もちろんアメツキには、語っていない部分が多々あった。
 まず、自身も昔バグの塊ともいえる、【災厄】(黒い塊)を、アイゼン、銀とともに触れ、浴びていたこと。そしてシンリが実は、アメツキ自身のペット:ミックスブラッドキャットの魂を使って作り出した【偽プレイヤー】であること。そしてそのシンリの体のベースが、数々の【禁忌の武具】から作られていること……などである(きっとみんなキルタイムが昔【禁忌の武具】を集めていたことをわすれているだろう)。
 補足をすれば、【災厄】も【禁忌の武具】もその性質は似ており、プレイヤー達の『意識』を強制的に変えるほどの強い『認識』をさせるアイテムであると言える(【災厄】はアメツキ、アイゼン、銀の変貌を見ればよいし、『チェルノブイリ』、『ツングースカ』などに代表される【禁忌の武具】は、使用者を強制的にモンスターに変身させその精神を蝕む)。本来ならばこういったアイテムは『Live』自身が『プレイヤーを楽しませる』という存在目的から外れるため作られないはずなのだが、バグなので、あるいは人為的な何かが介入したので、なんとなく誕生したのである。
 さらに言えばプレイヤー達の意識を強制的に変えるシンリの『カリスマ』も、【災厄】や【禁忌の武具】の性質に近い。皮肉なことにも自身が世界を滅ぼすバグ【禁忌の武具】ベースにできており、バグに近い力を持っていることに気づかず、シンリはアメツキに刷り込まれた『世界を守る』という行動を貫こうとしているのだ。そして自身でそれを知らない。そんな恐ろしいほどの皮肉に、アメツキは腹がよじれそうになるのだった。
 そんなわけでシンリはもちろん、アメツキに都合の悪い記憶は消されているし、プレイヤーではないのでログアウトなどできるはずもない。唯一与えられた力『カリスマ』も、呪われた力なのだが、

 シンリは、知らない。

 もう一つ、アメツキは、というよりも『キルタイム』は大きな隠し玉を持っているのだが。

 『その瞬間』になれば、わかることなので省く。

 こうして創られたシンリが、『世界を愛する』シンリが、どういった判断をするのか。それはわかりきったことではあるが、その苦悩を誰も知らないままなのは流石に気の毒だろう。シンリはもちろん世界を愛していたが、その分、今まで出会ってきた数多くのプレイヤーも愛していた。ポチも、ザクロも、走電も、リペノも、殺してしまった周も、周を慕っていたプレイヤーも、シムシの兵達も、アレクサンドルの民達も、カイドの人たちも、衆の人たちも、自分を罵る人達も、慕う人達も、敵達も、味方達も、出会ってきた人々、全てだ。全ての世界が、人が、新鮮で、美しく、たくましく、そしてただひたすらに大好きだったのだ。

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