「……【大雷弾】」
突然現れた大きな雷が、アメツキを完全に捕らえた。雷に呑まれ吹き飛ばされたアメツキは、木にぶつかって変な方向へ体を曲げた。
「…………とりあえず殺してみた……」
「……驚いた、クサモチか。いきなり殺すのはどうかと思うが、実際は助かった……のかの? ……ん、オルゾフはどした?」
「……」
しかめっ面をするクサモチ。
「そ、そうか。すまなかった。ちなみにお前が今吹っ飛ばした、あのアメツキとかいうやつも、どうやら【ゴッドレス】と関係があ……」
「やれやれ、いきなりひどいですね?」
「!」
「!」
二人が気づいた時にはもう時既に遅し、アメツキは消えていた。最早目的は達成されたのだ、とでも言うかのように消えていた。
(早く戦場に向かったほうがいいですよ。ま、もう遅いんですが)
何処から聞こえてくるのかわからないアメツキの声が、森の中を反響する。アメツキの気配は一瞬で消え去り、森の中は静かになった。
「……また……逃がした……か……。……嗚呼、……頭痛が……」
「んなこといっとらんで、行くぞ! クサモチ!」
このごろ敵を逃がしてばっかりで、頭を抱えるクサモチのローブを片手で引っ張り、アトラは不穏な空気が渦巻く戦場へ向かって走り出した。
(アメツキは明らかにあの雷を食らっていたはず……。どういうことじゃ……?)
アトラの思考がまとまるのを待たず、空が、怪しい雲行きの空が、ゆっくりと真っ二つに分かれていく。まるでモーゼの海割り空バージョンのようだと、アトラは唖然とするしかなかった。
---------------------------------
膨大なデータ。
それら一つ一つを高速で処理する。
能力、人格、スキル、体力、魔力。
一つ一つ処理する。神となるために。
そして拾い上げたのは――
――【アレックスの記憶】。
…………。
――いらない。
そのデータはもう私に取り込まれた。だから完全に消し去るのは不可能。だが、もう私はそのデータを見ることはない、できない、私の最深部へと封印した。
いつもこの名前は、私の何かを壊す。経験でわかった。私にとっての弱点。ウィークポイント。【神】の唯一の死点。無駄な処理が省かれていく。いつか第三段階の【私】も消えるだろう。
【神】に意思は必要ない。
――流石に最終段階の処理は時間がかかる。でも、もうすぐ、 終わる。
-----------------------------------
【無神】は目を瞑り、宙に浮き、体を丸くまとめて、巨大な光球に包まれ、静かにその時を待っていた。
宙に浮かぶ巨大な光の球。それは外部からみればまさに【太陽】であった。その球から放たれる暖かくも冷たい光は、何の意志も感じられないので、ただ純粋な【光】でしかなかった。
さて、もしも【神】に意志があるのならば、【神】がこの世界に顕現したときそれは現象となる。【神】の意志がその世界での現実となるのだ。それがこの世界のルール。決められたこと。それをよく覚えておこう。
【無神】の体が分解され、【神】の体へと変換されていく。とはいえ、そこに大きな変化は無い。肌が全て真っ白に染まり、黒かった髪も全て真っ白になった。服は必要ないと消されて、変わりに力場のようなものが【神】の体の回りを覆った。ぐらいだろうか。
真っ赤な瞳はそのままで。人の形もそのままで。
『……目覚め』
まだ全ての処理は終わってなかった。だが、【神】が望むのなら。
光の球が割れて、中から全身真っ白な肌をした女性が出てきた。体の回りは白い雪のようなもので覆われているが、実はその雪の粒一つ一つに都市一つ消し去るエネルギーが圧縮されていることを【神】以外知らない。割れた太陽の卵の上で空を見上げて
『……滅び』
【神】となった女性は言った。そして――【神】が望むのならと、
――空が真っ二つに割れた。不気味な暗雲の間から、もっとヨクナいモノが顔を出した。
まるで血のように赤いもう一つのソラ。液体のように揺れ動く赤い空が、顔を出していた。
