また別の、プロの市街地にて、
 キサノとカナンは再会を果たす。
「【壊乱】のエラシナ……」
  怒りを目に湛え、カナンは言った。
「何故、裏切ったのですか!」
 だが、エラシナの答えは、ひどく淡白なものだった。
「……誰でしたっけ?」
「エラシナァアア!」
 激昂したカナン。右手には既に【氷槍】:アイスランスが握られており、魔力による発射を待っていた。迸る冷気がカナンの怒りを冷まそうと、必死に吹き上げている。
「シッ!」
 歯を食いしばりながら、肺の空気を一気に吐き出し、渾身の力で槍を放ったカナン。その槍の速度は元々身体能力は人並みなエラシナには、視認すら困難なモノであった。
「何故?」
 言いながらも、なんとかモーションから読んだ【氷槍】の軌道上から体を避けたエラシナは、右頬を冷たい感触が通り過ぎるのを確認した。だが、カナンの両手には既に複数の【氷槍】が装備されていた。精神の乱れからか、その大きさにはバラツキがあるものの、切っ先は鋭利で,、全てが最初のスピードで放たれるならば、当たり所によっては致命傷となり得るだろう。というか付加効果により一撃でもまともに当たればその場に氷漬けになるので何も心配はいらない。氷属性の攻撃としては、わかりやすいワンキル超攻撃的魔法である。
「……」
 まともな戦闘による勝機を見出せなかったことにより、エラシナは金色に光る瞳を見開いた。魔眼、【壊乱】の瞳である。
「対策をしていなかったと、思うのですか?」
 カナンはさらに、【氷槍】で練っておいた氷のイメージを、壁へと変化させる。あらかじめカナンは氷系の魔術を使っていたこともあり、その時間は0,5秒程短縮されており、魔眼の発動に間に合うほどのスピードである。
「……」
 綺麗な鏡面となってできあがった【氷壁】:アイスウォールが、エラシナ自身の姿を映し出す。エラシナの魔眼は、自身には効果のないものだった。ある意味のカウンターを狙っていたカナンだったが、【壊乱】の効果が自身に届いていなかったことだけでも、【氷壁】の成功を確信する。
「勝った!」
 魔眼系統のスキルに共通する【視認】という条件は、不意に狙うものであればほぼ避けることは不可能に近い。だが、全く対策する方法がないわけではなかったのだ。カナンは【氷壁】を貫くほどの速さで、無数の【氷槍】をノータイムで放った。無抵抗のまま、エラシナは壁を突き破って飛んできた、無数の【氷槍】に貫かれた。
「……」
 無言のまま、エラシナは自身に刺さりまくった【氷槍】を、さらりと眺めた。次の瞬間には氷がエラシナ全身を覆う。歪ではあるがある意味美しい氷像が、一瞬で作り出された。
 キサノはカナンの勝利を見て、(ああ、自分の出番、またなかったな)と、遠い目をした。

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