【無神】の【神速】。だが。

 アイゼン、アトラ、周が。

 総勢約一千になっていた。

(分身か……)

 【無神】は戦闘が始まって初めて何か考えた。

 コロセウムを埋め尽くすほどの食料達。まとめて倒す無神無双をしても良いが、それは敵の思う壺だろう。だが、【神速】は障害物に当たるとすぐ止まる。とりあえずは襲ってきた分身たちをなぎ払うことを選んだ。いや、選ばされたのか。
 爆発や爆圧、アイス、ファイア、ウィンド、アース、超能力、斬、潰、全てを尽くす。

 ぎゃあ、うわあ、とわざとらしい声をあげて消えていくアトラ、アイゼン、周の分身たち。質量があるので【神速】では通り抜けられないのがネック。だが、分身自体の攻撃力は皆無のようだ。かといって無視して本物に攻撃されれば致命的になる可能性も否めない。

 屈辱……

 【分身】スキルは得た。こちらもこれで対抗しても良い。だが、我【無神】は唯一無二。

 以上。【無神】の思考。

 それはさらにアイゼン達の作戦を成功へと導く。

 分身たちの合間を縫って、銀色の鞭エキドーニアが【無神】を捕らえた。そして赤髪の分身の一人が、【絶対領域】を展開して【無神】に殴りかかった。
 もちろん【無神】も【絶対領域】を展開。激突。

 もちろんもちろん数秒で周は負けて弾き飛ばされた。

『はえーんじゃよ! もう少し粘らんかい根性無しが!』
『無茶言うな! じゃあおまえがやれアトラ!』

「言われるまでもない! じぇい! 【圧魔力】!」

 【無神】が【絶対領域】でエキドーニアを振りほどこうとした一瞬の隙を狙い、アトラが魔力をぎっしり圧縮させた青の球体を右腕に展開し、【無神】に叩きつけようとしていた。
 そのモーションは大振りで、【無神】は【神速】で避けようとしたが。

「おれも今は【鞭術:A】所持していることを忘れないように」

 ちぎれたエキドーニアを巧みに操る周のフォローにより。

 それは完全に決まった。

 空気、というよりも空間が全てそこに殺到したかのような感覚をそこにいたものは味わう。それが【絶対領域】さえ貫く威力を持つことは、どこかで証明されていた。

 あり得ないほど回転して、【無神】は壁に叩きつけられた。コロセウムの何メートルもあろうかという壁が、派手に壊れ、崩れ、砂煙が舞う。

『アトラ、おれたちの魔力も全て使ったな……』
『……まあ、圧魔力は全魔力消費技じゃしな……』

 アトラ一人の魔力が消費されても、【共有】の平均化効果により、周とアイゼンの分の魔力もアトラに分配され、0にはならない。それはアトラの魔力が減る毎に繰り返されるので、三人の魔力が0にならない限り、終わらないということである。

『今、おれたち全員魔力0だよな』
『――ああ、そうじゃよ』

 巨大な壁の瓦礫が宙に舞い上がっていた。赤い双眸が砂煙の向こう側で怒りに燃えていた。

『じゃあ、あれどうすんの』

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