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77.アトラ、なゆた
2008年8月25日 Live2 ――その頃カイドでは。
「王、私はあなたを尊敬しています。本当です」
シシがアトラの【重力魔法】からなんとか逃れ、白い龍の頭に立って、穴から這い上がってきた。その横には、アトラも大臣達も見知らぬ、一人の女性が立っていた。
アトラより少し深い、緑色の綺麗な長髪は腰にまで届き、ラフな服装で、当然のように瀕死のシシの横に立っている。
ネーム:【なゆた】
「やぁやぁ、これはこれは初めまして、カイド王国の皆さん!」
なゆたは両手を高々と掲げ、大げさにポーズを取った。
「早速なんだが、この国を私にくれないか?」
場の空気が凍る。いや、逆に燃え尽きる勢い。アトラの怒りが、沸点を超え頂点に達した。
「お ま え は ?」
「なゆた。新たなカイド国王、いや、世界の王になろうかと思って。カイドは手始めにね」
怒りが振り切れると、笑うのだ。アトラはこれ以上ない笑顔で、なゆたに飛び掛った。大臣達はもちろん一目散に逃げ出していた。
-----------------------
「冗談じゃない! こんな事態になるなんて!」
「シシ様はなんとかするって言ったじゃないか!」
ほぼシシに加担していたと言っていい大臣達は、次に制裁を受ける身である。それも国を思ってのことではあったが……少し方向が間違っていた。
「この程度のことでうろたえるとは……やはり、お前達はなゆた様に必要が無いな」
水色の髪をポニーテールでまとめた女性剣士が、いつのまにか大臣達の行く手に現れ、冷たい声を出していた。
ネーム:【カタストラ】
その手には何もせずとも光を放ち、魔力を垂れ流している【聖剣】カラドボルグがあった。魔法関係の知識に秀でた大臣達は、当然それ以上その剣士に近づかなかった。かといって。
「冷たいなあ、カタストラさんは。私はもうちょっと優しくやりますよ?」
大臣達の後ろには黒いドレスと黒いベレー帽を身に纏った、金髪の女性がニヤリと笑って立っている。黒ずくしの服装に金髪が映え、きらりと除いた大き目の犬歯を、流石に大臣達は見逃さない。
(吸血鬼か……!)
ネーム:アデル(吸血鬼)は、優しい言葉とは裏腹に、その肩に乗せられたあまりにも大きな銃、というよりもロケットランチャーの様相を呈している【リボルバーカノン】の所為で、その内側に潜む凶悪さを隠しきれていなかった。
しかし、カタストラは自分のペースで続ける。
「アデル、貴方は邪魔です。去りなさい」
「そりゃないでしょう……って」
アデルがやれやれといったポーズを取ろうとしたときには、カタストラは既に聖剣カラドボルグを振りかぶっていた。人の話を聞くようなやつじゃなかった。アデルは脅威の脚力で窓から飛び出す。何処からともなく溢れてでくる聖剣の魔力が、剣自身の効果によって光に変換され、収縮、照射、爆発の一連の動作を数秒でこなす。大臣達は当然回避は間に合わない。かろうじてバリアを――。
瞬間、巨大な光の剣が、フォロッサ城三割ぐらいごと大臣達を一瞬で消滅させた。
---------------------
もちろん、なゆた達がいる王室を避けてカラドボルグは放たれている。だが、その異常な魔力の奔流をアトラは見逃さない。だがだが、それよりも。
「ブチコロス」
最早言語さえもアトラ自身の熱に溶かされてしまったようだ。なゆたに一秒で飛び掛ったアトラは、身の危険をすばやく感知し、下にバリアを展開する。
一点集中された高密度フレイムアローが、バリアで弾道を変えられ天井に突き刺さる。
(ナカマカ!)
アトラはアロー発射点を確認しようとした。だが、その前になゆたは両手を広げ、自身を囲むように無数の光球を発生させていた。
「私は、あっはっは、ごめんね、壊すことしか知らなくてね」
(ヤッベー)
とにかく、この光球はヤッベー。アトラの直感はすごく正しい。
「本当は名前が無いのが名前のスキルなのさ。だが私はあえて名前をつける! そう、これは【消滅】:オールオアナッシング!」
音も無く、忍び寄るようにして、無数の光球がアトラへ殺到した。フレイムアローを軽く弾き、迫った白龍の腕を、片手で吹き飛ばす。
(くそっ! 許せ!)