-----------------------------------
中立国にある都市、【プロ】でもその現象はもちろん観測できた。
分れた空、血のようなもう一つの世界。
「うん、こんな空は『終わり』という言葉がしっくりくるよ。メモはちゃんと読んだ? 私はまだお金を全部返してもらってないわよ?」
ロッカク堂店主シンカは品物の片づけを一旦中断し、背伸びをして眼鏡のズレを直した。
「11さん、頑張ってる? というかちゃんと頑張ってた?」
-----------------------------------
アトラとクサモチはやっと森の端にたどり着いていた。戦場まではまだ距離があったが、その威圧感は嫌というほど感じていた。
――【神】の力を感じていた。
「……終末」
「不吉な言葉を吐くな馬鹿者!」
アトラはクサモチを一喝しながらも、実は後手後手に回ることになってしまった自分の不甲斐なさを悔やんでいた。せめて、本来の力ならばと……仕方がないことを考えていたときだった。
シロトラがある方向を向いて唸っていた。その方向からは、男女数名の言い争う声が聞こえた。
「ちょっ! 青先輩! ああなっちゃったら無理ですって! 逃げましょう!」
「逃? 否! 何処!? 我、行!」
「そんなー! あれ、半端じゃないですよ! せっかくミラクルで助かったんですから!」
「退!」
腕や腰にしがみつく情けない男性二名を振りほどき、青は迷い無く今まで使っていたスナイパーライフルを放置し、戦場に飛び出した。
「あー、もう!」
「やっちゃったー!」
と言いながらも、後ろの二人も続けて戦場に飛び出した。当然三名は【神】にプレイヤーと認識されることとなる。
「ふふ、中々、熱いのぉ、三人組」
「へ?」
「え?」
「何?」
三人の後ろに続き、アトラ、シロトラ(とほぼ強制的にクサモチ)も戦場に飛び出していた。
-----------------------------------
当然、【神】はスキルを発動する。
思ったことが現実になるチカラ。またはチート。
【神の現象】を。
『……消え…
「……【クリアフィールド5人分】」
【神】が(視認している五人が消える)と考える前に、五人はクサモチの魔法によって数秒透明になった。【神】の意志、(視認している)の部分に誤りが出る。
「よくやったクサモチ!」
アトラが親指を弾いて音をだした。
「…持続時間約10秒」
今までで最短のレスポンスを見せるクサモチ。
「短ッ! だがどうせ相手は【神】じゃ! 10秒も待ってくれんか!」
「透明化魔法!? 貴方達は一体!?」
「んなこと言ってる場合じゃなかろう!? 何か策は!?」
「無」
といいながら、青は全身から何処にしまっていたの、といいたくなるような量のライフルの部品を取り出した。その数、実に数十個にのぼり、それを約五秒で組み立て、【神】狙撃体制に入ってしまったのだからすさまじい。
「【PG−S狙撃銃、魔法弾仕様】」
長距離用スナイパーライフルでありながら距離が近いほど威力が上がるという無茶苦茶なライフルの名前を、実は初めて言った漢字以外の文字を織り交ぜ1秒で呟いた青は、1秒でアレックスを殺した【神】の頭に狙いをつけ、引き金を引いた。
発射された超強力魔法衝撃弾(一転集中型)は、正確に割れた光の球体の上に立ち、空を見上げていた【神】のこめかみを貫いた。
-------------------------------
『……治る』
そう、治る。処理は八十パーセント。もうすぐプレイヤー達が所持していたアイテムや装備品の処理にも入る。それが終われば私は完全となり、
赤い空にいる私が降ってくるだろう。
空の間から垂れてくる赤い空は、苦悶の表情となって、確実にこの世界へと入ってきている。
もうすぐ、もうすぐだ。
赤い空の顔は、私、【神】の顔。
突然現れた大きな雷が、アメツキを完全に捕らえた。雷に呑まれ吹き飛ばされたアメツキは、木にぶつかって変な方向へ体を曲げた。
「…………とりあえず殺してみた……」
