所詮は、ゲームだ。
今の世界は、そんな言葉を納得させるものだった。
おそらくLive史上初の、世界クラスボスモンスターイベント。最強最悪といわれた【無神】に、あるものは恐怖し、あるものは奮起し、あるものは挑戦した。その表情、行動の中には、不安というよりも、喜び。そう、確かに巨大な敵に言い知れぬ心の高揚を皆、感じ、喜んでいたのだ。
『巨大な敵』。倒すべき敵が遂に現れた。
だが、私だけは、違った。
あれは、【無神】は、私にとって、『敵』ではなかったのだ。
今、皆、誰もが、英雄になろうとしている。『巨大な敵』を討ち、皆から敬われる英雄になろうとしている。だが私は、その英雄達に逆らい、『巨大な敵』を助けようと思っている。
あの時、あの場所で、
サティンは……
確かに泣いていたから……。
*
サティンであったモノは……十六人殺した。
プレイヤーの肉片は、細かい四角、というかドット状に変化させて、サティンであったモノの小さな口に吸い込まれていった。おそらく死体をデータに変化して自分の中に取り込んだのだろう。その間もサティンであったモノの表情は全く変わらなかった。
サティンであったモノはその最中、食事中に私を見た。その赤眼と視線が合うと、私は何の感情も抱かなかったのに、体は視界が揺れるほど震えだしてしまった。【危険察知】さえ、何の働きも見せない。リヴァイアサン戦で一瞬味わった感覚。度を越えた危険。振り切れた針だ。
十六人を喰らい尽くしたサティンであったモノ。
血がその手から滴り落ちて……、地面に小さな水溜りを作っていた。食べ終わり、自分の新たな力を確かめるように地面を殴ると、
轟音、同時に地面に巨大なクレーターができた。
魔人、悪魔、怪物。
誰が、コレに、勝てるのだろうか。
「あははははははははははははは!」
老若男女の声が混ざった誰のものでもあり、誰のものでもない声。そんな声で、サティンであったモノは笑った。
――勝てない。
サティンであったモノは、ゆっくりと私に近付いてきた。その行為は、私に恐怖をじっくりと味あわせる為のモノにしか思えなかった。一言も喋らず段々近付いてくる、ソレは、コワくて、コワくて、私には、どうしようもなくて……
「こ、来ないでくれ……」
私はいつのまにかトゥエルを庇うようにして、そんな言葉を、紡いでいた。
サティンであったモノは、私のその言葉でその場にぴたりと止まり……
止まり……
何時間もそうしていた感覚が私を襲い、
「……サティ……ン?」
さらに私のその声を聞いて、サティンは、
……血の涙を。
今の世界は、そんな言葉を納得させるものだった。
おそらくLive史上初の、世界クラスボスモンスターイベント。最強最悪といわれた【無神】に、あるものは恐怖し、あるものは奮起し、あるものは挑戦した。その表情、行動の中には、不安というよりも、喜び。そう、確かに巨大な敵に言い知れぬ心の高揚を皆、感じ、喜んでいたのだ。
『巨大な敵』。倒すべき敵が遂に現れた。
だが、私だけは、違った。
あれは、【無神】は、私にとって、『敵』ではなかったのだ。
今、皆、誰もが、英雄になろうとしている。『巨大な敵』を討ち、皆から敬われる英雄になろうとしている。だが私は、その英雄達に逆らい、『巨大な敵』を助けようと思っている。
あの時、あの場所で、
サティンは……
確かに泣いていたから……。
*
サティンであったモノは……十六人殺した。
プレイヤーの肉片は、細かい四角、というかドット状に変化させて、サティンであったモノの小さな口に吸い込まれていった。おそらく死体をデータに変化して自分の中に取り込んだのだろう。その間もサティンであったモノの表情は全く変わらなかった。
サティンであったモノはその最中、食事中に私を見た。その赤眼と視線が合うと、私は何の感情も抱かなかったのに、体は視界が揺れるほど震えだしてしまった。【危険察知】さえ、何の働きも見せない。リヴァイアサン戦で一瞬味わった感覚。度を越えた危険。振り切れた針だ。
十六人を喰らい尽くしたサティンであったモノ。
血がその手から滴り落ちて……、地面に小さな水溜りを作っていた。食べ終わり、自分の新たな力を確かめるように地面を殴ると、
轟音、同時に地面に巨大なクレーターができた。
魔人、悪魔、怪物。
誰が、コレに、勝てるのだろうか。
「あははははははははははははは!」
老若男女の声が混ざった誰のものでもあり、誰のものでもない声。そんな声で、サティンであったモノは笑った。
――勝てない。
サティンであったモノは、ゆっくりと私に近付いてきた。その行為は、私に恐怖をじっくりと味あわせる為のモノにしか思えなかった。一言も喋らず段々近付いてくる、ソレは、コワくて、コワくて、私には、どうしようもなくて……
「こ、来ないでくれ……」
私はいつのまにかトゥエルを庇うようにして、そんな言葉を、紡いでいた。
サティンであったモノは、私のその言葉でその場にぴたりと止まり……
止まり……
何時間もそうしていた感覚が私を襲い、
「……サティ……ン?」
さらに私のその声を聞いて、サティンは、
……血の涙を。
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