紙一重で【消滅】の弾幕をかわしながら、迫った白龍のもう一本の腕をたどり、アトラはシシごと白龍の頭を吹き飛ばした。つもりだった。
実際には確かに白龍は頭を吹き飛ばされ死んだが、シシは炎の壁によって守られていた。
(許せぇぇええ! 馬鹿が! 逆にしろ! 白龍は殺したくなかったのにぃいいい!)
アトラはボヤきながらも、そんな思考の余裕さえないことに実は焦っている。ついに光球がアトラの指先に数発、命中した。
スキルロスト:【瞬速】
スキルロスト:【料理】
スキルロスト:【鞭術】
アトラの予想通り、なゆたのスキルは最悪だった。
【消滅】オールオアナッシングは、放った光球に当たったプレイヤーのスキルをランダムで消すという、それはもうチートな能力だった。
(……いや、何も言うまい)
【絶対領域】だとか、【無神】だとかを見てきたアトラには、最早ツッコむ気力すらないのだ。ただゲンナリとして、そして次の最善の一手を考えた。結論は、地面に着地するさいに、もう一人、赤髪の少年風のプレイヤーを視界の端に確認して、出た。おそらくあのプレイヤーがフレイムアローの犯人だ。
「シロトラァ!」
「ガウッ!」
半ばシロトラに体当たりされたようなカタチになったアトラ。その際にも光球はどんどん命中してくる。おそろしい程精度の良い誘導弾である。弾速もなかなかあった。
スキルロスト:【破壊魔法】
スキルロスト:【土魔法】
スキルロスト:【モンスターテイム】
(あちゃー、モンスターテイムなくなったら、あとはシロトラの信頼度が丸裸で影響してくる……)
シロトラに体当たりされ、その勢いで窓を突き破って外に飛んだアトラ。下にはちょうど計算されたようにバザーがやっていて、その布の天井の上にバサりと落ちた。
つまり、アトラは逃げたのである。
(シロトラは最早戻ってこないと考えたほうがいいか……)
スキルロストメッセージが多すぎて、スキルがいくつ消えたのか把握できなかった。光球は有効範囲から外れたためか追ってこなくなり、あとは空から人が落ちてきて大変驚いた様子の商人をなんとか宥めた。
フォロッサ城には一連の騒ぎで、既に人だかりができていた。
(……)
アトラは久しぶりの敗北に、何も思考が浮かび上がってこなかった。
「王、私はあなたを尊敬しています。本当です」
シシがアトラの【重力魔法】からなんとか逃れ、白い龍の頭に立って、穴から這い上がってきた。その横には、アトラも大臣達も見知らぬ、一人の女性が立っていた。
アトラより少し深い、緑色の綺麗な長髪は腰にまで届き、ラフな服装で、当然のように瀕死のシシの横に立っている。
ネーム:【なゆた】
「やぁやぁ、これはこれは初めまして、カイド王国の皆さん!」
なゆたは両手を高々と掲げ、大げさにポーズを取った。
「早速なんだが、この国を私にくれないか?」
場の空気が凍る。いや、逆に燃え尽きる勢い。アトラの怒りが、沸点を超え頂点に達した。
「お ま え は ?」
「なゆた。新たなカイド国王、いや、世界の王になろうかと思って。カイドは手始めにね」
怒りが振り切れると、笑うのだ。アトラはこれ以上ない笑顔で、なゆたに飛び掛った。大臣達はもちろん一目散に逃げ出していた。
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「冗談じゃない! こんな事態になるなんて!」
「シシ様はなんとかするって言ったじゃないか!」
ほぼシシに加担していたと言っていい大臣達は、次に制裁を受ける身である。それも国を思ってのことではあったが……少し方向が間違っていた。
「この程度のことでうろたえるとは……やはり、お前達はなゆた様に必要が無いな」
水色の髪をポニーテールでまとめた女性剣士が、いつのまにか大臣達の行く手に現れ、冷たい声を出していた。
ネーム:【カタストラ】
その手には何もせずとも光を放ち、魔力を垂れ流している【聖剣】カラドボルグがあった。魔法関係の知識に秀でた大臣達は、当然それ以上その剣士に近づかなかった。かといって。
「冷たいなあ、カタストラさんは。私はもうちょっと優しくやりますよ?」
大臣達の後ろには黒いドレスと黒いベレー帽を身に纏った、金髪の女性がニヤリと笑って立っている。黒ずくしの服装に金髪が映え、きらりと除いた大き目の犬歯を、流石に大臣達は見逃さない。
(吸血鬼か……!)
