「二人目が完成したよ、あめつきん」

「あめつきんはやめてくれ、銀。出来は?」

「二十点」

 死んだ魚の眼をしている銀は、三日ほど眠っていない。

「前回より大幅マイナスだな。能力はどうしたんだ?」

「一人目みたいに特殊なマテリアルがないから、生み出す、与える能力は無理だったよ。とりあえず消去するだけの能力にしてみた。連動して肉体の寿命も縮まっちゃったみたいだけど、反省はしてない」

「ふーん。ま、いいんじゃないか? 俺のかわいいシンリのように、壊れた能力には違いないんだろう?」

「うん、違いないよ。私が作ったんだからね、フフフ」

 銀が【創造】し終えたのは、一固体の人間だった。女性タイプ、長身、腰まで深緑色の長髪をもつ。どこかの国の王を彷彿とさせるスタイルである。今は両目を閉じた、魂のない人形なのだが。

「今回は何を入れるんだ? 俺のはもうないぞ」

「もちろん、私のを使うよ。召喚するからちょっと待っててね」

 突如、巨大な召喚陣が、銀の足元に現れた。同時に紫色の巨大な手が召喚陣から現れ、ブラックルームの壁を叩き、ルーム全体を揺らした。

「【離別を呼ぶロノウェ】。ふふふ、この子とは結構テレパシーで喋ることがあるんだけど、面白い性格をしているよ?」

「シンリほどじゃないだろ」

「親馬鹿っぽく、でも子供っぽく対抗するところ、かわいいねぇ」

 ケラケラと笑った銀は、ようやく顔を見せたロノウェから【何か】を抜き取った。それは優雅な動作ながらも、残酷だった。這いでようとしていたロノウェの巨大な手が地面に力なく落ち、銀は素早く【何か】を【創造】された固体に入れた。

「今、私が持ったものって、やっぱり『魂』なのかな」

「……銀にわからないなら、俺にわかるわけがない」

「……そうだね」

 深い緑の長髪をした固体が、ゆっくりと眼を開ける。

「プレイヤーネームはどうするの? アメツキ。また適当?」

「ああ、適当だ。『なゆた』でいいだろ」

「本当にテキトーだねぇ」

「世の中の八割はテキトーでできています」

「まさにそのとおりだけど。このなゆたが役に立つとは私には思えないよ?」

「役に立たなかったら立たなかったで、いいさ。それはそれでキルタイムになる。シナリオにも無理やり貢献してもらえるカタチを作る」

「さすが、キルタイム名人だねぇ。私にはできないよ」

 銀が両手を広げて、軽くお手上げポーズを取ったところで、

 作られた『なゆた』が、口を開いた。

『……小生は?』

(やっぱり、記憶の混乱があるね)

 銀が小声でアメツキに話しかける。

(そのうち治るだろうし、シナリオに問題はない。あんまり)

 アメツキはそういうと、『なゆた』ににっこりと微笑みかけ、

「気がついたのか、良かった」

 あっさりと、嘘を作った。

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 最後の夢を、シンリは見ていた。

 アメツキに伸ばされた手を、すり抜けるようにして、私は走っていた。妙に、視線が低い。地面が近い。不安感。そういえば、初めて目覚めたときは、地面が遠かった気がする。こっちの視界に慣れたからか? こっち? こっちってなんだ?

 記憶が、 真実に向かって、 混乱する。

 走り抜けた。四本の足で、走り抜けた。

 もう、明らかだ。この記憶は、プレイヤーのものではない。まして、人間のものでもない。

 ダンジョンの外は、どしゃぶりの雨だった。全身に雨粒が当たる。毛が肌にはりついた嫌な感覚がわかる。

 ネコ。

 私はそう、    ネコ    だった。

 何故、私が、ネコの夢を見るのだ?

 そんな疑問とは裏腹に、どんどん場面は進んでいく。

 ずぶぬれになりながらも、私は必死で走り、逃げた。とにかく、怖かった。それには敵わないと直感していた。

 ――そして。

 みずたまりの中で転んだ私、いや、ネコは、テレパシーでこっそりと、アメツキの名前を呼んだ。

「なんだい?」

 驚くほど近くで、返答が帰ってきた。ネコの視界の外には、すでにアメツキ、アイゼン、銀の三人が、立っていた。

 変わらない、姿で

「あーあ、ネコ、びしょぬれになっちゃって。大丈夫、あの【禁忌】は、もう消えてしまったよ」

 アメツキ、嘘。

「いやぁ、今回ばかりは危なかった。流石の私も【絶対領域】がなければやられていた」

 アイゼン、嘘。

「ふふふ、アイゼンがあそこから【絶対領域】で【禁忌】に押し勝つなんてねぇ……。まぁそのおかげで私達は助かったんだけど」

 銀、嘘。

 嘘で塗り固められた今。現実。

 アメツキに手を差し出され、現実を受け止め、ネコはアメツキの肩へと登った。

 そのときにはもう

 はじまっていた

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 飛び起きたシンリが、最初に感じたのは。

 どこかで、もうひとつが、めざめたこと。

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