きょとんとした表情で、賊は自分の首に血が滲むほどナイフをあてていた。そして思った。自分でナイフを当ててみても、これだけ怖いのだ。もしも他人が握ったナイフが、自分の首に当てられていたとしたら、どれ程の恐怖なのだろう。そんな思考をできただけでも、賊は普通の人として、何歩か前に進むことができたといえる。
 しかし、それは第三者から見れば、気持ち悪いといわざるをえない。わけのわからないまま解放された女性は、そんな賊の不思議な表情と行動を見て、また一段と恐怖に襲われた。走りよってきたザクロによって、首の傷の治療は行われたが、理解できない恐怖を拭いさることはできなかった。
 ポチとリペノも、しばらくの間唖然として賊が人質を解放する過程を見ていたが、やがて何かに気付いたように動き出し、すぐに賊を排除しようとした。

「待ってください」

 その二人に立ちはだかったのは、シンリである。

「『彼はもう、素晴らしい人間です』」

 そんな言葉で、納得できるはずがなかった。ステラの民に一方的に危害を加え、非力なプレイヤーを人質にとり……納得できるはず、が、

 なかった、はずなのに。

 気付くとポチとリペノも、――剣を、収めていた。賊を許したわけではない。だが、その賊が今現在、下種な悪党とはどうしても思えない。むしろ本当に素晴らしい人間ではないか? ――切れない。

 ポチとリペノは、シンリの言葉に、何の疑問も持てない。

 それを認めたシンリは、狡賢かった男に、問う。もう何の曇りもない純粋な子供のような目で、問う。

「何故、こんなことを?」

 どんなことにも、理由があるはずだ。ただの求快楽行動としか思えなかったあの行為にも、理由があるはずだと、無限大のお人好し思考を発揮するシンリだった。

コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2008年1月20日19:10

つよすぎる

平田
平田
2008年1月22日20:46

つよすぎるよ

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索