「ポチさん! やはりシンリは!」

「……」

 ある個室で、もはや軍事の最高の地位を獲得したポチと、その補佐を務めているリペノが話をしていた。ポチはすでに両目の傷を隠そうとしておらず、もともと着けていた眼帯も外しており、威圧感を増していた。リペノは地位を獲得することによって付加される様々なプラスとマイナスを押しのけており、その反発心を抑えようとしていなかった。にも関わらずこの地位を維持しているのは、実力を認められているからに他ならない。だが、その成果はポチの要望に沿えないことを防ぐためだけにあり、決してシンリへの忠誠からきているわけではなかった。それでもシンリには問題がなかった。

「……リペノ」

 ポチは静かに口を開いた。シンリ軍団内での彼の地位、印象は、もはや揺ぎ無いものであった。シンリから発せられる言葉が、そのまま軍事的な意味となりポチに下りる。そしてポチに下った命は、そのままシンリ全軍に下る。それだけの図式のはず、だったがシンリの命令の仲介と言うにはあまりにも大きすぎる器を、軍団員達は感じていたし、すでにシンリではなくポチに心酔するものは、リペノだけではなくなっていた。

「……僕は、シンリについていく。君は、選べ」

 本来なら人間としての機能として、情報量がなかなか多い眼を失いながらも、その存在感は衰えるどころか、ますます強くなっている。ポチというプレイヤーは、底が知れないという表現が当てはまるようになった。

「……! もう、バカ!」

 と、リペノが初めてポチに対して暴言を吐くのも無理はなかった。選べといわれても、ポチがシンリ側にいる限り、選べるわけがないのだ。ポチはその答えを知っていたが、どこかでリペノに裏切られないかと、わけのわからない期待をしていた。ポチは自分についてくることこそ、シンリについていくことこそ、人間にとっては一番辛い選択なのだと知っていた。

(……リペノ、辛いよ。シンリも、辛いよ)

 ポチは塞がった瞼の裏で、さらに眼を閉じた。それは深い瞑想状態への移行を意味する。それはポチが、両目が塞がってから幾度となく感じた、『世界との繋がり』をさらに強く意識することができる行為だった。彼はそのことによって、自身の特別さを、自意識過剰でもなんでもなく、当然のように感じることができる。そして真実をもっとも自然に感じることができた。シンリの言、行為は、真実である。

 ――世界の崩壊は、近い。

 ――そして、対決の時も、近い。

コメント

痺れ武蔵
2009年5月3日17:56

おい、これは……
リペノ萌えなのか? そういうことなのか?

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