それは一瞬だった。
気づいたら、巨大な炎と雷がサティンだったモノを襲っていたのだ。サティンだったモノも炎と雷を、今気づいた、という風に見た。
見ただけだった。
大爆発。直撃だった。
砂煙は生き物のように動きながら巨大に膨れ上がり、しばらくして風に流され空気に溶けていった。いつのまにかサティンの四方を、四人パーティが囲んでいた。それぞれの格好はバラバラで、統一性は全くない。だが、個々からある種のオーラのようなものを感じ取ることができ、そのレベルは相当なものだと予想できた。
「大丈夫ですか?」
私達の一番近くにいたパーティが、私に駆け寄ってきていた。白魔法のようなもので私の疲れを癒そうとしてくれているようだが、生命力そのものが削れているのであまり効果はなかった。いつのまにかフルファイアの姿は消えていて、ここに残ったのは静かに眠るトゥエルと、私だけだった。
“アルファ、【無神】、ロスト”
テレパシーが脳に響いた。
「おい、マクス! アイラが【無神】を見失ったみたいだ!」
戦士のような男が叫ぶ。
「マジかよ! 一体どうやって避けたんだよ、あれを!」
今度は普通の魔法使いらしき男性があわてて辺りを見渡していた。砂煙はすっかり晴れたが、そこには大きなクレーターが残されていただけだった。何かがそこで死んだ跡は何もない。
「いや、明らかに直撃だった。どこかで固有系を盗ったのかもしれない。くそ、バリアとかで防いだのならまだ救えるんだがな」
戦士は忌々しそうに呟いた。その眼は鋭いまま辺りを見渡していて、一箇所に留まらない。必死でサティンを探しているのだろう。
「えーと、アレックスさん? 今、危機的状況だっていうのはわかりますね? わかってください。ルースさん!」
白魔法使いに呼ばれたのは、赤銅色の肌をした衆人らしきプレイヤーだった。
「……いや、どうやらそいつを逃がしてる暇はないようだぞ」
そう言ったルースと呼ばれたプレイヤーは、ちょうど正面に位置する別のパーティを見ていた。そのパーティも、遠目から見てわかるほど慌てていた。先ほどと同じ炎と雷撃が、どこからか正面のパーティの周りに発生していた。
そのパーティは当然、大爆発に巻き込まれた。
「――な!? マクス! アルザ! 頼む!」
白魔法使い、魔法使いの男が戦士らしき男に無数の補助魔法をかけはじめた。高速詠唱、重ねがけである。
「くそ、今の攻撃も盗られたのか!」
“アルファ、アイラの班がやられた! 【無神】の捕捉がぁ――”
聞こえたテレパシーも、不自然なところで途切れた。同時に爆発。今度は私達から見て左側。近い。正面で起こった砂煙はまだ晴れていなかった。これでパーティは半分、十六人から八人に。
「くそっ! アルファとガンマがやられたか! 移動系所持確定だ! ベータと合流するぞ! 急げ!」
戦士が七色に光る剣を鞘から抜いた。衆人、白魔法使い、魔法使いがその戦士に続いてもうひとつのパーティに合流しようと走り出した。もはや私のことに構っていられなくなったよう
残った右側のパーティも、大爆発
だ……。
わずか数十秒の出来事だった。後にGMだったと知る、十六人のプレイヤーが一瞬で全滅したのは。
三箇所で起こった爆発を、呆然と見ていた四人のパーティに、私は何の感想も抱けなかった。そう、その四人と同じ、私もその光景を信じられなかった。
その光景を受け入れ、次の行動を起こすためのクールタイム。このパーティは鍛えられているに違いない。すぐに時間は動き出そうとした。だが、それすらも凌駕する、完全完璧。
やがて、私は戦士の後ろに不気味な影が立っていることに気付くのだ。赤く染まった手足や顔や髪が、まさしく悪魔を連想させるその存在に気付くのだ。
私は今ならいえる、思える、最強最悪。生まれてはいけなかったもの。【無神】。サティンじゃない。人じゃない。――モンスターじゃない。もっと、どうしようもないものだ、アレは。
四人パーティを一瞬で細切れにした【無神】は、その肉片が昇天の光に包まれようとする前に、
喰った。
後に知ることになる。
その場を奇跡的に生きる私は、後に知ることになってしまう。
消費された魔力、体力を回復させるため、そして、そのプレイヤーが持つ全てのスキル。パッシブスキルさえもその身に宿すために、この【無神】、第三形態、『魔』は、人を喰らうのだと。
