68.シンリ、ライ

2008年6月23日 Live2
 二国の王となったシンリ。

 二国の新たな首都となったのは、アレクサンドルだった。

 その城のほぼ中央に位置する玉座で、

 ――何を思う?

 死んだように、体を玉座に預け、

 元々黒かった髪に、少し白髪が目立ちはじめていた。

 生気のない目、色を失った唇。

 まさに【真っ白】と化していくシンリ。

 つまり、彼の疲れ方は、尋常ではなかった。

「――」

 それを無言で見つめていたのは、唯一側にいることを許された、ライである。近頃は何の取り得も能力もないと、著しく増えたシンリ軍での権力者達に陰口を叩かれているが、誰も公には言わない。しかし、実はライは気づいている。彼も並ではない頭脳の持ち主なのだ。

「……」

 そんなことよりも。彼には連日やつれていくシンリを見ているほうが辛かった。もはや白のローブとシンリの顔が見分けつかなくなるのも時間の問題だった。

 ――ということで。

 アレクサンドルの城下町に、二人はいた。

「……どういうことでですか?」

 シンリが聞くのも、無理はない。

「ええ、まあ、どうしてでしょうね」

 ライがシンリを無理やり連れてきた理由も、わからない。

 城の中は大騒ぎだろう。下手をしたら責任問題になるかもしれない。もはやかなり遠く感じてしまう、昔とは違うのだから。

「でも、シンリ様!」

「……はい?」

 ライが力強く拳を握った。シンリは戸惑いながらも、返事をする。

「とりあえず忘れましょう!」

「……元々記憶喪失なんですが」

 ……まあその通りである。

「……とりあえず、今までのことをですよ!」

「む、無理ですよ。今、どこかで誰かが死んでいるかもしれないのに……」

 そう言って、シンリは城へと戻ろうとする。ライはそれにしがみつく。

「だ、だ、ダメですー! このままだとシンリさんが死んでしまいます!」

 見てくれはイナヅマ色の瞳と短髪を持つ、結構ワイルドでカッコよい部類に入るライが、人にしがみついて泣く様は結構人目を引いた。しかもしがみつかれている人物が、革命者、現国王と似ている時の人ならなおさらである。

「わ、わかった! とりあえず人目のつかないところに!」

「あ、ありがとうございます! しがみついて申し訳ありませんでした!」

 ライがシンリに意見するのは、これが二度目であった。

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 とりあえず人気の無い喫茶店に、二人は入る。現国王と、実質そのNo.2軍師の二人がただの喫茶店でお茶するとは、何の冗談かと思うが、それをライは必要だと判断したのだ。

「――もう、やめませんか」

 何の緩衝材もなく、無慈悲に、考えなしに、一撃で、ライはシンリを真っ二つにする言葉を放った。

「……」

 始め、シンリはその言葉の意味を理解できなかった。いや、理解したくなかった。

「もう、無理なんて、国王なんて、世界を平和にするなんて、やめましょう」

 今度は、ハッキリと、「やめる」。そう、ライは言った。

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