【雷耐性】:B

 つまり、【雷】属性:Bランク以下の攻撃を全て無効化することができる。ただし、局地的かつ強力な【雷】によって発生する衝撃、および風圧などは、【雷】属性とは認識されず、微妙に通る。
 アサトが【雷耐性】スキルによって可能にした、【攻撃】へほぼ100%魔力をつぎ込んだその一撃は、そりゃあ一般に比べれば強烈な一撃である。だが、それに比べても強烈な経歴と二つ名、性格を持つタナトスを倒せるかといえば、それは微妙であった。

「……?」

 アサトのもう一つの特徴的な能力。【解析】が突然、アサト自身の意識とはほぼ無関係なところで、急速に今の状況を確認し始めた。無機物、有機物、この世界の万物全てに、数列と記号が羅列されるイメージ。一瞬にしてアサトの周りの空気は数式の海に沈み、彼は今までに味わったことのない感覚を覚える。そして、同時にどこか懐かしい感覚も。

 それは、【死】。

「――【装填】」
 場所でいえば、プロの正面と言えた。シンリは特に感情を込めず、そう呟いていた。小高い丘に陣取っていたシンリ軍。その中心に、シムシから運ばれた巨大な鉄の塊が聳え立っていた。科学と魔法の禁断の融合、かつて一度だけ、アルル大渓谷のシムシと衆の決戦で使われた、全てを破壊する超オーバーパワーアイテム。

 【魔導砲】。

 そのときと違うのは、かつて恐ろしい数を必要とした魔導士が数十人足らずで済むようになったこと。【装填】の時間が著しく短縮されたこと。『威力』が桁違いに上がったこと、そして何より、カナン並の強力な魔導士による、『制御』が必要なくなったこと、などである。『改善』、というよりも『改悪』が正しい、いくらファンタジーなLive世界でも許されないその代物は、シンリによって合併されたカイド国から齎された魔導技術も一枚噛んでいた。

「装填完了まで残り15秒。発射後、プロ予想被害は、予定通りになるものと思われます」

 オペレーターの告げる、その予定通りが、何もかもの「0」で終わることは、計算済みである。もはやバグとも呼べる、スピード、桁違いの威力の攻撃が、

「『発射』」

 ――される。何の前触れもない、死の力の渦。数多を殺し、数多を滅ぼし、数多を無に返す、

 ――前に。

「『ゼロ』!」

 両手で触れたアイテムの『魔法力』を完全に『ゼロ』とする能力を発動した――、大、大、大、魔導師――。

「ウルトン様のご登場だぜ!」

 アイテム『魔導砲』の内部魔力が一瞬で『ゼロ』となり、その急な変化により制御系統に混乱が生じた。機械的制御に関していた配管は、逃げ場をなくし暴走しだした圧力によって破裂。それがいくつかの機関を致命的に破壊。蒸気、水、油が混じりあい、不気味な色とニオイを発し、周辺へ危険のシグナルを送り出す。いくつかの蒸気が機械内部の隙間をぬって奇怪な音を出す。それはまるで、『魔導砲』が体中から血を流し、悲鳴をあげているようだった。

「目立ちすぎです!」

 その【神速】で、間一髪ウルトンを運びきっていたアレックスが、すぐさまウルトンの首根っこをつかみ、その場を離脱する。敵軍真っ只中であったので、行きの疲れなど無視せざるをえなかった。その一瞬を、捉えるのはそこに残っていた技術兵、魔導兵では不可能なことだった。もちろん、シンリにも。

「……」

 優秀な何名か、愚かな何名かはすぐさま『魔導砲』の修繕に入っていた。しかし、誰の目から見ても、もちろんシンリの目から見ても、最早『魔導砲』は、使い物にならなくなった。直感的な魔導士たちはすでに、己の声にならない声に従い、すでに魔力を全て台無しにした【敵】への探知に費やし始めていた。

「……」

 もちろん、シンリも声にならない怒りを覚えていた。

「……」

 が、同時に痛烈に愉快でもあった。

「くくく……」

 まさに、敵ながら見事。

「はははははは! あははははははははははは!」

 痛快!

「だが『殺せ』!」

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