衆の砂漠の夜は、静かだった。

 黄金色の砂の海の上に、無数の星と大きな月が一つ、浮かんでいる。

 大きな月を背後にして、プレイヤーのシルエットが一つ。

 そのプレイヤーの体から、あぶれた無数の包帯が、風にたなびいてバタバタと音を出していた。

 全身に包帯を巻いたそのプレイヤーは、右目だけを外気にさらしていた。

 それ以外は手も、足も、口さえも外に出していない。全て包帯で隠している。包帯は砂でところどころ汚れていて、剥がれそうなところも多々あるが、何重にも巻かれた包帯が解かれた姿を見たものは、今のところ誰もいなかった。異常な量の包帯を全身に巻き、自分自身の手足、右目以外の五感を全て奪うその行為も、そのプレイヤーは自分でやってのけたのだ。

 ならばそのプレイヤーは、どうやって移動するのか。どうやって話すのか。どうやって生きるのか。

 一つ目の「移動」は、簡単だった。

 そのプレイヤーには心強い味方がいた。

 黄金の砂の海が突然空高く盛り上がり、大きな傾斜を作った。

 プレイヤーはその傾斜を、ただ滑り落ちる。

 滑り落ちた先でまた砂漠が大きく盛り上がった。

 それを幾度も繰り返し、そのプレイヤーは移動した。

 もちろん、異常である。

 二つ目の「話す」は、さらに簡単だった。

 そのプレイヤーはログインして以来、一言も言葉を発したことがなかった。

 そんなプレイヤーがキルタイムに所属しているのは、アメツキも異常だったからだろう。

 そのプレイヤーはただアメツキから指示を受けたからここに来た。返事はしていない。頷いてもいないのでアメツキはそのプレイヤーが本当にその指示に従うのか知らない。

 アメツキは、それでよかったが。

 三つ目の、……「どうやって生きる」?

 今までで一番、そのプレイヤーには簡単だった。

 ただ、【渇する】。

 ――プレイヤーネーム:【サースト】

 【砂漠】の通り名を持つ、最悪のSランクプレイヤーキラーの一人だった。

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