42.周、最期

2008年5月19日 Live2
 夕日が真っ赤に照らす大砂漠と……

 巨大なチョコの集落。

 その周りを取り囲む、五百のシンリ軍。

 それに対抗するのは、静まったチョコの物見やぐらの屋根の上に立つ、一人の男だった。
 腕を組み、灼熱色の髪を砂漠の熱風でたなびかせ、周は叫んだ。

「聞けっ! 双方ともよ!」

「……どこに行ったかと思えば、あんなところに!」

 すぐさま集落内で待機していた空羅、ヒラタが飛び出し、物見やぐらに向かった。

「この戦いに意味はない! 内乱を起こした首謀者の片割であるおれ、周が、今ここで、死ぬからだ!
 ――内乱はこれで終わる! 終わらなければならないッ!」

 自分で、死ぬと宣言しても、周の決意に満ちた表情は変わらなかった。

「……周さん!?」

 ザクロがその周の姿と、言葉を認めて驚く。すぐさま飛び出そうとするが、待機していたステラの戦士達に止められる。

 周が何気なく見た一人は、決意の瞳をしていた。そうか、お前が、そうなのか。

「あとは頼む」

 小さく、つぶやくように、周はいった。ポチは拳を血が滲むほど握ってその場に待機し、リペノも自分の隊から離れることができなかった。ザクロが周さん、ともう一度名前を叫んだ。その声は周に届かない。
 空羅が十メートルはあろうかという物見やぐらを一瞬で上りきり、ヒラタがミノタウロス化して、やぐらの周りにテントを敷き詰めきる前に、周はヒラタがいない方向へ向かって、飛んだ。

「周さああああああああああん!」

 ヒラタが叫んだ。周をもうその手で受け止めようと、周が飛んだ方向に走り、両手を広げる。

「昔からこんな役ばかり、やってるなあ……」

 ヒラタはそんな言葉を聴き、同時に気絶した。走電がヒラタの急所を確実に突き、気絶させたのだ。空羅の伸ばした手をすり抜け、周はどんどん地面へと加速していく。下にはもう、誰もいなかった。主要な周崇拝者は走電がもう片をつけていた。ザクロが暴れる。夕日が、さらに映える。周は流れていく、壮大な夕日沈む砂漠の景色を見ながら。

「銀……」

 と、最後に言った。

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 走電と、周が出会ったのは、その日の昼のことだった。ヒラタが出て行ってすぐである。

「ほう、お前がシンリ、とかいう奴のところの?」
「ああ、まあスパイといったところか」

 走電はよっこらせ、と、周に遠慮する気配もなく座った。周も警戒する気配を見せず、ゆっくりと平たい小さな皿に注がれた水を飲んだ。

「お前達の大将は、なんて言ってるんだ?」
「終わらせたい。その一言だよ」

 走電は自分も同じ意見だ、と付け足した。

「……そうか、それは……、おれたちもそうだ……」

 周は静かに皿を床に置いた。

「逃げてばかりで、内乱にけじめをつけなかったおれの罪は重いだろう。そして……、あいつも……」
「……」
「それでおれは生き残って、話し合いで解決しましょう。そんなんじゃ、民は納得しない。これは、あきれるほど事実だ。何せ、もう、この眼で視てしまったからな……

 周は空になった皿に、陶器でできた簡単なポッドで水を注ぎ続けた。

「なぜ、こんなことになってしまった? なぜ、なにもしなかった? なぜ、 なぜ、 なぜ?
 それが、俺が視た未来では、爆発し、――なんと、内乱はもっとひどいことになるらしい」

 注ぎ続けた水が皿から溢れ、どんどん床に広がっていく。

「これは、決まったことだ。おれの【未来視】は、今まで外れたことがない。……いや、おれのスキルは【未来視】なんかじゃない。未来を、おれが視た悪夢の方向へと捻じ曲げていく、最悪のスキルさ。ヒラタが立ったまま殺され、空羅が両手を失いながらも戦い、それを終えても、おれは生き続けて……、衆の終わりを見ていく。そんな世界へと変えていく、最悪のスキルさ……。
 そしてそんなスキルを所持しているおれもまた、最悪なんだ。
 ――おれは、それが、わかっているようで、わかってなかったんだな」
「……」

 走電はただ、黙って聞いていた。
 周は、ポッドの口をおさえた。流れ出る水が止まる。

「止めないとな」

 周の眼には、覚悟が宿っていた。

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 そして、シンリは、それを了承した。

 軍の憎しみの方向を首謀者、周へと仕向ける。

 今回の戦争の目標を周個人にする。

 その姿が全員に見えるよう昼間にチョコへ向かう。

 衆の灼熱の夕日の中で、見送る。

 その方向へ、その方向へ、工作する。

(嫌な役を任せて、すいませんでした走電さん。嫌な作戦を考えさせて、ごめん、ライ)

 夕日に落ちていく一つの影を見送りながら、言葉にも、表情にさえ出さず、シンリは謝った。

(……そして、元衆の長、周さん……)

 謝罪と、感謝と、尊敬と、悔恨と、

 シンリはごちゃまぜになったココロを、どうにかして自分の中へ押し込んだ。

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 ひとつだけ昇った、昇天の光。絶賛するような、天使の歌声。

 夕日はその一筋の光を照らし、五百のシンリ軍に、ヒラタに、空羅に、周の仲間たちに、一人の死に様を見せつけた。

 そして昇天の光と天使の歌声が終わると同時に、夕日も砂漠の海の中へと沈んだ。

(ここからの未来は、誰にもわからない)

 衆の砂漠に夜が訪れる。静かに吹き抜けた砂漠の風は、まだ昼間の熱気を残していた。

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