106.瞳

2007年3月8日 LIVE
 ここを去ろう。人のいないところへ行こう。

 いつのまにか、そう決めていた。

 サティンに、人殺しは、させない。

 ……となると、流石にまたザクロさんポチさん両名に何も言わずにいなくなるわけにはいかない。ザクロさんは物凄く心配してくれたようだし、ポチさんは僕を探そうとして敵に傷を負わされた(勿論本人は自分の所為だと言っていたが)。
 また自分の勝手で、二人に余計な心配をさせるわけにはいかない。迷惑をかけるわけにはいかない。

 ……何か忘れてるような。……気のせいか。気のせいだ。

 森の入り口で待たせていたトゥエルを、サティンに紹介する。トゥエルはサティンが気に入ったらしく、頭をサティンの目の前まで下げて差し出した。

「『馬、トゥエル、かわいい』!」

 サティンもトゥエルのことを気に入ったようだ。サティンは微妙な出っ張りがあるトゥエルの鼻先を、嬉しそうに撫でている。トゥエルも目を細めて嬉しそうにしている。和む光景だった。
 ちなみに「馬、トゥエル、かわいい」は私が教えた言葉だった。サティンの物覚えは物凄くよく(AIだから当たり前か)、知識を吸収しようとする意欲も凄かったので、今では外見通りの言語能力を持つぐらいには至っているだろう。多分。

 ……そういえば、サティンって……、男、女?

 トゥエルとじゃれているサティンの格好は、赤い布の服だ。大きな布一枚を、むりやり服の形にしたような服。ワンピースのようなもの、というべきだろうか。服のことはあまりよくわからないが、女物……なのだろうか。声は高く透き通っている。だから、女性だと言われれば、女性だと納得できる。だが、顔は少し見方を変えれば凛々しい美男子にも見える。声の高さだって男でも子供ならありえる。物凄い力も持っていたし……うーん。

 ……考えてもわからない。

「サティン」
「『……う』?」
「君は男? 女?」
「『男』? 『女』?」
「……」

 私はとりあえずその話題を諦め、トゥエルとサティンを森の中に置いて集落へ向かうことにした。

「『何処、行クノ』?」
「集落だよ、すぐ帰ってくるから、トゥエルと森の中で待っていてね」
「……」

 とてとてと走ってきたサティンに服の端を掴まれ、上目遣いで見られた。可愛い子供を持った親の気持ちというものがよくわかる一瞬であった。

 十分後。

 どうにか私はサティンを説得した。サティンとトゥエルはおとなしく森に残ってくれた。……【無垢なる瞳】……恐るべき技よ……。私はよろめきながら、集落『ステラ』へと向かった。

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