ネーム:アデル(吸血鬼)は、優しい言葉とは裏腹に、その肩に乗せられたあまりにも大きな銃、というよりもロケットランチャーの様相を呈している【リボルバーカノン】の所為で、その内側に潜む凶悪さを隠しきれていなかった。
しかし、カタストラは自分のペースで続ける。
「アデル、貴方は邪魔です。去りなさい」
「そりゃないでしょう……って」
アデルがやれやれといったポーズを取ろうとしたときには、カタストラは既に聖剣カラドボルグを振りかぶっていた。人の話を聞くようなやつじゃなかった。アデルは脅威の脚力で窓から飛び出す。何処からともなく溢れてでくる聖剣の魔力が、剣自身の効果によって光に変換され、収縮、照射、爆発の一連の動作を数秒でこなす。大臣達は当然回避は間に合わない。かろうじてバリアを――。
瞬間、巨大な光の剣が、フォロッサ城三割ぐらいごと大臣達を一瞬で消滅させた。
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もちろん、なゆた達がいる王室を避けてカラドボルグは放たれている。だが、その異常な魔力の奔流をアトラは見逃さない。だがだが、それよりも。
「ブチコロス」
最早言語さえもアトラ自身の熱に溶かされてしまったようだ。なゆたに一秒で飛び掛ったアトラは、身の危険をすばやく感知し、下にバリアを展開する。
一点集中された高密度フレイムアローが、バリアで弾道を変えられ天井に突き刺さる。
(ナカマカ!)
アトラはアロー発射点を確認しようとした。だが、その前になゆたは両手を広げ、自身を囲むように無数の光球を発生させていた。
「私は、あっはっは、ごめんね、壊すことしか知らなくてね」
(ヤッベー)
とにかく、この光球はヤッベー。アトラの直感はすごく正しい。
「本当は名前が無いのが名前のスキルなのさ。だが私はあえて名前をつける! そう、これは【消滅】:オールオアナッシング!」
音も無く、忍び寄るようにして、無数の光球がアトラへ殺到した。フレイムアローを軽く弾き、迫った白龍の腕を、片手で吹き飛ばす。
(くそっ! 許せ!)
紙一重で【消滅】の弾幕をかわしながら、迫った白龍のもう一本の腕をたどり、アトラはシシごと白龍の頭を吹き飛ばした。つもりだった。
実際には確かに白龍は頭を吹き飛ばされ死んだが、シシは炎の壁によって守られていた。
(許せぇぇええ! 馬鹿が! 逆にしろ! 白龍は殺したくなかったのにぃいいい!)
アトラはボヤきながらも、そんな思考の余裕さえないことに実は焦っている。ついに光球がアトラの指先に数発、命中した。
スキルロスト:【瞬速】
スキルロスト:【料理】
スキルロスト:【鞭術】
アトラの予想通り、なゆたのスキルは最悪だった。
【消滅】オールオアナッシングは、放った光球に当たったプレイヤーのスキルをランダムで消すという、それはもうチートな能力だった。
(……いや、何も言うまい)
【絶対領域】だとか、【無神】だとかを見てきたアトラには、最早ツッコむ気力すらないのだ。ただゲンナリとして、そして次の最善の一手を考えた。結論は、地面に着地するさいに、もう一人、赤髪の少年風のプレイヤーを視界の端に確認して、出た。おそらくあのプレイヤーがフレイムアローの犯人だ。
「シロトラァ!」
「ガウッ!」
半ばシロトラに体当たりされたようなカタチになったアトラ。その際にも光球はどんどん命中してくる。おそろしい程精度の良い誘導弾である。弾速もなかなかあった。
スキルロスト:【破壊魔法】
スキルロスト:【土魔法】
スキルロスト:【モンスターテイム】
(あちゃー、モンスターテイムなくなったら、あとはシロトラの信頼度が丸裸で影響してくる……)
シロトラに体当たりされ、その勢いで窓を突き破って外に飛んだアトラ。下にはちょうど計算されたようにバザーがやっていて、その布の天井の上にバサりと落ちた。
つまり、アトラは逃げたのである。
(シロトラは最早戻ってこないと考えたほうがいいか……)
スキルロストメッセージが多すぎて、スキルがいくつ消えたのか把握できなかった。光球は有効範囲から外れたためか追ってこなくなり、あとは空から人が落ちてきて大変驚いた様子の商人をなんとか宥めた。
フォロッサ城には一連の騒ぎで、既に人だかりができていた。
(……)
アトラは久しぶりの敗北に、何も思考が浮かび上がってこなかった。
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