「おい! 過度な期待は抱くな!
 私が来たからってやることは一つだってわかってるだろ!」

 何故か半分キレながら登場したアレックスは、悶えるキサノを抱え、逃げた。流石である。

 その逃げが、【壊乱】の視界にさえ入らない逃げならば、なおさら流石である。

「【神速】、か……。ウチのボスとほぼ同等のスキルとは……」

 視界から消えたアレックスとキサノは、【神速】を見極めるか、それと同等のスキルがなければ、どうやっても追えるわけがない。流石に数に押され始めた魔導士軍と、カナンの親衛隊員達。【壊乱】のエラシナは時期を見極めた。

(死者、双方で五百……ってところだろう。充分かな)

「隊長! 我が軍は敵の数に押され、総崩れを……えっ?」

 エラシナの指示を仰ごうとした親衛隊の一人が、エラシナの頭が爆発したのを見て、一瞬固まる。

「……あ」

 飛んできた赤い液体をもろに被り、少し当たった硬いものが骨だと気づくまでに時間がかかる。

「あああああああ」

 親衛隊の一人の魔力が暴走する。しかもその親衛隊が持つ魔法の特性は、【炎】。先のカナンとは違い、魔力の放出がそのまま【激情】によって炎に変換されてしまう。

「うわあああああああああああ!」

 まさに、魔法の暴発である。

 自分を焼き、味方を焼き、敵を焼き、数百メートルにわたって甚大な被害を出した親衛隊の一人の自爆は、やはり双方に再起不可のダメージを与えた。

(うむ、見込み通りの人柱だったな)

 ある程度予想された爆発猶予の間に、危機範囲から脱出し、部下の自爆の爆風を多少なり背中に受け、白い外套をはためかせたエラシナ。既にいつのまにか、NETによって回収されていたかつての上司のカナンには、全く興味を失っていた。
 金髪のロングツインテールが風を受け終えて垂れ下がり、露になった瞳は金色に輝いていた。

「君は相変わらずやることがひどいなあ、えげつないなあ、【壊乱】。僕、【邪眼】や【物読み】のタナトスと同じ、【魔眼】系スキルの持ち主だっていうのに……はっはっは」

 いつのまにか現れていた【邪眼】ネクターは、遠ざかっていく戦場の阿鼻叫喚を聞きながら、おどけた声を出した。

「貴様達程ではないと思うがな」

 皮肉を一つ。最後には静かになった戦場を後にし、一応、ギルド:キルタイム所属、【壊乱】のエラシナは任務を終えた。

コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2008年6月15日12:44

…ネームレス?

平田
平田
2008年6月15日23:36

明らかにミスでした!

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