105.謎

2007年3月7日 LIVE
 さてとりあえず、サティンは目覚めた。

 謎がいくつかある。というよりも謎しかない。

 何故砂漠の真ん中に現れたのか。何故倒れていたのか。何故ネームが見えないのか。何故言葉を少ししか覚えていないのか。何故腕力が強いのか。何故危険を察知したのか。

「……なんで?」
「『……ナンデ』?」

 ……。

 サティンは泉の方へ行ってしまった。

 しばらく考えてみた。そして結論を出すのは容易く、その結論を信じるのは難しかった。中々、うん、そうか、なあ。

 『サティンはNPC』。

 見えないネーム。ネーム:確認できるのはプレイヤーのみ(らしい)。モンスター等のネームは見えない(そうだ)。だとすれば、ネームの見えないサティンはモンスター。というわけだ。そうすると、私もモンスターだからこれ一つでは確信に足らない。
 次に、言葉を少ししか知らない。モンスター搭載の学習型AIというやつではないだろうか? まだ生まれたばかりだとしたら、言葉の少なさも頷ける。一応学習もしているようだし。だが、これもサティンが本当に子供ならばおかしくはない。中々確信に至れない。
 だが、サティンがモンスターだとすれば、物凄い腕力と、物凄い危険を感じたことも納得できる。特に【危険察知】の正確さは私がよく知っている。……おそらく、サティンは、『モンスター』なのだろう。うん、まあ、とりあえず納得しよう。

 『サティンはNPC(モンスター)』。

 Live世界では、モンスターは大体AIで動いている。だが、その中でも人語を理解するほどのレベルのAIを持っているモンスターは少ない。そう、人語を理解(少しでも)するモンスターは、いうなれば、ボスクラスに多い(のだと何処かで聞いた)。

 だからサティンも、きっとボスクラスのモンスターなのだろう。

 『サティンはNPC(おそらくボスモンスター)』

 ボスクラスのモンスターならば(まあ普通のモンスターでも)、AIの根底に『出会ったプレイヤーを無差別に殺す』、とプログラムされていることもあるかもしれない。 大きな力を持っていたこともボスモンスターならばわかる。プレイヤーには迷惑極まりないことだが、やはりゲームにおける『敵』を作るために、『理由のない悪』と『大きな力』は必要なことなのだろう。

 ……さて。これは、今までの事柄を冷静に考えて思考してひねり出した結論だ。

 だから、今。泉で無邪気に泳いでいるサティンを見て、『サティンがモンスター? 信じられない』という気持ちは、ずっと続いていくのだろう。それが人間というもので、それが面白いのだと思う。

「『楽シイ』!」

 ってサティンも言っているし……。他のプレイヤーと会わせなければ大丈夫なのではないか? という気持ちが台頭してきた。

「『嬉しい』!」

 サティンが泉の水を引っ掻き回すたびに、滴がキラキラと輝いた。
 プレイヤーからしか人語を学べない。だがプレイヤーは(おそらく)出会ったら殺す。きっとサティンの辞書には凄まじい単語が羅列されているに違いない。

 ……『楽しい』『嬉しい』なんて何処で覚えたんだろう。

 ……もう人は、          殺したのだろうか。

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