「!?」

 アデルは悶絶していた走電を見ており、すっかり油断していた。しかし、油断していたとはいえ、このレベルで『スタイナー』が背後を取れたのは大きい。

「このパワー、吸血鬼ですね」

「! なっ!?」

 さらに二度驚き、アデルは一瞬の硬直から逃れられない。

「破ッ!」

 そこへ、走電とはまた違う、スタイナー流の『発勁』がアデルの背中から全体へと直撃する。腰を落とし、左手を引き、丹田へ集中させた『力』をめぐりめぐり、直感的に、理論的に、軽く開いた右手のひらへ集中させ、アデルの背中を穿つ。スタイナーの力が、ハンマーで打たれた鉄の振動と同じように広がり、一瞬で体内組織の大半を破壊する。

「ガァアアアアアア!」

 これまでにない苦痛、痺れに、思わず叫んだアデルは、体部位のいくつかに障害を認める。

(油断! した!)

 アデルの自分の肉体への過信がすべての原因ともいえる。しかし、その過信する理由ももわかるのが、吸血鬼の肉体である。

「正真正銘全身全霊で撃ちこんだんですけどね……」

 アデルはよろけるも倒れない。維持。さすがにこれは意地だけでは無理である。アデルの背中には、スタイナーの手のひらのマークがきっかりついており、しかも煙までたっているにもかかわらず、

 アデルは、赤い目と、牙を、むき出しにした。

「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

「ゴフッン」

 アデルの叫びと同時に、スタイナーは吐血した。怪我の痛み止め、悪化に使っていた気まで全て放出したのだ。当たり前である。

「後は任せた走電さん」
(ふざけんな!)

 二人が争う間もなく周りも見ずにアデルが手を振り回し始めた。

「チェーンジ!」
(あっ! こらっ! てめっ! ズルィ)

 スタイナーが『走電』になった瞬間、アデルの指先が走電の頬を掠めた。

「は?」

 走電の疑問はもっともである。なぜか一瞬で目の前に酒場の壁があり、次に認識したものは激しい痛みと目に入ってくる木の瓦礫達である。

「ぐおおおお!」

 手が掠めただけで酒場の壁を突き破るほどぶっ飛ばされた走電だったが、逆にこれはチャンスかもと考える。

「GYAOOOOOOOOOOOO!」

 酒場が震度9の地震に遭ったかのように崩れた。立ち上る砕けた木や砂の煙の中から、ギョロリと走電を見つける赤い双眸。

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