「で? 結局買えたわけ? クッキーは?」
「いや……だからフォロッサはちょっと、ねえ? 混乱してたしねえ?」

 シンカの振りかぶった新聞紙棒が、バリエッタの頭部に綺麗に当たり、ぱかーんという澄んだ音を出した。

「痛っ! いやいやいやしょうがないでしょ!」
「しょうがなくもなくもないでしょ!」
「そもそもなんで俺がクッキーのお使いとか行かないとならないの! ロッカク堂ってカフェテリアじゃないでしょ!」
「その点は私も同意!」

 と、ロッカク堂店主シンカと、アルバイターバリエッタが仲良く喧嘩するのは、皆さんご存知ロッカク堂である。もうこの店はカフェテリアでいいと思われる。

「ふぅーん。お使いもできない上に口答えするんだ」
「……いや、あのね」
「へぇ~、まだ何か言う気なんだ」
「……」
「あぁ、そう。じゃあ今月分の給料から――」
「わかりました! すいませんっした!」

 この喧嘩はいつもどおりの終わりを迎えたが、バリエッタの表情はまだ違う憂いを帯びたままだった。

「……ん? どうしたのよ? 心配しなくても給料は……」
「……いや、違う。急にまじめな話で悪いんだが」
「……え? なによ」
「俺、もうすぐ死ぬかもしれない。Liveに英雄級が一人現れたみたいだ。フォロッサで間近に感じた」
「…………は?」
「別れの挨拶を一言言っておきたくてな。その場での衝突は避けたけど、まあすぐに対すると思う。Liveに【英雄級は一人しか存在できない】し」
「…………え、あ? あぁ、そう……ふぅーん」

 シンカはズレ落ちたメガネを直すのを忘れ、滴り落ちた冷や汗が頬を伝うのを感じた。早すぎる展開についていけないのは、シンカも同じである。

「チェックメイトーーーーーーーー!」
「二歩ですよ、NET」
「え!? いつのまに将棋になってたの!? あれ、フルファイアはなんでそれも強いの?」
「いや、NETさんが弱すぎるんですよ」
「黙れアレックス!」

 NET、フルファイア、アレックスという奇妙な三人組はわいわいとしている。

「もう、森に帰りたい……」
「禁断症状が出始めたな。あと一週間ぐらいが限度か」

 冷静にヘレナを【解析】するアサト。

「ん、待てよ? この魔法をこうすると……」

 魔道書漁りが終わらないウルトン。

「三大国統一をついに成し遂げたのが、何処からきたのかわからないような人物とはね……」
「まあ私も似たようなものだったけれど」

 新聞を見ながら感慨深い感想を漏らす、キサノ。そしてすっかり元気になったカナンの兄妹。

 ……あと誰かいたっけ?

 世界情勢的に言えば、中立国はシンリとの正式な平和条約を結ぶ(その条約はわずか一週間で破られることになるのだが)。その後、流石に危機感を抱かなかったわけではない中立国は、史上初の中立国軍を編成することに決定(ここまでやってのけたのはアメツキにも予想外だったが、確実に面白くはなると逆に喜んだ)。
 ロッカク堂のメンバーはいっそギルド作るかと悩んだりしていただけで、直接その軍には関わらず。偽りの平和の元で上記のような会話を繰り返しただけだった(注記するとすれば、裏でNETがアレックスを使い走り、調べごとをしていた模様。また、アサトはさらに独自で行動、わずかに繋がっていたキルタイムとのパイプにより、まだ銀が『賢者の石』所有という情報を得る。その他小事もね)。
 劇的に動くのは、条約五日目。破られるまで二日のところ。

 ロッカク堂の門を叩いたのは、三人の怪しいマント姿。

「ここしか……なかった」

 そう呟き、二人に支えられていた一人が、店の中に倒れこんだ。続けて一人もその場に膝をつき、もう一人は本当に気だるそうに言った。

「……はあ、だるかった」

 膝をついた一人は、ただ本当に心からの一言。

「……無念」

 倒れこんだ一人にすぐさまかけよったアレックス。ある種の直感ですぐさま『癒しのナイフ』をマント越しにその人物へと突き刺した。シンカは驚きながらも、すぐさま店のメンバーに行き倒れの治療をテキパキと指示し始める。

「すまぬ……のう。アレックス」

 弱弱しく声を吐いたのは、アトラだった。膝をついたヤミハルを、後ろから心配そうに見つめている巨大な黒ワイバーンが、表通りに人だかりを作っていた。気だるそうで、今にも倒れそうになりながらも、決して倒れないクサモチだけが、怒りと悔しさを眼にたたえ、立っていた。
 カイド三人組が、ようやくロッカク堂へとたどり着いた。

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