シンリ様、一つだけ、一つだけ聞いていただきたい。
もっとも留意すべき点は、バグである。
というよりも、ラグである。
Live世界は大分、人気になり、大分、プレイヤーが増えてしまった。毎日多くのプレイヤーが死に、多くのプレイヤーがログインする。その繰り返しだったはずが、いつのまにかLive内のプレイヤーの絶対数は史上最高数を記録し続けていた。こうなることによって起こる害は、現在のMMORPGなどでも見られるように、『重く』なることだ。『Live』もその規模が幻想級にでかいとはいえ、コンピュータが作り出している。ゆえに処理が『重く』なることもありえる。そしてそれがさらにひどくなれば、『サーバー落ち』というひどい目にあうことも、ないとはいえないのだ。それはいわば、一時的とはいえ世界の消滅に等しい。ひどいにひどいことが重なれば、装備やお金のデータは消えるし、下手すればそれまでの『経験』さえ消えてしまう。ましてや、この一つの『世界』を構成している『Live』。どうなるかは想像もつかない。
その事態に気づけども、あまり危機感を抱けなかったのは痛い。本来ならばその兆候は、一般プレイヤーでも感じ取ることができるはずのものだった。現にNET(元7-10)はその兆候にちゃんと気づいていたし、警告も促していた。だが、そこまでの危機感を、GM達でさえも抱けなかった、そして一般のプレイヤー達は全く信じず、受け入れもしなかった。それにはやはり、理由がある。
簡単に言えば、そこから目を逸らしていたのだ。いや、『逸らさせられていた』が、正しいのかもしれない。プレイヤー達の『意識』を操っているのは、もちろんプレイヤー達の『意識』だ。だが、その『意識』を変えるものは大体が、さまざまなことを『認識』して行われる。つまり、さまざまな事柄を『認識』させている『Live』は、プレイヤー達の『意識』を間接的に操っているに等しいのだ。なんとなく難しそうに言ってみたかっただけなのだが、『Live』の存在目的が『プレイヤーを楽しませる』ことである限り、『Live』はプレイヤー達にバグを『認識』させたくないということ。そういうものだと感じ取ってもらいたい。
だから、プレイヤー達、GM達でさえもが、『Live』の危機に気づけないのは、不可抗力なのである。一部にその危機を感じ取る特殊な感性を持ったプレイヤーがいたとしても、一は万には勝てない。
と言った内容だった。アメツキがその場所で、話したのは。
「信じてもらえないでしょうね」
アメツキは、粛々と言った。
「……」
シンリは、答えられなかった。ポチも、ライも。
「しかし、」
アメツキが剣を抜き、落とした。カラン、と音がした。それだけのはずだった。
「気づき、ませんか?
気づけるはずです! 世界を愛しているあなた方なら!」
その話を聞いた後だったので、シンリは『見た』。その剣の落下速度は、明らかに、おかしい。中空で、がちりと、一瞬止まり、落ちた。気づいたのだ。シンリは。ライは。ポチは。よく見渡せば、カーテンが一部ないし、椅子の足が一つ多かったり、少なかったりするし、まっすぐ引かれていたはずの絨毯は、今や皺だらけになっている。全てが、『ズレ』ている。
「シンリ様、あなたはもう『認識』してしまったのです」
笑い出しそうなアメツキ、だが堪える。全てが台無しになる、その思い。全てはこの瞬間と、後に来る最高の瞬間のために。『特等席』に入るために。シンリの前へと、舞台へと現れたのだから。
「『Live』は! 『世界』は! そう、あなたの愛する『世界』は!
今! 確実に『崩壊』へと向かっています!
それに気づく者は少なく! そして、その原因は!
『増えすぎたプレイヤー』なのです!」
息という息を出しつくし、アメツキは言い切った。興奮を抑えきれず、胸を強くつかんで、叫びきった。
ああ、そのときのシンリの表情が、ああ。
もっとも留意すべき点は、バグである。
というよりも、ラグである。
Live世界は大分、人気になり、大分、プレイヤーが増えてしまった。毎日多くのプレイヤーが死に、多くのプレイヤーがログインする。その繰り返しだったはずが、いつのまにかLive内のプレイヤーの絶対数は史上最高数を記録し続けていた。こうなることによって起こる害は、現在のMMORPGなどでも見られるように、『重く』なることだ。『Live』もその規模が幻想級にでかいとはいえ、コンピュータが作り出している。ゆえに処理が『重く』なることもありえる。そしてそれがさらにひどくなれば、『サーバー落ち』というひどい目にあうことも、ないとはいえないのだ。それはいわば、一時的とはいえ世界の消滅に等しい。ひどいにひどいことが重なれば、装備やお金のデータは消えるし、下手すればそれまでの『経験』さえ消えてしまう。ましてや、この一つの『世界』を構成している『Live』。どうなるかは想像もつかない。
その事態に気づけども、あまり危機感を抱けなかったのは痛い。本来ならばその兆候は、一般プレイヤーでも感じ取ることができるはずのものだった。現にNET(元7-10)はその兆候にちゃんと気づいていたし、警告も促していた。だが、そこまでの危機感を、GM達でさえも抱けなかった、そして一般のプレイヤー達は全く信じず、受け入れもしなかった。それにはやはり、理由がある。
簡単に言えば、そこから目を逸らしていたのだ。いや、『逸らさせられていた』が、正しいのかもしれない。プレイヤー達の『意識』を操っているのは、もちろんプレイヤー達の『意識』だ。だが、その『意識』を変えるものは大体が、さまざまなことを『認識』して行われる。つまり、さまざまな事柄を『認識』させている『Live』は、プレイヤー達の『意識』を間接的に操っているに等しいのだ。なんとなく難しそうに言ってみたかっただけなのだが、『Live』の存在目的が『プレイヤーを楽しませる』ことである限り、『Live』はプレイヤー達にバグを『認識』させたくないということ。そういうものだと感じ取ってもらいたい。
だから、プレイヤー達、GM達でさえもが、『Live』の危機に気づけないのは、不可抗力なのである。一部にその危機を感じ取る特殊な感性を持ったプレイヤーがいたとしても、一は万には勝てない。
と言った内容だった。アメツキがその場所で、話したのは。
「信じてもらえないでしょうね」
アメツキは、粛々と言った。
「……」
シンリは、答えられなかった。ポチも、ライも。
「しかし、」
アメツキが剣を抜き、落とした。カラン、と音がした。それだけのはずだった。
「気づき、ませんか?
気づけるはずです! 世界を愛しているあなた方なら!」
その話を聞いた後だったので、シンリは『見た』。その剣の落下速度は、明らかに、おかしい。中空で、がちりと、一瞬止まり、落ちた。気づいたのだ。シンリは。ライは。ポチは。よく見渡せば、カーテンが一部ないし、椅子の足が一つ多かったり、少なかったりするし、まっすぐ引かれていたはずの絨毯は、今や皺だらけになっている。全てが、『ズレ』ている。
「シンリ様、あなたはもう『認識』してしまったのです」
笑い出しそうなアメツキ、だが堪える。全てが台無しになる、その思い。全てはこの瞬間と、後に来る最高の瞬間のために。『特等席』に入るために。シンリの前へと、舞台へと現れたのだから。
「『Live』は! 『世界』は! そう、あなたの愛する『世界』は!
今! 確実に『崩壊』へと向かっています!
それに気づく者は少なく! そして、その原因は!
『増えすぎたプレイヤー』なのです!」
息という息を出しつくし、アメツキは言い切った。興奮を抑えきれず、胸を強くつかんで、叫びきった。
ああ、そのときのシンリの表情が、ああ。
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