「……驚いた、クサモチか。いきなり殺すのはどうかと思うが、実際は助かった……のかの? ……ん、オルゾフはどした?」
「……」
しかめっ面をするクサモチ。
「そ、そうか。すまなかった。ちなみにお前が今吹っ飛ばした、あのアメツキとかいうやつも、どうやら【ゴッドレス】と関係があ……」
「やれやれ、いきなりひどいですね?」
「!」
「!」
二人が気づいた時にはもう時既に遅し、アメツキは消えていた。最早目的は達成されたのだ、とでも言うかのように消えていた。
(早く戦場に向かったほうがいいですよ。ま、もう遅いんですが)
何処から聞こえてくるのかわからないアメツキの声が、森の中を反響する。アメツキの気配は一瞬で消え去り、森の中は静かになった。
「……また……逃がした……か……。……嗚呼、……頭痛が……」
「んなこといっとらんで、行くぞ! クサモチ!」
このごろ敵を逃がしてばっかりで、頭を抱えるクサモチのローブを片手で引っ張り、アトラは不穏な空気が渦巻く戦場へ向かって走り出した。
(アメツキは明らかにあの雷を食らっていたはず……。どういうことじゃ……?)
アトラの思考がまとまるのを待たず、空が、怪しい雲行きの空が、ゆっくりと真っ二つに分かれていく。まるでモーゼの海割り空バージョンのようだと、アトラは唖然とするしかなかった。
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膨大なデータ。
それら一つ一つを高速で処理する。
能力、人格、スキル、体力、魔力。
一つ一つ処理する。神となるために。
そして拾い上げたのは――
――【アレックスの記憶】。
…………。
――いらない。
そのデータはもう私に取り込まれた。だから完全に消し去るのは不可能。だが、もう私はそのデータを見ることはない、できない、私の最深部へと封印した。
いつもこの名前は、私の何かを壊す。経験でわかった。私にとっての弱点。ウィークポイント。【神】の唯一の死点。無駄な処理が省かれていく。いつか第三段階の【私】も消えるだろう。
【神】に意思は必要ない。
――流石に最終段階の処理は時間がかかる。でも、もうすぐ、 終わる。
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【無神】は目を瞑り、宙に浮き、体を丸くまとめて、巨大な光球に包まれ、静かにその時を待っていた。
宙に浮かぶ巨大な光の球。それは外部からみればまさに【太陽】であった。その球から放たれる暖かくも冷たい光は、何の意志も感じられないので、ただ純粋な【光】でしかなかった。
さて、もしも【神】に意志があるのならば、【神】がこの世界に顕現したときそれは現象となる。【神】の意志がその世界での現実となるのだ。それがこの世界のルール。決められたこと。それをよく覚えておこう。
【無神】の体が分解され、【神】の体へと変換されていく。とはいえ、そこに大きな変化は無い。肌が全て真っ白に染まり、黒かった髪も全て真っ白になった。服は必要ないと消されて、変わりに力場のようなものが【神】の体の回りを覆った。ぐらいだろうか。
真っ赤な瞳はそのままで。人の形もそのままで。
『……目覚め』
まだ全ての処理は終わってなかった。だが、【神】が望むのなら。
光の球が割れて、中から全身真っ白な肌をした女性が出てきた。体の回りは白い雪のようなもので覆われているが、実はその雪の粒一つ一つに都市一つ消し去るエネルギーが圧縮されていることを【神】以外知らない。割れた太陽の卵の上で空を見上げて
『……滅び』
【神】となった女性は言った。そして――【神】が望むのならと、
――空が真っ二つに割れた。不気味な暗雲の間から、もっとヨクナいモノが顔を出した。
まるで血のように赤いもう一つのソラ。液体のように揺れ動く赤い空が、顔を出していた。
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中立国にある都市、【プロ】でもその現象はもちろん観測できた。
