哀れ、蜘蛛の巣にひっかかったような状態になったオルゾフ。

「お前! ふざけた真似しやがって! どうなるかわかってんだろうな!」

 もはや、叫ぶことしかできなくなった様子。それを眺める初心者風の男、その名も「NET」。

「ふざけた真似!? 俺は真剣だっつーの! 神がかり的罠センスで目標の軌道予測! この網は仕掛けるのに二時間かかったし! あとめっちゃ重いし、大きいし、持ち運びに不便だし! でもそこが逆にいい!」

 NETは親指をつきだし、「グッジョブ」をした。彼は変わったアイテムが大好きなのだ。

「さあ、返してもらおう、もとは俺のものだったアイテムさ」

「……お前、まさか……」

「正体を探るなんて無粋な真似はするなよ。俺の名前を逆から読んだり、するなよ」

 NETはそれだけ言って、オルゾフの懐から名前隠し君を取り返した。

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 一度目の「ソレ」とアイゼンの衝突で、地面が数メートル陥没した。地面は揺れて周りにあった木々が何本か倒れた。

 言い忘れていた。「ソレ」は巨大なトラだった。現実世界でもかなり珍しいとされる、ホワイトタイガーと似ていた。白い体躯に、青い縞模様。中国の四聖獣である白虎を連想させる幻想的であり、強い力を感じさせる体。大きさは規格外だった。体長はゆうに三メートルを超えていた。

 シロトラが一旦アイゼンと距離を置いた。実際は物理リフレクによって攻撃を跳ね返されたのだが、シロトラにダメージは全くない。
 一瞬シロトラに意識がうつっていたアイゼンは、その一瞬に全く反応できなかった。右後方からアトラの掌が魔力をまとってアイゼンの背中の死角に突き刺さろうとする。
 ガラスの割れる音がした。しかしアイゼンの黒い絶対領域に変化はない。構わずにアイゼンは黒剣を背中までなぎ払った。

 その剣圧は土や手頃な石を全て巻き上げ小規模の爆発にも似ている威力だった。まともに喰らったように見えたアトラ。しかし、アイゼンがその確認をする前に、シロトラが咆哮をあげながら飛び掛る。

 シロトラの能力【フラッシュ】が発動した。シロトラの全身の毛が逆立ち、青い島縞模様が消えてシロトラは正真正銘のシロトラになった。

 そして大爆発した。光の束が確かなエネルギーとなって多方向に拡散する。

 ポケモンやドラクエならば「大爆発」を使用したモンスターは普通戦闘不能になる。死ぬ。
 だがそれをノーリスクで切り抜けるのがシロトラである。ヒゲが少し焦げた程度でシロトラは無事に地面に着地した。

 くそー、だから呼ぶのはやめときたかったのにのう、とつぶやきながら、大爆発によってボロボロになった「王」Tシャツを無理やりタンクトップ風にしたアトラは、消えかけた絶対領域を再構成しようと奮闘するアイゼンの前に立った。

「終わりじゃアイゼン」

 埃で汚れたエメラルドのツインテールが、アトラの右手に圧縮された魔力から出るエネルギーの風圧によってなびいた。おかげで埃はとれ、魔力の放つ青や白の光でアトラの髪はその色をころころと変えた。アトラの表情はその光に照らされながらも変わらない。苦笑いから変わらない。
 アイゼンはそのアトラをひざをついた状態から見ていた。黒剣に『領域』の全てを集中させて、その激突を待っていた。

 結局複雑な何事も、最後は純粋な力比べ。

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コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2007年5月22日22:12

なんというかっこよさ

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