63.カナン、キサノ
2008年6月10日 Live2 ――五人の戦士が、一人の魔導士を串刺しにした。
――一人の魔導士が、五人の戦士を焼き払った。
特にエラシナ達親衛隊の働きは凄まじく。
当初絶望的とも思われた、一千対数百は意外にも拮抗した。
それでも千は止まらない。
それでも数百は止まらない。
まるで、何者かの意思に操られたかのように。
恐ろしい速度で人の数が減っていく。
そんな戦場で――。
--------------------------
「■アアア▼アアァア×!!」
肌にまとわりついた感触を、必死に取り除こうとする。
取れない。 取れない取れない取れない!
顔をひっかく爪に、血が滲んだ。それでもカナンは叫び続け、【錯覚】し続ける。
「ァア◆アア■ア△ア!」
声にならない声。誰かに助けを求める、悲痛な声。
そんな声は、戦場には通らなかった。
誰も眼を向けない魔導砲の上で、終に白目を向いたカナンは、自分の魔力が全て吐き出されたのを悟り、ああ――、これで、やっと――と、かろうじて思考する。
そしてかろうじて、エラシナの声を思う。
『カナン様、それはあなたにしかできないことなのです』
しかしそんな声にかぶせる様に。
「カナン、しっかりするんだ、カナン」
紫色の帽子と、紫色のマントをつけた少年が、カナンの体を支えていた。知る人ぞ知るかもしれない、それはある王国で最強の魔導の力を誇っていた、元王の衣服に似ていた。
「眼が覚めた? 我が妹?」
キサノ。ネームではそう書かれていたが。
「ルノン……?」
カナンは何故か、違う名前を呟いた。
「うん、感覚を書き換えられてるのかな? 僕が触れたことで、ある程度意識が戻ったって事は、それほど強くはない【幻覚】なんだろうけど。うん、もう少しこうしてお兄ちゃんと触れ合っていようか? 冗談だけどね?
魔法系で認識誤差を起こさせてるならいいんだけど、超能力とか呪詛になると、僕の専門外だからなあ……ごめんね」
キサノがすまなそうに言う。
「気持ち悪い、気持ち悪い……、取れない……」
「カナン、それは【幻覚】だ! 騙されちゃいけない!」
【幻覚】は主に【視覚】に作用する能力全般である。まあ相当リアルに【視覚】を支配されるので、幻覚で焼かれたり、刺されたりすると、本当に痛い気がするのである。一応、それがわかれば、正気を取り戻す場合も多い。
――だが。
「いやぁ、嘘ぉ! 感じる! 感触も! 匂いも! 声も! 全部! 【幻覚】なんかじゃ――! いやぁああ! 触らないで!」
カナンの言葉で、キサノは自体の深刻さを理解する。
(……まさか、視覚作用の【幻覚】じゃない?)
またも狂気に陥ろうとしたカナンに、キサノは容赦のない手刀を首筋に見舞った。スッ、とカナンの意識が落ちる。これがキサノにできる精一杯の応急処置である。まあ、Live世界は回復が早いので、十分ほどが限界だろう。でも、少しは時間が稼げる。まさか起きるたびに手刀を見舞うわけにはいかないが。
「ということで僕のかわいい家族に手を出したのは――」
ザッ、と戦場を見渡すキサノ。眼には冷徹な光が宿っている。かつて他者を裁く時に見せた、絶対者の眼である。彼がキサノとして生まれ変わってからは、久しく忘れていたが。
「お前か」
一瞬にして、視線が合った。
そういえば以前、戦ったことがあった。カナン親衛隊隊長、【壊乱】のエラシナが、人を燃やしながら笑い、キサノを見ていた。
――一人の魔導士が、五人の戦士を焼き払った。
特にエラシナ達親衛隊の働きは凄まじく。
当初絶望的とも思われた、一千対数百は意外にも拮抗した。
それでも千は止まらない。
それでも数百は止まらない。
まるで、何者かの意思に操られたかのように。
恐ろしい速度で人の数が減っていく。
そんな戦場で――。
--------------------------
「■アアア▼アアァア×!!」
肌にまとわりついた感触を、必死に取り除こうとする。
取れない。 取れない取れない取れない!
顔をひっかく爪に、血が滲んだ。それでもカナンは叫び続け、【錯覚】し続ける。
「ァア◆アア■ア△ア!」
声にならない声。誰かに助けを求める、悲痛な声。
そんな声は、戦場には通らなかった。
誰も眼を向けない魔導砲の上で、終に白目を向いたカナンは、自分の魔力が全て吐き出されたのを悟り、ああ――、これで、やっと――と、かろうじて思考する。
そしてかろうじて、エラシナの声を思う。
『カナン様、それはあなたにしかできないことなのです』
しかしそんな声にかぶせる様に。
「カナン、しっかりするんだ、カナン」
紫色の帽子と、紫色のマントをつけた少年が、カナンの体を支えていた。知る人ぞ知るかもしれない、それはある王国で最強の魔導の力を誇っていた、元王の衣服に似ていた。
「眼が覚めた? 我が妹?」
キサノ。ネームではそう書かれていたが。
「ルノン……?」
カナンは何故か、違う名前を呟いた。
「うん、感覚を書き換えられてるのかな? 僕が触れたことで、ある程度意識が戻ったって事は、それほど強くはない【幻覚】なんだろうけど。うん、もう少しこうしてお兄ちゃんと触れ合っていようか? 冗談だけどね?
魔法系で認識誤差を起こさせてるならいいんだけど、超能力とか呪詛になると、僕の専門外だからなあ……ごめんね」
キサノがすまなそうに言う。
「気持ち悪い、気持ち悪い……、取れない……」
「カナン、それは【幻覚】だ! 騙されちゃいけない!」
【幻覚】は主に【視覚】に作用する能力全般である。まあ相当リアルに【視覚】を支配されるので、幻覚で焼かれたり、刺されたりすると、本当に痛い気がするのである。一応、それがわかれば、正気を取り戻す場合も多い。
――だが。
「いやぁ、嘘ぉ! 感じる! 感触も! 匂いも! 声も! 全部! 【幻覚】なんかじゃ――! いやぁああ! 触らないで!」
カナンの言葉で、キサノは自体の深刻さを理解する。
(……まさか、視覚作用の【幻覚】じゃない?)
またも狂気に陥ろうとしたカナンに、キサノは容赦のない手刀を首筋に見舞った。スッ、とカナンの意識が落ちる。これがキサノにできる精一杯の応急処置である。まあ、Live世界は回復が早いので、十分ほどが限界だろう。でも、少しは時間が稼げる。まさか起きるたびに手刀を見舞うわけにはいかないが。
「ということで僕のかわいい家族に手を出したのは――」
ザッ、と戦場を見渡すキサノ。眼には冷徹な光が宿っている。かつて他者を裁く時に見せた、絶対者の眼である。彼がキサノとして生まれ変わってからは、久しく忘れていたが。
「お前か」
一瞬にして、視線が合った。
そういえば以前、戦ったことがあった。カナン親衛隊隊長、【壊乱】のエラシナが、人を燃やしながら笑い、キサノを見ていた。
コメント