分れた空、血のようなもう一つの世界。
「うん、こんな空は『終わり』という言葉がしっくりくるよ。メモはちゃんと読んだ? 私はまだお金を全部返してもらってないわよ?」
ロッカク堂店主シンカは品物の片づけを一旦中断し、背伸びをして眼鏡のズレを直した。
「11さん、頑張ってる? というかちゃんと頑張ってた?」
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アトラとクサモチはやっと森の端にたどり着いていた。戦場まではまだ距離があったが、その威圧感は嫌というほど感じていた。
――【神】の力を感じていた。
「……終末」
「不吉な言葉を吐くな馬鹿者!」
アトラはクサモチを一喝しながらも、実は後手後手に回ることになってしまった自分の不甲斐なさを悔やんでいた。せめて、本来の力ならばと……仕方がないことを考えていたときだった。
シロトラがある方向を向いて唸っていた。その方向からは、男女数名の言い争う声が聞こえた。
「ちょっ! 青先輩! ああなっちゃったら無理ですって! 逃げましょう!」
「逃? 否! 何処!? 我、行!」
「そんなー! あれ、半端じゃないですよ! せっかくミラクルで助かったんですから!」
「退!」
腕や腰にしがみつく情けない男性二名を振りほどき、青は迷い無く今まで使っていたスナイパーライフルを放置し、戦場に飛び出した。
「あー、もう!」
「やっちゃったー!」
と言いながらも、後ろの二人も続けて戦場に飛び出した。当然三名は【神】にプレイヤーと認識されることとなる。
「ふふ、中々、熱いのぉ、三人組」
「へ?」
「え?」
「何?」
三人の後ろに続き、アトラ、シロトラ(とほぼ強制的にクサモチ)も戦場に飛び出していた。
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当然、【神】はスキルを発動する。
思ったことが現実になるチカラ。またはチート。
【神の現象】を。
『……消え…
「……【クリアフィールド5人分】」
【神】が(視認している五人が消える)と考える前に、五人はクサモチの魔法によって数秒透明になった。【神】の意志、(視認している)の部分に誤りが出る。
「よくやったクサモチ!」
アトラが親指を弾いて音をだした。
「…持続時間約10秒」
今までで最短のレスポンスを見せるクサモチ。
「短ッ! だがどうせ相手は【神】じゃ! 10秒も待ってくれんか!」
「透明化魔法!? 貴方達は一体!?」
「んなこと言ってる場合じゃなかろう!? 何か策は!?」
「無」
といいながら、青は全身から何処にしまっていたの、といいたくなるような量のライフルの部品を取り出した。その数、実に数十個にのぼり、それを約五秒で組み立て、【神】狙撃体制に入ってしまったのだからすさまじい。
「【PG−S狙撃銃、魔法弾仕様】」
長距離用スナイパーライフルでありながら距離が近いほど威力が上がるという無茶苦茶なライフルの名前を、実は初めて言った漢字以外の文字を織り交ぜ1秒で呟いた青は、1秒でアレックスを殺した【神】の頭に狙いをつけ、引き金を引いた。
発射された超強力魔法衝撃弾(一転集中型)は、正確に割れた光の球体の上に立ち、空を見上げていた【神】のこめかみを貫いた。
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『……治る』
そう、治る。処理は八十パーセント。もうすぐプレイヤー達が所持していたアイテムや装備品の処理にも入る。それが終われば私は完全となり、
赤い空にいる私が降ってくるだろう。
空の間から垂れてくる赤い空は、苦悶の表情となって、確実にこの世界へと入ってきている。
もうすぐ、もうすぐだ。
赤い空の顔は、私、【神】の顔。
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