アサトとヘレナが遭遇したのは、【物読み】のタナトスだった。
「かっかっか。久しぶり」
「逃げろ!」
 開口一番、アサトは完全に把握、解析していたプロの市街路から、最も逃げやすいルートを選び出し、ヘレナの手を取り、逃げ出しそうとした。
「いやいや、まさかな」
 と、当然タナトスは電光石火の速さで放った【雷魔法】によって、アサトの足を痺れさせ、その逃走を阻止した。その【雷魔法】は速さに反比例し、威力は極小のものだったが、アサトの足を止めるだけには十分だった。
「アサト!」
 ヘレナがアサトの名を叫び、そのまま逃走した。
「おいィ!?」
 アサトの叫び空しく、ヘレナは逃走に成功。アサトの足の痺れはすぐに解消されたが、既にタナトスが全身に【雷魔法】を帯電させて待っている。
「かっかっか。判断に全く迷いがない、いい人格だ」
 タナトスは嬉しそうに言う。アサトが戦闘態勢に入るのを待つ。その様子は余裕でたっぷりである。
「……戦るしかないか……」
 やれやれ、はぁ……といった様子で、アサトも【雷魔法】を全身に帯電させた。まぁ初見(というか実は遭遇はしたことある)の【解析】によると、勝てる見込みは2.2%ぐらいなのだが、こういう場合の確率はあてにならないものだ。0でなければ良い。
「まずはこうだな」
 バチリ、と激しく短く、雷撃が走った。アサトの顔面を直撃したかと思われた雷撃は、衝撃だけを残し、通電はしなかった。のけぞった顔面をタナトスに戻し、アサトは叫んだ。
「あんまり効かない!」
 アサトは一応【雷耐性】:Bという中々珍しいスキルを所持している。
「ああ、お前の顔に書いてあるよ」
 それをさも当然と言った様子で受け止めたタナトスは、今度は氷の槍を生成し始めた。
「いや、させないって!」
 強く地面を蹴り、アサトはタナトスに向けて拳を振り上げた。アサトは遠距離からの雷撃は得意ではないので、効果はあまり望めない。チャージングを始めた敵の前で、躊躇はもってのほかである。まず、自身のほぼ最強の攻撃力を叩きつけて効果を見ることで、今後の戦略を組み立てるのがいいだろう、とアサトは一瞬で【解析】した。
 【氷槍】:アイスランスを生成し終わる直前で、アサトはタナトスの頬に、【雷】を纏った拳を叩き込む。一応、全力だ。

 だが、ズドンという通電音とともに、タナトスがきりもみしながら飛んでいったのは、アサトにとって天敵の、【予想外】であった。

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