うな!」
「あはははははは!」
「おい! 笑うな! 出せー!」
「ひー! 対物理防御バリア展開!」
「うおー待て待て! 二重はやばい!」
「あははははははは!」
4.――魔法――対物理攻撃:防御バリア
「……2、見なかった?」
「……お前の兄貴、7−2は俺を見捨てて何処かへ行った」
「……そう、ごめんね」
「……悪いと思うなら、助けてくれ」
「無理」
「……即答しながら、去るなよ」
(……めんどいし)
「呟きながら、去るなよ!」
5.――機械――対超能力:防御バリア
「なんだ? なんで7の機械系二重バリアにアメツキが小鳥の中の籠なんだ?」
「それを言うなら籠の中の小鳥だろうが」
「助けたいところだが、俺達は壊すことが得意じゃないからなぁ」
「そこをなんとかしろよ」
「ていうかお前、超能力テレポートで逃げろよ」
「あっ!」
「と気付いたところで俺の対超能力バリアをドーン!」
「あああああああああーーーーーーー!!」
「はははははははは!」
6.――魔法――対状態異常攻撃:防御バリア
「……アメツキが…………干からびてる……」
「…………たすけ…………て」
「…………………………めんどい」
「……魔法使いに…………もう期待しねー…………」
「…………………………あー…………しにたい」
「………………勝手に死ね………………」
7.――魔法――対特殊攻撃:防御バリア
「あれ? どうしたんだ、完璧な機械バリアに閉じ込められて。こんなの個人じゃ破れないぜ?」
「機械系の7に閉じ込められて、魔法系の7三兄弟に見捨てられた」
「あー、そうなのか」
「まともなのはお前くらいだろう。7−7。助けてくれないか」
「うーん、これ本当に完璧だぜ? 俺なんかにどうしろと?」
「アイゼンを呼んでくれ……」
「お前……首相を呼び捨てにするなって……」
「俺は俺の道を行く……」
「はあ、わかったよ。呼んできてやるよ」
アメツキがそのバリアから出られたのは五時間後だった。
番外・『ヤミハルの考え事』
2007年1月14日 LIVE番外編「……」
「どうしたの」
声をかけられた。逆にびっくり。
「……なんでもない」
「そう」
「……」
「……」
フォロッサ城、王の間の扉の前。
今日の護衛当番は俺とクサモチだった。この組み合わせは非常に珍しい。
元々無口である俺と、必要なこと以外喋らないクサモチ。必要なことを喋らないと言うよりは、無駄なことを喋るのは面倒、が適当なのかもしれない。
「……」
「……」
そんな二人の空間。こうなるのは必然。初期の会話は奇跡。
――沈黙は嫌いではない。
「……」
「……」
嫌いではないが、
「……」
「……」
退屈だった。
---------------------------------
番外・『ヤミハルの考え事』
---------------------------------
俺は退屈になると、考え事をしてしまう。思い出してしまう。だから退屈は嫌いだ。
ビギナの酒場で、無礼なことを言ったプレイヤー。あまつさえ俺のドラゴンに変な術までかけやがった。
お陰で俺はビギナの街を燃やした犯人として手配されていた(勿論『 』中立国限定)。もうビギナの酒場でおいしいチョコレートケーキを食べることはできない。本当になんだったんだ、あの男は。この俺の怒りは、やつをドラゴンの顎で百回噛み砕いたとしても晴れそうになかった。ブレス百も追加。
「……」
「……」
やめようやめよう。こんなことは考えてもどうにかなる類のものではなかった。考え事なんて大体そんなものばかりなのかもしれないが。いや、そうでもないか。意味もなく否定してみる。
「……」
「……」
それにしても、本当に喋らない。クサモチ。カイド王国で一、二を争う力の魔法使いと言われながら(なんと単純な力では王を超えるとかなんとか)、いつも面倒そうにして戦闘には参加しない。
変わっている。
城の中では『変わり者』『怠け者』とひどい言われようである。
当初は俺もその力を疑っていたが、一度深夜に五月蝿く叫んでいたホワイトウルフの群れを、
『五月蝿い』
の一言。魔法を唱え、全て灰にしてしまったことがある。
その時俺はすぐ近くにいたのだが、物凄い速さで意味不明な言語をブツブツと唱えていたクサモチからは少し離れた。
「……」
「……」
まあ、力は本物だと言うことだ。
カイド王とは何時から会ってないんだっけ。シムシは何処まで大きくなるつもりなのだろう。護衛が終わったらドラゴンの鱗磨きをやろうかな。ドラゴンはしばらく召喚してないから退屈をしているだろう。『退屈』は、俺とドラゴンの最大の敵だ。
「……」
「……」
リヴァイアサン襲撃の報が入るのは、それから二時間後のことにある。
「どうしたの」
声をかけられた。逆にびっくり。
「……なんでもない」
「そう」
「……」
「……」
フォロッサ城、王の間の扉の前。
今日の護衛当番は俺とクサモチだった。この組み合わせは非常に珍しい。
元々無口である俺と、必要なこと以外喋らないクサモチ。必要なことを喋らないと言うよりは、無駄なことを喋るのは面倒、が適当なのかもしれない。
「……」
「……」
そんな二人の空間。こうなるのは必然。初期の会話は奇跡。
――沈黙は嫌いではない。
「……」
「……」
嫌いではないが、
「……」
「……」
退屈だった。
---------------------------------
番外・『ヤミハルの考え事』
---------------------------------
俺は退屈になると、考え事をしてしまう。思い出してしまう。だから退屈は嫌いだ。
ビギナの酒場で、無礼なことを言ったプレイヤー。あまつさえ俺のドラゴンに変な術までかけやがった。
お陰で俺はビギナの街を燃やした犯人として手配されていた(勿論『 』中立国限定)。もうビギナの酒場でおいしいチョコレートケーキを食べることはできない。本当になんだったんだ、あの男は。この俺の怒りは、やつをドラゴンの顎で百回噛み砕いたとしても晴れそうになかった。ブレス百も追加。
「……」
「……」
やめようやめよう。こんなことは考えてもどうにかなる類のものではなかった。考え事なんて大体そんなものばかりなのかもしれないが。いや、そうでもないか。意味もなく否定してみる。
「……」
「……」
それにしても、本当に喋らない。クサモチ。カイド王国で一、二を争う力の魔法使いと言われながら(なんと単純な力では王を超えるとかなんとか)、いつも面倒そうにして戦闘には参加しない。
変わっている。
城の中では『変わり者』『怠け者』とひどい言われようである。
当初は俺もその力を疑っていたが、一度深夜に五月蝿く叫んでいたホワイトウルフの群れを、
『五月蝿い』
の一言。魔法を唱え、全て灰にしてしまったことがある。
その時俺はすぐ近くにいたのだが、物凄い速さで意味不明な言語をブツブツと唱えていたクサモチからは少し離れた。
「……」
「……」
まあ、力は本物だと言うことだ。
カイド王とは何時から会ってないんだっけ。シムシは何処まで大きくなるつもりなのだろう。護衛が終わったらドラゴンの鱗磨きをやろうかな。ドラゴンはしばらく召喚してないから退屈をしているだろう。『退屈』は、俺とドラゴンの最大の敵だ。
「……」
「……」
リヴァイアサン襲撃の報が入るのは、それから二時間後のことにある。