大陸の西側には、名も無き中立国がある。
 かつてLive混迷期に、新規参入プレイヤー達が現れる草原は、あらゆる権力者達によって狙われた。人口の上昇はほぼ新規ログインプレイヤーでしか望めないLive世界では、人材の確保=自国の勝利に繋がる可能性が高いからだ。
 その草原の覇権をめぐって、様々な国々が血みどろの戦いを繰り広げ、何処も譲らず、最終的には中立国ということで落ち着いた。
 そんな数え切れないプレイヤー達の血が染みている大地をもつのが、『 』中立国なのである。

 その中立国で、最も栄えている都市、職人の集う場所『プロ』。そこにはある店舗が構えられている。カイド式の三角屋根。外見はログハウスに近い、ノスタルジックで少しボロボロなところもある店。

 『ロッカク堂』。少し愉快な人達が集まる店である。

「で、またカナンちゃんが大規模な演説したらしいよー、キサノちゃん」
「ふーん、そうですか」

 今朝届けられた新聞を見ながら、コーヒーを飲んでいるのは我らがロッカク堂店長、シンカである。肩に届かない程度の紫色の髪と伊達めがね、黒い長袖にジーパン、その上に少しほこりで汚れたエプロンを着用という、なんともやる気がありそうでない格好の店主である。
 その店主のカウンター越しの言葉に、さらにやる気なさげに答えたのは、何故、故買屋にこんなものが必要なのだろうと少し考えさせる、カフェ風のテーブル席に座るキサノである。
 キサノは黒髪であまり特徴のない顔をし、服装も普通の服の上に黒い外套を羽織った程度という特徴のない格好だったが、少しおかしなこの店には妙にマッチしている。こちらも何故か故買屋なのにメニューがあって普通にお金を取られるコーヒーを飲んでいた。

「行かなくていいの?」
「んー……、きっかけが、ないんですよねぇ……」

 それはただ面倒なだけなんじゃないの、とシンカが突っ込もうとしたとき、勢いよく店の扉が開かれたせいで、シンカはその機会をしばらく逃すことになる。

「ここかー! レア物、珍品がそろう『ロッカク堂』ってのは!」
「珍品って失礼ね」

 突然入ってきた人物は、身長が175cm程度ある、艶のある黒髪が特徴の青年だった。少しえらそうな口調と態度で、頭も良さそうとはいえなかった。なるほど全身黒いローブを身に纏い、大物っぽさを演出しているのか、とシンカは一瞬でそのプレイヤーの考えを看破した。

「魔法がすっげー上手くなる本があるって聞いたんだけど!」
「……あー、はいはい、あれね」

 遠慮も思考もなく、ネーム確認:ウルトンはシンカの座るカウンター正面に座った。

「なかったらもう来ないからな!」

 ウルトンがばんばんと、カウンターを叩いた。

(なんでだろう、何の変哲もないプレイヤーのはずなのに、寒気が止まらない)
(何故だろう、何の変哲もないプレイヤーのはずなのに、震えが止まらない)

 奇しくも、シンカ、キサノ両名はその時同じことを考えていた。

「はーやーくーしーろー!」(バンバン)

コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2007年12月25日8:45

進みすぎふいた
ウルトン…

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