「いい人でしたねぇ」

 シンリは呑気に言いながら、集落の長のテントから出た。そのテントに入ってから、まだ三十分も経っていなかった。

「……」

 走電は、違和感ともいえない違和感、疑問に至る前の極小の『ひっかかり』を僅かながらも感じていた。しかし、それは本当に小さい、あるいはないともとれるものだった。それに対して何か考えることはできない。感じ取れただけでも、走電は勘がいいといえた。

「この集落も、内戦終結へ向けて、全面的に協力してくれるようです。良かったです」

 機嫌よくシンリはいうと、宿の方向に向かって歩き出した。ザクロも何も疑問に思わずシンリの後についていく。走電はそれを無言で見送った。
 シンリの【カリスマ】が、どれほど強大で恐ろしいスキルか、その一部でも伝わっただろうか。
 走電の住む集落は、衆の中でもそれほど大きいとはいえない部類だが、それでもプレイヤーの総数は住民だけで百は軽く超えているだろう。
 その長を任せられるプレイヤーは、時にはそれだけの数のプレイヤーの【命】を背負うことになる。圧し掛かる責任の重さだけ、長の腰は重くなる。その長を、

『内戦を必ず止める。もう誰も死なせない』

 の言葉だけで、あっさりと立ち上がらせたシンリ。

 僅かに走電の指先が、震えていた。

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 サーストは、指示を、忘れていた。

 だが、集落を、見つけた。

 ならば、やることは、ひとつである。

 【渇する】。

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