夕日が真っ赤に照らす大砂漠と……
巨大なチョコの集落。
その周りを取り囲む、五百のシンリ軍。
それに対抗するのは、静まったチョコの物見やぐらの屋根の上に立つ、一人の男だった。
腕を組み、灼熱色の髪を砂漠の熱風でたなびかせ、周は叫んだ。
「聞けっ! 双方ともよ!」
「……どこに行ったかと思えば、あんなところに!」
すぐさま集落内で待機していた空羅、ヒラタが飛び出し、物見やぐらに向かった。
「この戦いに意味はない! 内乱を起こした首謀者の片割であるおれ、周が、今ここで、死ぬからだ!
――内乱はこれで終わる! 終わらなければならないッ!」
自分で、死ぬと宣言しても、周の決意に満ちた表情は変わらなかった。
「……周さん!?」
ザクロがその周の姿と、言葉を認めて驚く。すぐさま飛び出そうとするが、待機していたステラの戦士達に止められる。
周が何気なく見た一人は、決意の瞳をしていた。そうか、お前が、そうなのか。
「あとは頼む」
小さく、つぶやくように、周はいった。ポチは拳を血が滲むほど握ってその場に待機し、リペノも自分の隊から離れることができなかった。ザクロが周さん、ともう一度名前を叫んだ。その声は周に届かない。
空羅が十メートルはあろうかという物見やぐらを一瞬で上りきり、ヒラタがミノタウロス化して、やぐらの周りにテントを敷き詰めきる前に、周はヒラタがいない方向へ向かって、飛んだ。
「周さああああああああああん!」
ヒラタが叫んだ。周をもうその手で受け止めようと、周が飛んだ方向に走り、両手を広げる。
「昔からこんな役ばかり、やってるなあ……」
ヒラタはそんな言葉を聴き、同時に気絶した。走電がヒラタの急所を確実に突き、気絶させたのだ。空羅の伸ばした手をすり抜け、周はどんどん地面へと加速していく。下にはもう、誰もいなかった。主要な周崇拝者は走電がもう片をつけていた。ザクロが暴れる。夕日が、さらに映える。周は流れていく、壮大な夕日沈む砂漠の景色を見ながら。
「銀……」
と、最後に言った。
-----------------------------------
走電と、周が出会ったのは、その日の昼のことだった。ヒラタが出て行ってすぐである。
「ほう、お前がシンリ、とかいう奴のところの?」
「ああ、まあスパイといったところか」
走電はよっこらせ、と、周に遠慮する気配もなく座った。周も警戒する気配を見せず、ゆっくりと平たい小さな皿に注がれた水を飲んだ。
「お前達の大将は、なんて言ってるんだ?」
「終わらせたい。その一言だよ」
走電は自分も同じ意見だ、と付け足した。
「……そうか、それは……、おれたちもそうだ……」
周は静かに皿を床に置いた。
「逃げてばかりで、内乱にけじめをつけなかったおれの罪は重いだろう。そして……、あいつも……」
「……」
「それでおれは生き残って、話し合いで解決しましょう。そんなんじゃ、民は納得しない。これは、あきれるほど事実だ。何せ、もう、この眼で視てしまったからな……」
周は空になった皿に、陶器でできた簡単なポッドで水を注ぎ続けた。
「なぜ、こんなことになってしまった? なぜ、なにもしなかった? なぜ、 なぜ、 なぜ?
それが、俺が視た未来では、爆発し、――なんと、内乱はもっとひどいことになるらしい」
注ぎ続けた水が皿から溢れ、どんどん床に広がっていく。
「これは、決まったことだ。おれの【未来視】は、今まで外れたことがない。……いや、おれのスキルは【未来視】なんかじゃない。未来を、おれが視た悪夢の方向へと捻じ曲げていく、最悪のスキルさ。ヒラタが立ったまま殺され、空羅が両手を失いながらも戦い、それを終えても、おれは生き続けて……、衆の終わりを見ていく。そんな世界へと変えていく、最悪のスキルさ……。
そしてそんなスキルを所持しているおれもまた、最悪なんだ。
――おれは、それが、わかっているようで、わかってなかったんだな」
「……」
走電はただ、黙って聞いていた。
周は、ポッドの口をおさえた。流れ出る水が止まる。
「止めないとな」
周の眼には、覚悟が宿っていた。
----------------------------
そして、シンリは、それを了承した。
軍の憎しみの方向を首謀者、周へと仕向ける。
今回の戦争の目標を周個人にする。
その姿が全員に見えるよう昼間にチョコへ向かう。
衆の灼熱の夕日の中で、見送る。
その方向へ、その方向へ、工作する。
(嫌な役を任せて、すいませんでした走電さん。嫌な作戦を考えさせて、ごめん、ライ)
夕日に落ちていく一つの影を見送りながら、言葉にも、表情にさえ出さず、シンリは謝った。
(……そして、元衆の長、周さん……)
謝罪と、感謝と、尊敬と、悔恨と、
シンリはごちゃまぜになったココロを、どうにかして自分の中へ押し込んだ。
------------------------
ひとつだけ昇った、昇天の光。絶賛するような、天使の歌声。
夕日はその一筋の光を照らし、五百のシンリ軍に、ヒラタに、空羅に、周の仲間たちに、一人の死に様を見せつけた。
そして昇天の光と天使の歌声が終わると同時に、夕日も砂漠の海の中へと沈んだ。
(ここからの未来は、誰にもわからない)
衆の砂漠に夜が訪れる。静かに吹き抜けた砂漠の風は、まだ昼間の熱気を残していた。
巨大なチョコの集落。
その周りを取り囲む、五百のシンリ軍。
それに対抗するのは、静まったチョコの物見やぐらの屋根の上に立つ、一人の男だった。
腕を組み、灼熱色の髪を砂漠の熱風でたなびかせ、周は叫んだ。
「聞けっ! 双方ともよ!」
「……どこに行ったかと思えば、あんなところに!」
すぐさま集落内で待機していた空羅、ヒラタが飛び出し、物見やぐらに向かった。
「この戦いに意味はない! 内乱を起こした首謀者の片割であるおれ、周が、今ここで、死ぬからだ!
