「青さん!」
「応。発見、敵、三!」

 エンジンルームはホバークラフト内最下層にあった。狭い通路の中はもう黒煙で充満しそうなひどい状態であったが、青の眼は確かにエンジンルームから散り散りに逃げた人影を三つ、視界が悪い中でも捉えていた。

「中々敵も素早いですね、正体がわからない以上攻撃するのもどうかと思いますが……」

 ローランの言葉が聞こえているのかいないのか、青はハンドガンに弾をジャキンと気持ちよく込めた。ヤル気マンマンである。

「ローラン、青さんの辞書に『穏便』という文字はないぞ」

 ブラッドは剣をスラリと抜き放つ。敵は三。通常ならば三人それぞれ散って追うべきなのだろうが……。

「……一人、放置」

 青は少し考え、そして何かを感じたようだ。ある方向に向かった一人は放置し、ある程度同じ方向に逃げた二人の方を追うと青は決めた。青が決めたなら、三人組は二人を追うことに決まったも同然である。

 エンジンルームの爆発はやっと集まってきた数少ない技能員達に任せられることとなった。エンジンルームは通常無人なので死者は出ていないだろう。

(さて、青さんが一人を放置したのは、中立なあの人たちに任せるつもりなのかな。それとも……)

 ローランは青が一人を放置する理由を、考えるだけに留めた。

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 アレックスの【神速】はワープに近い。が、障害物を通り抜けたりすることはできない。

「だから、例えばこういう狭いホバークラフトの船内とか、苦手なんですよねえ」

 言いながらも、0秒で船内を駆け巡るアレックス。よく地理を把握していないアレックスは、とりあえず階段を探し、降りまくっていた。
 正直、アレックスは何か事故が起こった程度にしか考えていなかった。自分が行っても、役に立てることはないだろう。そんな甘い考えなのは、自分がトラブルに巻き込まれやすい性格、立場(主人公)であるということに、無自覚だからだ。そのへんをもう少し、自覚していれば。

 赤い髪の男との遭遇にも、もう少し冷静に対処できたはずなのだが。

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 場面戻って青三人組は、結果から言えば二人に追いついていた。そこは船倉だった。ホバークラフト内で最も広い空間。だったが、今は支援品の食料や雑貨が箱に詰められ、積みあがっている所為で、三次元迷路のような状態になっている。そこに怪しい二人組みが入っていくのを、青は確かに感じたのだという(【勘】スキルA)。

「青さんの勘は相当、当たりますからねぇ」

 小さな数個の電灯だけで照らされた船倉内を、警戒しながら三人は進む。いつも人はいないが、今は船倉内には青達三人と侵入者二人、五人のプレイヤーがいるはずだった。

「居。犯人」
「犯人……やっぱりエンジンルーム爆発はこいつらの仕業なんですかね」

 ローランが剣(槍は船内が狭いので置いてきた)の先をある箱に向けた。その箱の間から、黒い霧が滲み出ていた。

「来!」

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