「皆さん、聞いてください!」

 叫んだのは、シンリ。その声は幾度も枯らしたので、大声スキルはすでにBに達していた。

「この戦争に、意味はありません! 退いてください!」

 もちろん、千の数には、そんな陳腐な言葉は何の効果もない。

 シンリ以外ならば。

「『この戦争に、意味はありません!』」

 再びのシンリの言葉が、【カリスマ】:Aとして発動され、千にまんべんなく行き渡る。一部聞き逃したプレイヤーを除き、だがおよそ千が、止まった。

 止まった。

 巻き上がっていた谷の土の粉塵がだんだん薄らいでいく。もちろん、シンリの言葉を聞いていた7−2,4,6達も。

(この戦争に、意味がない?)

 ということは、信じた。

 だが?

(これは、アイゼン様のためだぞ?)

 強引過ぎた。戦争に意味がないことは、7達はすんなりと納得している。だが、この戦争が、意味がないことによって、アイゼン様のためとならないという図式には、納得できなかったようである。それは、本当に少し、ちょっとである。もう数秒立てば消えてしまう程の疑問である。

 だが、7−6は発動した。

「状態異常解除ォオオオオオオオオオオ!」

 詠唱をほとんどせず、スキル指定だけで発動された、巨大な魔方陣が千と7三兄弟を包んだ。万が一を想定し、時をかけ地道に谷にあらかじめ設置されていた6つの魔法媒体を使った完璧な状態異常治療魔法である。これを7ー6は、少しの異常を感じただけでも速攻詠唱と連動して発動するように仕掛けていた。

 完璧な濃度、範囲をもった状態異常解除魔法だった。

 だが

 カリスマにはそんなものは関係がない

 言わば完璧とも思われたその魔法は、ひとつだけその威力に反比例した部分がある。

 発動時間。

 およそ数秒で千人の正常の意識を取り戻したその結界は、やはりおよそ数秒で消えてしまった。再び進もうとする、千。シンリはやはり動き出そうとする千を確認した。

 そして噛み合う、カリスマの恐ろしい特性の一つ。

 発動時間、リスクがほぼ0。

「全員、耳を――」

 7−2の叫びも間に合わない。

「『この戦争に意味はないんです!』」

「塞げーー!」

 簡単に言えば、シンリはもう一度言葉を繰り返すだけで、千を押しとめることができるのだ。

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