14.ステラ、惨劇

2008年1月8日 Live2
 ステラの集落の入り口では、既に何人かのステラの住民がそれぞれ武器を持って、馬に乗っている五十人あまりの集団と対立していた。五十人が着ている服や装備はほぼそれぞれバラバラで、その集団には『寄せ集め』という言葉がしっくりとあてはまる。集団の男たちはニヤニヤ笑いを隠しておらず、これから起こる惨劇をどう楽しむのか、それだけを考えている様子だった。
 五十人の中で、リーダーらしき男が前に出た。赤銅色の肌、派手な細工がしてあるワイルドドッグの牙を束ねたアクセサリーを腰に巻いている。あとハゲ。少し派手好きの典型的な衆人だった。

「あー! あー! 我々はー! ――なんだっけぇ!」
「『衆解放戦線』です。ボス」

 後ろにいる小賢しそうな部下がフォローする。

「そうだそうだ! それで! あー! それで我々は!」
「『衆解放に必要な食料、装備、その他もろもろ全て徴収しにきた』です。ボス」
「それだあああ!」

 ボスが巨大な剣を掲げ、吠えた。何の遠慮も、容赦も、道徳もない。

「ふざけるな!」
「立ち去れ!」

 もちろんそんな馬鹿な要求に答えるほどステラは潤ってはいないし、馬鹿でもお人好しでもない。こんな盗賊まがいの奴らが集落を襲うのは、治安が最悪になっている現在の衆では、日常茶飯事である。それぞれの言い分など建前にもなっていない。聞く必要はない。

「うーん! 反抗したものは、『殺す』! 言えたぞー!」

 『衆解放戦線』のボスが、天に掲げた剣をステラの集落の方向に向け、大号令する。結局、彼らがやりたいのは。

「『殺せ!』」

『うおおおおお!』

 五十の屈強な男達の声に混ざって、いくつかの爆弾が集落の中に投げ込まれた。そして、馬を走らせる掛け声、歓喜に満ちた声が次々と続き、小さなステラの集落を飲み込もうとしていた。ステラの住民たちは、体を強張らせることしかできなかった。
 爆発。何人かのステラの民が巻き込まれた。水の少ないステラでは、生きていくために自然と生産系のプレイヤーの比率が多かった。戦闘系のプレイヤーも、ここ数年続いた賊の襲撃でその人数を減らしていた。光の柱がいくつか現れて、数名の昇天を告げる。砂煙と血しぶきがテントを汚した。

「やめろおお!」

 一人の若いステラのプレイヤーが、刃が少し欠けたロングソードでボスに切りかかった。敵は五十名余いる。頭を叩くのが一番効果的だと判断したのだろう。その判断は良い、だが。

「ははは! 若いいぃい!」

 馬上からのボスの一撃で、その若いプレイヤーはロングソードごと真っ二つにされ、昇天した。五十名余の集団を束ねるボスだけあって、戦闘の力、技術だけは飛びぬけているようだ。
 もう既に幾つかのテントは焼け、この世界での紙幣や食料、アイテムを漁りだす輩達まで出始めていた。いくつかのテントは馬に押しつぶされ、絶叫と異様な笑い声が入り混じる。

「や、やめてくれえ! この集落には戦えない奴らもいるん――」

 敵わないと悟り、武器を捨てて敵に許しを請おうとした戦士が、最早暴徒と化した『衆解放戦線』三名の剣にいっぺんに串刺しにされ、昇天した。

「やっちゃったー」
「――降参されちゃうと、困るんだよねぇ。殺せなくなるから」
「ははははひでェー!」

 剣に付着した血をなめる暴徒の一人。眼には狂気が宿っている。ゲームということもあってか、彼らに罪の意識は一片もない。

 ゆえに彼らに、大義はなかった。

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