「……おかしい」
月に照らされた衆の集落は静かだった。
いやむしろ……
「……静かすぎる」
明かりが一つも点いていない。人の気配もまるでない。
(無人?)
砂漠の真ん中で拾った子供は、今ではスースーと寝息をたてていた。昇天はしなかったし、寝顔も穏やか。とりあえずは心配なさそうだった。
「うーん、でも、なぁ」
とりあえずは、医者に見せた方がいいだろう。衆の首都のような集落であるチョコならば、医者はいるとふんだが……まさか。
「これが噂の、衆独特伝統的文化『大移動』!?」
月明かりでうっすらと見えるチョコの街並みは、木造建築しか見当たらない。テントは全てなくなっていたのだ。
『大移動』――衆の民は一箇所に留まらない。何故なら彼らの生命線である『水』が一箇所に留まらないからだ。……と何処かで聞いたことがある。まさか本当に集落ごと移動するとは。スケールが違う。
(感心している場合じゃないか。この地図はもう役に立たない……。うーん、この砂漠を闇雲に走るのは自殺行為。それに……)
私はまだ私の腕の中で眠っている子供を見た。月明かりの所為か、その肌は死人のように青白く光っている。一瞬時間が止まるほど幻想的な光景だったが、背中を何かがゾワリと撫でる、そんな寒気もあった。
「とりあえず、一番近い集落ッ」
衆の地図を勢いよく広げる。
「あった、少し北。ステラ(Stella)! 走りっぱなしで悪いなトゥエル!」
「ヒヒーン!」
またトゥエルは前足を上げ、少し沈んだ月の綺麗な夜の砂漠を、風のように走り出した。
月に照らされた衆の集落は静かだった。
いやむしろ……
「……静かすぎる」
明かりが一つも点いていない。人の気配もまるでない。
(無人?)
砂漠の真ん中で拾った子供は、今ではスースーと寝息をたてていた。昇天はしなかったし、寝顔も穏やか。とりあえずは心配なさそうだった。
「うーん、でも、なぁ」
とりあえずは、医者に見せた方がいいだろう。衆の首都のような集落であるチョコならば、医者はいるとふんだが……まさか。
「これが噂の、衆独特伝統的文化『大移動』!?」
月明かりでうっすらと見えるチョコの街並みは、木造建築しか見当たらない。テントは全てなくなっていたのだ。
『大移動』――衆の民は一箇所に留まらない。何故なら彼らの生命線である『水』が一箇所に留まらないからだ。……と何処かで聞いたことがある。まさか本当に集落ごと移動するとは。スケールが違う。
(感心している場合じゃないか。この地図はもう役に立たない……。うーん、この砂漠を闇雲に走るのは自殺行為。それに……)
私はまだ私の腕の中で眠っている子供を見た。月明かりの所為か、その肌は死人のように青白く光っている。一瞬時間が止まるほど幻想的な光景だったが、背中を何かがゾワリと撫でる、そんな寒気もあった。
「とりあえず、一番近い集落ッ」
衆の地図を勢いよく広げる。
「あった、少し北。ステラ(Stella)! 走りっぱなしで悪いなトゥエル!」
「ヒヒーン!」
またトゥエルは前足を上げ、少し沈んだ月の綺麗な夜の砂漠を、風のように走り出した。
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