3.名

2007年12月17日 Live2
 銀はとあるチャットルームの一室で、最終的な仕上げにとりかかっていた。

「【無神】は失敗だったね……。アレの元は私達の理想とは、違ったものだったから……。やはり全て一から作り直さないと、駄目だね……」

 巨大な四角い空間の中を、銀の指示によって細かいドットが飛び交い、一つの『人』(と呼べるのかあやしいもの)を形成していくその光景は、見るものに『神』をそのまま連想させるほど神秘的なものだった。最早その世界の物質を原子単位で操ることも可能であり、錬金術、錬成術、武具防具作成術、薬術と、数多ある生産系スキルツリーの、『根』と呼べるスキル。根本的で、単純明快。『思い通りのものを作り出す』、最高の物体創作術、または半チートとも呼べるべきシロモノ。

 ――【創作(クリエイト)】:―。は、もちろんLive世界では銀しか所有していない、しえないスキルである。

(……)

 その光景を見て、冷や汗を流しているのは、この組織の中で最も一般的な思考を持つといえるプレイヤーだった。

(……や……ばい)

 表面上は涼しい顔をしながらも、『Live世界で最も理解力がいい』であろう、そのプレイヤーからすれば、その反応は全くもって正しすぎる反応。この組織に入る前から、ある程度の危険、あるいは狂気を、覚悟していたはずなのだが。

「……どうしたの?」

 突然声をかけられ、同時に濃厚な死の気配に包まれるこの環境は、今まで幾多かそれなりの修羅場をくぐり、そして乗り越え、世界を知ってきた、そのプレイヤーからしても――『理解不能』の四文字につきる。

「こんなものを見ていても、何も面白くないと思うんだけどな。あ、死にたくなければ俺の顔は見ないほうがいいよ」

 黒いサングラスをかけた人物が、その恐怖に慄いているプレイヤーの横をするりと通り過ぎた。そんな、一瞬でも『恐怖』を感じてしまった自分を罵倒しながら、そのプレイヤーは『仕事』へと向かった。

(――くそっ!)

 少しかけたプライドを取り戻そうとするかのように。

 突然走り出して逃げたプレイヤーをまるで気にしない素振りで、サングラス男は銀に、何の躊躇も遠慮もなく話しかけた。

「おーっす! 銀!」

 巨大な空間に、そのプレイヤーの高めの声が響きわたった。

「ふふ、そこの黒いサングラスは【邪眼】、ネクターですね」

 少しの間のあと、銀がその無礼さをまるで気にしていない様子で答える。

「うん、あの日しぶとく生き残った【邪眼】、ネクターだよ。久しぶりだね!」
「ええ、久しぶりです。生きてて嬉しいですよ」
「俺も嬉しいよー。まあ実際あれは、アメツキの仕業っぽかったからねー。銀さんとか利用価値高いからまあ死ななかったんだろうなー。マジ、気まぐれすぎるよあいつ!」
「ふふ、滅多なことは言わないほうがいいですよ。あと喋るのも疲れるのでちょっと黙ってていいですか」
「うわー、あの銀ちゃんが本当に必死だよー。まあ、いいや、報告しにきただけだから。組織の名前がやっと決まったよ」
「ほう……それは興味ありますね? 名は体を表す。この集団を一言で表すならば?」

「キルタイム、【退屈しのぎ】だってさ」

 からからと、ネクターは笑いながら言った。

 
 

「ところでさー、さっき立ってた子、どこ行ったの」
「さあ……私は知りません」

「ふーん、『アサト』。面白そうな子だったなあ」

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