――所詮はネットゲームさ。

 

 誰が言ったのだろうか。

 まさしく私もそのとおりだと思っていた。

 だが、私はこの、【あなたは死亡しました。ログアウトしますか?】というメッセージに、いまだに答えることができなかった。

 仮想だろうと、なんだろうと、私はこのもうひとつの世界で何かを感じ、何かを学び、何かを失って、何かを得たのだ。それは立派にこの世界で『生きた』ことにはならないのだろうか?

 【あなたは死亡しました。ログアウトしますか?】

 (↓ただの回想だから読み飛ばしても構いません)

 何もわからないまま最初の平原に降り立って、ポチさんと出会い、街に行って、アメツキさんと出会って、ドラゴンに遭遇して、シムシ国に行くことになって、――アイゼンさんと出会って、7−3さんと出会って、モンスターとシムシとの戦争があって、―― 10さんと出会って ――、カイドを旅して、首都フォロッサの街並みに感動して、リヴァイアサンと遭遇して、街は壊されて、ザクロさんを助けて、私を守るために 10さんが 、 死んで、ゴッドレスフルファイアを憎んで、フォロッサ城に忍び込んだりして、アトラさん、クサモチさん、ヤミハルさんと出会ったりして、ザクロさんとは一緒に旅することになって、10さんの再会のスカーフを首に巻いて、中立国を横断して、トゥエルと出会って、衆に向かって、ポチさんと再会して、ポチさんを追うシムシの追っ手と戦って、ミノタウロスで、チョコの集落で周さんと出会い、ゴッドレスフルファイアと再び戦って、負けて、死んでしまいたくて、情けなくて、逃げて、逃げて、泣いて、トゥエルとシンカさんに助けてもらって、ようやく私は気付いて、三枚のメモを貰って、再び周へと向かって、     ――サティンと出会ったんだ。

 (以上終わり)

 あー……

 楽しかったなあ

 サティンは本当に何も知らなくて、どれだけ世界が楽しいのかも知らなくて、サティンにも、私が誰かに教えてもらったように、教えたくて。

 「そうだよ、楽しむのが重要なんだよ。好奇心を満たすのが重要なんだよ。人生でも、ゲームでも、仕事でも、何でも。だって、楽しいのは、楽しいもんな」

「楽しくないことも、楽しくして」

「もっと楽しいことを経験する為に、悲しみや憎しみは存在するのだと思って、楽観楽観」

「ま、そんな感じで、頑張れよ。最後に笑っていられるように」


 ――私もこれ以上ない笑顔で、サティンを迎えたい。

 【あなたは死亡しました。ログアウトしますか?】

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 いよいよ最後のひとつとなった。

 【神】にとってアイテムや装備品のデータにはあまり意味がない。だがその最後のひとつのアイテムが、【神】の完成を意味するならば、それはかなりの意味がある。

 虹色に輝く石だった。

 どのデータにも重複しない、最後に相応しい、美しい石だった。

 その輝きは本当は、至高の魔石『賢者の石』とは比べ物にならない程度のものだったが、もはや【神】にとっては、普通の石と賢者の石は同位。どちらもたいした価値はない。この石は最後だからこそ、【神】には輝いて見えるのだ。

 プレイヤー千人分の全てのデータ。それが今【神】に科せられた最後の枷。うっとおしいだけ、【神】に枷は必要がない。

 だがその石は、【神】にとってだけではなく、Liveに生きる全ての存在たちにとって重要な意味を持っていた。

 【解析結果】 【ビデオレター石】 【初心者の森で手に入る珍妙な石】 【発動条件、所有者以外が触れること】

 今、【神】は唐突に174番前に解析した一枚のメモに書いてあったことを思い出していた。

『これはある意味最強のアイテム。
 デオ……じゃなくて10さんなんか、喉から手が出るほど欲しがるでしょうね。

 ふふ――この石は所有者の思いを凝縮して他者に伝える、所謂ラブレターなのよ! 使い方次第ではどんなアイテムにも勝るモノを手に入れることができるかもしれないわ! まあ当然所有者のセンスも問われるんだけどね。

 良かったら後で見せてね、それとお金、ちゃんと返してね、  11さん? ロッカク堂店主――シンカより』

 ――イレ   ブ  ン?

 小さな声が、【神】の奥底から、聞こえた気がした。

 最後、最後がいけなかった。

 【神】の油断を生んだ。偶然か、必然か。

 真に触れてしまった。【神】は最も恐れたものに。

『……サティン、かな?』

 【神】の心の中に、アレックスが大きく映し出された。

 遮断。を遮断、中止を、中止、継続、違う、遮断! 否! 否! 違う! 継続だ! 違う違う!

『えーと…… なんだ…… その……』

 懐かしいあの人は、恥ずかしそうに手で頭をかいた……

 危険、エラー、遮断ヲ……遮断サレル、エラー、エラー

『あー! なんて言おう! 今、サティン、君がどうなっているかわからないんだけれど……これだけ言っておくよ!』

 意を決したように【神】――ワタシ、サティンを真っ直ぐに見つめたイレぶン。エラー、警告、エラー、えラー、エらー。【神】は自分の中の何かが壊れテいくのを感じタ。

 『――大丈夫だから。

 ――世界はいつでも優しいし……、

 私が必ず、君を、守るから』


 イレブン――アレックスのこれ以上ない笑顔を、サティンは見て。

 いつのまにかサティンもこれ以上ない、最上級の笑顔で、笑っていた。そして泣いていた。

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