――内乱はこれで終わる! 終わらなければならないッ!」
自分で、死ぬと宣言しても、周の決意に満ちた表情は変わらなかった。
「……周さん!?」
ザクロがその周の姿と、言葉を認めて驚く。すぐさま飛び出そうとするが、待機していたステラの戦士達に止められる。
周が何気なく見た一人は、決意の瞳をしていた。そうか、お前が、そうなのか。
「あとは頼む」
小さく、つぶやくように、周はいった。ポチは拳を血が滲むほど握ってその場に待機し、リペノも自分の隊から離れることができなかった。ザクロが周さん、ともう一度名前を叫んだ。その声は周に届かない。
空羅が十メートルはあろうかという物見やぐらを一瞬で上りきり、ヒラタがミノタウロス化して、やぐらの周りにテントを敷き詰めきる前に、周はヒラタがいない方向へ向かって、飛んだ。
「周さああああああああああん!」
ヒラタが叫んだ。周をもうその手で受け止めようと、周が飛んだ方向に走り、両手を広げる。
「昔からこんな役ばかり、やってるなあ……」
ヒラタはそんな言葉を聴き、同時に気絶した。走電がヒラタの急所を確実に突き、気絶させたのだ。空羅の伸ばした手をすり抜け、周はどんどん地面へと加速していく。下にはもう、誰もいなかった。主要な周崇拝者は走電がもう片をつけていた。ザクロが暴れる。夕日が、さらに映える。周は流れていく、壮大な夕日沈む砂漠の景色を見ながら。
「銀……」
と、最後に言った。
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走電と、周が出会ったのは、その日の昼のことだった。ヒラタが出て行ってすぐである。
「ほう、お前がシンリ、とかいう奴のところの?」
「ああ、まあスパイといったところか」
走電はよっこらせ、と、周に遠慮する気配もなく座った。周も警戒する気配を見せず、ゆっくりと平たい小さな皿に注がれた水を飲んだ。
「お前達の大将は、なんて言ってるんだ?」
「終わらせたい。その一言だよ」
走電は自分も同じ意見だ、と付け足した。
「……そうか、それは……、おれたちもそうだ……」
周は静かに皿を床に置いた。
「逃げてばかりで、内乱にけじめをつけなかったおれの罪は重いだろう。そして……、あいつも……」
「……」
「それでおれは生き残って、話し合いで解決しましょう。そんなんじゃ、民は納得しない。これは、あきれるほど事実だ。何せ、もう、この眼で視てしまったからな……」
周は空になった皿に、陶器でできた簡単なポッドで水を注ぎ続けた。
「なぜ、こんなことになってしまった? なぜ、なにもしなかった? なぜ、 なぜ、 なぜ?
それが、俺が視た未来では、爆発し、――なんと、内乱はもっとひどいことになるらしい」
注ぎ続けた水が皿から溢れ、どんどん床に広がっていく。
「これは、決まったことだ。おれの【未来視】は、今まで外れたことがない。……いや、おれのスキルは【未来視】なんかじゃない。未来を、おれが視た悪夢の方向へと捻じ曲げていく、最悪のスキルさ。ヒラタが立ったまま殺され、空羅が両手を失いながらも戦い、それを終えても、おれは生き続けて……、衆の終わりを見ていく。そんな世界へと変えていく、最悪のスキルさ……。
そしてそんなスキルを所持しているおれもまた、最悪なんだ。
――おれは、それが、わかっているようで、わかってなかったんだな」
「……」
走電はただ、黙って聞いていた。
周は、ポッドの口をおさえた。流れ出る水が止まる。
「止めないとな」
周の眼には、覚悟が宿っていた。
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そして、シンリは、それを了承した。
軍の憎しみの方向を首謀者、周へと仕向ける。
今回の戦争の目標を周個人にする。
その姿が全員に見えるよう昼間にチョコへ向かう。
衆の灼熱の夕日の中で、見送る。
その方向へ、その方向へ、工作する。
(嫌な役を任せて、すいませんでした走電さん。嫌な作戦を考えさせて、ごめん、ライ)
夕日に落ちていく一つの影を見送りながら、言葉にも、表情にさえ出さず、シンリは謝った。
(……そして、元衆の長、周さん……)
謝罪と、感謝と、尊敬と、悔恨と、
シンリはごちゃまぜになったココロを、どうにかして自分の中へ押し込んだ。
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ひとつだけ昇った、昇天の光。絶賛するような、天使の歌声。
夕日はその一筋の光を照らし、五百のシンリ軍に、ヒラタに、空羅に、周の仲間たちに、一人の死に様を見せつけた。
そして昇天の光と天使の歌声が終わると同時に、夕日も砂漠の海の中へと沈んだ。
(ここからの未来は、誰にもわからない)
衆の砂漠に夜が訪れる。静かに吹き抜けた砂漠の風は、まだ昼間の熱気を残していた。
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