「あああああああああああ! すいませんでしたあああああああああ!」

 狡賢かった男は、自分の過ちに気付き、地面に頭をこすりつけるほどの土下座を何の惜しげもなく実行した。

「お、俺はなんてことを! すいません、すいません! 大した理由なんてないんです! 全面的に俺たちが悪いだけなんです! すいません! すいません!」

 必死に謝る男は、目からボロボロと涙を流していた。よく見ると男の格好はみすぼらしく、賊らしいといえば賊らしいが、その姿での土下座は一層みすぼらしく、つまりその賊は同情を禁じえないほどみすぼらしいとしかいいようがなかった。

「殺してください! すいません! それぐらいじゃ収まらないですよね! すいません!」

 本来、何か一つのことに対して【強制】を強いたなら、その『一つのこと』を達成した後には本人は大抵、元に戻ることだろう。だが、カリスマに関しては違う。格段に違う。本人が信じたことは、本人の意志となり、本人へ影響し続ける。つまりは、プレイヤーの性格自体を変えてしまうことも容易にありえるのだ。
 今賊は、自分が『人の気持ちを考えることができる、素晴らしい人間』だと信じている。その考え方によると、今まで男がしてきた自分の行為は、信じられない程の【悪】。故に男は、今、本気で、本当の本気で謝っている。

「え? 大した理由はない……? ということは……」
「うぅう……!」

 シンリの口調が、わずかに変わる。賊はナイフを逆手に構え、本気で切腹を考えていた。もちろんそんな気持ち悪い光景にはポチ、リペノだけでなくステラ民も動けず、賊とシンリの二人の周りに誰も触れがたい異様な空気が漂っていた。ちなみに他の賊はとっくに全員逃げていた。

「大したことじゃない理由はあるということですね!」

(((どうしてそうなる!?)))

 という思いがその様子を見ていた全員の思考の奇跡的一致として現れた。狡賢かった男も、シンリの言葉に驚くしかない。

「ええ、まあ、本当に大したことじゃない理由なら……」

「それで、全然いいのです。理由に小したも大したもありません。理由は理由なのです。さあ、遠慮なく語ってください。大したことじゃない理由を」

 ちなみに現在つっこみはいない。

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