73.なゆた、めざめ
2008年7月13日 Live2「二人目が完成したよ、あめつきん」
「あめつきんはやめてくれ、銀。出来は?」
「二十点」
死んだ魚の眼をしている銀は、三日ほど眠っていない。
「前回より大幅マイナスだな。能力はどうしたんだ?」
「一人目みたいに特殊なマテリアルがないから、生み出す、与える能力は無理だったよ。とりあえず消去するだけの能力にしてみた。連動して肉体の寿命も縮まっちゃったみたいだけど、反省はしてない」
「ふーん。ま、いいんじゃないか? 俺のかわいいシンリのように、壊れた能力には違いないんだろう?」
「うん、違いないよ。私が作ったんだからね、フフフ」
銀が【創造】し終えたのは、一固体の人間だった。女性タイプ、長身、腰まで深緑色の長髪をもつ。どこかの国の王を彷彿とさせるスタイルである。今は両目を閉じた、魂のない人形なのだが。
「今回は何を入れるんだ? 俺のはもうないぞ」
「もちろん、私のを使うよ。召喚するからちょっと待っててね」
突如、巨大な召喚陣が、銀の足元に現れた。同時に紫色の巨大な手が召喚陣から現れ、ブラックルームの壁を叩き、ルーム全体を揺らした。
「【離別を呼ぶロノウェ】。ふふふ、この子とは結構テレパシーで喋ることがあるんだけど、面白い性格をしているよ?」
「シンリほどじゃないだろ」
「親馬鹿っぽく、でも子供っぽく対抗するところ、かわいいねぇ」
ケラケラと笑った銀は、ようやく顔を見せたロノウェから【何か】を抜き取った。それは優雅な動作ながらも、残酷だった。這いでようとしていたロノウェの巨大な手が地面に力なく落ち、銀は素早く【何か】を【創造】された固体に入れた。
「今、私が持ったものって、やっぱり『魂』なのかな」
「……銀にわからないなら、俺にわかるわけがない」
「……そうだね」
深い緑の長髪をした固体が、ゆっくりと眼を開ける。
「プレイヤーネームはどうするの? アメツキ。また適当?」
「ああ、適当だ。『なゆた』でいいだろ」
「本当にテキトーだねぇ」
「世の中の八割はテキトーでできています」
「まさにそのとおりだけど。このなゆたが役に立つとは私には思えないよ?」
「役に立たなかったら立たなかったで、いいさ。それはそれでキルタイムになる。シナリオにも無理やり貢献してもらえるカタチを作る」
「さすが、キルタイム名人だねぇ。私にはできないよ」
銀が両手を広げて、軽くお手上げポーズを取ったところで、
作られた『なゆた』が、口を開いた。
『……小生は?』
(やっぱり、記憶の混乱があるね)
銀が小声でアメツキに話しかける。
(そのうち治るだろうし、シナリオに問題はない。あんまり)
アメツキはそういうと、『なゆた』ににっこりと微笑みかけ、
「気がついたのか、良かった」
あっさりと、嘘を作った。
---------------------------
最後の夢を、シンリは見ていた。
アメツキに伸ばされた手を、すり抜けるようにして、私は走っていた。妙に、視線が低い。地面が近い。不安感。そういえば、初めて目覚めたときは、地面が遠かった気がする。こっちの視界に慣れたからか? こっち? こっちってなんだ?
記憶が、 真実に向かって、 混乱する。
走り抜けた。四本の足で、走り抜けた。
もう、明らかだ。この記憶は、プレイヤーのものではない。まして、人間のものでもない。
ダンジョンの外は、どしゃぶりの雨だった。全身に雨粒が当たる。毛が肌にはりついた嫌な感覚がわかる。
ネコ。
私はそう、 ネコ だった。
何故、私が、ネコの夢を見るのだ?
