先駆けて、ライがいたのはフォロッサ城下町の酒場。厳重体制の下で、たった一人での潜入だった。

 ――はずだった。

「私を出し抜こうなんて、いい度胸ですね、ライ」

 フォロッサの酒場、正面に座っているのは、紛れも無くシンリであった。

「――」

 しばらくライは声が出ず、

「……!!」

 顔を両手で覆い、深い深い思考に入った。

(落ち着け、落ち着け……!)

 無論、ライには落ち着ける暇などない。

「こんにちは、シンリ王」

 と言ってライ、シンリのテーブルに座ったのは、長髪緑髪長身の女性だった。

「私がこの度、アトラ王を倒しカイド国王になった、なゆただ」

 ……。

「立場的には私たちは同等だな。いや、それ以外にも君には近しいものを感じるぞ。記憶の無い私にはどういうところが似ているのかさっぱりだが」

「へえ、私も記憶がさっぱりなんでそういう部分は確かに似ていますね。あと、カイド国王? 就任おめでとうございます。それと、私は一時的にアレクサンドル、衆を治めている代表者であって、王というわけではないですよ?」

「待って! 待って!」

 普通に会話を繰り広げるなゆたとシンリに対し、唯一常識的反応を返すライ。

「なんだね? 時間というのは限られているような気がする。私たちの会話を止めるならば、それなりの理由があるんだろうね?」

 なゆたがそれに異を唱えたが。

「――」

 たしかに何からツッコめばいいのか、ライにはわからなかった。

「なんだ、やっぱり何も無いのか。
 ところでこれは私の夢で、私の中でもっとも優先すべき事項なんだ。だから、二国の代表者であるシンリ、君にお願いがある」

「なんでしょうか?」

 なゆたは表情変わらず、さらりとこういった。


「 ちょっと国をくれ 」

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