衆。

 かつては【未来視】を持つ長、『周』と、

 強力な【召喚術】を持つ『銀』の二人が、統べていたともいえる国。

 かつては、だが。

 特徴は屈強な肉体と精神を持つプレイヤー達。赤銅色の肌。強力な呪術、召喚術、暗殺術などなど。血なまぐさいものも多い。
 そして、国土のほとんどが砂漠という苛酷な環境。そのため水場を求めて幾度となく集落の移動を繰り返す、少々特殊な国である。
 見方を変えれば、その国は、『苛酷』を『楽しむ』、異質な者達が集まった、『異質な国』なのかもしれない。まあそこに集まるプレイヤー達が、それを楽しんでいるならば、別によいのだろう。

 さて現在その国は、『銀の裏切り』によって、ギリギリのところまで追い込まれていた。『周派』と『銀派』の対立は、元々穏やかな性格ではなかった衆のプレイヤー達が、同士討ちを始める格好の理由となった。

 大規模な内戦は今も続いている。

 それは、どちらが『正しい』のかを求めている戦いではない。

 ただ、どちらが『強い』のかを、求めている戦いだった。

「だから、思い通りなのだけれども……」

 夜の衆の砂漠で立ち尽くすアメツキ。傍らにはブラッドミックスキャット、『ネコ』の遺体があった。ネコに外傷はなく、まるで魂を抜かれただけのような死に様だった。アメツキとネコは月に照らされ、濃い影を砂漠に落とした。

 だがアメツキは、ネコ――最早『それ』となったものに目もくれず、一瞬で姿を消した。最早ただの物となったものに思考を割くのは何の意味もない。当面の目的を果たしたアメツキは、『チャットルーム』に向かって『テレポート』を繰り返す。疲れるが最速でチャットルームを目指す。チャットルームに帰れさえすれば、どうせ存分に休めるのだ。

「後は、邪魔するものを排除していけばいいだけか」

 そちらのほうが楽しみだと言わんばかりに、アメツキの口元は邪悪な笑みを作った。前回の邪魔者MVPのアレックス、今や【救世のアレックス】は、中々骨があり楽しかった。お人好し度も抜群に高かった。

(――さて、今回はどんな邪魔者が現れるのか。

 できれば前回を上回ってほしいものだ。楽しみ楽しみ)

 そう、もう一度確認しよう。アメツキは異質なのである。

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 ほぼ同時刻。

「シンリ……? それが私の名前なのでしょうか?」
 
 衆のある集落で、一人のプレイヤーが目覚め、自分の名前を知っていた。

「ええ、そうです。Liveの中で記憶喪失なんて、珍しいですね。ですが、あなたのプレイヤーネームは、確かに『シンリ』ですよ」

 シンリの問いに答えたのは、衆に似合わない白のローブを着た金髪の美少女だった。彼女のネームはザクロ。渾名は【幸運の女神】。超一流の白魔導士である。そんな彼女が何故ここ、衆の小さな集落『ステラ』にいるのかは、Live1を参照してもらいたい。

 
 ――そう、すべての始まりは、ここ。『ステラ』からだった。

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