「なぜなの……?」

 地味な色で統一されたテントの中、水色の髪が映えるシムシ法王カナンは、コールを静かに机の上に置いた。その動作は落ち着き払っているように見えたが、実はその手は震えている。

「なぜ誰も、私の言うことを聞いてくれないの……? 私が、悪いの……?」

 椅子から立ち上がり、ふらふらと歩き始めたカナンの瞳の焦点は定まっていなかった。傍で待機していた金髪の魔導士、直属親衛隊隊長エラシナが彼女にそっと耳打ちする。

「あなたが悪いのではありません、カナン様」

 それを聞いたカナンは、そうよね、そうよねと呟きながら、テントの外に出た。

 砲身が五十メートルはあろうかという、巨大な大砲が、司令陣地を横切るようにして設置されていた。その標準は既に、アルル大渓谷へとセットされている。

『魔導と機械、究極の融合兵器、魔導砲』

 まだ一発も撃たれていないこの魔導砲は、大量の魔力を、機械のパワーで圧縮して打ち放つという、単純明快な機構の兵器である。だがその圧倒的質量と、強度と、圧縮力により、打ち放たれる魔力の威力は、未だ明確な予想がされていない。

 百名に近い、雇われ、新隊、カナン直属の魔導士達が、詠唱を始めた。それぞれの魔力が特殊な加工を施されたケーブルの中を通り、魔導砲の中へと充填されていく。

「エネルギー充填率:70%、魔導砲内圧許容率:68%:ブルーライン、ケーブルの断線が数箇所見られましたが、逆流防止措置により問題なし。1ST〜12ST、オールブルー。熱の発生が予定より多いです。空冷系の電力を20%上げます」

 魔導砲の操作室で、オペレーターの報告を淡々と聞くのは、大元帥が一人、7−1である。彼はこの魔導砲開発の責任者でもあった。

(まさか本当に、撃つ気なのか……?)

 魔力が圧縮されていく音が、魔導砲内部より唸りとなって操作室の中まで聞こえてくる。それが魔導砲を支える四本の巨大な支柱まで揺らし始め、後に大地を揺るがすようになるまでそう時間はかからなかった。

「発射時にかかる衝撃の予想値は?」
「まだ誤差の範囲です。魔導砲、後方180度には兵は待機していませんが」
「そういう問題ではない」
「はっ」

 不安要素は全て片付けなければならない。失敗は許されない。

(これだけのエネルギーだからな……。だが、この巨大な拳銃の引き金を、――法王カナンに引けるのか……?)

 7−1が全ての準備を整えた時、カナンは魔導砲の砲身の根元に立っていた。

コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2008年6月2日20:15

戦争やってるなあ

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