【スキルロスト】 視力:B
【スキルロスト】 選眼:B

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 ・その他視力関係のスキルロストが長々と続く――。

 そして、

(スキル関係のメッセージは、久しぶりだ)

 久しく成長が完全に止まっていたポチの、所感。
 実質、明らかにマイナス方向にしか、働かないこの現象、スキルロスト。今まで彼を彼たるものにしてきた、スキルレベルアップの早さ、と全く逆の現象が今引き起こされている。しかし、今まで劇的な成長を遂げてきた彼に、この更なる刺激は、新たなる可能性を提示した。

【スキルロスト】 成長:A

(……くっ……くく……)

 思わず、ポチからは、【笑み】がこぼれた。

(ははは……)

 急なスキルのロストが立て続いたことにより、スキルの成長速度を早める役目を持つスキルが引っ張られ、ロストした、といったところだろうか。それまで名前も知らなかったスキルをはじめて確認したポチは、なぜか笑いを堪えられない。先天性スキルロストという、バグにも似た珍しい現象に遭遇した彼は、幸か、不幸か。その、スキル【成長】が彼を成長させた所以であり、また、彼の成長を止めた所以でもあるのは、まだ誰も知らなかった。ポチ、その本人さえも。
 自分の所以さえ失ったポチ、彼が自分の中に見つけたのは、大きな、大きな、

 『無』の塊である。

 それの認識から、始まった。

 カタストラが消えた。人の認識を飛び越えた。最早、リペノが何をしようと関係がなかった。いつでも殺せる、関係がなかった。ただ、口元に笑みを薄っすらと浮かべたポチだけが、カタストラは許せなかった。

「死ね」

 またしても、この単語をカタストラは吐く。ゆらりと『動かなかった』のは、ポチだ。カラドボルグの光線は、ポチの首の皮の一枚目を焼き、ポチの鎖骨の表面部を焼き、ポチの右手の親指の爪の余計な部分を切り取って、止まった。これが一閃目。振り上げられた二閃目は、ポチの心臓の前の皮の二枚目までを焼き、のどぼとけの前数mmを通り抜け、あごの骨の皮一枚目を焼いて、鼻とまつげの間をとおり、22本の髪の毛を焼ききって、中空にて止まった。

「……カタストラ」

 呟きながら、さりげなくポチがさし出した左手が、カタストラの頬をするりと撫でた。寒気、怖気、混乱、狂気、さまざまなものが入り混じって、腕や足や胸や肩の骨や、さまざまな部分の筋肉がぶち切れる音を聞きながら、逃げた。カタストラは逃げた。あっさりと。さまざまな種類の死神がまだ追ってくるのを錯覚しながら。彼女は逃げた。逃げた。逃げた。

「……ああ、剣で切らないと、駄目だったのか……」

 ポチは、あるラインを、越えてしまったのだ。左目の傷から滴り落ちた血が、まるで涙のようだった。リペノは、発動しようとしていた能力を収め、彼に近づこうと努力を始めなければならなかった。

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