40.周、ヒラタ

2008年5月19日 Live2
「きましたよ、周さん。数は三百以上」

「ということは五百ぐらいだろう。そんな微妙な気遣いは要らないぞ、ヒラタ」

「……そうですか。対する私たちの数は百いけばいいところ。あちらはいくつもの賊を潰してきた精鋭で、こちらは移動ばかりで疲弊しているただの移民。ネルエもアグニもこの衆の内情には愛想をつかしたようですしね。ああ、なんで私はまだここにいるんでしょう。一応私、無所属なんですけどね」

「すまなかった」

 衆、長の間が、一瞬で静かになった。周とヒラタは向き合い、楽に話していたのだが、突然の周の謝罪により、ヒラタは困惑に困惑を重ねた。

「こうなったのは、すべて、俺の責任だ」

 謝罪を重ねた。

「あ、あ、謝った? 周さんが?」

 ヒラタの報告書を持つ手が震えた。

「なんだ? 悪いか? 実はおれは元々気が弱いほうなんだ。衆の長であるという責任もあるし、そう簡単に謝ることなんてできなかったからな」

 胡坐をかいたまま後ろにごろんと寝転がった周は、天井を見つめながらすっきりした顔でつぶやいた。

「……じゃあなんで今、謝るんですか」

「……」

 周は、答えなかった。

「今、空羅さんが、軍の編成をしてくれています。話し合いが一番、とてつもなく素晴らしい方法なんですけど、あちらの完璧な布陣を聞くと、どうやら問答無用と同じようです。
 ――今この集落に残っているのは、周さんのためなら死んでもいい、そんな人たちばかりですよ」

「……はた迷惑なやつらだ」

「今から嫌われようとしても遅いですよ。もっと前から計画しておくべきでしたね」

「……」

 部屋の四隅にある松明が、ボッと音を立てた。

「やけになるのは早いですよ、周さん」

 ヒラタが立ち上がり、長の間の出口へと向かう。広い長の間に、ヒラタの静かな足音が木霊する。
 周は、ひとつだけ聞いた。

「お前はどうする? ヒラタ」

 その言葉で足を止めて、振り返り、ヒラタは笑った。

「戦いますよ。危なくなったら逃げますけどね」

 最後にボソリ、「まあ作者キャラなんであんまり活躍できないとは思いますが」と言って、ヒラタは再び諜報業務へと戻った。もうこいつ衆の民でいいんじゃね。

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