『シムシ、――落ちる』

 衆に続いて、三大国の一つ、シムシがシンリ軍によって落とされた。
 昨日午後二時三十分頃、アルル大渓谷より発展した大規模な戦闘が、シムシ総司令部にまで発展し、五元帥7−1、7−2、7−4、7−7の四名、カナン親衛隊全員を含む、1272名が戦死。その際、シムシ法王カナンも行方不明となった。現在捜索中。
 戦闘の詳細は明らかになっていない。
 シンリ軍は戦闘の後にアレクサンドルを目指し北上。午後23時20分頃にシムシ城を制圧した。その際のシムシ兵等の抵抗により、多少の死者が出た。

 現在、アレクサンドル城では衆の長でもあるシンリによって、衆とシムシの統合が進められており、国名、地域、統括方法等の議論が行われており――

「――そんな、馬鹿な」

 そう呟いたのは、この広いLive世界なら、アレックスだけではなかったはずだ。

 衆が落ち、シムシが落ちた。

「なんだ、これ――」

 衆が落ちてから、三日も経っていない。明らかに、おかしい、異常である。しかし、起こったことは、起こった。異常であろうと、なんであろうと、事実。可能性はあったので、これはありえた現実。そう、現実のはずである。

 だが、納得できるかどうかとはまた別。

 その情報は、プロに賑わいをもたらさなかった。

 逆に誰もが口を閉ざし、プロは静かだった。この異常な事態を、さらに異常に、際立たせる。

 アレックスが新聞を読みながらロッカク堂に入ると、相変わらずのメンバーが挨拶もせず迎えた。

 やる気なさそうに新聞を読んでいるロッカク堂店主シンカ。

 チェス盤を見て、必死で考え込んでいるNET。

 胡散臭い魔導書を読み漁る、ウルトンという少年。

 やはり新聞を見ながらじっと考え込んでいる様子のアサト。

 肘をテーブルにつき、顎を手で支えて暇そうに窓から通りを見ているヘレナ。

 昨日死にそうになりながらも、戦場から連れて帰ってきたキサノ。と、法王カナン。

 そして、NETとチェスを指している赤短髪赤サングラスの男、元【炎帝】フルファイア。

 ……。

 さて、読者の皆様方に順番に、一から説明せねばなるまい。でもまずは、小さなところからね?

 ということで、昨日の出来事から回想しなければならないだろう。

 まず、キサノが法王カナンに会いに行く! と発表したとき、アレックスの反応はまずこうだった。

「そうですか」

 アレックスには、まあ、そうとしかいいようがなかったわけだ。特にキサノと凄く親しかったわけでもないし、それならそれで、一体どんな問題があるのだろうかということだ。

「ええ、でも、カナンが、僕の本当の妹なのか、どうか、それさえも僕にはわからなくて、でも、まあ確かめたくて。恐い気もするんですけど、まあいいかって」

 キサノのそんな言葉で、ますます謎が深まっていくばかりなのだが、この謎はきっとこの本編では解けないのだろうと、妙な納得をしたアレックスはそのままその話題を聞き流そうとしていた。

「……ほほう」

 しかし、後ろから聞こえた関心の声が、NETのものだと知ったとき、嗚呼、終わった、とアレックスが終了を覚悟したのは間違いではなかった。

「……自分の大切な人を守る、か。例えそれが実の妹でなくても」

 気持ち悪い程渋い声でそんなことを呟いたNET。アレックスに数億の鳥肌を立たせた。そしてアレックスは思う、そんな話だったのか? あえてツッコむまい。そしてNETは言った。

「……ここに、例えそれが三次元でなく――」

 アレックスは、みなまで、言わせなかった。

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 だからどうというわけでもない。ただ、店の常連客仲間だったということと、トゥエルがしばらく構ってやれなくて暇そうにしていたことと、シムシの情勢が気になったことと、あとはシンリ軍が気になったことと、たくさんのことが重なったことで、アレックスは動いたのだ。

 まさかそれが、ある程度の使い手であるキサノを赤子のようにあしらい、見られるだけでも危険を感じる敵と遭遇することになるとは、思っていなかったのだが。
 そして、NETが平気な顔で、法王カナンを誘拐してくるとも思ってなかったのだが。

「どうしたんだい、妹よ、黙り込んで」
「……」

 キサノ、法王カナンの兄弟の会話は噛み合っていない感が、バリバリするが、気にしないようにしておく。

 さて、とりあえず一つ目の読者の疑問は解けただろうか。

 さて、次だ。

「チェックメイト」

 優雅に言うフルファイア。

「あ! わりぃ! 今のなし!」

 往生際の悪いNET。

「おぉい!」

 としか、アレックスは言えなかった。

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