そんな疑問とは裏腹に、どんどん場面は進んでいく。
ずぶぬれになりながらも、私は必死で走り、逃げた。とにかく、怖かった。それには敵わないと直感していた。
――そして。
みずたまりの中で転んだ私、いや、ネコは、テレパシーでこっそりと、アメツキの名前を呼んだ。
「なんだい?」
驚くほど近くで、返答が帰ってきた。ネコの視界の外には、すでにアメツキ、アイゼン、銀の三人が、立っていた。
変わらない、姿で
「あーあ、ネコ、びしょぬれになっちゃって。大丈夫、あの【禁忌】は、もう消えてしまったよ」
アメツキ、嘘。
「いやぁ、今回ばかりは危なかった。流石の私も【絶対領域】がなければやられていた」
アイゼン、嘘。
「ふふふ、アイゼンがあそこから【絶対領域】で【禁忌】に押し勝つなんてねぇ……。まぁそのおかげで私達は助かったんだけど」
銀、嘘。
嘘で塗り固められた今。現実。
アメツキに手を差し出され、現実を受け止め、ネコはアメツキの肩へと登った。
そのときにはもう
はじまっていた
----------------------------
飛び起きたシンリが、最初に感じたのは。
どこかで、もうひとつが、めざめたこと。
「あめつきんはやめてくれ、銀。出来は?」
「二十点」
死んだ魚の眼をしている銀は、三日ほど眠っていない。
「前回より大幅マイナスだな。能力はどうしたんだ?」
「一人目みたいに特殊なマテリアルがないから、生み出す、与える能力は無理だったよ。とりあえず消去するだけの能力にしてみた。連動して肉体の寿命も縮まっちゃったみたいだけど、反省はしてない」
「ふーん。ま、いいんじゃないか? 俺のかわいいシンリのように、壊れた能力には違いないんだろう?」
「うん、違いないよ。私が作ったんだからね、フフフ」
銀が【創造】し終えたのは、一固体の人間だった。女性タイプ、長身、腰まで深緑色の長髪をもつ。どこかの国の王を彷彿とさせるスタイルである。今は両目を閉じた、魂のない人形なのだが。
「今回は何を入れるんだ? 俺のはもうないぞ」
「もちろん、私のを使うよ。召喚するからちょっと待っててね」
突如、巨大な召喚陣が、銀の足元に現れた。同時に紫色の巨大な手が召喚陣から現れ、ブラックルームの壁を叩き、ルーム全体を揺らした。
「【離別を呼ぶロノウェ】。ふふふ、この子とは結構テレパシーで喋ることがあるんだけど、面白い性格をしているよ?」
「シンリほどじゃないだろ」
「親馬鹿っぽく、でも子供っぽく対抗するところ、かわいいねぇ」
ケラケラと笑った銀は、ようやく顔を見せたロノウェから【何か】を抜き取った。それは優雅な動作ながらも、残酷だった。這いでようとしていたロノウェの巨大な手が地面に力なく落ち、銀は素早く【何か】を【創造】された固体に入れた。
「今、私が持ったものって、やっぱり『魂』なのかな」
「……銀にわからないなら、俺にわかるわけがない」
「……そうだね」
深い緑の長髪をした固体が、ゆっくりと眼を開ける。
「プレイヤーネームはどうするの? アメツキ。また適当?」
「ああ、適当だ。『なゆた』でいいだろ」
「本当にテキトーだねぇ」
「世の中の八割はテキトーでできています」
「まさにそのとおりだけど。このなゆたが役に立つとは私には思えないよ?」
「役に立たなかったら立たなかったで、いいさ。それはそれでキルタイムになる。シナリオにも無理やり貢献してもらえるカタチを作る」
「さすが、キルタイム名人だねぇ。私にはできないよ」
銀が両手を広げて、軽くお手上げポーズを取ったところで、
作られた『なゆた』が、口を開いた。
『……小生は?』
(やっぱり、記憶の混乱があるね)
銀が小声でアメツキに話しかける。
(そのうち治るだろうし、シナリオに問題はない。あんまり)
アメツキはそういうと、『なゆた』ににっこりと微笑みかけ、
「気がついたのか、良かった」
あっさりと、嘘を作った。
---------------------------
最後の夢を、シンリは見ていた。
アメツキに伸ばされた手を、すり抜けるようにして、私は走っていた。妙に、視線が低い。地面が近い。不安感。そういえば、初めて目覚めたときは、地面が遠かった気がする。こっちの視界に慣れたからか? こっち? こっちってなんだ?
記憶が、 真実に向かって、 混乱する。
走り抜けた。四本の足で、走り抜けた。
もう、明らかだ。この記憶は、プレイヤーのものではない。まして、人間のものでもない。
ダンジョンの外は、どしゃぶりの雨だった。全身に雨粒が当たる。毛が肌にはりついた嫌な感覚がわかる。
ネコ。
私はそう、 ネコ だった。
何故、私が、ネコの夢を見るのだ?
そんな疑問とは裏腹に、どんどん場面は進んでいく。
ずぶぬれになりながらも、私は必死で走り、逃げた。とにかく、怖かった。それには敵わないと直感していた。
――そして。
みずたまりの中で転んだ私、いや、ネコは、テレパシーでこっそりと、アメツキの名前を呼んだ。
「なんだい?」
驚くほど近くで、返答が帰ってきた。ネコの視界の外には、すでにアメツキ、アイゼン、銀の三人が、立っていた。
変わらない、姿で
「あーあ、ネコ、びしょぬれになっちゃって。大丈夫、あの【禁忌】は、もう消えてしまったよ」
アメツキ、嘘。
「いやぁ、今回ばかりは危なかった。流石の私も【絶対領域】がなければやられていた」
アイゼン、嘘。
「ふふふ、アイゼンがあそこから【絶対領域】で【禁忌】に押し勝つなんてねぇ……。まぁそのおかげで私達は助かったんだけど」
銀、嘘。
嘘で塗り固められた今。現実。
アメツキに手を差し出され、現実を受け止め、ネコはアメツキの肩へと登った。
そのときにはもう
はじまっていた
----------------------------
飛び起きたシンリが、最初に感じたのは。
どこかで、もうひとつが、めざめたこと。
コメント