29.砂、津波

2008年2月24日 Live2
 その時、集落は暗黒に包まれた。

 近づく地響き音。月の明かりを遮ったナニカは、もうすぐそこまで来ていた。

 砂漠ではありえないその光景を見て、誰もが眼を疑い、何事かとテントの外に出た、寝ぼけ眼のプレイヤーたちは、なんだ夢かと再び床についた。

 それほど、現実感のない光景だった。

 だが、現実に起きている光景だった。

 巨大な【津波】が、シンリ達のいる集落に向かって、襲い掛かってきていた。それは遠くから高速度で集落に近づいているにも関わらず、あまりの規模に人々たちからはゆっくり進んでいるようにしか見えなかった。
 だが、逃げ場は無かった。その津波は地平線いっぱいに広がって、着実にその集落を飲み込もうとしていた。最早、その現実を受け入れない以外に、逃げる術はなかった。

 だがまだ宿への帰り道の途中でその光景を発見したシンリは、真っ向から立ち向かう。

「ポチさん!」
「はいっ!」

 宿から恐るべき判断とスピードで一番乗りで到着したポチが、急ブレーキによる砂煙を巻き上がらせながら、いつのまにかシンリの横で跪き指示を待っていた。

「すぐさま住民へ非難を促してください! 場所は東門! 分散しては駄目です! 一点に集めましょう」
「はい!」

 一番早くシンリの元へたどり着いたポチを、一番迅速さが要求される役割へ。その場から消えるような速さで走り去ったポチの次に到着したのは、ライである。

「シンリ様!」

「おしい! ライくんは二着! あの馬鹿げた津波について何か知ってるかい!?」

 シンリは段々近づいてくる地響きを無視するように言った。

「あれはおそらく【砂漠】の異名を持つSクラスプレイヤーキラー『サースト』の『砂津波』サンドタイダルウェーブです!」

「一つ最も助かる仮説があるんですけど」

「俺も【幻術】とかならいいと思います! ですが恐らく本物です! 集落にいるプレイヤー全員に幻を見せるのは無理がありますし、馬鹿げた光景ですがSクラスの奴らならあれくらいできます!」

 それは最早【天災】クラスといっていい。あれを個人が起こしたのなら、どれだけのエネルギーがどこからわいてきたのか。そんな考えてもしょうがないことを考えてしまうほど、シンリは焦り、状況は切迫していた。

「止めるならプレイヤーを倒すのが一番手っ取り早そうですが、サーストは姿すら滅多に見せません! あの津波を消すのは物理的に不可能に近いですし、あれを防ぐ程のバリアや建築物はこの集落にはないと思います!」

 ライはこの状況でも冷静で的確だった。なるほど元々狡賢かっただけあって中々賢いのだとシンリはライの能力を把握したが、それで状況が何か進展するわけでもない。
 地響きが最早体全体で感じ取れるまでに成長してきた。空の半分ほどを喰ってしまった津波が、シンリ達の目前まで迫る。
 その時、三人のステラの戦士も遅れて到着した。

「途中でポチさんと合流して住民への非難勧告を実行しました!」

「グッジョブです! では私達も東門へ移動しましょう! 急いで!」

 結局、シンリ達は何も打開策を見出すことはできなかった。

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