炎の脅威は遠かった。炎の脅威は私を見失った。

 だが、私は、私を見失った。笑える言い草だった。

「久しぶりだなぁ、アレックス。俺、衆の内乱とかの情報収集、を偉そうにしてる7−1に頼まれてたんだよ。市超いなくなっちゃったしさ。聞いてる?」
「……」
「なしのつぶて、か。ま、慣れてるけどサ。どうやら衆はヤバイことになってるみたいだなー。それで今回の事件だろ? もう衆は終わりかもなー」

 他人事のように語るアメツキさん。まあ、確かに、他人事なのだろう。私にとっても、他人事。

「内乱に、ゴッドレス襲撃、か。俺はもう少しこの件を調べようと思っているんだけど、お前はどうするんだい?」

 アメツキさんの声も、やけに遠い。他人事だ。

「……わかりません」

 段々と炎が消えていく砂漠。明けていく夜。

「……そうか。では、さようならだ」

 あっさりと私を助けたアメツキさんは、あっさりとテレポートで消えてしまった。さて、これから、どうしよう。何かどうでもいいことを考えようとした。でも。

 敗北だった。

 完全なる敗北だった。

 力で負けた。心で負けた。あいつに負けた。

 人はそこから如何に早く立ち上がれるか、で強さが決まるんです。

 立ち上がれない

 なら、死ぬだけです

「――か」

 何処から仕入れた言葉なのだろう。考えるのすら面倒だ。

 衆の大砂漠をさまよえば死ねるだろうか。不甲斐なき私を砂漠の日差しは焼いてくれるだろうか。

(ま、そんな感じで、頑張れよ。最後に笑っていられるように)

 誰が言ったか、そんな言葉。これからはもう、笑えそうも、ない。ポチさん、ザクロさん、クサモチさん。一瞬考え、歩き出す。これで私は、逃亡者。これでホントの、逃亡者。

「痛ッ……」

 火傷、疲労、切傷、心傷。左手の感覚が少しおかしい気もした。私は左手をだらりとぶら下げて、歩き出す。

「何処へ、行こうかな……」

 何処へも、行けないな……。

 いよいよ太陽が昇りはじめた。そんな時に私は傷だらけで衆の大砂漠に飛び出していた。自殺志願者で間違いない。

 砂を踏む。汗が落ちる。砂を踏む。汗が落ちる。砂を踏む。涙が落ちる……。

 世界破滅へのカウントダウンが、始まっていたとも知らずに

 -第三章- 衆編     

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