気づいたら、巨大な炎と雷がサティンだったモノを襲っていたのだ。サティンだったモノも炎と雷を、今気づいた、という風に見た。
見ただけだった。
大爆発。直撃だった。
砂煙は生き物のように動きながら巨大に膨れ上がり、しばらくして風に流され空気に溶けていった。いつのまにかサティンの四方を、四人パーティが囲んでいた。それぞれの格好はバラバラで、統一性は全くない。だが、個々からある種のオーラのようなものを感じ取ることができ、そのレベルは相当なものだと予想できた。
「大丈夫ですか?」
私達の一番近くにいたパーティが、私に駆け寄ってきていた。白魔法のようなもので私の疲れを癒そうとしてくれているようだが、生命力そのものが削れているのであまり効果はなかった。いつのまにかフルファイアの姿は消えていて、ここに残ったのは静かに眠るトゥエルと、私だけだった。
“アルファ、【無神】、ロスト”
テレパシーが脳に響いた。
「おい、マクス! アイラが【無神】を見失ったみたいだ!」
戦士のような男が叫ぶ。
「マジかよ! 一体どうやって避けたんだよ、あれを!」
今度は普通の魔法使いらしき男性があわてて辺りを見渡していた。砂煙はすっかり晴れたが、そこには大きなクレーターが残されていただけだった。何かがそこで死んだ跡は何もない。
「いや、明らかに直撃だった。どこかで固有系を盗ったのかもしれない。くそ、バリアとかで防いだのならまだ救えるんだがな」
戦士は忌々しそうに呟いた。その眼は鋭いまま辺りを見渡していて、一箇所に留まらない。必死でサティンを探しているのだろう。
「えーと、アレックスさん? 今、危機的状況だっていうのはわかりますね? わかってください。ルースさん!」
白魔法使いに呼ばれたのは、赤銅色の肌をした衆人らしきプレイヤーだった。
「……いや、どうやらそいつを逃がしてる暇はないようだぞ」
そう言ったルースと呼ばれたプレイヤーは、ちょうど正面に位置する別のパーティを見ていた。そのパーティも、遠目から見てわかるほど慌てていた。先ほどと同じ炎と雷撃が、どこからか正面のパーティの周りに発生していた。
そのパーティは当然、大爆発に巻き込まれた。
「――な!? マクス! アルザ! 頼む!」
白魔法使い、魔法使いの男が戦士らしき男に無数の補助魔法をかけはじめた。高速詠唱、重ねがけである。
「くそ、今の攻撃も盗られたのか!」
“アルファ、アイラの班がやられた! 【無神】の捕捉がぁ――”
聞こえたテレパシーも、不自然なところで途切れた。同時に爆発。今度は私達から見て左側。近い。正面で起こった砂煙はまだ晴れていなかった。これでパーティは半分、十六人から八人に。
「くそっ! アルファとガンマがやられたか! 移動系所持確定だ! ベータと合流するぞ! 急げ!」
戦士が七色に光る剣を鞘から抜いた。衆人、白魔法使い、魔法使いがその戦士に続いてもうひとつのパーティに合流しようと走り出した。もはや私のことに構っていられなくなったよう
残った右側のパーティも、大爆発
だ……。
わずか数十秒の出来事だった。後にGMだったと知る、十六人のプレイヤーが一瞬で全滅したのは。
三箇所で起こった爆発を、呆然と見ていた四人のパーティに、私は何の感想も抱けなかった。そう、その四人と同じ、私もその光景を信じられなかった。
その光景を受け入れ、次の行動を起こすためのクールタイム。このパーティは鍛えられているに違いない。すぐに時間は動き出そうとした。だが、それすらも凌駕する、完全完璧。
やがて、私は戦士の後ろに不気味な影が立っていることに気付くのだ。赤く染まった手足や顔や髪が、まさしく悪魔を連想させるその存在に気付くのだ。
私は今ならいえる、思える、最強最悪。生まれてはいけなかったもの。【無神】。サティンじゃない。人じゃない。――モンスターじゃない。もっと、どうしようもないものだ、アレは。
四人パーティを一瞬で細切れにした【無神】は、その肉片が昇天の光に包まれようとする前に、
喰った。
後に知ることになる。
その場を奇跡的に生きる私は、後に知ることになってしまう。
消費された魔力、体力を回復させるため、そして、そのプレイヤーが持つ全てのスキル。パッシブスキルさえもその身に宿すために、この【無神】、第三形態、『魔』は、人を喰らうのだと。
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