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それは、小さなこと。
一部を除いて、誰も気付かない(驚くことに、その一部にGMは含まれていない)、気付けない、それほど小さな綻び。
例えば――
ある酒場で、数人の男女がビールやリトルビールを飲んで騒いでいた。酒場のマスターも一緒に飲んで騒いでいるので、二軒となりの店まで聞こえるほどの笑い声や歌声を咎める者はその場に誰もいなかった。
「あー! もう駄目だ!」
笑い、飲み疲れた様子で、騒いでいた一人の男が質素なつくりの木製の椅子にどっかりと座った。瞬間、男は椅子ごとひっくり返って、酒場にいる人間たちの笑いを誘った。
「ははは! 何やってんだ!」
「あれー! 酔いすぎたのかな? ははは!」
その場にいた誰も、本人さえも、その不自然な倒れ方には気付かなかった。その椅子の足の一部が、まるではじめからなかったかのように、消失していたことに、誰も気付かなかった。
例えば――
今日もLive世界に初心者が訪れる、ビギナの草原。たまたまその時、その場には、プレイヤーが一人もいなかった。まるで測ったかのように半径五百メートル程の範囲に同じ背の高さで生えている草達が、風に規則正しく靡(なび)いている時。
一定と言っても、流石に何秒の周期で、というほど一定ではない。リアルを追求したLive世界では、現実と同じ一定で風が吹く。
それは一瞬、本当に一瞬だけだが、草原達の動きが一瞬鈍くなった。それは、気付くという程の出来事でもない。なかったといっても差し支えがない程の小さな出来事である。
だが、それは仮想の中で現実に起きた、『遅れ』なのである。
さらに例えば――
数少ない気付くものの一人は。
「何真剣な顔でただの石を眺めているんですか、10さん」
「ただの石? これがただの石に見えるのか、アレックス」
「どう見てもただの石です。本当にありがとうございました」
「馬鹿、ここの模様をよく見ろ。四角いだろ」
「申し訳ないですが、私には皆目わかりません。というか今そんなものを見ている場合ですか!?」
【救世のアレックス(もしくはイレブン)】と、【網のNET(もしくは10)】のトレジャーハンターコンビは、カイドのある幻のアイテムを求めていた途中、巨大な恐竜型モンスターに遭遇し、逃げている途中だった。もちろん10が真剣な顔で石鑑定を行っている際も、その危機的状況は継続していた。
「【網】て。もう少し考えろ!」
「一体何に対して怒りを露にしているんですか?」
「とにかくこの石の四角の模様はやべーよ。俺でさえ見たことないんだから」
「はぁ!? 今現在後ろから、大量の涎を撒き散らしながら私達を今日の晩飯にしようとしている巨大な恐竜よりもその模様のほうがやべーんですか? 本当に!?」
「いや、今昼だから、多分昼飯じゃねーかな。あの恐竜、晩まで我慢はできなさそーだし」
「果てしなくどうでもいい! ね? もう少しまじめに逃げよう? ね!?」
カイド特有の細い木々の間を縫うようにして器用に逃げている二人だったが、恐竜はパワフルに木々を薙ぎ倒しながら二人を追っている。時々折れた木々が二人の近くに倒れたりもしていた。
「……アレックス、鳥が飛んでるぞ?」
「ああ、10さんは遂に頭がおかしくなっちゃったんですね」
「違うって、よく見ろ。そして俺はあとでお前をぶん殴る」
数羽の鳥が、確かに二人の頭上を飛んでいた。
しかし、アレックスは目を見開いた。そのうちの一匹をよく見てみると、――羽が動いていなかったのだ。
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それら、小さな異変たちをかき集めて、
Live2......
第一章、始めます、やっと。
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一部を除いて、誰も気付かない(驚くことに、その一部にGMは含まれていない)、気付けない、それほど小さな綻び。
例えば――
ある酒場で、数人の男女がビールやリトルビールを飲んで騒いでいた。酒場のマスターも一緒に飲んで騒いでいるので、二軒となりの店まで聞こえるほどの笑い声や歌声を咎める者はその場に誰もいなかった。
「あー! もう駄目だ!」
笑い、飲み疲れた様子で、騒いでいた一人の男が質素なつくりの木製の椅子にどっかりと座った。瞬間、男は椅子ごとひっくり返って、酒場にいる人間たちの笑いを誘った。
「ははは! 何やってんだ!」
「あれー! 酔いすぎたのかな? ははは!」
その場にいた誰も、本人さえも、その不自然な倒れ方には気付かなかった。その椅子の足の一部が、まるではじめからなかったかのように、消失していたことに、誰も気付かなかった。
例えば――
今日もLive世界に初心者が訪れる、ビギナの草原。たまたまその時、その場には、プレイヤーが一人もいなかった。まるで測ったかのように半径五百メートル程の範囲に同じ背の高さで生えている草達が、風に規則正しく靡(なび)いている時。
一定と言っても、流石に何秒の周期で、というほど一定ではない。リアルを追求したLive世界では、現実と同じ一定で風が吹く。
それは一瞬、本当に一瞬だけだが、草原達の動きが一瞬鈍くなった。それは、気付くという程の出来事でもない。なかったといっても差し支えがない程の小さな出来事である。
だが、それは仮想の中で現実に起きた、『遅れ』なのである。
さらに例えば――
数少ない気付くものの一人は。
「何真剣な顔でただの石を眺めているんですか、10さん」
「ただの石? これがただの石に見えるのか、アレックス」
「どう見てもただの石です。本当にありがとうございました」
「馬鹿、ここの模様をよく見ろ。四角いだろ」
「申し訳ないですが、私には皆目わかりません。というか今そんなものを見ている場合ですか!?」
【救世のアレックス(もしくはイレブン)】と、【網のNET(もしくは10)】のトレジャーハンターコンビは、カイドのある幻のアイテムを求めていた途中、巨大な恐竜型モンスターに遭遇し、逃げている途中だった。もちろん10が真剣な顔で石鑑定を行っている際も、その危機的状況は継続していた。
「【網】て。もう少し考えろ!」
「一体何に対して怒りを露にしているんですか?」
「とにかくこの石の四角の模様はやべーよ。俺でさえ見たことないんだから」
「はぁ!? 今現在後ろから、大量の涎を撒き散らしながら私達を今日の晩飯にしようとしている巨大な恐竜よりもその模様のほうがやべーんですか? 本当に!?」
「いや、今昼だから、多分昼飯じゃねーかな。あの恐竜、晩まで我慢はできなさそーだし」
「果てしなくどうでもいい! ね? もう少しまじめに逃げよう? ね!?」
カイド特有の細い木々の間を縫うようにして器用に逃げている二人だったが、恐竜はパワフルに木々を薙ぎ倒しながら二人を追っている。時々折れた木々が二人の近くに倒れたりもしていた。
「……アレックス、鳥が飛んでるぞ?」
「ああ、10さんは遂に頭がおかしくなっちゃったんですね」
「違うって、よく見ろ。そして俺はあとでお前をぶん殴る」
数羽の鳥が、確かに二人の頭上を飛んでいた。
しかし、アレックスは目を見開いた。そのうちの一匹をよく見てみると、――羽が動いていなかったのだ。
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それら、小さな異変たちをかき集めて、
Live2......
第一章、始めます、やっと。
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