16.剣舞、人質

2008年1月17日 Live2
 数秒の、二つの蒼の剣舞。

 極限まで洗練された動きは、時々ある種の美しさを垣間見せることがある。

 見とれたまま、死ぬ者もいた。

 ――二人を囲んでいた数十名の賊。それらを一片の躊躇いもなく、数秒で全員切り捨てたポチは、その眼差しを『衆解放戦線』リーダーに向けた。サポートをしてたリペノの息は流石にあがっていたが、ポチは表情を少しも変えず、平然と一度剣を鞘に収めた。澄んだ鉄の音がし、同時に数十名の賊たちが昇天した。
 その光景を見て、大半の賊達(半分になってしまったが)は、一歩後ろへ下がった。全員、すぐに背中を見せて逃げ出したいところだったが、その後、確実に切り捨てられる。ポチの眼を、オーラを見て、愚者達は確実に悟った。指一本さえ動かすのが難しくなった。

 しかし、ポチの登場によって、一瞬で異常なほど静まりかえったその場で、空気を読まずに口笛をふいた男が一人、いた。

「ヒューゥ。いいね、いいねぇ」

 『衆解放戦線』リーダー、ネーム:アルケンダリは、馬から降りて、巨大な剣を持っていた右腕を、ポチに切り落とされた。

「ヒァあ?」

 スパン、と小気味いい音がして、アルケンダリの首が飛ぶ。一瞬時が止まり、その後、地面にどしりと、落ちた――、それは転がって止まった。誰にも、リペノさえにも視認さえさせなかった、脅威の抜刀、もとい抜剣である。スキルレベルアップの数が十を超えても、ポチはそれらに一つも注意を払わなかった。

 ――遅れて、首だけになったリーダーの驚愕の表情が、眼が、賊たちを射抜いた。

 遂に。

「ひ、ひゃあああ!」
「リーダーがやられたあ!」
「バケモンだああああ!」

 賊達は一斉に逃げ出そうとした。まるで蜘蛛の子を散らすように。誰もなりふり構わなかった。あまりの恐怖にその場に倒れるものもいた。倒れたものは幸運かもしれない。逃げた者を優先的にポチは許さない。自分の限界を考慮しなければ、今己は【瞬足】の一歩手前までいくことを知り、ポチは少し笑って賊たちの背中を追った。

 十八人目。

「待てェエエエエエ!」

 どこかで変な男の叫び声が聞こえた。それだけならポチは止まる理由はなかった。

「ポチさん! 待って!」 

 だが、リペノの声でポチの剣が止まった。ポチは自分でも驚いた。ポチの理性には、本人も知らない突き抜けた揺るぎ無さがあった。それが、彼の全ての強さの源だということを、彼が知るのはもう少し後のことだが、それが今は幸いした。

「動くなァアアー! こいつがどうなってもいいのかァアア!」

 ポチにあっさり殺されたリーダーの補佐をしていた狡賢そうな部下が、狡賢くも、一人の女性生産プレイヤーの首に、ナイフを突きつけていた。

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